T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「暗黒街の顔役 十一人のギャング」

 娯楽アクションかフィルム・ノワールか。  

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【映画についての備忘録その76】

石井輝男監督×鶴田浩二主演「暗黒街の顔役十一人のギャング」(1963年)

 

 

権藤(鶴田浩二)と別当杉浦直樹)は大鋼管メーカーの浜松工場の従業員給料5億円の強奪を企み、綿密な作戦計画を建てる。会計室から5億盗み出すその計画には、運び屋、計画を実行すための出資者、そして見張り役に3人、そしてその3人と権藤を逃がすための車運転手が必要だ。二人は浜松-東京の定期便運転手で前科もちの沢上(高倉健)、女実業家の美和と用心棒の芳賀(丹波哲郎)、銃の腕に覚えのある海老名(江原真二郎)、葉室(待田京介)、広岡(高英夫)を仲間に加えることにする。権藤は作戦に必要なワルサーを東京・立川で米兵の集うバーのマスター(アイ・ジョージ)から手に入れる。ところが、沢上の恋人のまゆみ(三原葉子)は浜松の裏の世界の実力者・黒部(安部徹)と通じていたことから、何か大きな計画が実行されようとしていることを黒部が知ることとなり・・・。

 

 

2019年の映画納めは石井輝男監督。前の日にスターウォーズ観に行ったんですけどね、石井輝男で終わることにしてw石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲/ラピュタ阿佐ケ谷へ再び。この前の「決着(おとしまえ)」とあわせて観てきました。

 

旧作邦画にはまったく疎かった私、東映ギャング映画、とかいうくくりがあるのも知らなかったわけで、このカテゴリーのものを観るのは今作が初めてとなりました。お正月のオールスター映画ということらしく、それに見合った豪華なキャスト、悪そうな(笑)男達がいっぱいのポスター。そしてこのタイトル。クライムア・クション映画って感じの、娯楽作品だろうと想像して見はじめました。最初はまさにその通りの展開でしたが、終わってみたらまったく違う印象に。

 

 

権藤と別当が手製の地図を広げて計画とその進捗を確認しあうところから映画はスタートします。仕立てのいいスーツを着て、ビジネスのように淡々と、それでいて緊迫感のある雰囲気を醸し出しています。二人がどんな人物でどういう繋がりか語られなくても、有能な二人が大きな仕事をやろうとしていること、そして互いに深く信頼しあっているということが分かります。

 

 

クールな二人組がどんな風に仕事を成功させるのか?という始まりに、健さん演じる沢上が加わるとちょっとコミカルな感じもでてきて、緩急の差(それは野球用語ではw)が出てきて、映画はどんどん面白くなります。沢上はキャバレーでホステスをしているまゆみに熱をあげているのですが、まゆみは気が多いのか家に帰ってこない事もしばしばで、どうやらまゆみに振り回されてる様子。健さんの演じる沢上のちょっとだらしない雰囲気や、前歯が1本銀歯になってるっていう、キャラクターの遊び心みたいなのもあってクスクス。でも、まゆみのことは本気で好きで、別当の持ちかけた危ない仕事にためらいながら、彼女を繋ぎ止めるための大金を手にするため、そして、恐らくはこのままトラック運転手として終わってしまうことへのためらいのようなもの―別当と話をしているのは船のドック?何か大きなプールのような場所。沢上が返事を躊躇っているところで、プールの底を掃除する男性がドックへ出てきます。男性と、彼が流した水と真っ黒な砂が混じり合う様を見ながら、沢上は仕事をうけることを決めます―から、仲間に加わることにします。

 

 

権藤は海老名に声をかけて仲間を集めさせ、銃を調達し、計画に必要な準備を進めていきます。あとは銀行からの不正融資の事実をネタに一度揺さぶりをかけた美和に計画のプレゼンをして計画の実行に必要な1200万の出資(海老名たち見張り役の三人に先渡しする報酬)を取り付けるだけ。

 

 

この計画を進めていく合間に、権藤と別当の個人のストーリーも描かれ、それが映画のラストを余韻の残るものにします。別当は黒部に情報を流すために後を追って浜松から東京まで来ていたまゆみと恋に落ち、本気で愛し合うように。権藤には貧しい暮らしをしている母と妹と、ナイトクラブでダンサーをしている恋人・ユキ(瞳麗子)がいます。母と妹のところへは時折顔を見せて、二人の暮らしぶりを心配しているよう。母から、妹は修学旅行のお金を作るためにオモチャ工場でバイトをしていると聞いて、修学旅行の費用にと、お金を渡します。妹は久しぶりに会った兄に、兄に渡すつもりで工場からもらっていた廃棄予定だったおもちゃ―外車のミニカー―をプレゼントします。そして、ユキとはこの仕事が終わって金を手に入れたら、まっとうな暮らしをしようと思い合っている。そして、彼女は権藤が危険な仕事をしようとしていることを察して、見張り役の海老名たちを逃がすための運転手の役割を買ってでます。

 

美和からの1200万もそろい、準備万端で迎えたはずの決行当日。沢上はまゆみが突然いなくなってしまったことに仕事を引き受ける気をなくし、別当に仕事をおりると連絡します。まゆみの働いていたキャバレーで酒をあおります。計画が頓挫しそうになり、別当が説得にあらわれ、そしてまゆみがあらわれたことで二人のことをさとり、やはり仕事をうけることにします。

 

この計画の実行犯となる人間たちは、計画をした権藤や別当、そして沢上やその周辺の女達にとっても、”真面目にやっていれば報われる”なんてものは持たざるものをおとなしく働かせるための欺瞞のように思っていて、この犯罪は社会の底辺から這い上がるためのもの。計画に障害がおきてもクリアして作戦を決行していく権藤と別当をみていて、途中からは、映画の結末はきっと、黒部達の横やりがあっても作戦を成功させ、二人がそういう世の中に復讐を果たし、カタルシスを誘うような展開になるのだろうというような予想をして観ていました。工場に侵入してから5億を奪って逃走を始めるまでテンポ良く展開し、まさに娯楽作品のクライム・アクション映画。

 

 

しかし。結末は実際に体を張った人間達ー横やりを入れてきた黒部達を含め―は誰一人として報われることのないエンディングを迎えます。そして、おそらく5億は出資しただけの美和の手に渡ることが想像される結末。権藤のスーツのポケットからは、妹からもらったミニカーが落ち、それは現場にかけつけた警察官たちに知らずのうちに踏みつけられていきます。もがいても結局、社会の底から這い上がることができなかった権藤や別当、沢上たちの姿をそこにかぶせているよう。その結末はアクション映画というくくりでは収まらない、絶望的な物語。

 

 

というわけで見出し。テンポの良いアクションムービーのように始終展開し、しかし、結末は予想外で強い衝撃と余韻を残して終わった本作。これは娯楽アクションムービーか、フィルム・ノワールなのか、そんなことを思った、鑑賞後でありました。