T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「ギャング対ギャング」

裏切りと希望のない世界ですすむ暗い物語

ギャング対ギャング

ギャング対ギャング

  • 発売日: 2016/04/30
  • メディア: Prime Video
 

 

 

【映画についての備忘録その83】

石井輝男監督×鶴田浩二主演「ギャング対ギャング」(1962年)

 

5年前、小森興業のボス・小森(沢彰謙)の身代わりとして出頭した水原(鶴田浩二)。出所すればふさわしいポジションを用意されているはずだった。しかし。刑期を終えた水原は、出所した途端に走りすぎる車から銃弾を受け、腕にけがを負う。

ホテルを乗っ取り実業家然としてふるまっている小森にとってはヤクザの水原が疎ましく、水原を消すための小森の工作だった。そうと気づいた水原は小森のもとへ出向く。そこには波川(丹波哲郎)、塚原(高英男)、男谷(成瀬昌彦)といった、5年前のことを知っている者たちもいた。しかし、だれしもそのことについては口をつぐむ。怒った水原は自分と同じように小森の腕に一発を撃ち込み、その場から逃げ、ビルの外で若い男女に声をかけられ、誘われるがままに車に乗り、ある屋敷へかくまわれることに。

翌朝ーその二人、百合(三田佳子)と金谷(梅宮辰夫)に案内されたリビングには柳沢(三井弘次)という老紳士がいた。柳沢に見せられた新聞には小森の死亡記事が。部下の波川が、水原を追わず小森にトドメを刺したのである。

柳沢は、小森興業が東京へ麻薬を流していることに目をつけ、その販売ルートを停止し組織を壊し麻薬を奪う計画をたてていた。百合と金谷に加え、小森興業への復讐のため、水原もその計画に協力することにする。麻薬の密売ルートをつぶし、工場を探しあて、男谷も味方に引き入れて、伊豆の別荘でガスボンベにカモフラージュされているという麻薬を奪う計画を実行にうつすが… 

 

 

 

はい、続いての石井輝男監督のギャング映画はこちら!「太平洋のGメン」が1962年4月の公開、「ギャング対ギャング」が1962年7月の公開だそう(前者がカラーで後者がモノクロとか、大御所のパワーを感じる(笑))。

 

さて、後に作られたほうの「ギャング対ギャング」。「太平洋のGメン」を作った反動かな!?と言いたくなるようなムードの作品。絶対ケガもしなさそうなカラッとした片岡千恵蔵Gメンに対し、こちらの鶴田浩二ギャングは出所そうそう銃弾を撃ち込まれ、ボスと仲間に裏切られ、最初からどん底に突き落とされ、物語がはじまります。

 

いきなり主人公が絶望の中におかれる、というのは「黄線地帯」の天知さんや、「続・決着」の輝雄さん(いや、主役は梅宮さんのはずなんだけどw)とか、石井監督脚本の作品には他にも思いつくモノがありますが、前者では三原葉子さん演じるルミの天然な可愛らしさが、後者では由利徹さん演じるまるさんやアラカンさんのウラナリ先生の優しさと明るさが、主人公の心を救う存在であり、それがまた観ている側のつらさを和らげるものでしたが、本作にはそれすらありません。百合との間に少しの恋が描かれますが、三田佳子さんはかわいいけれど、主人公を救うほどの圧倒的な明るさや優しさを感じとることはできません。

 

そんなわけで、終始暗いムードで展開して、救われる感のない物語。密売ルートもガン・コーナーだったり、キャバレーの楽屋だったり。麻薬工場が爆発する終盤にさしかかるまで、あまり起伏もなく、暗くて、地味な物語です。

 

ただ、それを面白く見せてくれるのが、丹波さんたち敵役のギャングの面々。出所した水原が最初に小森興業にあらわれたときに主要なメンバーは勢ぞろいしていて、水原とのやりとりの中で個々の個性を感じとることができます。

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「太平洋のGメン」の時は最後は改心というか、ボスに敵対する立場になった丹波さんですが、波川は最初から最後まで、裏切りとその恐怖で仲間をそっと押さえつけているような怖さ。塚原の高英男さんはいつもの通りw何を考えているのか分からない不気味な雰囲気。成瀬昌彦さん(私的には「火線地帯」以来の邂逅w)の男谷はちょっとナルシスト(服の汚れや髪の乱れを気にするしぐさがw)で、何とも言えないヌメッとした雰囲気で、プライドは高いけど絶妙に組織のトップにはなれない感を出しつつ、それがまた人間くさくて、波川たちとは違って完全に水原を切り捨てるような冷たさがない。

この敵対するギャング達の個性の強さが、地味な展開の映画に色付けをしていて映画をひっぱっていってくれた感じ。

 

 

地味だ地味だとは言いながら、最後の見せ場のアクションシーンはさすがの石井監督!という盛り上がり。ガスボンベをつんだトラックの荷台の上の水原たちと追いかけてくる波川たちとの銃撃戦は、荒れた山道を荷台から振り落とされてしまいそうなになりながら応戦する水原や男谷、柳沢と、爆発しそうなガスボンベがかわるがわるとらえれていて、終始ハラハラさせられる展開。ここはほんと面白かったです。

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最後、水原は救われることなく、絶望の淵へ突き落され、百合と二人、思いを通わせながらも悲しい結末を迎えます。それは美しくて悲しい最後。終始重たく悲しいまま。

 

これを含めてここまで全部で6作観た石井輝男監督のギャング映画。単純に自分の好みで言えば、「恋と太陽とギャング」とか「花と嵐とギャング」とか、そっちのほうが好きですが、”ギャング映画”のくくりのなかでこれだけバリエーションのある作品をつくってしまう石井監督のすごさを感じた作品でありました。