T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

吉村廉/古賀聖人監督「虹の谷」(激怒する牡牛)

教育映画とあなどるなかれ。

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【映画についての備忘録その37】吉村廉/古賀聖人監督×月田昌也主演「虹の谷」(激怒する牡牛)(1955年/1957年)

 

阿蘇山の麓の村。牛山師だった円吉(菅井一郎)の飼う牛に牡の仔牛が生まれた。孫の繁と仔牛は仲良く育ち、繁はたくましい青年に、仔牛は見事な巨牛となる。

繁(月田昌也)は円吉と同じ牛山師となり牛山師たちの頭領・岩吉(河津清三郎)の引立てで、みるみるうちに仕事を習得し、信頼を得ていく。しかし、この様子を同じ牛山師で乱暴者の鉄三(石黒達也)は快く思っていなかった。そんなある日、巨木を六頭の牛で引いて急坂にさしかかった時、元牛をやっていた鉄三の牛がどうしてもいうことを聞かないので、岩吉は元牛を繁の牛に代らせて無事に難所を切り抜けた。その帰途、鉄三は繁を待伏せして、自分の牛を繁の牛にけしかけ、先刻の仕返しをしようとした。だが、鉄三の牛は闘おうとしない。激怒した鉄三は自分の牛を殺し、祭の夜、酔払って繁の家に暴れ込んだ。しかし、繁も円吉もいないので繁の牛に八ツ当り。繁の牛は反撃して、鉄三を暗い崖下に突落した。

山の掟で人を傷つけた牛は殺さねばならない。だが、鉄三を快く思わぬ岩吉らの計いで、繁は牛と共に故郷を離れた。山を越え川を渡り、仕事場を求めて繁と牛の流浪の旅を続ける。そして、川のほとりの村で少女ツル(左幸子)と知り合った繁は、材木商をしている彼女の家で働くことに。

一方、鉄三は牛を連れて逃げた繁への怒りが収まらず、復讐のために執拗に繁を探すのだった―。

 

 

シネマヴェーラ渋谷の「玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のまだまだディープな世界」特集、最後を飾るのは!?こちら。もう観てから一ヶ月くらい経っちゃって、備忘録書くかどうしようか、とも思ったのですが、こちらも「玉」のほうの映画で、記憶がもう大分朧気になってますがσ(^_^;忘れてしまわないうちに、書き残しておきたいな、と。

 

まずはタイトルの説明から。元々の制作時のタイトルは「虹の谷」で、新東宝の配給時のタイトルが「激怒する牡牛」だそうです。「虹の谷」ではどんなお話か想像つかないし、たくさんの映画を面白そうなタイトルに変えて上映している大蔵新東宝、「虹の谷」じゃ客が来ないだろ!みたいなことで変更したのかな。激怒してたかっていうと「?」だし、だったのですが、まんまとタイトルに興味をひかれてしまい、鑑賞。

 

この映画、シネマヴェーラ掲示してあったプレスシートなどに“文部省推薦”(と他にも色々と教育機関の名前が)と書かれていて、いわゆる教育映画だったようなのですが、もうね、むしろその看板のせいで観る人を限定してしまうのが勿体ないよね、という作品でした。

 

繁の仕事の牛山師というのは牛を使って材木を運ばせるのが仕事。材木を牛に引っ張らせて山の麓まで運んで行きます。阿蘇山で切り倒した大きな材木を引っ張って物凄いスピードで急斜面を下る牛さんと牛山師。何頭もの牛とそれぞれについている牛山師との連携です。引きの絵でスクリーンいっぱいにその仕事の様子を撮っているのですが、これが結構な迫力。見るからに危険な仕事でみていてハラハラ。大自然を相手に牛と人の信頼関係がないと無事に麓まで行けないのだろうなー、という命がけの仕事の力強さが伝わってきて釘付けに。

 

牛さんと繁の信頼関係も素敵。牛さんが生まれたときから二人は一緒。そこそこ大きく育ってきたところでおじいさんが売りに出そうとしたところを泣いて嫌がり、おじいさんは売るのをやめます(変わりに母牛が売られちゃうんだけど(^◇^;))。一緒に育ち、牛山師となった繁と牛さん。牛山師は一応、言うことを聞かせるためのムチみたいなものも持っているようなんですが、繁は牛さんにムチ打つことはしないで話しかけるようにして一緒に仕事をしていきます。牛さんの目が優しそうなのもあって、牛さんと繁がお互いを思いやっている感じがして、ほっこりします。

繁はツルとお祭りに行ったり(この時、町に出るのに材木を運ぶトロッコに相乗りして行くんだけどこれがすごくかわいい)、お互いを意識しあうのですが、ツルからもらったお守りをしれっと牛さんにかけてやろうとするシーンがあったり、ツルが間に割って入るのはなかなか大変そうな繁と牛さんの仲の良さwそして「なんで牛にかけちゃうの!?」とツルがヤキモチ焼いちゃうのも微笑ましい(๑'ᴗ'๑)(なお、解決策は繁と牛が交互につける、でしたw)

 

で、この繁と牛さんとツルのほっこりした場面と対比するように描かれる繁を執拗に追いかける鉄三のねじ曲がりっぷりが、教育映画だというのにいい人だけじゃない、面白さで。円吉やツルの祖父の元へ繁の居場所を探りに子分を連れて現れたり、「虹の谷」というタイトルで牧歌的な作品を想像してたのに鉄三のおかげで?全然そんなことなくて。祭りに出かけた後、町からトロッコで帰ってくる繁と船(だったかな?)で繁を探しにやってきた鉄三達がすれ違いそうになるシーンなんかはもう、サスペンス映画観てるかのようなドキドキ感でした。

 

クライマックスでは鉄三が繁と牛を追いつめるために鉄砲堰をきり、激流に飲み込まれそうになります。その激流の勢いに自然の脅威と、必死に牛を救おうとする繁に牛さんとの絆の強さを感じ、そして、その姿に改心する鉄三に心打たれ、という怒濤の展開。最後まで飽きることのないストーリーです。

 

阿蘇山周辺の自然、牛山師の仕事、そしてこの当時の生活様式-囲炉裏のある家や竹筒の水筒、牛の仕事が徐々に車に取って代わられる様子(そのため、流浪の旅はなかなか仕事が見つからず長引きます)-なども見ていて興味深く(風俗史として勉強になるという意味では今の時代からしたら文部省推薦かもw)、とても見応えのある映画でした。今回の特集上映がなければ一生見る機会がなかったであろう映画のように思いますが、観ることができて良かったなぁ、と思う一作でありました。

 

【おまけ】

気がついたら玉石混淆とか言いながら「玉」だけじゃん!みたいなシネマヴェーラ渋谷の新東宝特集の備忘録になっていますが(「男の世界だ」は映画のでき云々の前にハンサム・タワーズが見られるというだけで「玉」認定ですw)、実は「石」も観ていますw

スター勢揃いの「波止場の王者」です。"ガス・タービンAZの設計図を狙う国際ギャング団と対決する、正義の青年技師をめぐっての活劇篇”。宇津井健さん主演、久保菜穂子さん、三ツ矢歌子さん、丹波哲郎さん、などなど、豪華俳優陣。なのにゆるい!青年技師=ぽっちゃり好青年の宇津井さん主演で若者の更正みたいなことも盛り込んで。。。ということでアクション映画のはずが、宇津井先生の熱血教師の物語を見ているような感もありw苦笑しながらの鑑賞で、違う方向で記憶に残った映画でありましたw

 

「玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のまだまだディープな世界」の「玉」映画の備忘録
kinakossu.hateblo.jp

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 (玉って言っていいかどうか分からないけど面白かったやつ)

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