T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「太平洋のGメン」

石井輝男片岡千恵蔵のせめぎあい。

太平洋のGメン

太平洋のGメン

  • メディア: Prime Video
 

 

 
【映画についての備忘録その82】

石井輝男監督×片岡千恵蔵主演「太平洋のGメン」(1962年)

 

玄界灘で夜釣を楽しんでいた健次(江原真二郎)は、奇妙な箱を釣り上げた。釣りを終え、陸に戻ると、彼は二人の男に襲われ、ある屋敷につれ込まれた。そこへ現れた水原(丹波哲郎)と名乗る男は、健次に箱の中身を見ないこと、口外しないことを条件に箱を買い取ると申し出る。取引成立となって、水原に出された酒を口にした健次はそのまま意識を失ってしまった。気を失ったまま走るモーターボートへ乗せられていた健次は、広上(片岡千恵蔵)という男の船にぶつかり、海へと投げ出された。広上に救われた健次は翌朝、金を取り戻しに、広上を連れて例の屋敷へと戻る。しかし、そこは新歌舞伎の役者・板東梅之助の別荘で水原などという男は居ないことを知った。土地のボス藤村をあたれという広上の言葉に、藤村の経営するキャバレーを訪ねた健次は、ホステスの朱実(佐久間良子)から、新歌舞伎は福岡へ巡業に行っていること、そして水原が船の手配を藤村に頼んでいたことを知る。そこで健次は福岡へ向かうが、若い男が梅之助を刺し殺す場に居合わせ、犯人とまちがえられて危ういところを広上に救われる。金を出し、人を殺してまで守っている品物とは一体何なのか。神戸が臭いとにらんだ二人は、神戸へと向かうが。。。

 

 

 

石井輝男監督のギャング映画の感想が続きます('◇')ゞJUNK FILM by TOEIで観られるものは観まくろう、と(笑)選んだ今作。丹波さんや江原さんといった、ギャング映画での常連さん(あと、相変わらずあんまり筋に絡まないのに贅沢な出演の梅宮辰夫さん…出番はほかのに比べると多かったけど何者か分からないまま終わったしな)がいるいっぽう、健さん鶴田浩二さんもいなくて、その代わりに片岡千恵蔵さん。で、見出し。この大御所の存在感が相当なもので、さすが大御所、というべきか。石井輝男監督のギャング映画らしいアクションの切れと人物のキュートさ&クールさも見せながら、片岡千恵蔵さんが構築している別の世界観がせめぎ合っている映画でした。

 

 

江原さんと佐久間さん、あるいはこのお二人と丹波さんのシーンは、石井監督のギャング映画らしい、クールで軽やかで、しゃれた雰囲気。

健次と朱美のシーンは、ツンデレな感じで、会話も楽しく。

健次は朱美がいないところでは広上相手に「今はやりのトランジスターグラマーだ」(なんだろう、それw)と褒めているというのに、

福岡から神戸へ向かう列車の中、

 「レディーを退屈させるなんて紳士にあるまじき振る舞いよ!」

「ふん!退屈するような身分になりてーよ」

なんて言い合ったり。

f:id:kinakokan0620:20200302210053p:plain

 

 積極的な朱美と、まんざらでもなさそうなのにうっとうしそうにしている健次という組み合わせはなんだかラブコメのようで、その可愛らしさは「恋と太陽とギャング」あたりを観たときにうけた印象に通じる感じ。

 

 

丹波さんはスーツをビシっと着こなし、今回は冷静沈着な敵役。長身でクールな面持ちの丹波さんが写ってるだけで石井監督のギャング映画、という雰囲気が出まくってます◎ 最後は組織のボスに裏切られたことで、自分の命と引き換えに復讐を果たすという見せ場も用意されていて、一番かっこよかったかも。

f:id:kinakokan0620:20200303145233p:plain

 

 

さて、今作は、長崎、神戸、横浜と港町を舞台にしてストーリーが展開することもあって、異国情緒もあり、そして列車で移動しているシーンが多かったり、あるいは神戸の裏通りの入り組んだ街並みとその奥には怪しげなクラブがあるセットだったりと、「黄線地帯」を思わせるような画があります。これに加えて広上と健次が、敵を追いかけるという設定で物語が進むので、クライムアクションといった感じの他のギャング映画とは違って、謎解きのサスペンスに軸足を置いた展開。

 

で、この、サスペンスのほうに軸足をおいたところも「黄線地帯」のような風景の中であれば「やっぱり石井輝男だ!」となりそうなところなのですが、どっこい、そこは片岡千恵蔵。さすが大御所。もう、片岡千恵蔵さんが出てくると、そこだけなんだか違う監督の映画に思えます。

この映画のクライマックスは、実は刑事だった広上が組織を追い詰め、一人、船の上で大活躍、というところ。激しい銃撃戦なのですが、なんだろう、娯楽時代劇のヒーローよろしく、絶対に弾にあたらなそうな存在感と安心感。

f:id:kinakokan0620:20200303194553p:plain

絶対、怪我しなさそう。

まぁ、要するに、ハラハラするような緊張感みたいなものがありません(^_^;)石井輝男をもってしてもいかんともしがたい、大御所の存在感であります。

 

 

銃撃戦で大御所に見せ場をたっぷり用意して、勧善懲悪、大団円の時代劇然として終わるのかと思っていたら・・・最後にもう一度、石井監督らしい世界がまっていました。

 

事件が解決して時計台の下で待ち合わせている二人。 

f:id:kinakokan0620:20200303194737p:plain

最後のシーンは時計台の前の二人。

 

「君、ボート屋のおやじなんて興味ないだろうな」

「え?」

「俺、対馬行ってボート屋のおやじになるかもしれない」

 「ちょっと!興味あるわよ!」

 

これはなんだか和光の時計台の下の「セクシー地帯」の吉岡と真弓のラストシーンを思わせるキュートさ!石井輝男作品、こうでなくては(・∀・)

 

 

と、いうわけで、5本目の鑑賞となった石井輝男監督のギャング映画は、大御所の存在感が別物すぎて、殿様が市中に潜り込んで問題を解決するような痛快娯楽時代劇と石井監督らしさのあるギャング映画が混在している(融合じゃなくて)ような不思議な作品で、片岡千恵蔵さんのアクションシーンを思い出しながら、石井輝男以前のギャング映画の雰囲気ってこういうことかな?という想像をした鑑賞後。…さ、次いってみよう!