T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「黒線地帯」

石井輝男×天知茂の”香り”

  

黒線地帯

黒線地帯

  • メディア: Prime Video
 

 

【映画についての備忘録その88】

石井輝男監督×天知茂主演「黒線地帯」(1960年)

 

 

特ダネを追いかけるフリーのライター・トップ屋の町田(天知茂)は麻薬で女を縛り付け売春させるという黒線地帯と呼ばれる秘密売春組織を追っていた。組織のコールガールの女を突き止め、新宿の街を追いかけるが、途中で見失ってしまう。

すると、街頭の女易者が「女を探しているのだろう」と町田に声をかける。女はポン引きを呼び出し、この男の案内で、つれこみ宿へと行く。女を待っている間、旅館の女中が持ってきた酒を飲むと、町田は意識を失う。目が覚めると、町田はベットに眠っていて、その横には追っていた女が首をしめられて死んでいた。

売春組織に罠にはめられたと悟った町田は易者と男の行方を探る。この“踊り子殺人事件”を新聞が報じ、町田のライバルの新聞記者、鳥井(細川俊夫)も動き始める。町田は旅館の女中を街で見かけ、易者と男のことを聞き出そうとこの女を追いかけるが、車が女をはねた。その女の髪の中からは麻薬が出てきた。そして、サブと言う男の名を言い残し、息絶えた。

町田はサブを探し出し、追いかけて、マネキン製造所に飛びこむ。そこは賭場になっていて、町田が飛び込んできたことで騒然となる。騒ぎが落ちつくと、逃げ遅れて倒れこんでいる麻耶(三原葉子)という女がいた。

麻耶から海軍キャバレーのシンガポールという女給のことを聞き、キャバレーを訪ねるとそこには鳥井が来ていた。鳥井は町田が犯人であろうと推測している。

シンガポールからは何も聞き出せなかった町田は、死んだ女の踊っていた横浜のキャバレーへ向かうことにする。その途中、美沙子(三ツ矢歌子)という高校生を拾った。彼女は人形を運ぶアルバイトをしていた。その人形を届けた先の店の前で麻耶を見つける町田。この人形に麻薬が隠されていると悟り、麻耶に自白を迫るが―。

 

 

先日、Amazonプライムで新東宝作品がラインナップに加わっていることを教えていただき、「地帯シリーズ」も観られるように!で、未見だった「黒線地帯」をついに鑑賞できたのでうれしくて備忘録をカキカキ\(^o^)/(あとは「白線秘密地帯」観たら制覇!)

 

 

映画は新宿の街の中を逃げる女を追いかける視線から始まります。地下道から複雑に入り組んだ街中へ。その映像をタイトルバックに、逃げる道筋を追いかけるようにスタッフ、キャストのクレジットが流れ、渡辺宙明さんのドラムの印象的なアップテンポなタイトル曲が流れます。誰に追われ、なぜ追われているのか?女がビルへ逃げ込み、曲が終わるころその追いかけていた男ー町田の姿が現れ、美しい易者に声をかけられる。

これまでに観た石井監督の「地帯シリーズ」、「黄線地帯」も「セクシー地帯」もタイトルバックから凝ってて「これ絶対面白いでしょ!」って思わせるかっこよさなのですが、本作も負けず劣らず、この導入部分で一気にその世界に夢中になります。

 

連れ込み宿で酒を飲まされ、そして町田が目覚めた横には死んだ女。

 

これが開始5分くらい。「何々!?どうなるの!?」とさらに前のめりな感じにw

 

今作はトップ屋が事件に巻き込まれる、ということで、「黄線地帯」や「セクシー地帯」よりも、よりミステリーの謎解きの雰囲気が強い作品。ただ、何か複雑に絡み合った糸を解くような話ではなくて、町田は身の潔白を証明するためにサブと易者を探して動き回ります。手掛かりとなる人物に行き当たったと思ったら、その糸が突然ぶちっと切れて、またほかの糸に手を付けて、といった展開。伏線いっぱいのミステリーみたいな”よくできた話”とは違うのですが、最初に一気に引き込まれた作品の出だし、テンポよく対象を変えていく”手がかり”のおかげで、そんなことは全く気にならずw楽しむことができます。

 

 

そして、町田がサブを探し出し黒線地帯の実情を突き止めようとする、男性中心で展開されていく物語は、三原葉子さんの麻耶の登場で空気が変化して、ストーリーに広がりが出てきます。摩耶がとっても魅力的で、天然っぽいキュートな笑顔を見せたかと思うと、自分から服を脱いで町田を誘ってみたり(葉子姐さん大サービス♪)。横浜で再会したときには豪華なファーのマフラーを身にまとった淑女のような雰囲気を醸しだし、それでいて笑顔はそのままでそのギャップがかわいらしい(・∀・)

f:id:kinakokan0620:20200812192449p:plain

 

麻耶は町田に協力して犯人捜しをすることに。しかし、黒線地帯の黒幕の罠で二人して警察に追われることになります。その途中で麻耶は怪我をしますが、大丈夫だと言ったそぶりをして町田をかばいます。そして、町田は逮捕までのタイムリミット(町田が犯人とふんだ鳥井が警察に通報するまでの猶予を町田に与えていました)もわかったり上で犯人捜しをおいて、彼女を看病します。そして、町田は麻耶の大胆な性格と明るい笑顔に隠された苦労を知り、二人は互いにひかれていきます(石井作品で観ている三原さんの役の中ではこの役が一番はまり役かも!苦労や辛さを感じさせず振る舞う麻耶がよく似合っていて、三ツ矢歌子さんもとってもかわいかったけど、存在感で圧倒してました)。

 

この二人の関係は、石井監督らしくさらりとしていて、それでいてその奥にある思いを想像させる描き方。この映画は秘密売春組織の裏を追うストーリーでセクシーなシーンもあってwと男性に向けた作品だと思うけど、叙情的な面があって無骨なクライムアクションにはなっていなくて。そういうところがなんというか、良いっ!んですよね。

 

 

で、この作品の魅力として外せないところは、やはり天知さんの存在感。

見出しに書いたことはつまり、この映画の全体の印象としてはは石井輝男×天知茂の組み合わせだからこそ可能だった「地帯シリーズ」の一作だったんだな、という事。圧倒的吉田輝雄推しの私ですがw同じ「地帯シリーズ」でも、この作品には石井輝男×吉田輝雄の組み合わせでは出来上がらないムードを感じました。天知さん演じる町田は黒線地帯を記事にしようと追いかけるわけですが、その動機には正義感といったものを感じません。功名心でもなく、正義感でもなく、単純に興味があって追いかけているように見える。結果的に巻き込まれて、身の潔白を証明しようとするけれど、どこか斜に構えてはにかんでいるような雰囲気。それは同じ記者という役柄でも「黄線地帯」で輝雄さんが演じた真山がとてもまっすぐで硬派だったのとは違っていて、天知さんの魅力をいかした天知さんのために書いた役、そんな感じがしました。

 

「黒線地帯」⇒「黄線地帯」⇒「セクシー地帯」と主演俳優の魅力により、作品の魅力も変わってるなぁ、なんて思いいたる鑑賞後でした。