T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

小森白監督「大虐殺」

あれ?思ってたんと違う。


f:id:kinakokan0620:20180927203657j:image

 

【映画についての備忘録その36】

小森白監督× 天知茂主演「大虐殺」(1960年)

 

大正12年9月1日、関東大地震発生。社会主義者や一部の朝鮮人が井戸へ毒を投げ入れているなどの流言がささやかれる。社会主義者や不逞鮮人の一掃を企てていた軍部は、この機を活用して目的を達成しようと図る。何の罪もない社会主義者朝鮮人らを多数逮捕。次々と処刑して行く。社会主義者大杉栄の弟子である古川(天知茂)も逮捕されたが、混乱のなか何とか逃げだすが、軍部の非道に大いなる怒りを感じる。

やがて、その大杉栄細川俊夫)が甘粕大尉(沼田曜一)によって拘束され殺害される。これに怒った古川は同じく大杉の弟子である和久田、青地、村上らとともに、軍部打倒のために立ち上がった・・・。

 

こちらもシネマヴェーラ渋谷の「玉石混淆!? 秘宝発掘! 新東宝のまだまだディープな世界」特集で鑑賞。この特集上映が始まる前に映画秘宝から出ている「異端の映画史 新東宝の世界」を図書館で借りた際に(以前書店でかいつまんで立ち読みして(すみません))いざ買おうと思ったら売り切れていたという。。。)、記載されていた映画のレビューと、シネマヴェーラのチラシに載ってた“捕まる天知茂”のカットを見たらめっちゃ気になってw観てみたくなって行ってきました。

 

ストーリー、そしてタイトル、どちらからも重たい映画なんだろうと想像して、心して鑑賞。

 

古川が牛メシを食べようかと注文して待っている時に大震災が発生します。それまで、周囲は酒を飲んで不況に愚痴を言ったり、苦しい生活ではあるけれども、普通の人達の普通の時間が流れている。。。そこへ突然の震災で大混乱が起きます。崩れていく家屋、その下敷きになる人、割れた地面に挟まれる人、逃げ惑う人々。普通の日々が突然に奪われるのだという、震災の恐怖が伝わってくる迫力ある始まりで一気に引き込まれます。

 

そして、この映画のタイトル、「大虐殺」へ。軍部は社会不安に乗じて社会主義者朝鮮人を一斉に逮捕して刑務所に収容し、次々と射殺。その騒ぎが大きくなって周辺の住民に気付かれそうになると処刑を中止して、全員をトラックの荷台に乗せます(複数台に別れた、とても多い人数です)。そして広々とした河川敷までやってくると、全員を解放、トラックから下ろします。処刑を免れたとホッとし、家へ帰ろうと喜び合う人達。軍部はそこで機関銃を向け、一斉に射殺。古川は倒れた人達の影に隠れたりしながらなんとかその場から逃げ切り、大杉栄の家へたどり着きます。

この阿鼻叫喚の様子はどこまでが実話なのか分かりませんが、映画と分かって観ていてもかなりの恐怖です。罪のない沢山の人達を見境なく射殺していく軍部の非道に古川が怒りを感じるのも然もありなん。やはり社会派な感じで重たい映画だわ・・・と思いました。

 

この虐殺の現場を生き延び、そして師である大杉栄が甘粕大尉に殺害されるにいたり、古川は、同じく大杉を師とする社会主義者の仲間達と、この惨事を引き起こした軍閥の打倒のための手段としてテロを計画します。

 

こっからの計画と展開は以下の通り。

 

①資金調達のために大阪に行き、銀行員を襲う

 →銀行員はなんとしてもお金を渡す訳にはいかないと古川や青地に襲われても決してお金の入ったカバンから手を離しません。古川は脅しのためにもっていたナイフで銀行員を刺してしまい、結局金を奪うことなく逃走。銀行員は死亡。次の作戦へ。

 

②陸軍の会議の前に戒厳司令官の福田大将を殺害する

 →朝鮮系の組織に手を借り、缶詰爆弾を作成。陸軍省に入る福田大将に青地がその爆弾を投げるという算段。しかし、会議の開始が1時間遅れ、周辺をうろついていた青地は警官に怪しまれて計画失敗。次の作戦へ。

 

・・・あれ?

 

③大震災一周年の行事での福田大将の記念講演会で殺害する。

 →福田大将が車から降りたところを和久田が銃で狙う、という計画。見事命中するも、実弾ではなかったため(暴発したときの安全対策のために入れられていた空砲みたいなやつだった)、福田大将ノーダメージ。計画失敗orz次の作戦へ。

 

・・・あれれ?

 

陸軍省で行われる陸軍の主要ポストの人物が集まる会議で全員まとめて爆殺

 →電話の修理員を装って陸軍省に潜入成功。会議が行われる部屋に爆弾を仕掛け、導火線をカーペットの下に敷いて、暖炉横の排気口の中に隠れ準備万端。・・・も、不審人物が陸軍省に潜入したとの情報が入り(古川の恋人・京子が古川の計画を知り、彼を死なせないために警察に密告したため)、警戒する陸軍。会議室に入ってきた人が導火線につまずき、隠れいていた古川たちが気づかれ、逮捕。計画失敗orz

 

・・・思ってたんと違う!!

 

「デザイン あ」の笑い飯と同じ気分です!!社会派映画を観に来たと思っていたのに気がついたらテロを計画しては失敗する古川たち、というのをひたすら見せられ、「次はどんな計画をするのかな?成功するかな?」というそのドキドキを楽しんでくださいね、みたいなエンタメ映画になっていたのです!

 

一応、「テロは階級闘争的に正しいんだ!」みたいな台詞があったり、最後捕まった古川が「虐殺事件はなぜ処罰を受けないのだ!俺たちが死刑になっても後に続く者は出てくる!軍閥が亡びる日が来る!」みたいなことを叫んで終わるという、社会派っぽい要素はあるんですけど・・・とってつけたようなw

 

というわけで、映画としてはそこそこ楽しみつつ、想像とは全く違った作品でした。やっぱ大蔵新東宝ってことか!

 

そうそう、この映画、「女王蜂と大学の竜」では達に騙されて土橋組に乗り込んであっという間に死んでしまっていた久雄=杉山弘太郎さんが古川と一緒に最後まで活躍(活躍?)。「男の世界だ」=北島組長 でも「火線地帯」=重森商事の幹部 でも敵側だった和久田=若宮隆二さんが主人公の仲間、と顔なじみ(勝手に)wになった俳優さん達の違う面を観れたのも楽しかったです。

 

“捕まる天知茂”、気になるよねぇ・・・

f:id:kinakokan0620:20181004230829j:plain