T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

鈴木則文監督「任侠 魚河岸の石松」

抑えた声からにじむ感情。吉田輝雄任侠映画もっと観てみたかった。

 

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【映画についての備忘録その34】

鈴木則文監督× 北島三郎主演「任侠 魚河岸の石松」(1967年)

 

築地の魚河岸の仲卸業者・遠海漁業に勤める運搬人“魚河岸の石松”こと木村松吉(北島三郎)。暴れ者だが義理人情に厚く、大東水産で働くキノキン(山城新伍)ら同じ運搬人の仲間達にも慕われ、「いわしの会」という組合を作って勉強会をしたり慰安旅行に出かけたり。

石松ら運搬人達に混じって汗を流す遠海漁業社長国枝(内田朝雄)の娘・美智子(長内美那子)とは、今は服役中の植村直樹(吉田輝雄)と3人幼馴染みである。直樹は先の親分の代に、魚河岸を我が物にしようとした代行の貸元を切って服役中だ。その直樹が服役している間に代貸だった砂川は二代目におさまり、金竜会は金竜興行と名を変える。先代の家の半分をキャバレーにし、魚河岸に乗り出そうとする砂川は、独航船の漁撈長花輪(村田英雄)に、自分が作る新会社に漁獲を廻して手を組まないかと脅すが、国枝に恩義を感じる花輪はその話を突っぱねる。何としても魚河岸へ手を出そうとする砂川は弟・英人と美智子を結婚させて遠海漁業を乗っ取ろうと考え、遠海漁業が大東水産から借りた6000万の返済と引き替えに二人の結婚をすすめようとするのだった…。

 

 

輝雄さんにとってはある意味分岐点となってしまった作品、俊藤浩滋さんがプロデューサーを務めた「任侠 魚河岸の石松」。東映チャンネルの放送で観ました。

この作品で俊藤さんに評価された輝雄さんは、俊藤さん直々に「人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊」へ出演のオファーをされたそう。当時のご自宅へ俊藤さんご自身が何度も通われて出演を依頼されたそうですが、恩師である石井監督の作品へ出演されることを決めます。そのことで俊藤さんの不興を買ってしまい、また、石井監督が異常性愛路線の作品を撮っていくことになり、以降の出演作を観ると、東映のメインストリームから外れ(怒った俊藤さんは輝雄さんの代わりに文太さんの売出しに力を入れるようになったとか)、異常性愛路線後の「殺し屋人別帳」(1970年)での石井監督との決別(という言い方はあってないかもですが)もあり、1970年をもって、デビューから多くの映画で主演、助演をつとめてきた輝雄さんのフィルモグラフィから映画がパタッと途絶えてしまいます。・・・その結果、「ゴールドアイ」の吉岡さんに出会えたのかもしれませんが。

そんなわけで、もし、これをきっかけに俊藤さんのほうへついて行っていれば、その後もたくさんの映画で吉田輝雄を観られていたのではないかな?とどうしても考えてしまうのですが、そんなことを思いながら見始めた本作。輝雄さんが演じた直さんは、俊藤さんが惚れ込んでしまうのも納得の、静けさの中に強さと熱い心をにじませる硬派ないい男なのでした。

 

輝雄さんの登場は90分の映画の後半もいいところ(^_^;42分くらいに写真だけ登場し、50分過ぎてやっと姿を現します。めっちゃ待たされた!

 

輝雄さんが登場するまでの前半はまさに魚河岸のサブちゃんの映画(そりゃ、サブちゃん主演だしな)。仲間思いで運搬人達のリーダー。世話になっている社長や幼なじみの美智子、その妹の陽子など、皆から慕われています。血気盛んでそのせいで問題を起こしたりしますが、運搬人の仕事に誇りをもって懸命に生きる、気の良い兄ちゃん。江戸っ子らしい感じ。

映画の初っ端からハチャメチャでwキノキンには金竜興行の経営するキャバレーにお気に入りのホステス・由美(って、これが石井富子さんなのがまたおかしいw)がいて、キノキンのためにキャバレーの飲み代にマグロ🐟一本背負って電車で移動して飲みに行くとか、もう騒々しいw

 【見て、この誇らしげな表情w】

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慰安旅行の先で女剣劇に混じって森の石松をやろうとしてみたり、由美に惚れられて逃げ回ったり、「任侠魚河岸の石松」の任侠ってどのあたりなんだよwってな人情喜劇風な展開w

 

で、そんな「魚河岸の石松」に「任侠」を連れてくるのが輝雄さん。登場してからは映画をさらっていきます。先代は「魚河岸の守り神」と慕われた人物で、ヤクザが魚河岸に手出しをすることを許さなかった人。直樹はその先代の命を受けて、魚河岸を荒らそうとした代行の貸元のところへ1人乗り込んで斬り、服役します。そして出所してくると砂川が二代目となり、先代が守ってきた魚河岸に手を出そうとしています。

 

直樹は服役前、代行を斬りに行く前夜、自分の死を覚悟して美智子にもう会わないと告げていました。しかし、まだお互いに愛し合っていると感じた石松は、出所した直樹と美智子を再会させます。美智子への愛と先代への義心を心の内に抱えている直樹。

堅気になってほしいという美智子に「体に染みついたヤクザの垢はとれない」と答えます。前科者となってしまった自分と会社の跡取りである美智子。2人の立場はあまりにも違っている。美智子を愛していても、先代への義理とヤクザの世界でしか生きられない自分では彼女を幸せにしてやることができない。周囲も認めないだろう。その気持ちを察した美智子は、直樹と2人なら家を出てもいいのだと伝えるのですが…


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「できねぇ。俺には出来ねぇ」

「どうして…どうしてなの?」

「俺は先代親分の心を受け継いでいかにゃあならねぇんだ」

「あんた、どうしてもっと自分のことを考えないの?私達のことを考えてくれないの?今はそんな時代じゃないわ」

「世の中がどう変わろうと俺の命は先代にもらったもんなんだ。俺は終戦の頃、浮浪児で死にかけてるところを先代に助けられた。今のままでは金竜会は暴力団に成り下がっちまう。だから俺は金竜会から目を離せねぇんだ・・・みっちゃん、分かってくれ」

「直さん、一つだけ教えてもらいたいことがあるの・・・あんたの心の中、昔のままと信じていいのね?」

直樹は静かにうなずきます。

 

兼業主婦、ここで(「続・決着」に続き)、任侠映画を見ながら恋の話に涙。つか、輝雄さんの演技に泣かされました。

直樹が美智子に今も変わらぬ愛をストレートに伝えるのは、映画の中でこの頷くところだけです。ただ、再会した時に美智子に向けた表情や、「先代の心を受け継いでいかなければならい…」という言葉を感情を抑えながら、それでも僅かに震えてしまう声で話す姿に、美智子への愛がにじみ出ていて。美智子を前にして、先代へ忠義を尽くしてヤクザとして生きるしかないのだという決意が揺れ動いている。でも、その動揺を美智子に見せてはならない、見せてしまえば美智子は全てを捨ててでも自分と一緒になろうとするだろう。しかし、先代のために生きると決めた自分の生き方。その覚悟を自身に言い聞かせ、美智子には堅気になって一緒に生きるということなどは叶わぬ夢なのだと思ってもらわなければならない…。

輝雄さんの抑制された演技が、かえって直樹の揺れ動く心情を鮮明にし、直樹の気持ちが伝わってきて切なく…。50年前の任侠映画を観て恋の話に泣くとかいう状況にσ(^_^;ほんと、めっちゃ切ないの。

 

 

と、また鈴木監督も直樹と美智子のシーンは見せ方とか音楽があざとい(゜∀゜)最初に直樹が登場したシーンは、石松と美智子が喫茶店でお茶をしながら、三人で鎌倉に泳ぎに行ったときの写真の中に写る姿。その喫茶店はステンドグラスで飾られ、クラシックが流れるお店。鎌倉に行った次の日に直樹は1人で代行を斬りに行きます。美智子は前夜に直樹と会わない約束をしているので、もう直樹とは会えない、と写真から目を背けて石松に話します。で、この時に目を背けた先に写るのはステンドグラスの中のおとぎ話のような王子様とお姫様。音楽は「白鳥の湖」だし、なんというあざとい演出(白鳥の湖は2人がその後再会した時にも流れます)w でも、これにまんまとやられてσ(^_^;美智子の気持ちも伝わって切なさが増したり。

 

 

そして、直さんのいい男っぷりが最高潮に達する、映画のクライマックス。

砂川は遠海漁業を追い詰め、国枝社長を死に追いやります。怒った石松は金竜興行に乗り込み、その後を追って直樹も金竜興行へ。先代の意志をないがしろにした砂川への怒りでドスを抜きます。

直樹は何度も切りつけられ、銃弾を受けながら砂川を追い詰めます。すでに深傷をおっていましたが、石松が砂川を刺そうとするところを制するように自分が前へ出て砂川を仕留めます。そして砂川の日本刀でさらに深い傷を負います。立っていることもままならず、石松に支えられながら机にもたれかかる直樹。

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「兄貴!お前、俺にわざと殺しをさせなかったんだな」

「石、すまねぇが車を呼んでくれ、自首するんだ」

「そいつは行けねぇよ。お前にはみっちゃんって言う大切な人があるんじゃねぇか!俺にお前の身代わりをさせてくれ!」

「バカ野郎…俺を見損なうな」

直樹は石松に肩を支えられながら外へ出ようと歩きだします。そこへ駆けつける美智子。

「・・・直さん!」

「みっちゃん、俺は今日までお前を悲しませてばかりきたっけな。だが、それも終わりだ。何もかも忘れてくんな」

美智子のことを思って別れを告げる直樹。それでも石松を間に、また美智子の元へ戻ってくると約束をし、再び石松に肩をかりて歩き出します。しかし、足取りは遅く、すぐに膝から崩れ落ちてしまう。目の前も暗くなっていき、自分の死を感じながら、それでも歩くことをやめません。そして、駆け寄って肩をかそうとする美智子を、いらないことだ、と言うように制して歩みを進め… 

 先代への義心、石松との絆、愛する女性の前では強くありたいという意地。それら全てを自分の命をかけて守る。この時も輝雄さんの演技はやはり感情を露わにするようなものではなく、静かで、しかし、そこから直樹の熱い思いがにじみ出ます。侠気を感じさせ、それが真っ直ぐに観ている側に伝わってきます。ホント、直さんいい男。

 

今回、輝雄さんの任侠映画石井輝男監督以外の作品を観るのは初めてでした。(っても東映で石井作品以外の任侠映画ってこれだけですが(つд`))

で、最後の金竜興行への出入りのシーンが石井監督のそれとは全く違っていて、まだ観たことのなかった吉田輝雄を見ることができました。石井監督の任侠映画は、最後の立ち回りは長ドスを振り回し、派手に真っ正面から敵にぶつかって行きます(私のここまで見た作品のイメージなのでそうでないものもあるかもですが)。絵になる華やかさを求めているような感じ。一方、今作(というか鈴木監督の特徴なのかな?)では大勢のヤクザを相手にするのに短ドスを手にキャバレーの暗がりの中を這うように進み、静かにヤクザを刺していきます。砂川の弟・英人と対峙したときも、体ごとぶつかるようにして刺し、2人で倒れ込む。現実的で泥臭い立ち回り。石井作品のダンディズムを体現しているような輝雄さんをたくさん観て、それがぴたりとはまっているなぁと思っていた訳なのですが、その対極にあるような泥臭い直さんの立ち回りは、石井作品では観ることのできない種類のカッコよさで魅せてくれていました。

 

「決着(おとしまえ)」シリーズ2作と「任侠 魚河岸の石松」で見た任侠映画吉田輝雄は、静けさの中に熱い気持ちを抱え、義侠心あふれる、硬派な”男が惚れる男”(かく言う私は女ですがwでも俊藤さんの眼鏡にかなったのだから、間違いではないな)でした。もし、このままこの路線の作品を選んでいたとしたら、橘真一、とまではいかなかったかもしれませんが(私的には今作の直さんも、「決着」シリーズの鉄次や譲二もそれ以上ですが(//∇//))、印象深い侠気あふれるヤクザが1人スクリーンにいたのではないかなぁ、と考えたり。

 

え~っと、割いている量が全然違うけど、主役はサブちゃんですwサブちゃんも立ち回りとかイキイキしていて似合ってました!歌も聴けるし!!あと村田英雄さんの花長さんもカッコよかったなぁ!