T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

酒井欣也監督「渚を駈ける女」

カサノヴァをメロドラマのヒーローにする男。  


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【映画についての備忘録その101】

酒井欣也監督×路加奈子主演「渚を駈ける女」(1964年)

 

立花冴子(路加奈子)は母・戸志子(高峰三枝子)と二人暮しで、国体に出場するほどのテニス選手でもあり、明るく溌剌とした高校三年生。父(山内明)は戦争ですでになく、父の顔を知らないが、父との思い出を大切に自分を育てる母を、美しく凜とした女性として尊敬していた。

冴子には弘二(吉田輝雄)という母が決めた婚約者がいる。国際航路の船員をしている彼は、半年の航海に出る前に、冴子に別れの挨拶を、と立花家を訪れていた。しかし、冴子はテニスの大会で家におらず、その晩、二人きりとなった戸志子と弘二は過ちを犯してしまう。テニスの大会に思いもかけず早々と敗退してしまった冴子は、母を驚かそうと黙って帰宅し、その二人の姿を目撃し、激しいショックと絶望に苛まれる。父の親友で画家の佐上要三(佐野周二)に諭されて、女としての母を認めようと思いながらも、冴子は戸志子を責めずにはいられなかった。しかし、冴子に批難されても、戸志子は自身も弘二を愛していることを認めざるを得なかった。そんな母を見て、冴子は母に弘二との結婚をすすめるのだった。

弘二の乗る船が出帆するという日、戸志子は弘二にその思いを伝える。すぐに返事ができないという弘二は、船が出帆する夜までに答えを出すという。だが、弘二は、戸志子とのことを後悔していた。弘二は冴子を愛していたのだ。その夜、なかなか姿をみせない弘二を案じ、戸志子は港へ向かう。それと入れ違いに、弘二は冴子に気持ちを伝えるため、立花家を訪れ、冴子を強引に抱き寄せた。母と弘二の関係がよみがえり、一度は弘二を拒否した冴子だったが、彼女もまた弘二を愛していることを感じ、受け入れたのだった。

冬になった。同じ男を愛してしまった母と娘の間には溝ができたままだった。そして、冴子の妊娠が判明する。それに気づいた戸志子は自から命を断った。一人になった冴子は絶望のあまり海へと歩みをすすめ流産してしまう。冴子を心配した要三は、自分の家へ来るようにと誘う。要三は妻が長年入院しており、彼が仕事で不在の間は義弟の正人(川津祐介)が留守を預かるという。同じく画家の正人は冴子の絵を描きたい、と言って部屋に誘い、酒を飲ませ、寄った冴子を襲うのだった…。

 

 

というわけでー!?ラピュタ阿佐ヶ谷の 蔵出し!松竹レアもの祭/ラピュタ阿佐ケ谷で観てきました、『渚を駈ける女』!

 

この特集では『踊りたい夜』と『女弥次喜多タッチ旅行』、そして、今作と、輝雄さんのご出演作が3作上映されました。前者二つはすでにありがたいことに鑑賞がかなっていて感想を書いているのですが、

kinakossu.hateblo.jp

 

kinakossu.hateblo.jp

(『踊りたい夜』は作品自体もとても好きで、鰐淵晴子さんのトークショーのある日に、劇場へ行ってきました(*'▽'*)大きなスクリーンでみる『踊りたい夜』&沖さん、最高でしたー(*´▽`*))

 

こちらは初鑑賞!主演の路加奈子さんがポルノ的な作品で注目された方、とかいうこともあり、松竹の輝雄さん作品の中で最も観られなさそう、まさにレアもの、と思っていた作品だったのですが(他は相手の女優さんは正統派な方々ですし)、観られるー!ということで、午後休取って、行ってまいりましたヾ(o´∀`o)ノ

 

 

松竹大谷図書館で以前に作品の資料を読んでいたのですが、スタッフ、助演陣、豪華です。音楽が『ゴジラ』の伊福部昭さん、撮影が小津作品でおなじみの厚田雄春さん。脇を固めるのは高峰三枝子さん、佐野周二さん、川津祐介さん、そして、輝雄さん!松竹入社第一回作品、という(オープニングタイトルのクレジットにしっかりそう書かれているのであります)路加奈子さんを支えるわけでございます。結構力入れて作ってるはず。

 

作品中に輝雄さんがギターを弾いたり、川津祐介さんがピアノをひいたりするシーンがあるのですが、そんなところも手を抜かない、というか聞き惚れてしまう音楽。抱き合う高峰さんと輝雄さんを浮かびあがらせる、吸い込まれそうなほど真っ黒な闇、断崖へ向かう高峰さんの歩く、寒く暗い空。一流のスタッフによる、素晴らしいお仕事。

 

佐野周二さんの要三は、正しく若者を導かんとする年配者。母との関係の変化に悩む冴子を導き、奔放な正人をたしなめ、自暴自棄になった冴子の誘惑にも、入院中の妻を思い、裏切らない。

川津祐介さんは、優しい見た目と物腰に隠した女性への凶暴さ。そして、それを先進的であるようにうそぶく。冴子を顧みることはしない正人(これで、まさと、じゃなくてまさんど、という名前)は、『青春残酷物語』あたりの雰囲気を感じさせて、適役。

高峰三枝子さんは、母としての戸志子と女としての戸志子を演じ分けておられ、母としての優しい雰囲気から、女として冴子に嫉妬したときの冷たい空気への変化はさすが(輝雄さんのお相手としては少し年齢が行き過ぎている感は否めませんが(^-^;)。

そして、輝雄さんはまさしくメロドラマの主演俳優!で、冴子と戸志子の間で悩みつつ、最後は冴子への愛を貫く弘二のかっこよさ!長身でスマートでそして日に焼けた肌で、船員の制服で甲板に立つ姿はもう、素晴らしい”画”なのです(*´▽`*)

 

なんだけど・・・何かおかしい。何ってまぁ、路さんのセンセーショナルな価値(?)の部分を活かすためと思われる、ちょっと強引な設定と展開のせいだったりします^^;

ストーリーを大枠でなぞると、核の部分は、少女が辛い経験をへて、大人の女性となる様を描きたい、というところかな、と思います。

ところが、路さんの表情や演出から、その時々(弘二に抱かれたり、正人に襲われたり)の、冴子の苦悩や悲劇性が浮かんできません。少女の悲劇の物語を見せる、というより肌を露出したり煽情的なシーンを作り出すことに重きがあるようにみえ、各エピソードがそのために用意されてるようで、ブツ切れ状態。

 

それぞれのエピソードは書き連ねると、少女にはつらい出来事の連続なのですが…。

-尊敬していた母に裏切られ、しかし、それをきっかけに婚約者とは互いに相手のことを愛しているということに気づき結ばれる。

-しかし愛する男性は半年間の航海に出てしまい、その間、母との関係はこじれ、妊娠が判明したことで母は自殺。

-支えてくれる男は側におらず、母の自殺にショックを受けた冴子は冷たい海で波に打たれ、流産。

-信頼している父の親友だった要三の元へ身を寄せるが、そこで義弟・正人に酒を飲まされ乱暴される。

-正人は自分を遊びとしか思っておらず、ホステスを平気で家に連れ帰る。

 

そして、《男性不信のようになり》

 

-長い間入院している要三の妻をお見舞いついでに挑発

-「男なんてみんな同じ…!」と要三を誘惑する

 

この流れで肝心の《 》内は私が脳内で補完した理屈ですw

なぜかといと、正人に襲われるところもあまり抵抗してるように見えないし、ホステスを連れて帰ってきたことに、ショックをうけるほど、正人を誠実な人間のように錯覚させる描写もありません。この箇所以外もなんとなくストーリーとしてつながってるようには見えますが、同じような感じで心の動きをそれぞれの男性とのシーンで表現できておらず、一つ一つのエピソードが、冴子が大人になっていく出来事として繋がりません(路さんが表現しきれなくてそう見えないのかもしれませんが(^-^;)。だから、肝心な心の動きを理屈で補完しないと、この展開が理解できず、ストーリーがスムーズに流れなくて、「何かおかしい」の連続に^^;

路加奈子さんの中にそこを埋めるだけの可憐さがあれば、それが作用してうまく話が展開しているように見えたかもしれませんが、この女優さんの魅力はどうにも、こなれた女性という感じの雰囲気のほうが強く、そこで補うこともできていません。路加奈子さんは、他にも石井輝男監督の『決着(おとしまえ)』に出演されているのを拝見していますが、このときはヤクザの梅宮辰夫さんに惚れられるトルコ嬢、という役。これはすごくはまっていて、こういうすれた役のほうに向いているようで(´・_・`)(弘二と関係をもちながら、それを過ち、とされてしまう母が一番悲劇的に見える)。

 

 

そして最後、辛い経験を重ね、荒んでしまった冴子の前に、航海をおえた弘二が、純白のウェディングドレスをお土産に帰ってきます。しかし、冴子は彼がいない間に起きたことを話し、結婚できないと拒みます。それでも、冴子を変わらず愛している、二人で式を挙げようという弘二の優しさに、教会で式を挙げることを決意するのですが、耐えきれずその手をふりほどき…。

 

で、ここ「あれ?」ってなりますよね。お気づきのことと思いますがw弘二は冴子を不幸のどん底に落とした男なのです(最初のストーリーのところで、強く抱き寄せる、と書きましたが、もっと、襲う、に近い強引さです(^-^;)。が、なぜか最後には冴子を一途に愛する優しい男のポジションに収まっている!いやいや、あんたのせいでこうなったのに、なんで理解ある愛情深い男然としてんねん!冴子を救う男の立ち位置におんねん!と(結婚をためらう冴子に「男の過ちが許されて女の過ちが許されないなんてことはない!」的なことを言うのですが、これも、何勝手に許されてると思ってんの!?みたいになりますw)。

 

弘二は冴子と戸志子を振り回して傷つけておいて(冴子が好きだ!とだけ告げて、戸志子には謝りもせず、航海にでます(^-^;しかも、船からは冴子にのみ手紙を書くという)、ケジメもつけずに半年間いなくなるという、なかなかに酷い男であります。メロドラマの流儀?として、男の裏切りで傷つけられた女性を救うのは(最後は元サヤにおさまるにしても)新しい男性なのでは?と思うのですが、傷つけて振り回した張本人が冴子を絶望の淵から救おうとする、誠実な男のポジションとして再び現れるもんだから、「何かおかしい」となってしまうわけです。

 

 

さて、表題。というわけで、弘二は欲望に負けて母娘を振り回した、言ってみればだらしない男、プレイボーイであります。なのに、最後は誠実な優しい男のようになっている!ストーリー的には「何かおかしい」なんだけど、ストーリーから独立して、弘二に、女性を深い愛で包む、正統派のメロドラマの男性主人公の役割を果たさせてしまう男前ぶり(輝雄さんじゃなかったら、「かなりおかしい」に格上げかもw)。これはもう、吉田輝雄という存在がなせる技でしょ!と。松竹のメロドラマ作品を支えてきた、存在感とハンサムぶりをあらためて感じるのでした♪

 

 

いやぁ、しかし、弘二さん、ほんとに美しくて(*'▽'*)手元にこの作品のお写真がないのが悔しいw

このレアもの作品、輝雄さんの美しさがスクリーンに写し出されてるということが、何より素晴らしく、「何かおかしい」でも、価値のある映画、と思うのでありました(∀)