T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「黒線地帯」

石井輝男×天知茂の”香り”

  

黒線地帯

黒線地帯

  • メディア: Prime Video
 

 

【映画についての備忘録その88】

石井輝男監督×天知茂主演「黒線地帯」(1960年)

 

 

特ダネを追いかけるフリーのライター・トップ屋の町田(天知茂)は麻薬で女を縛り付け売春させるという黒線地帯と呼ばれる秘密売春組織を追っていた。組織のコールガールの女を突き止め、新宿の街を追いかけるが、途中で見失ってしまう。

すると、街頭の女易者が「女を探しているのだろう」と町田に声をかける。女はポン引きを呼び出し、この男の案内で、つれこみ宿へと行く。女を待っている間、旅館の女中が持ってきた酒を飲むと、町田は意識を失う。目が覚めると、町田はベットに眠っていて、その横には追っていた女が首をしめられて死んでいた。

売春組織に罠にはめられたと悟った町田は易者と男の行方を探る。この“踊り子殺人事件”を新聞が報じ、町田のライバルの新聞記者、鳥井(細川俊夫)も動き始める。町田は旅館の女中を街で見かけ、易者と男のことを聞き出そうとこの女を追いかけるが、車が女をはねた。その女の髪の中からは麻薬が出てきた。そして、サブと言う男の名を言い残し、息絶えた。

町田はサブを探し出し、追いかけて、マネキン製造所に飛びこむ。そこは賭場になっていて、町田が飛び込んできたことで騒然となる。騒ぎが落ちつくと、逃げ遅れて倒れこんでいる麻耶(三原葉子)という女がいた。

麻耶から海軍キャバレーのシンガポールという女給のことを聞き、キャバレーを訪ねるとそこには鳥井が来ていた。鳥井は町田が犯人であろうと推測している。

シンガポールからは何も聞き出せなかった町田は、死んだ女の踊っていた横浜のキャバレーへ向かうことにする。その途中、美沙子(三ツ矢歌子)という高校生を拾った。彼女は人形を運ぶアルバイトをしていた。その人形を届けた先の店の前で麻耶を見つける町田。この人形に麻薬が隠されていると悟り、麻耶に自白を迫るが―。

 

 

先日、Amazonプライムで新東宝作品がラインナップに加わっていることを教えていただき、「地帯シリーズ」も観られるように!で、未見だった「黒線地帯」をついに鑑賞できたのでうれしくて備忘録をカキカキ\(^o^)/(あとは「白線秘密地帯」観たら制覇!)

 

 

映画は新宿の街の中を逃げる女を追いかける視線から始まります。地下道から複雑に入り組んだ街中へ。その映像をタイトルバックに、逃げる道筋を追いかけるようにスタッフ、キャストのクレジットが流れ、渡辺宙明さんのドラムの印象的なアップテンポなタイトル曲が流れます。誰に追われ、なぜ追われているのか?女がビルへ逃げ込み、曲が終わるころその追いかけていた男ー町田の姿が現れ、美しい易者に声をかけられる。

これまでに観た石井監督の「地帯シリーズ」、「黄線地帯」も「セクシー地帯」もタイトルバックから凝ってて「これ絶対面白いでしょ!」って思わせるかっこよさなのですが、本作も負けず劣らず、この導入部分で一気にその世界に夢中になります。

 

連れ込み宿で酒を飲まされ、そして町田が目覚めた横には死んだ女。

 

これが開始5分くらい。「何々!?どうなるの!?」とさらに前のめりな感じにw

 

今作はトップ屋が事件に巻き込まれる、ということで、「黄線地帯」や「セクシー地帯」よりも、よりミステリーの謎解きの雰囲気が強い作品。ただ、何か複雑に絡み合った糸を解くような話ではなくて、町田は身の潔白を証明するためにサブと易者を探して動き回ります。手掛かりとなる人物に行き当たったと思ったら、その糸が突然ぶちっと切れて、またほかの糸に手を付けて、といった展開。伏線いっぱいのミステリーみたいな”よくできた話”とは違うのですが、最初に一気に引き込まれた作品の出だし、テンポよく対象を変えていく”手がかり”のおかげで、そんなことは全く気にならずw楽しむことができます。

 

 

そして、町田がサブを探し出し黒線地帯の実情を突き止めようとする、男性中心で展開されていく物語は、三原葉子さんの麻耶の登場で空気が変化して、ストーリーに広がりが出てきます。摩耶がとっても魅力的で、天然っぽいキュートな笑顔を見せたかと思うと、自分から服を脱いで町田を誘ってみたり(葉子姐さん大サービス♪)。横浜で再会したときには豪華なファーのマフラーを身にまとった淑女のような雰囲気を醸しだし、それでいて笑顔はそのままでそのギャップがかわいらしい(・∀・)

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麻耶は町田に協力して犯人捜しをすることに。しかし、黒線地帯の黒幕の罠で二人して警察に追われることになります。その途中で麻耶は怪我をしますが、大丈夫だと言ったそぶりをして町田をかばいます。そして、町田は逮捕までのタイムリミット(町田が犯人とふんだ鳥井が警察に通報するまでの猶予を町田に与えていました)もわかったり上で犯人捜しをおいて、彼女を看病します。そして、町田は麻耶の大胆な性格と明るい笑顔に隠された苦労を知り、二人は互いにひかれていきます(石井作品で観ている三原さんの役の中ではこの役が一番はまり役かも!苦労や辛さを感じさせず振る舞う麻耶がよく似合っていて、三ツ矢歌子さんもとってもかわいかったけど、存在感で圧倒してました)。

 

この二人の関係は、石井監督らしくさらりとしていて、それでいてその奥にある思いを想像させる描き方。この映画は秘密売春組織の裏を追うストーリーでセクシーなシーンもあってwと男性に向けた作品だと思うけど、叙情的な面があって無骨なクライムアクションにはなっていなくて。そういうところがなんというか、良いっ!んですよね。

 

 

で、この作品の魅力として外せないところは、やはり天知さんの存在感。

見出しに書いたことはつまり、この映画の全体の印象としてはは石井輝男×天知茂の組み合わせだからこそ可能だった「地帯シリーズ」の一作だったんだな、という事。圧倒的吉田輝雄推しの私ですがw同じ「地帯シリーズ」でも、この作品には石井輝男×吉田輝雄の組み合わせでは出来上がらないムードを感じました。天知さん演じる町田は黒線地帯を記事にしようと追いかけるわけですが、その動機には正義感といったものを感じません。功名心でもなく、正義感でもなく、単純に興味があって追いかけているように見える。結果的に巻き込まれて、身の潔白を証明しようとするけれど、どこか斜に構えてはにかんでいるような雰囲気。それは同じ記者という役柄でも「黄線地帯」で輝雄さんが演じた真山がとてもまっすぐで硬派だったのとは違っていて、天知さんの魅力をいかした天知さんのために書いた役、そんな感じがしました。

 

「黒線地帯」⇒「黄線地帯」⇒「セクシー地帯」と主演俳優の魅力により、作品の魅力も変わってるなぁ、なんて思いいたる鑑賞後でした。

 

 

福田純監督「電送人間」

主役はいったい誰なのか!?特撮作品の歴史を楽しむ一作

 

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【映画についての備忘録その87

 

福田純監督×鶴田浩二主演「電送人間」(1960年)

 

多摩川園のお化け屋敷。沢山の客でにぎわうなか、突如現れた人影に、男が銃剣で刺殺されるという事件が発生する。その男はブローカーの塚本。現場からは軍隊自体の識別表が発見された。

新聞記者・桐岡(鶴田浩二)は現場に残されたクライオトロンを発見し、学生時代の同窓生である小林警部(平田昭彦)から塚本が密輸に関わっていた事を知らされ、二人は塚本と繋がりのあるキャバレー経営者・隆昌元を張り込む。

しかし、その時、隆は発光する不気味な男によって刺殺され、警官隊の追跡も虚しく怪人が逃げ込んだ倉庫は火災で焼失する。倉庫の中に男の死体は無く、冷却装置と放電装置を組み合わせたような謎の残骸だけが残されていた。

クライオトロンについて調べる桐岡は大学時代の恩師・三浦を訪ね、戦時中、仁木博士がこのクライオトロンを利用して、物体そのものを電送する技術を完成させていたことを知る。ただし、物体の電送をするには4.2度を常に保つ必要があり、巨大な冷却装置が必要である。桐岡は日邦精機からこの冷却装置を購入したという、軽井沢にある小西牧場の中本(中丸忠雄)という男を日邦精機の社員、中条明子(白川由美)とともに訪ねることにする。

一方、隆殺害の現場に居合わせた小林は、塚本・隆と同様に従軍時代の認識票を郵送された滝(堺左千夫)と大西(河津清三郎)を追求。大西の元部下である須藤兵長の存在が浮かび上がる。14年前、大西、隆、塚本、滝の四人は敗戦のどさくさにまぎれて軍の金塊を横領しようと目論み、それを阻止しようとした須藤兵長中丸忠雄)と陸軍技術研究所の仁木博士を金塊もろとも洞窟へ生き埋めにした。しかし、洞窟からは金塊も二人の死体も見つからなかったというのだ…。

 

 

 「吸血鬼ゴケミドロ」以来の、和製SF映画の備忘録(ゴジラは怪獣映画ってことで省く)。何か月か前にTwitterでこの「電送人間」の予告編を見て(鶴田浩二さんが和製SFに出てたのか、とかいうのも含めw)、なんだかずっと気になっていたんですがwAmzonPrimeビデオで観られることに気づき!鑑賞してみました。

 

ちなみに気になる予告編はこちら(うん、気になるよね、これ観たら!)。


電送人間 予告篇

 

 

で、作品の面白さは、この予告編に全部つまってたかな、という映画。予告編のおわりに「超科学 怪奇スリラー巨編」と惹句がでますが、まさにその通り。

 

物体そのものが電気を通じて送られる、という、”超科学”をどんな特撮として見せてくれるのか、という面白さ。1960年という時の、兵士、将校として戦争にかかわってきた人たちが社会の現役世代であるが故の”日本軍”を絡めたスリラーとしての面白さと。

(軍国キャバレーとかいうのも出てきます。当時、なんとなくそれらがノスタルジーでもって受け入れられていたのかな?と思うと、戦後生まれは不思議な感じがします)。

 

で、この”超科学”の部分、特技監督円谷英二となっているだけあって、気合入って、しっかりたっぷり見せてくれます。予告編ももったいぶらずに存分に見れるので、もう、ほぼ、これこのままなんですがw特撮映画に特に詳しくない私ですが、CGなんてない時代にこれはすごいな、と純粋に思える電送っぷり(?)。1960年でこれ観たらめっちゃワクワクするだろうなぁ、と思い、特撮技術、特撮作品の発展していく歴史の一部を見れたような気分でした。

 

 

さて、スリラーのほうはというと。ストーリーの肝であると思われる、電送される人間は誰なんだ?何者なんだ?とかいうのは、見るからに怪しげな中丸忠雄さんが開始10分くらいで登場して、一発回答(^-^;中丸さんのインパクトがすごくて、裏の主人公ですw

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怪しいハンサムなので、出てくるたびにすごい引力です!

 

さらには大西、隆、滝の三人がこちらも開始15分くらいで集まって(↑で書いた軍国キャバレーのマスターが隆で社長が大西)軍隊時代の話をしちゃうので、どうやらもうこの辺が何か軍隊時代に罪を犯しているらしいぞ、というのも鑑賞している側に知らされます。

 

だもんで、主人公であり、この超科学とミステリーの謎解き担当(のためにいるのだと思う)の新聞記者・桐岡、あまり活躍の印象が残らない(^-^; ↓こんな感じのシーンもあるんですけどね。

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ヒロイン・白川由美さんを守るシーンを見て、津村浩三様だったんだわ、と思いだす。



小林警部も同じ大学の同窓生という設定なので、科学に詳しい新聞記者、という特性があまり生かされない上に…というか、警部なので平田昭彦さんのほうがアクションもあり、確実に目立っている!!

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刑事なので追いかけるシーンとか、ひょいっとトラックに乗ったりとか、アクション担当。


・・・あと、あと、二枚目さも勝ってるよねw

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というわけで、表題。

だれが主人公なんだ!?ってストーリーは、最後も思いもかけない終り方で、そうくるか!?って感じの展開。物語に特に特別な何かを見いだすというよりも特撮技術を楽しむ映画で、これもまた、映画の楽しさであります。

(「吸血鬼ゴケミドロ」が特撮はさておきwストーリーが今でも見ごたえがある、という映画だったので、「ゴケミドロ」すごい映画だな、と思ったり)。

 

なお、主人公についての自分的結論としては、作品の登場人物の印象度は中丸忠雄平田昭彦>>>鶴田浩二。ストーリー的に正義側が主人公だと考えると。。。主人公は平田昭彦さん!ということに(笑)

 

しかし、いくつも鶴田浩二さんの映画をみているのに、未だに吉岡司令補を上回る作品に出会えず、どのあたりで大物スターになったんだろうか、という印象。任侠映画の鶴田さんを見ないことには始まらないのかな、これ(^◇^;)

石井輝男監督「網走番外地 決斗零下30度」

三者三様のいい男と壮大な雪原のアクション。サービス満点の”娯楽映画”

 

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【映画についての備忘録その86】

石井輝男監督×高倉健主演「網走番外地 ~決斗零下30度」(1967年)

 

一面の雪の中を走る汽車の中、橘真一(高倉健)は、自身のこれまでの出来事を思い返していた。そんな時、小さな女の子が歌う童謡が聞こえてくる。その歌にひかれるように少女のもとへ向かうと、女の子は一人ぼっちで席に座っていた。女の子の名前はチエといい、この子の胸にはノサップのサガレン炭鉱に父親がいるので、送り届けてほしい、という札がかかっていた。

行く当てのない橘はチエを送り届けてやろうと決めたが、そこへ一人の女(国景子)が現れる。腕と度胸と正義の心があれば務まる仕事を請け負う男を探しているという。その仕事に乗り気になった橘だったが、トランプを華麗に操る男(吉田輝雄)が突然現れ、仕事をかっさらっていってしまう。

ノサップ駅の万屋で馬ソリをかり、炭鉱までチエを送り届けた橘。チエの父親は網走刑務所で共に過ごした大槻(田中邦衛)だった。久しぶりの親子の再開に炭鉱の休みを取って二人で過ごせという橘。サガレン炭鉱の支配人・関野(安部徹)は元のオーナーの西条に高利で貸し付け、その借金のかたに炭鉱を乗っ取った男で、その関野とつるんでいる坑夫長の蝮(田崎潤)は、強引に大槻を鉱山へ引き戻そうとする。その理不尽な態度に怒った橘は、部外者の入鉱を頑なに拒否する蝮を叩きのめして、一日だけ大槻の代わりに鉱山へ入る許可を得る。しかし、蝮はその間に、腹いせに橘がのってきた馬橇の馬を殴り殺してしまう。死んだ馬をソリに載せ、雪の中を万屋へと戻っていく橘。途中、力尽きて立ち止まっているところを、朱美(三原葉子)という女に声をかけられる。彼女はクラブ・コタンのホステスでオーナーの白木(丹波哲郎)の女だった。コタンで酒を飲んでいると蝮たちがやってきて傍若無人の振る舞いを始める。そこへ白木が現れ、蝮たちをいさめるのだった。

 

 

 

コロナ禍で非日常のような日常が続いて、なかなか更新の時間も余裕もできず・・・。でも、少しづついつもの感じが戻ってきているので、更新したい気持ちも出てきて、そのモチベーションの最後の一押しはやっぱり輝雄さんの作品の感想を書こう!というところ(・∀・)

更新してない間も、一日の終わりにハンサムさんを観て楽しむという日常?日課?は維持していて「決着(おとしまえ)」の鉄次さんや「古都」の竜助さん等々、兎に角色々と観ていたわけなのですが(・∀・)この間に東映チャンネルで4月に「網走番外地 決斗零下 30度」が放送されて久しぶりに全編鑑賞しました(輝雄さんの登場シーンだけ観る、とかは何回もやってましたがw)。石井監督の網走番外地シリーズの輝雄さんご出演作で、ここで唯一感想を書いていなかったこともあり、これを再開の最初にしよう!ということで。

 

本作、最初に観たのは吉田輝雄ファンになったばかりの頃。石井輝男監督作品も確か、「網走番外地 南国の対決」「網走番外地  大雪原の対決」を観ただけだったと思います(なんせ輝雄さんのファンになるまで「網走番外地」すら健さんの代表作ってことしか知りませんでしたから)。その時と、時間をおいて他の石井作品もたくさん観たあとの鑑賞とで受け止め方が違った本作。初鑑賞の時はのっけから困惑してしまってなんかよく分からないうちに終わったんですがw石井作品の経験値を積んで(笑)あらためて観ると、かっこいい男達とかっこいいアクションと、そして変化球の笑えるシーンがちりばめられていて、エンタテインメント精神満載の映画だと分かりました。

 

さて、何で最初は困惑したかと言うと、映画の最初にサービス精神溢れるシーンが続くんですが、初心者には理解が追いつかなかったから(^-^;

橘の回想シーンから始まる今作。ここは「望郷編」の杉浦直樹さんとの最後のシーンとか、名シーンのダイジェスト。これが、初鑑賞の際は順番通りに観ていなかった私には「シリーズの過去作の場面なんだなぁ」と予測はつくものの、そこにいたる状況が分からず、まず最初の躓き(笑)(まぁ、順番通りに観てなかった私が悪かったw)でも、全作制覇してあらためて見直すと、リアルタイムで熱くこのシリーズをみてた観客に対しては最高のサービスだったのだろうな、と感じます。

 

そして、そこを乗り越え(!?)、チエと橘のほんわかした会話に微笑ましく思っていると、いきなりトランプを投げてくるハンサムが登場!

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どんなキザな役も格好良くこなしてしまう吉田輝雄ですが、トランプだけじゃなくて、銀色の小さなトレーから火を出すマジックまで披露してしまうのでwこれはどうにも突飛過ぎて(観ていてちょっとこちらが恥ずかしくなります)、なんなんだこれは。+゚(*ノ∀`)とかなったりw

でも、このマジックは引田天功さんがされているそうで、華麗な手さばき(輝雄さんご本人も指が長くて美しいのでー「愛染かつら」で手を重ねるシーンや、「続・決着」の煙草を咥えてるシーンとかめちゃステキ♪ーどっちの手なのかな?って感じですw)。こんなクセのある登場シーンも、きっちり一流のマジシャンが担当していて、これもやっぱり、石井監督流の、観客を楽しませようというサービス精神なんだなぁ、と思ったり(で、見返すとこの訳分からん具合が面白いw)。

 

そして、極めつけ(!?)はこの後に出てくる由利徹さんと吉野寿雄さん(吉野さんはほんとにゲイバーのママさんだったんですね。これ書くのに調べて知りました)。過去のシリーズでも登場しているお二人ですが初めて見た時はどう見ても無理のある、学生服姿の由利さんと妊婦姿の吉野さんと当たり前に絡む健さんに困惑しまくりw

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これもあらためて観ると、無理矢理でもこの二人を出して笑いをとってきてるんだな、と感じて、まさにエンタテイメント(困惑から放たれてみると面白いですしw)。シリーズもののリアルタイムの観客としては、一番最初のハードな橘の回想シーンからお約束のこの変化球でめちゃめちゃ楽しかったのではないかと思ったり(この二人、この後出てこないんですけど、鬼寅さんが待ってるよ、っていう大事なことを橘に言い残しますw)!

 

で、最初にサービスシーン(?)を詰め込んだあとは、順調にストーリーが進むかと思ったら、中盤で突如林の中から鬼虎さんが現れます。多分、シリーズ中最高に唐突すぎる登場(笑)もう、最初に観たときはこんな(・д・)なってましたwでも、これもシリーズ全部見終わってから観ると、シリーズ作品のお約束を外さない、ファンに取っては大事なシーンなんだよなぁwと思うわけでして!

 

というわけで、最初に観たときは上に書いたような場面のおかげで困惑したまま終わったわけですwでも、見直して観ると、これが面白く思え、さらにはカッコいい三人の男とアクションシーンで、娯楽映画らしい楽しみがいっぱいなことに気付きます(・∀・)

 

カッコいい三人の男ー健さん演じる橘、丹波さん演じる白木、そして輝雄さん演じる吉岡(なお、劇中で名前は出ませんw)。それぞれの俳優の魅力をいかした、タイプの異なるカッコよさ。

 

橘はいつも通り、熱く、優しく。

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特に今回は網走刑務所の仲間だった大槻と娘のチエのためにと奔走するシーンが多くて、優しさと熱さあふれる男気をたっぷりみせてくれます。

チエと一緒の場面も多く、大人びたことを言うチエに翻弄されちゃうかわいいところも見れて、橘真一というキャラクターの魅力を存分に楽しむことができます(・∀・)

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白木は、憂いを含んだ渋さ。

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影を感じさせるのは関野達に協力しているが故(何で協力することになったかは描かれていないのはさておき)。朱美との関係は惰性のようでいて互いに愛しあっているようであり、突然現れた妹(大原麗子)に対しては、恥ずかしくない兄であろうとします。関野に騙されて炭鉱を爆破し、坑内に人が残されていた事を知った白木が、「人間はな、誰でも自分のやったことの勘定を払わなくちゃいけないんだ」と関野を単身追いかけていく姿に、影を背負って生きてきた白木の格好良さが詰まっています。石井監督のギャング映画でも見た、善でも悪でもない、両方を含んだ複雑さを感じさせる丹波さん。

 

 

そして、女性を守る騎士のような吉岡。

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そもそも汽車の中で橘からかっさらったお仕事の、その話を持ちかけた女性は炭鉱の元の支配人・西条さんの娘さん。で、彼女は暴力も厭わないあくどい関野から権利書を取り返すためには弁護士を立ててのまともな手続きではどうしようもないな、ということで、“まともでない”男に仕事を頼もうと考えます。と、いうことはアウトローなわけです。でも、女性の傍(それも炭鉱の支配人の娘、というお嬢様)に立っていて違和感のない佇まいを兼ね備えていて、まさに輝雄さんのスマートさがあってこそ、の役。

炭鉱に乗り込んで関野から権利書を取り返した後、馬橇で街まで帰ろうとする途中、(万屋から借りて、手綱を握るのは万屋の主人(沢彰兼)の娘さん)蝮たちに追い立てられ、多勢(蝮とその手下)に無勢(吉岡+女性二人)。もう、どうしようもないんだけど、そんな中でも、「女の子に手を出すんじゃねぇ。話はそれからだ」と啖呵を切る。まさに騎士(王子様でも可)。

 

そして、アクション。「網走番外地 大雪原の対決」でも、雪の中で展開される西部劇のようなアクションが面白かったのですが、「決斗零下30度」はさらにグレードアップ。

雪原を大きくとらえて、深い雪のなかをたくさんの馬が駆ける迫力。

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こんな急坂を橘、吉岡、鬼虎が馬で降りたり(これ、かなり雪深いけど本人が演じておられるんですよねぇ、きっと。すごい) 。

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全体的に「大雪原の対決」は雪原を駆けるスピードが印象的な映画でしたが、こちらはスピード感に加えて、雪原の広さをとらえたアクションが印象的で(最後の関野・蝮たちVS橘・鬼虎・吉岡の撃ち合いも、隠れる場所なんてほとんどないとこで、よく銃弾が当たらないなっていう、まさに広大さ重視w)、大きなスクリーンでこそ映えそうで、大画面で観たい!と思う作品。

 

というわけで、最初に観たときは困惑しまくった本作ですが(^-^;再鑑賞してみて(&石井作品の経験値を積んで!)映画の印象は変化。安部徹さんと田崎潤さんの贅沢な悪役コンビに、田中邦衛さんや由利徹さんにアラカンさんと刑務所仲間の面々の大事なシーンも入れてと脇の楽しみを詰め込みつつ、メインであるカッコいい男たちと、アクションもしっかり楽しめる、サービス満点の”娯楽映画”「網走番外地 決斗零下30度」。個人的にはこの後の2作がやや迷走してるように感じたこともあり(でも、「悪への挑戦」が1967年の邦画興行収入10位で本作はベスト10圏外なんですよね。不思議w)、網走番外地シリーズのエンタテインメント性を突き詰めていった最終型かな!?と思うのでありました。

 

 

【感想その他あれこれ】

上で書いてないけど書きたかったことをつらつらと。

 

輝雄さんご出演の雪の中の網走番外地二作はどちらも衣装が黒づくめ。そのため、真っ白な雪の中で輝雄さんの長身でスマートで小顔というスタイルの良さが際立って、その立ち姿はまさに眼福(*´ー`*)でもって、吉岡(二作ともね)は旧友とかでもなく突然現れる助っ人で、なんなら最初の印象もよくないはずなのにw橘×吉岡のシーンはなんだか友達っぽくて、楽しそうな笑顔のシーンが多くて最高(*´ー`*)

「南国の対決」の南さんもめちゃめちゃカッコいいけど、北海道舞台の二作は特に好きですw

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そして、この2作とも馬に乗る吉田輝雄を観られ、これもまた騎士というか王子様というか、絵になってステキ(*´ー`*)今のところこの二作でしか馬上の吉田輝雄にお目にかかれていないのですが、他にもあるのかしら。。。馬上の姿&馬から降りるとこ、どっちもかっこいいの!!

 

 

 

 

木下恵介監督「楢山節考」

観る”時”を間違える。

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【映画についての備忘録その85】

木下恵介監督×田中絹代主演「楢山節考」(1958年)

 

 

信州の山奥にある村。貧しいこの村では、年寄りは70歳になると「楢山まいり」に行くのが習わしである。

69歳のおりん(田中絹代)も年が明ければすぐにでも楢山まいりをするつもりである。山へ行く時の支度は整えてある。心配事だった息子・辰平(高橋貞二)の後妻も無事見つかった。後妻の玉やん望月優子)は気のいい嫁で安心して山へ行けると思うのであった。

ただ、おりんには、あともう一つ済ませることがあった。自分の丈夫な歯を臼で砕くこと―食料の乏しいこの村では老いても揃っている歯は恥かしいことであったのだ。

しかし、孝行息子の辰平は、母の「楢山まいり」に気が進まず、少しでもその日を引き延ばしたい気持だった。

そんな折、村の雨屋が盗みを働く。子供が12人。食べるものに困った故だった。長男のけさ吉が近所の娘・松やんと夫婦となり、松やんのおなかには子がおり、食べ物もどんどん不足していく。ねずみっ子(曾孫)が産まれればますます食べ物がなくなってしまう。

辰平は楢山まいりに気が進まなかったが食料不足が深刻化してきたため、そうもいかなくなってきた。雑巾で顔を隠し寝転びながら、辰平は楢山まいりの覚悟を決める。雑巾で顔を隠してなく息子の、その雑巾をとり、顔を見つめながら、おりんは家計を考え、今年中に出発することを決めるのだった―。

 

 

衛星劇場で放送されたものを録画して視聴。久しぶりの木下恵介監督作品です。「風前の灯」を観て以来なので1年半ぶりくらいかな。

楢山節考=姥捨て山の話、といのは知っていて、たしか高校の時に演劇部の県大会でほかの高校が上演していたのを観た記憶(どういう状況w)。息子が母親を背負って険しい山を登っていく、なんとなく静かな映画であろうという感じで鑑賞をはじめました。

 

 

と、思っていたらまずはのっけから変化球で面喰いました。歌舞伎のような緞帳と黒子の拍子木をうつ姿から始まって、演劇を舞台セットごとスクリーンにもってきているよう。そして浪曲風(?)の音楽と一緒にストーリーが展開され、ちょっと映画に入り込むのに苦労…。

しかし、そんなハンデ(!?)を背負いつつも、俳優さんたちの演技は素晴らしくて、そういう演出的な技巧は徐々にその存在感を俳優陣に奪われていきます。

 

中でも田中絹代さんのおりんに段々と引き込まれ、望月優子さんの玉やんとの、義理の関係をこえた母娘二人が素晴らしい。

 

村の祭りの日に、一人山を越えて嫁入りしてきた玉やん。初めてやってきて玉やんに、年に一度の”白萩様”を茶碗いっぱいによそい、それを美味しそうに頬張る玉やんと、玉やんを嬉しそうに見つめるおりん。辰平を呼びに行く、としか言わないおりんですが、その表情に、一瞬で培われた玉やんへの信頼や愛情といった気持ちがあふれ出ています。

ご飯をおいしそうに食べているのを見ているのが幸せ、という親が我が子に抱く、ごくありふれた、だけどとても幸せな気持ちになる日常の風景。そこにおりんの気持ちがこもっていて、嫁ーというより、本当に我が子のように思って迎えているという感じが伝わってきます。それがまた、年に一度の白米が食べられる日。その特別な日に特別なものを惜しげもなくふるまう。そして、その直後に自分の歯を折る、というのが、おりんが、玉やんを家族として迎え入れる、その最上級の気持ちの表れ。つまりは、貧しい家族の少ない食べ物は玉やんのために、そして、自分は楢山様へ行こう。台詞として多くを語らないシーンで、二人の女優さんから感じられる母娘としての信頼、愛情がとても伝わってきます。

 

 

この二人の名演が圧倒的すぎて、ちょっと霞んでしまう(^_^;)高橋貞二さんの辰平ですが、辰平の母への情愛も深く感じることができます。おりんの歯を茶化す息子や村の人間に本気で怒り、70を過ぎても楢山へ行くのを嫌がっている、隣家の又やん(宮口精二)を邪険にして、無理やり連れて行こうとする倅(伊藤雄之助)への接し方。又やんへ見せる優しさ。他人である又やんの、その倅へ本気で怒る姿は、辰平がそれだけ親を大事だと思っているから。口数の多くない辰平ですが、高橋さんの演技で、これまた彼の静かで優しく、強い愛、それ故の楢山まいりへの苦悩を感じます。

(又やんのみじめさや倅の人でなしぶりも、さすがの名優お二人。)

 

 

と、そんな映画につけた見出しがなんでこれなのかというと、「楢山節考」が命と死に向き合う物語だから。形をかえて社会全体が辰平のような状況におかれていて、それが絵空事じゃなくて現実で起きていて、物語の重さが何倍にもなってこちらにせまってきたように思え。今この物語を受け取るには私の心がキャパ不足。

 

 

次は楽しい映画、勇気をもらえる映画を観て元気をもらおう、と思ったのでありました。

 

しかし、木下恵介監督、みるたびに全く違う作風で、毎度毎度驚くのでありました。

石井輝男監督「東京ギャング対香港ギャング」

香港の雑踏と高倉健のカッコよさ。

東京ギャング対香港ギャング

東京ギャング対香港ギャング

  • メディア: Prime Video
 

 

 
【映画についての備忘録その84】

石井輝男監督×鶴田浩二主演「東京ギャング対香港ギャング」(1964年)

 

東京・大岡興業のヤクザ、北原(高倉健)は麻薬の取引に香港に降り立つ。かねてからの取引相手だった竜は警察の手入れを恐れて、大岡興業との取引を中止していて、これを再開するための交渉が目的だった。しかし、竜は価格を吊り上げる交渉に持ち込むことを目的に、大岡興業との取引の再開を受け入れなかった。薬をもっているのは自分たちだけ。必ず、再度交渉しにくるはず―。

その北原の前に新興勢力、毛の部下でチャン(内田良平)という男が現れる。チャンは質の高いクスリを竜よりも安い値段で卸そうという。北原はこの交渉に乗り、取引を決めたが、その約束の日、思うように交渉のすすまなかった竜一派に狙われ、京劇スター李淑華(三田佳子)に薬の包みを渡し息絶える。

東京ー北原の死因、北原に渡した買い付け用の1億円の行方は不明。そして香港からの北原の死を悼む電報。大岡(安部徹)は幹部藤島(鶴田浩二)を香港に送ることにする。香港で藤島を迎えたのはチャンであった。チャンに案内されてマカオ聖ポール天主堂跡でボスの毛(丹波哲郎)と顔を合わせる。毛は情報部将校だった藤島の戦友だった。

李淑華に渡した薬が横浜港へ入った。このルートを突き止めた竜たちも日本へやってくる。一方、東京-香港の麻薬ルートを完全に手中に納めようと企む毛は大岡に取り入りながら、チャンを使って竜たちとの交渉もはじめ、両者を混乱に陥れようとするが―。

 

 

私的7作目の石井輝男監督のギャング映画は海外ロケの豪華な作品。虚々実々の駆け引きが面白く、また映画は前半と後半で主人公が替わり、この交替にあわせて、ムード(やる気?)もなんだか違ってきます。またまたギャング映画のくくりの中で、これまで見た他の作品と趣向の異なる映画をみせてくれる石井監督であります。

 

 

映画は香港が舞台となる高倉健編から始まります。んで、これが面白い。香港の竜と東京の大岡興業の北原の駆け引きから始まり、そこにチャンが現れる。この三者による麻薬をめぐる駆け引きにどんな結末が訪れるのか?果たしてチャンとその組織は信用して良いのか?単身香港に乗りこんできた北原を取り囲む香港のギャングたちとの力関係がどこでどう変化していくのか。ハラハラしながらその展開を楽しむことができます。

そして何より、石井監督が切り取った1964年の香港の姿。高いビルときれいな夜景、タイガーバームガーデン、と観光地もたくさん出てきますが、それ以上に、現地の人ー細い路地に腰を落とす大人や子供、船の上で生活している疍民の人達―の姿とその生活の場がとらえられていて、それがとてもワクワクします(香港、行ったことないんだけどねw)。

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観光地じゃない、生活の場としての香港。そしてそこを歩く健さんと(手持ちカメラとかだと思うのですが)一緒に進む映像は、まるでドキュメンタリーを見ているような、自然体のかっこよさ。子供たちに向けてウィンクしてるシーンなんて、地の高倉健を見ているような気分になります。ん~、カッコイイ。

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「セクシー地帯」の銀座の裏通りを歩く輝雄さんのシーンの時に感じたあのワクワクと同じものを感じさせてくれる、めっちゃ印象的なシーン。

 

んで、この香港×健さんパート、命よりも仕事をやり遂げることを優先した北原の生き方のカッコよさ、そしてその最期をとらえる映像もホントにカッコよくて(側を歩いている周囲の人も現地の普通の人なんじゃなかろうか?スクリーンで観られた時の楽しみと、万が一でも観る前にこのページにたどり着いた人のために、記憶の中に留めておいてあえてキャプチャは載せないことにします。)、もう、このまま映画終わっていいんじゃないだろうか?ってくらい。・・・なんだけど、これはまだ中盤。

 

 

めっちゃ余韻の残る前半から、次は鶴田浩二さんが主人公となる後半が展開します。こちらの舞台は横浜と東京、そしてマカオ(ただ、こちらのマカオは観光地としてのマカオという感じ)。

 

後半は、大岡、竜、毛のギャング通しの駆け引きや、藤島が実はヤク中だったという設定で話が入り組んできてこちらも面白いのですが、なんだか、前半にめっちゃ力が入ってるみたいで、付け足しのように思える鶴田浩二編(^-^;)

 

藤島は実は元陸軍の将校だったという、鶴田さんにはぴったりな(気がする)設定。

大岡興業に竜に通じている奴がいる、と凄んだときの迫力はさすがだったし、クスリがきれて延々と苦しむ(のたうち回る鶴田浩二とセクシーなダンサーが代わる代わる写し出されるという、「日本ゼロ地帯 夜を狙え」で三原さん×ダンサーであったやつ。石井監督のお気に入りの演出!?)シーンであったり、そしてもちろん、最終盤のアクションと、鶴田さんの見せ場はあったのですが、前半の健さんと香港のカッコよさをとらえるのにめっちゃ力入ってた感があるのに比べて、鶴田浩二さんのカッコよさの、あまりいかされていない感(私が吉岡司令補の印象が強すぎて、どうしても”ギャング”のようなかっこよさを感じ取れないだけなのかもしれませんが(^-^;)。

 

 

最後はやや強引な展開になり(そもそも北原が命をかけて仕事をやり遂げるほどの人望が大岡になさそうっていう最大の問題)、まさかの結末で丹波さんがかっこよく締め、終了。やっぱり香港編の健さんのかっこよさに比べて後半の鶴田浩二さんのかっこよさはなんだか適当に写されているような印象(あくまで主観)。

 

というわけで、見出し。前半と後半が別のような映画で、前半の香港と高倉健がやたらかっこよくて、もうこれが観れただけで満足。

 

今作で現時点で「JUNK FILM by TOEI」で観られるものはこれですべて観てしまったので、残りの3つ(「親分を倒せ」「ならず者」「顔役」)も観る機会をみつけて鑑賞したいな、と思うのでありました。

 

石井輝男監督「ギャング対ギャング」

裏切りと希望のない世界ですすむ暗い物語

ギャング対ギャング

ギャング対ギャング

  • 発売日: 2016/04/30
  • メディア: Prime Video
 

 

 

【映画についての備忘録その83】

石井輝男監督×鶴田浩二主演「ギャング対ギャング」(1962年)

 

5年前、小森興業のボス・小森(沢彰謙)の身代わりとして出頭した水原(鶴田浩二)。出所すればふさわしいポジションを用意されているはずだった。しかし。刑期を終えた水原は、出所した途端に走りすぎる車から銃弾を受け、腕にけがを負う。

ホテルを乗っ取り実業家然としてふるまっている小森にとってはヤクザの水原が疎ましく、水原を消すための小森の工作だった。そうと気づいた水原は小森のもとへ出向く。そこには波川(丹波哲郎)、塚原(高英男)、男谷(成瀬昌彦)といった、5年前のことを知っている者たちもいた。しかし、だれしもそのことについては口をつぐむ。怒った水原は自分と同じように小森の腕に一発を撃ち込み、その場から逃げ、ビルの外で若い男女に声をかけられ、誘われるがままに車に乗り、ある屋敷へかくまわれることに。

翌朝ーその二人、百合(三田佳子)と金谷(梅宮辰夫)に案内されたリビングには柳沢(三井弘次)という老紳士がいた。柳沢に見せられた新聞には小森の死亡記事が。部下の波川が、水原を追わず小森にトドメを刺したのである。

柳沢は、小森興業が東京へ麻薬を流していることに目をつけ、その販売ルートを停止し組織を壊し麻薬を奪う計画をたてていた。百合と金谷に加え、小森興業への復讐のため、水原もその計画に協力することにする。麻薬の密売ルートをつぶし、工場を探しあて、男谷も味方に引き入れて、伊豆の別荘でガスボンベにカモフラージュされているという麻薬を奪う計画を実行にうつすが… 

 

 

 

はい、続いての石井輝男監督のギャング映画はこちら!「太平洋のGメン」が1962年4月の公開、「ギャング対ギャング」が1962年7月の公開だそう(前者がカラーで後者がモノクロとか、大御所のパワーを感じる(笑))。

 

さて、後に作られたほうの「ギャング対ギャング」。「太平洋のGメン」を作った反動かな!?と言いたくなるようなムードの作品。絶対ケガもしなさそうなカラッとした片岡千恵蔵Gメンに対し、こちらの鶴田浩二ギャングは出所そうそう銃弾を撃ち込まれ、ボスと仲間に裏切られ、最初からどん底に突き落とされ、物語がはじまります。

 

いきなり主人公が絶望の中におかれる、というのは「黄線地帯」の天知さんや、「続・決着」の輝雄さん(いや、主役は梅宮さんのはずなんだけどw)とか、石井監督脚本の作品には他にも思いつくモノがありますが、前者では三原葉子さん演じるルミの天然な可愛らしさが、後者では由利徹さん演じるまるさんやアラカンさんのウラナリ先生の優しさと明るさが、主人公の心を救う存在であり、それがまた観ている側のつらさを和らげるものでしたが、本作にはそれすらありません。百合との間に少しの恋が描かれますが、三田佳子さんはかわいいけれど、主人公を救うほどの圧倒的な明るさや優しさを感じとることはできません。

 

そんなわけで、終始暗いムードで展開して、救われる感のない物語。密売ルートもガン・コーナーだったり、キャバレーの楽屋だったり。麻薬工場が爆発する終盤にさしかかるまで、あまり起伏もなく、暗くて、地味な物語です。

 

ただ、それを面白く見せてくれるのが、丹波さんたち敵役のギャングの面々。出所した水原が最初に小森興業にあらわれたときに主要なメンバーは勢ぞろいしていて、水原とのやりとりの中で個々の個性を感じとることができます。

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「太平洋のGメン」の時は最後は改心というか、ボスに敵対する立場になった丹波さんですが、波川は最初から最後まで、裏切りとその恐怖で仲間をそっと押さえつけているような怖さ。塚原の高英男さんはいつもの通りw何を考えているのか分からない不気味な雰囲気。成瀬昌彦さん(私的には「火線地帯」以来の邂逅w)の男谷はちょっとナルシスト(服の汚れや髪の乱れを気にするしぐさがw)で、何とも言えないヌメッとした雰囲気で、プライドは高いけど絶妙に組織のトップにはなれない感を出しつつ、それがまた人間くさくて、波川たちとは違って完全に水原を切り捨てるような冷たさがない。

この敵対するギャング達の個性の強さが、地味な展開の映画に色付けをしていて映画をひっぱっていってくれた感じ。

 

 

地味だ地味だとは言いながら、最後の見せ場のアクションシーンはさすがの石井監督!という盛り上がり。ガスボンベをつんだトラックの荷台の上の水原たちと追いかけてくる波川たちとの銃撃戦は、荒れた山道を荷台から振り落とされてしまいそうなになりながら応戦する水原や男谷、柳沢と、爆発しそうなガスボンベがかわるがわるとらえれていて、終始ハラハラさせられる展開。ここはほんと面白かったです。

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最後、水原は救われることなく、絶望の淵へ突き落され、百合と二人、思いを通わせながらも悲しい結末を迎えます。それは美しくて悲しい最後。終始重たく悲しいまま。

 

これを含めてここまで全部で6作観た石井輝男監督のギャング映画。単純に自分の好みで言えば、「恋と太陽とギャング」とか「花と嵐とギャング」とか、そっちのほうが好きですが、”ギャング映画”のくくりのなかでこれだけバリエーションのある作品をつくってしまう石井監督のすごさを感じた作品でありました。

 

石井輝男監督「太平洋のGメン」

石井輝男片岡千恵蔵のせめぎあい。

太平洋のGメン

太平洋のGメン

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【映画についての備忘録その82】

石井輝男監督×片岡千恵蔵主演「太平洋のGメン」(1962年)

 

玄界灘で夜釣を楽しんでいた健次(江原真二郎)は、奇妙な箱を釣り上げた。釣りを終え、陸に戻ると、彼は二人の男に襲われ、ある屋敷につれ込まれた。そこへ現れた水原(丹波哲郎)と名乗る男は、健次に箱の中身を見ないこと、口外しないことを条件に箱を買い取ると申し出る。取引成立となって、水原に出された酒を口にした健次はそのまま意識を失ってしまった。気を失ったまま走るモーターボートへ乗せられていた健次は、広上(片岡千恵蔵)という男の船にぶつかり、海へと投げ出された。広上に救われた健次は翌朝、金を取り戻しに、広上を連れて例の屋敷へと戻る。しかし、そこは新歌舞伎の役者・板東梅之助の別荘で水原などという男は居ないことを知った。土地のボス藤村をあたれという広上の言葉に、藤村の経営するキャバレーを訪ねた健次は、ホステスの朱実(佐久間良子)から、新歌舞伎は福岡へ巡業に行っていること、そして水原が船の手配を藤村に頼んでいたことを知る。そこで健次は福岡へ向かうが、若い男が梅之助を刺し殺す場に居合わせ、犯人とまちがえられて危ういところを広上に救われる。金を出し、人を殺してまで守っている品物とは一体何なのか。神戸が臭いとにらんだ二人は、神戸へと向かうが。。。

 

 

 

石井輝男監督のギャング映画の感想が続きます('◇')ゞJUNK FILM by TOEIで観られるものは観まくろう、と(笑)選んだ今作。丹波さんや江原さんといった、ギャング映画での常連さん(あと、相変わらずあんまり筋に絡まないのに贅沢な出演の梅宮辰夫さん…出番はほかのに比べると多かったけど何者か分からないまま終わったしな)がいるいっぽう、健さん鶴田浩二さんもいなくて、その代わりに片岡千恵蔵さん。で、見出し。この大御所の存在感が相当なもので、さすが大御所、というべきか。石井輝男監督のギャング映画らしいアクションの切れと人物のキュートさ&クールさも見せながら、片岡千恵蔵さんが構築している別の世界観がせめぎ合っている映画でした。

 

 

江原さんと佐久間さん、あるいはこのお二人と丹波さんのシーンは、石井監督のギャング映画らしい、クールで軽やかで、しゃれた雰囲気。

健次と朱美のシーンは、ツンデレな感じで、会話も楽しく。

健次は朱美がいないところでは広上相手に「今はやりのトランジスターグラマーだ」(なんだろう、それw)と褒めているというのに、

福岡から神戸へ向かう列車の中、

 「レディーを退屈させるなんて紳士にあるまじき振る舞いよ!」

「ふん!退屈するような身分になりてーよ」

なんて言い合ったり。

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 積極的な朱美と、まんざらでもなさそうなのにうっとうしそうにしている健次という組み合わせはなんだかラブコメのようで、その可愛らしさは「恋と太陽とギャング」あたりを観たときにうけた印象に通じる感じ。

 

 

丹波さんはスーツをビシっと着こなし、今回は冷静沈着な敵役。長身でクールな面持ちの丹波さんが写ってるだけで石井監督のギャング映画、という雰囲気が出まくってます◎ 最後は組織のボスに裏切られたことで、自分の命と引き換えに復讐を果たすという見せ場も用意されていて、一番かっこよかったかも。

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さて、今作は、長崎、神戸、横浜と港町を舞台にしてストーリーが展開することもあって、異国情緒もあり、そして列車で移動しているシーンが多かったり、あるいは神戸の裏通りの入り組んだ街並みとその奥には怪しげなクラブがあるセットだったりと、「黄線地帯」を思わせるような画があります。これに加えて広上と健次が、敵を追いかけるという設定で物語が進むので、クライムアクションといった感じの他のギャング映画とは違って、謎解きのサスペンスに軸足を置いた展開。

 

で、この、サスペンスのほうに軸足をおいたところも「黄線地帯」のような風景の中であれば「やっぱり石井輝男だ!」となりそうなところなのですが、どっこい、そこは片岡千恵蔵。さすが大御所。もう、片岡千恵蔵さんが出てくると、そこだけなんだか違う監督の映画に思えます。

この映画のクライマックスは、実は刑事だった広上が組織を追い詰め、一人、船の上で大活躍、というところ。激しい銃撃戦なのですが、なんだろう、娯楽時代劇のヒーローよろしく、絶対に弾にあたらなそうな存在感と安心感。

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絶対、怪我しなさそう。

まぁ、要するに、ハラハラするような緊張感みたいなものがありません(^_^;)石井輝男をもってしてもいかんともしがたい、大御所の存在感であります。

 

 

銃撃戦で大御所に見せ場をたっぷり用意して、勧善懲悪、大団円の時代劇然として終わるのかと思っていたら・・・最後にもう一度、石井監督らしい世界がまっていました。

 

事件が解決して時計台の下で待ち合わせている二人。 

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最後のシーンは時計台の前の二人。

 

「君、ボート屋のおやじなんて興味ないだろうな」

「え?」

「俺、対馬行ってボート屋のおやじになるかもしれない」

 「ちょっと!興味あるわよ!」

 

これはなんだか和光の時計台の下の「セクシー地帯」の吉岡と真弓のラストシーンを思わせるキュートさ!石井輝男作品、こうでなくては(・∀・)

 

 

と、いうわけで、5本目の鑑賞となった石井輝男監督のギャング映画は、大御所の存在感が別物すぎて、殿様が市中に潜り込んで問題を解決するような痛快娯楽時代劇と石井監督らしさのあるギャング映画が混在している(融合じゃなくて)ような不思議な作品で、片岡千恵蔵さんのアクションシーンを思い出しながら、石井輝男以前のギャング映画の雰囲気ってこういうことかな?という想像をした鑑賞後。…さ、次いってみよう!