T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

中村登監督「古都」

 本心はどこにあるのか。冷たい空気はどこから来るのか。 

<あの頃映画> 古都 [DVD]

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【映画についての備忘録その43】

中村登監督×岩下志麻主演「古都」(1963年)

 

 

京都にある老舗の呉服問屋の一人娘・千重子(岩下志麻)。幼馴染みの真一(早川保)と花見に出かけたその日、「私は捨て子どしたんえ」と打ち明ける。呉服問屋の一人娘として何不自由なく育ったが、自分は店の前のべんがら格子の下に捨てられていたのだと。しかし、父も母も千重子を慈しみ、また千重子も愛情を十分に感じて育った。

父・太吉郎は商売よりも帯の下絵を描くことに熱心で、千重子のために描いた下絵を西陣織の職人・宗助の元へ持ち込む。その下絵をみた宗助は息子の秀男(長門裕之)に織らせたいと言う。下絵を酷評して一度は織ることを拒否した秀男だったが、後日、その帯を織り上げて太吉郎の元へ行き、太吉郎を驚かした。

ある日千重子は、清滝川に沿って奥へ入った北山杉のある村を訪ね、杉の丸太を磨いている女達の中に自分そっくりな女・苗子(岩下志麻)を見つける。

そして夏。祇園祭の夜、千重子は苗子に出会う。苗子は千重子をみて、「あんた姉さんや」と声をふるわせた。千重子と苗子は双子の姉妹だった。しかし父も母もすでにこの世にはいない、と告げると苗子は身分の違いを思い雑踏に姿を消す。その苗子を見た秀男は千重子と間違えて、帯を織らせてくれと頼むのだった。一方、自分の運命を思い憂いを顔に浮かべて歩く千重子は、真一に声をかけられ兄の竜助(吉田輝雄)を紹介される―。

 

 

また、備忘録の作品の並びが極端から極端に振れてしまいました(笑)

今年の1月に観てから、先日ついにDVDを購入し、約1年ぶりの鑑賞です。異常性愛路線でなかなかに荒んでしまった心を洗う作品を、ということで。で、洗われた感はあるのですが、心温まるとかいう映画でもなかったため( あ、早川保さんのほんわかした感じには癒やされました。早川さんが輝雄さんと同い年―1936年の3月生まれと4月生まれで1ヶ月も違わない―というのにかなり驚く)、志麻さんのかわいさと、輝雄さんのかっこよさにうっとりしたものの、あの世界から十分に引き離してもらえず、なんかまだ尾を引いてるんですけど(^-^;)

 

私、原作は読んだことなくて、それどころか川端康成の小説自体一冊も読んだことのないヤツなので(お恥ずかしいことですが(^-^;))、映画を補完する知識はゼロの状態。小説のもつ機微を丁寧に映像化したらこうなのかな?とは想像しつつも、全編を通してどこか冷たい空気を感じていました。

 

それが何なのかを観た後に考えてみて、京都弁のしなやかさ、美しい映像、そこに京都人気質としてイメージするもの、これらが重なった故かな、という結論。

 

千重子と両親、苗子、秀男と宗助の親子、殆どの登場人物が、相手を傷付けたり困らせたりしないように、本当のことは言わない、と言うような人達です(秀男も下絵を酷評しておいて(^_^;本心じゃないこと言ってしまったんだ、みたいなフォローが入ります)。

 

志麻さんの二役、千重子と苗子の双子の姉妹はどちらもよく似て細やかな気遣いをする繊細な女性ですが、苗子のほうはどうしても伝えたい大事な気持ちだけは素直に言葉に出てしまうのですが、千重子は本当の気持ちがどこにあるのか、誰かを傷つけたりしないように、本心を覆いかくして生きているように見えます。

 

苗子は千重子のことを、育ちが違うということ、そして捨てられてしまった姉ということでとても気遣いますが、「あんた、姉さんや!」と言った祇園祭の夜も、秀男に結婚を申し込まれたことを千重子に話したときも、感極まって素直に気持ちを言葉にすることがあります。

「秀男さんはお嬢さんの幻として苗子と結婚したい思いやしたんどす」

「幻には嫌になることがおへんやろ。」

「秀男さんの胸の底の底には千重子さんが深う入っておりやすのやろ」

 秀男を好きなのだけれど、千重子の身代わりとして愛されるのは嫌だ、という正直な気持ちを千重子にぶつけてきます。一方の千重子は、太吉郎の下絵を織り上げて持ってきた秀男に「帯を織らせてほしい」と申し出を受けているので秀男の気持ちに気づいているはずですが、

「そんなことあらしまへん」

と頑なに否定します。

また、秀男の申し出をきっぱりと断るのではなく「苗子のために織ってほしい」と返すのは、何とも思っていないからなのか、職工と問屋の娘という立場の違いであり得ないことだと思っているのか。秀男に対してもやはり相手を傷付けないように、という優しさを感じます。この優しさがかえって秀男と苗子に複雑な感情を引き起こし、心の中に蓋をしてしまっておいたような何かを、手に取るような状況に追い込んでしまっているよう。

京都弁の柔らかい響き、本音と建前を使い分けると言われる京都人の気質、千重子の優しさ。これらが千重子の本心を覆いかくしていて、そしてその優しさが、私にはかえって、別の角度から見ると残酷に見えてそれ故にどこか冷たい空気が漂っているように思えたのかなぁ、と。

 

そして、絵葉書のごとく美しく映し出される京都の風景。祇園祭時代祭の華やかさも、北山杉が毅然として聳え立っている京都の山々も、その美しさ故にかえってそこに個人の物語が入ってくる余地がなさそうに見えて、これもまた拍車をかけて、何か温かさというところか距離を置いているように見えてしまいました。

 

そんななか、武骨なほどに自分の気持ちに正直に行動しているのが輝雄さん演じる竜助。“猪武者の竜助”と家族に呼ばれていて、まさにその名の通り、真っ直ぐに前に進んでいきます。初めて会った祇園祭の夜も、一目見て千重子に好意を抱き、真一に家まで送ろうと言われて「すぐ近くやから送ってもらわんかて」と断る千重子を「お近くやからよけい送ります」と家まで送ります。太吉郎が問屋の商売を専務に任せっきりにしていることを心配して千重子に専務にキツく当たってみるようにアドバイスをしたり、千重子から捨て子だと聞かされて

「うちの店の前に捨ててくれはったら良かったのに」

「赤ん坊の千重子さんを育てたかった」

と言い切ったり。

そして、千重子の傍にいたいという思いから、太吉郎の商売の手伝いをかってでます。自分はもっと大きな呉服問屋の長男だというのに、その気持ちは父親に廃嫡してもいいと言わせるほどにまっすぐ。この映画の登場人物のなかでは異色の人間。千重子も竜助の正直さ(と、真一の幼なじみとしての優しさも)と対峙しているときは自分の気持ちや意志といったものに正直に行動しているように見えます。

父の下絵の帯ばかりをつけ(千重子だけがつけてくれる、という父の台詞にその帯が評価の高いものではない、ということが分かります)、案に煮詰まる父に寺の離れを借りて描いてみたら?といったり、商売人としては失格である父の、それでもその父の思いをくんで行動していた千重子。それまで商売に口出しなどしたことのなかった彼女が、専務に意見を言い、そして、店のためか自分自身のためか、自分の父親を助けて働く竜助を見て竜助との結婚を決意します。ここには自分の意志が存在しているのが分かり、終始どこか冷たい空気が流れるこの映画のなかで、千重子と竜助(そして真一も)の場面にはいくらかの熱を感じられるのでした。

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さてさて、輝雄さん出演作品なのでやはり触れずにはおれないよね(//∇//)ということでw本作の輝雄さんは竜助の人物像とこの映画の空気にピタリとはまる存在感です。「お近くやからよけい送ります」とか有無を言わせぬような感じに演じていて、これが良いとこの坊ちゃんで頭もキレる、何かする前から上手くいくだろう、みたいな自信をもってそうな(「兄さんのいつものきつい自信や」と真一に言われるくらいの)竜助の“猪武者”ぶりを上手く感じさせてくれます。表情も、少し前までw三原葉子さんに振り回される男の子って感じがピッタリだったのに、もう、自信たっぷりなハンサムさんの顔です(๑'ᴗ'๑)

というわけで、竜助の出番は決して多いわけではないのですが、長門裕之さんの秀男に負けず劣らずで、千重子に変化をもたらすには十分な魅力があり、岩下志麻さんの二役に注目が集まるであろう「古都」ではありますが、それを引き立てる輝雄さんの竜助もとてもステキなのでありました(๑'ᴗ'๑)

 

 

中村登監督、輝雄さんとの組み合わせは他に「愛染かつら」の二作と「求人旅行」があって、どちらも未見なのですが(求人旅行だけネットで少し見ましたが)、「古都」では魅力をしっかり引き出されているように感じ、残りの三作品もいつか観られたら良いなぁ、と思う次第。「愛染かつら」なんて、なんでDVDにしないんですかー!>松竹さん!

この演劇っぽい決めショットも、輝雄さんだと違和感なし。

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そして、志麻さんとの共演作はこれと「秋刀魚の味」そして未見の「100万人の娘たち」の三作品。個人的には小津安二郎監督が「大根と人参」で2人が結ばれるストーリーとしたのも納得できる相性の良さを感じ、たった三作品しかないのがかなり残念に思うのでありました(この時期は岡田茉莉子さんとの共演も続いていますが、茉莉子さんよりも志麻さんの組み合わせのほうが似合ってる気がします)。

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そして、この映画、触れておかねばならない気がする音楽。武満徹さんが担当されています!!(でも、なんか「ウルトラQ ザ・ムービー 星の伝説」の映画音楽ってこんな感じやったなぁ、と思ってしまいました。これで良かったんか?監督は?)

 

 

あー、つか、どうして中村登監督の作品はこんなに感想がとっちらかってしまうんだ!「夜の片鱗」も全然まとまらなかったし。+゚(*ノ∀`)それだけ、“何か”を残す監督さんなのよね、という、文才のなさに目を瞑った言い訳で終わり。

 

【2019/1/29追記】

川端康成の原作「古都」を読了。映画よりも自然や四季を通じて心情を描く、という感じが見てとれ、映画よりもあたたかさもあり。心情の変化を緩やかにおいかけることができました。そして、竜助は原作の中でもやはり描かれ方は他の登場人物と違っていて、輝雄さんの竜助がまさしく原作の雰囲気にぴったりであったなぁ、と思うのでした(出番多くないけど、この役ほんと好き)。