T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

番匠義彰監督「渦」

豪華な俳優陣と職人監督による手堅い一作。”渦”にまかせて生きていく。

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ポスターの写真がブレブレですみません(^_^;)

 

【映画についての備忘録その95】

番匠義彰監督×佐田啓二岡田茉莉子主演「渦」(1961年)

 

伊沙子(岡田茉莉子)は夫の帰宅が遅いある夜、警察からの電話で、山西光一(石川竜二)を署まで引取りにでかけた。光一は戦災孤児で、以前知人に頼まれて就職の世話をしたことのある少年だ。その光一が、少年仲間の恐喝に加わって補導されたのだ。光一を迎えに行った晩、伊沙子は彼の服がぼろぼろなのをみて、白いセーターを買ってやり、喧嘩などしないようにと言い聞かせて別れた。

夫の洪介(佐田啓二)は洋画輸入会社の社長で、仕事熱心だが、冷淡なところがあり、伊沙子が善意で光一の世話をしてやるのを不快に思っていた。洪介の会社で、翻訳の仕事などを手伝っているりつ子(岩下志麻)は、洪介を愛していた。妻のある洪介に好きだと言うことはしないでいたが、誕生日になるとプレゼントを渡し、また、洪介も友人がヨーロッパへ出張するときに、彼女に頼まれた本を探してくるように言付けたりと、親切にしている。

光一は国際航業の給仕として働くようになった。ある時、エレベーターボーイの九平に、伊沙子に買って貰ったセーターを汚されたのがきっかけで、喧嘩となる。九平を殴って死なせたと思った光一は、伊沙子の家に現われた。光一の世話を焼くことに不満の洪介の手前、自分の家に泊めてやることもできなかったので、彼女は光一を旧知のピアノ教師・鳥巣(仲谷昇)の所へ連れていく。伊沙子に下心のある鳥巣は光一を自宅に泊めることを嫌な顔もせず引き受ける。

伊沙子は翌日、国際航業へ行き、副社長の吉松(佐分利信)に面会する。光一は会社を首になったと思っていて、伊沙子はあらためて吉松に光一のことを頼むつもりでいた。その帰り、伊沙子ははりつ子に出会う。りつ子は吉松の姪で、吉松は彼女に見合いをすすめていたのだが、洪介のことを思うりつ子は見合い話を承諾しかねていた・・・。

 

 

シネマヴェーラ渋谷の「名脇役列伝V 岡田英次&芥川比呂志生誕百年記念 インテレクチュアルズ」 で鑑賞してきました。インテレクチュアル=知的なさま。知性を必要とするさま だそう。特集名に岡田英次さんと芥川比呂氏さんの名前がついていますが、この特集自体はほかのインテレクチュアル名脇役な方(+仲谷昇さん、平田昭彦さん、渡辺文雄さん)の作品もとりあげられていて、こちらは、仲谷さんご出演作ということで上映されたもの。ほんとは芥川さんの出演作品(「ゴールドアイ」のボスだし!岡田英二さんは第1話のゲストで、私が旧作邦画を観るきっかけとなった作品に出ておられた二人ということで)を観たかったのですが、なんせテレワーク中…都合がつかない!ということで通院で新宿に行った日に上映されていたこちらを観てきました。

 

 …今回は鑑賞してから2週間もたってしまったので、かなり”印象”に軸足を置いた感想になっております。

 

お話は、伊沙子の親切心、洪介とりつ子のお互い言葉にしなかった好意、それらがそれぞれの出来事(光一の喧嘩、りつ子の見合い話)がきっかけで夫婦の間に波風が立ち、やがてそれが渦になり…、というストーリー。番匠監督の作品は『泣いて笑った花嫁』と『抱かれた花嫁』、そしてこの『渦』で三作目ですが、どれもはずれがなく、いろんな角度で楽しめる作品。そして変に芸術的な感じでもなくて、手堅く作品を撮られる職人監督という印象で、この作品も地味な映画だけど豪華な俳優陣の演技と堅実な監督の手腕で飽きずに見ることができる作品。

 

 

佐田さんはかっこいいし、茉莉子さんはきれいだし、志麻さんはかわいいし、主演の3人が豪華で楽しいのですが、それよりも佐分利信さんの吉松が何とも言えず素敵。お見合いなんて気がのらない、恋愛で好きな人と結ばれたい、といった風のりつ子に対して、そんなもんは風邪みたいなもんだ、とばっさり。言ってみれば古い考え方、の代表的な感じの立ち位置ですが、温かみがあって、押し付けがましくない。素直だけれど口下手で誤解されやすく、周りと揉め事を起こしてしょっちゅう警察に補導されてしまう光一の姿に、かつての自分を重ねて、あきらめずに支援してやろうとする。口うるさくて怖そうな雰囲気なのに温かくて、とても魅力的な人物でした。

(…そして、今の婚活だとかなんだとかって世の中を見ていると、結局は吉松の言うことが正しいよな、と思ったりしました。)

 

 

タイトルの「渦」ですが、映画の中でいろいろな出来事が起きて、登場人物の周囲に動きがおきる、これを”渦”と表現したのかな、と私は思いました。出来事自体は何か偶発的な感じで、その場その場で伊沙子も洪介もりつ子も、基本的に理性的な行動をとっていて、普通の人の、常識的な、行動。ずっと何か起きそうだけど平穏を保てていたものが、ちょっとしたほころびから渦が起きて、それが小さな意地の積み重ねー喧嘩して口をききたくない、みたいなーで、少しづつ大きくなります。

この作品が面白いのは、登場人物が、負の渦の中に飲み込まれそうになっていて、押しとどめようという心の動きはありつつも、それに積極的に抗うというよりもどちらかというと渦の流れに身を任せる、というところ。そして、全てが崩壊するように見えて落ち着くべきところに落ち着くという展開。だから、なんというか、、、劇的なんだけど、劇的じゃなく見える不思議。

 

 

さて、今回の特集上映の対象(⁉)でありました仲谷昇さんは、私、『カノッサの屈辱』のイメージが一番で、ドラマなどでも大体、あの教授のようなビジュアルの姿しか見たことがなかったのですが、まったく違う人物に見えてビックリw(前にも他の映画で1作、若いころのお姿を拝見したことがあり、やはり仲谷さんだと気づきませんでした)こんなスマートないけすかない感じのイケメン(が似合う)だったのか、とw

 

あと、光一役が『今年の恋』で茉莉子さんの弟役を演じていた石川竜二さんだったのも、なんかちょっとツボだったなぁ。

 

【本編と関係ないことをあれこれと】

この作品、1961年1月15日の公開。同じ年の1月9日が『セクシー地帯』の公開日。新東宝の主演俳優が、この1年半ほどあとにこの映画に出ていた3人と、小津安二郎の映画で共演することになるなんて、考えてみるとすごい不思議な組み合わせだな、なんて思ったり。

そして、旧作邦画をあれこれ見るようになって、松竹三羽烏の中では佐分利信さんが好きだわ、と思った私、輝雄さんとの共演が観てみたかったけど、それが叶わなかったのがとても残念だなぁ、と思うのでありました(『大根と人参』が実現していたら、、、と思わずにはいられない!…私が気づいてないだけで共演作があったらすみません(^_^;))。