T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「白線秘密地帯」

第1作目は、地帯シリーズの異色作!? 

 

白線秘密地帯

白線秘密地帯

  • メディア: Prime Video
 

 

 

【映画についての備忘録その94】

石井輝男監督×宇津井健主演「白線秘密地帯」(1958年)

 

上野のとあるトルコ風呂。初めてそこを訪れるという中年の紳士風の男が、みどりというソープ嬢を指名した。間もなくして、男は慌ただしく出て行く。部屋には息絶えたみどりの姿とナンバーの押してある奇妙なチケットが残されていた。

それから間もなく、多摩川で中年の男の変死体が発見される。所持品の帽子から松崎という名前を見つける。その身許を洗うと、彼が秘密売春組織の会員でその会員券が現場のものと同型である事が判明する。

捜査にあたった田代刑事(宇津井健)は同じソープランドで働いていたトミ(三原葉子)から、みどりがかつて洲崎の「赤玉」という店にいたということを聞き出す。店を訪れて話を聞くと、みどりは結婚するために「赤玉」を辞めたという。しかし、その後、みどりは福祉事務所を訪れ、旅館の女中の仕事を斡旋されていた。旅館で働き出したみどりだったが、そこへ32,3歳のマダム風の女が訪れ、みどりを連れだし、そのまま姿を消してしまったというのだ―。

 

 

これにて「地帯シリーズ」、ついに全作制覇\(^O^)/Amazon Prime Videoで鑑賞。Amzonさん、ありがとう!本作は公開時71分の作品のようなのですが、どうやらそのすべては残っていないそうで、現在観られるのは短縮版の作品のみのよう。そして、今回鑑賞したものも、57分の短縮されたもの。短縮されているせいで、トミに目星をつけて捜査を始めることになった理由とか全然分からないのですがwそれでもちゃんと面白かったです!(でもやっぱ全部観たい!!)

 

 

さて、私の中では「地帯シリーズ」は、裏道を歩く人達の視点にスポットを当てた作品、というイメージです。「黄線地帯」の殺し屋・衆木はもちろんのこと、「セクシー地帯」のサラリーマン・吉岡くんも、そちら側の世界へ否応なくつれて行かれる、そんなイメージなのですが、本作の主演は宇津井健さんで…。

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これは天知茂にも吉田輝雄にも出せない空気感。

 

見出しのように書いたのは、刑事が主役だから、ということもあるのですが、要するに、宇津井健さんが映画にもたらす雰囲気が圧倒的で”表”の視点で描かれている、と感じたから。田代刑事はトミがセクシーにキュートに迫ってきても、微塵もなびきそうな気配がありません(^_^;)とっても折り目正しい正義感。そんな訳で、視点はずっと刑事側にあって、主人公は売春組織と平行な別世界の住人で、これはもう、売春組織がテーマ、っていうだけで、「地帯シリーズ」ではなくて、何か別の刑事モノの映画を観ているよう。

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現場の遺留品からあちこち捜査にかけずりまわり、張り込みや尾行、内通者を見つけ出して改心をせまったり、、、刑事側の物語の基本を押さえた刑事ドラマが展開されます。短縮版だから、って部分もあるかもしれませんが、まどろっこしい感じもない。

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奇妙なチケットがどういう役割を担っていて、どんな仕組みになっているのかとか、テンポよく売春組織の実態を暴いていく展開と、そして刑事たちが駆けずり回る当時の東京の、しかも華やかでない部分の様子もあって、刑事物のサスペンス映画の良作という感じ。

 

 

ただ、そんな表の視点が中心な作品に、まったく違う空気を吹き込んでくる人物が一人。はい、そうです。売春組織を構成しているドライブクラブのオーナー・久保木=天知茂

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「黒線地帯」で主役が交代するのも納得の石井輝男的世界。自己中心的だけど、何か影を感じさせる雰囲気。宇津井さんがめちゃめちゃ”陽”なので、天地さんの”陰”の部分がまた際立つという。

で、「セクシー地帯」からさかのぼってここまでたどりついたので、天知さん以外にも・・・

大友純さんとか

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中国人/朝鮮人役じゃなかったw右は文太さん。

近衛敏明さんとか

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こちらもおなじみ。

 

東宝の石井作品でおなじみな怪しげな人物が盛りだくさんで(二時間サスペンスでこの俳優さん出てきたらこの人が犯人でしょ!みたいな感じですねw)、それらがつながっていく結末も、「おお!」って感じ。

最後は、港に積まれた石炭の山の上での田代刑事VSラスボスの大格闘で、ここはもう、さすがの石井監督、と言いたくなる切れ味で見ごたえあり。・・・このアクションシーンも結構はしょられてる気がする(T_T)

 

というわけで、順番をさかのぼってみることになった、地帯シリーズ第1作、「白線秘密地帯」。主役と主人公でもってほかの作品と違って表の視点を感じる作品でしたが、天知さんの存在もあって、のちの作品の方向へ舵をきっていくきっかけのようなものも見え、短縮版でも十分楽しむことができました。・・・でもやっぱり、全編みたい!どっかからフィルム見つかってくれないかなw

 

 

と、その他思ったことを付け足し。

三原葉子さんのトミがとっても魅力的!こういう役が似合うのだなぁ、とあらためて。

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そして、菅原文太さんは「黄線地帯」とかの鳴門洋二さん的ポジションの役。新東宝時代の石井監督の作品にはほかにもいくつか出ておられるようですが、役的にはこれは鳴門さんのほうが似合うなぁ、という感じで、石井監督の世界観にあまりはまっていないように見えました。ハンサムタワーズのデビューで石井監督が過去に組んだことのある文太さんではなくて、輝雄さんを指名したのも、なんだか納得、なのでした。