石井輝男監督「東京ギャング対香港ギャング」
香港の雑踏と高倉健のカッコよさ。
【映画についての備忘録その84】
石井輝男監督×鶴田浩二主演「東京ギャング対香港ギャング」(1964年)
東京・大岡興業のヤクザ、北原(高倉健)は麻薬の取引に香港に降り立つ。かねてからの取引相手だった竜は警察の手入れを恐れて、大岡興業との取引を中止していて、これを再開するための交渉が目的だった。しかし、竜は価格を吊り上げる交渉に持ち込むことを目的に、大岡興業との取引の再開を受け入れなかった。薬をもっているのは自分たちだけ。必ず、再度交渉しにくるはず―。
その北原の前に新興勢力、毛の部下でチャン(内田良平)という男が現れる。チャンは質の高いクスリを竜よりも安い値段で卸そうという。北原はこの交渉に乗り、取引を決めたが、その約束の日、思うように交渉のすすまなかった竜一派に狙われ、京劇スター李淑華(三田佳子)に薬の包みを渡し息絶える。
東京ー北原の死因、北原に渡した買い付け用の1億円の行方は不明。そして香港からの北原の死を悼む電報。大岡(安部徹)は幹部藤島(鶴田浩二)を香港に送ることにする。香港で藤島を迎えたのはチャンであった。チャンに案内されてマカオ・聖ポール天主堂跡でボスの毛(丹波哲郎)と顔を合わせる。毛は情報部将校だった藤島の戦友だった。
李淑華に渡した薬が横浜港へ入った。このルートを突き止めた竜たちも日本へやってくる。一方、東京-香港の麻薬ルートを完全に手中に納めようと企む毛は大岡に取り入りながら、チャンを使って竜たちとの交渉もはじめ、両者を混乱に陥れようとするが―。
私的7作目の石井輝男監督のギャング映画は海外ロケの豪華な作品。虚々実々の駆け引きが面白く、また映画は前半と後半で主人公が替わり、この交替にあわせて、ムード(やる気?)もなんだか違ってきます。またまたギャング映画のくくりの中で、これまで見た他の作品と趣向の異なる映画をみせてくれる石井監督であります。
映画は香港が舞台となる高倉健編から始まります。んで、これが面白い。香港の竜と東京の大岡興業の北原の駆け引きから始まり、そこにチャンが現れる。この三者による麻薬をめぐる駆け引きにどんな結末が訪れるのか?果たしてチャンとその組織は信用して良いのか?単身香港に乗りこんできた北原を取り囲む香港のギャングたちとの力関係がどこでどう変化していくのか。ハラハラしながらその展開を楽しむことができます。
そして何より、石井監督が切り取った1964年の香港の姿。高いビルときれいな夜景、タイガーバームガーデン、と観光地もたくさん出てきますが、それ以上に、現地の人ー細い路地に腰を落とす大人や子供、船の上で生活している疍民の人達―の姿とその生活の場がとらえられていて、それがとてもワクワクします(香港、行ったことないんだけどねw)。
観光地じゃない、生活の場としての香港。そしてそこを歩く健さんと(手持ちカメラとかだと思うのですが)一緒に進む映像は、まるでドキュメンタリーを見ているような、自然体のかっこよさ。子供たちに向けてウィンクしてるシーンなんて、地の高倉健を見ているような気分になります。ん~、カッコイイ。
「セクシー地帯」の銀座の裏通りを歩く輝雄さんのシーンの時に感じたあのワクワクと同じものを感じさせてくれる、めっちゃ印象的なシーン。
んで、この香港×健さんパート、命よりも仕事をやり遂げることを優先した北原の生き方のカッコよさ、そしてその最期をとらえる映像もホントにカッコよくて(側を歩いている周囲の人も現地の普通の人なんじゃなかろうか?スクリーンで観られた時の楽しみと、万が一でも観る前にこのページにたどり着いた人のために、記憶の中に留めておいてあえてキャプチャは載せないことにします。)、もう、このまま映画終わっていいんじゃないだろうか?ってくらい。・・・なんだけど、これはまだ中盤。
めっちゃ余韻の残る前半から、次は鶴田浩二さんが主人公となる後半が展開します。こちらの舞台は横浜と東京、そしてマカオ(ただ、こちらのマカオは観光地としてのマカオという感じ)。
後半は、大岡、竜、毛のギャング通しの駆け引きや、藤島が実はヤク中だったという設定で話が入り組んできてこちらも面白いのですが、なんだか、前半にめっちゃ力が入ってるみたいで、付け足しのように思える鶴田浩二編(^-^;)
藤島は実は元陸軍の将校だったという、鶴田さんにはぴったりな(気がする)設定。
大岡興業に竜に通じている奴がいる、と凄んだときの迫力はさすがだったし、クスリがきれて延々と苦しむ(のたうち回る鶴田浩二とセクシーなダンサーが代わる代わる写し出されるという、「日本ゼロ地帯 夜を狙え」で三原さん×ダンサーであったやつ。石井監督のお気に入りの演出!?)シーンであったり、そしてもちろん、最終盤のアクションと、鶴田さんの見せ場はあったのですが、前半の健さんと香港のカッコよさをとらえるのにめっちゃ力入ってた感があるのに比べて、鶴田浩二さんのカッコよさの、あまりいかされていない感(私が吉岡司令補の印象が強すぎて、どうしても”ギャング”のようなかっこよさを感じ取れないだけなのかもしれませんが(^-^;)。
最後はやや強引な展開になり(そもそも北原が命をかけて仕事をやり遂げるほどの人望が大岡になさそうっていう最大の問題)、まさかの結末で丹波さんがかっこよく締め、終了。やっぱり香港編の健さんのかっこよさに比べて後半の鶴田浩二さんのかっこよさはなんだか適当に写されているような印象(あくまで主観)。
というわけで、見出し。前半と後半が別のような映画で、前半の香港と高倉健がやたらかっこよくて、もうこれが観れただけで満足。
今作で現時点で「JUNK FILM by TOEI」で観られるものはこれですべて観てしまったので、残りの3つ(「親分を倒せ」「ならず者」「顔役」)も観る機会をみつけて鑑賞したいな、と思うのでありました。