T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「殺し屋人別帳」

 お兄様たちがカッコイイ映画。 

 

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【映画についての備忘録その75】

石井輝男監督×渡瀬恒彦主演「殺し屋人別帳」(1970年)

 

 

浦波興業会頭・浦波(沢彰謙)は殺し屋の黒岩(田崎潤)と宇野木(小池朝雄)に金を積んで、福岡を縄張りとする組の組長を殺害させ、北九州一帯を傘下に修めていく。残るは長崎の竜神一家のみ。竜神一家の二代目・統一(吉田輝雄)がまだ若いこともあり、浦波はこれを自分で片を付ければよいと考え、用済みの二人を消そうとする。しかし、逆に黒岩と宇野木に射殺される。さらに黒岩は相棒の宇野木をも殺し、浦波の縄張りを手中におさめ黒岩組と改称した。

流れ者の真一(渡瀬恒彦)が長崎に現われたのは、黒岩組が竜神一家を潰そうとこの地に乗り込んで来たおりだった。ある日、真一は長崎港の岸壁で車に接触して転倒した松葉杖の娘ナオミを介抱した。この光景に感動した黒岩の娘ミッチーの世話で、真一は黒岩組の客分になった。同じころ、モンマルトルの鉄(佐藤允)も黒岩組の客人となる。

竜神一家は統一の父親・先代の遺言を守り、ドスに封印をかけている。黒岩組の妨害を受けながら、竜神海運は堅気として長崎の海運業者たちを守ろうと、木口(中谷一郎)や秀(荒木一郎)は統一を支えていた。しかし、黒岩組が荷上げ作業妨害作戦に出た。苦境に立つ統一。一気に竜神一家をつぶそうと、黒岩は一切を賽の目で勝負をしようと持ちかけるが…。

 

 

輝雄さんのファンになったばかりの頃、すぐにTSUTAYAでレンタルして観た映画。その後、東映チャンネルでの放送も鑑賞し、今回、石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲/ラピュタ阿佐ケ谷での上映で初めて大きなスクリーンで観られたので備忘録を書くことにしました。初めて見てから備忘録を書くまで時間がかかってるのは観てるとちょっと複雑な心境になってしまうからでして。

 

 

さて、まずは見ていただきたい、このポスターの惹句。「東映秘蔵っ子2大新人が競う殺しのアクション!」…競ってなかったし!

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渡瀬恒彦さんのデビュー作で、この惹句からも想像できるとおり、渡瀬さん(と、伊吹吾郎さん)を売り出したいから企画された映画のようです。映画のストーリーは「網走番外地 望郷編」をなぞっていて、主人公の名前は真一だし、舞台は長崎だし。渡瀬さんを健さん的に売り出したい、という思惑が分かります。

なのに、映画見終わった印象は「吉田輝雄佐藤允中谷一郎がカッコよかった映画」。若い二人じゃなくて、お兄様たちがカッコいい映画なのでありました(あとでちゃんと思い出すと、渡瀬さんにも伊吹さんにも見せ場はあるんだけど、お兄様たちがかっこよいせいで印象が薄いw)。

 

 

 

モンマルトルの鉄、佐藤允。白いスーツに黒のマント、口笛で”フランシーヌの場合”を吹きながら登場し、会話にフランス語を挟んでくるというとてもキザなキャラクター(「網走番外地 望郷編」の杉浦直樹さんの役みたいな感じね)。黒岩組にわらじを脱いでいても、自身のなかの”正義”みたいなものは曲げず、スマートにナオミや木口の苦境に手をさしのべる。しかし、最後は黒岩組の客人としての恩義を晴らすべく、真一との勝負を選ぶ。

 

木口、中谷一郎。統一の心の内をよく理解して、陰に日向にしっかりと支える男。黒岩組から因縁をつけられ、背中の彫りものが気にくわないと言われて、それならばと、ライターを差し出して「消してくれ」という時のかっこよさと言ったら。若い者にも慕われ、黒岩組と喧嘩になって先代に破門された詩郎(伊吹吾郎)も頼りにする男。

 

竜神統一、吉田輝雄。父親の遺言を守って、堅気として竜神海運の舵取りをし、長崎の他の海運業者を黒岩組から守るため厳しい仕事も引き受ける。竜神一家のシマを狙う黒岩の策略で賽の目で決着をつけようと誘い出されるが、その裏を読み取ってあえて黒岩の用意した賭場へ出向き、八百長を見抜いてシマを守る。黒岩組の横暴にも耐え続けるが、木口が犠牲になったことでついに封印していたドスを手にし、黒岩組との決闘に挑む。まさに任侠。

 

と、いった次第。お兄様たちだけじゃなくて、「網走番外地」と同じく鬼虎として出てきちゃうアラカンさんの立ち回り(ポスターにある“子守唄を聞くと人を斬りたくなる”とかいうの、鬼虎さんのことだったしwしかもこの子守唄、「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」のあの子守唄なのよ)、悪役の田崎潤さんの潔い死に様と、おじさま?おじいさま?達もそれぞれ素敵で印象的です。

 

 

なかでも、輝雄さん演じる統一はやっぱり、というべきか、かっこいいところをかっさらっていきます。賭場の緊迫した場面でのやりとり、黒岩組との多勢に無勢の決闘。とくに、銃の弾が飛び交うなかで黒岩にドス一本で迫っていく決闘のクライマックスなんて、この映画の中で最高の見せ場。このときの、黒岩目線でとらえた、迫ってくる統一の鬼気迫る表情は、美しいわ渋いわで、スクリーンに引き込まれます。もうね、これもすごいハンサムなの!!2年ほどの異常性愛路線の作品が続いている間に重ねた年齢とそれにともなってあらたに引き出された魅力―渋さの増したかっこよさと色気とでも言いましょうか―が、耐え忍ぶ統一を通して現れていて、その前に撮っていた2作の石井監督の任侠映画(「決着(おとしまえ)」「続・決着(おとしまえ)」)とは違った侠気で魅せてくれます。

 

 

と、いうわけで石井監督は今作でもとてもハンサムに輝雄さんをフィルムにおさめてくれているのですが、異常性愛路線をへて、これで輝雄×輝男の蜜月が終わってしまうという作品でもあります。先日のラピュタ阿佐ヶ谷でのトークイベントでもそのことをお話されていますが、統一のかっこよさにほれぼれしながら、撮影当時の輝雄さんの心境などを想像してしまって、観ていて複雑な気持ちもよぎったり(上で書いたのはそういうことで)。再びお二人が「無頼平野」で組むまで25年を要します。

 

kinakossu.hateblo.jp

 

 

殺し屋人別帳」のあとに、私が輝雄さんを知るきっかけとなったテレビドラマ「ゴールドアイ」があって、「ゴールドアイ」ではさらに渋く、大人の男のかっこよさ(後でこれで34歳だったと分かった時の衝撃と言ったら!)が増していて、遊び心みたいな大人の余裕も感じさせてくれます。だから、今作のあともっと二人の映画があったら、年齢を重ねていく輝雄さんの姿をかっこよく撮ってくれていたに違いない、と思ったり。

 

 

そうそう、この映画、最後に渡瀬さんが歌う映画の主題歌が流れます。真一が鉄と勝負して、傷つきながらナオミとの約束の船に乗ろうと港へと向かうシーン。本来ならとても余韻の残るシーンなのですが、渡瀬さんの決して上手いとは言えない歌で色々台無しになっている感wなんでそこに歌入れちゃうかな!輝雄さんを格好良く撮ることには注意を払いつつ、主演の扱いはぞんざいな石井監督なのでありました(笑)