T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

本多猪四郎監督「ガス人間第1号」

異形の者への畏怖か愛か。恋愛映画の良作を観る。

ガス人間第1号

ガス人間第1号

  • 発売日: 2014/07/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 【映画についての備忘録その96

本多猪四郎監督×八千草薫・土屋嘉男主演「ガス人間第1号」(1960年)

 

 

吉祥寺の銀行で強盗殺人事件が発生した。五日市街道を逃走する犯人の車は、それを追跡していた警視庁の岡本警部補(三橋達也)の目の前で崖から転落する。しかし、放置された車の中に犯人の姿はなかった。付近を捜索した岡本たちは、日本舞踊の名門だが今は没落して弟子たちもいなくなり寂れてしまった春日家の屋敷にたどり着く。付近に民家のない場所で、岡本たちはここに犯人が逃げ込んだのではないかと目星をつけて中に踏みいるが、そこで春日流家元・春日藤千代(八千草薫)の美しい姿を目撃する。

その数日後、再び五日市街道付近で強盗殺人事件が発生したが、今回は密室状態の金庫室から金が持ち出され、金庫内にいた銀行員が気管に謎のガスを詰められて殺害されるという、不可解な犯行。続いて、三度目の強盗事件が発生して犯人は現行犯逮捕されたが、一度目と二度目の事件で奪われた現金の隠し場所を吐こうとはしなかった。

一方、貧窮していたはずの春日流は絶縁状態だった弟子たちに大金を配って呼び戻し、実行できずにいた発表会の準備を始めるなど、突然羽振りが良くなる。岡本は彼女が事件に関与していると推理し、恋人の新聞記者・甲野と共に藤千代の身辺を捜査する。岡本の読み通り、藤千代の持っていた紙幣と事件で盗まれた紙幣のナンバーが一致していることが発覚、藤千代は逮捕される。
そんな時、警視庁に水野(土屋嘉男)と名乗る男が自首してきた。彼は自分が一度目と二度目の事件の真犯人であり、三度目の事件は模倣犯だと断言する。騒然となる刑事や新聞記者達の前で、証拠に二度目の事件の手口を再現しようという。彼らの眼前で自身の体をガス化してみせ、鉄格子をすり抜けて銀行員を殺害し、密室状態の金庫室から脱出してみせる。水野はかつて生物学の権威・佐野博士による人体実験を受けた結果、自らの肉体をガス化させる能力を得てしまったガス人間だったのである。彼は、世間に藤千代を再評価させるために発表会を実現させようと、そのための資金を手にいれるための犯行を重ねていたのだった・・・。

 

 

今年最後の映画鑑賞は『鬼滅の刃 無限列車編』で、おおいに楽しんできたのですが、そこの感想はこのブログではスルーして(笑)色々あって現実かSFか分からないな、と言いたくなるような2020年最後の感想は、SF映画。というか、日本が誇る円谷英二が特撮監督をつとめる特撮映画。…なのですが、見終わったあとに残る余韻は、恋愛映画のそれ。「電送人間」の感想を書いた際に、RedPine様からもオススメいただいていた本作ですが、たしかに、良作で、特撮技術を楽しむというような枠組みを超えた作品で映画として十分に楽しむことができました。

 

本多監督と言えばゴジラ、という程度の知識ですが(それしか観たことなかったですし(^-^;))、「ゴジラ」が怪獣映画というよりも戦争映画として人間を描いてる物語に感じたのと同様、こちらも特撮の面白さでエンタメ性をもたせながら、本題は人間を描いてる、と感じる作品(特撮や怪獣映画をどこか子供向けのものと思ってしまうの、良くないな、とは思いつつ(^_^;))。

その物語がうまく行っているのは、八千草薫さんと土屋喜男さんのお二人のキャスティングのはまり具合によるところが大きかったかな、と。

 

 

日本舞踊の家元の藤千代・八千草さん、最初は般若のお面をつけて舞っていて、そこへ岡本警部補たちがやってきます。恐ろしい般若の面をとると、藤千代の美しい姿。岡本が見とれてしまうのも納得で、ガス人間に対し、彼女もまた夢か幻かといった、人ではないのではと思ってしまうような美しさ。なおかつ、どこか憂いを帯びていて、物語の悲しい結末を予感させ、また、物語の深さを感じさせるようでもあるのです。

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そして、ガス人間である・水野。彼が最初に登場したのは藤千代が通う図書館で司書をしているので、捜査をしている岡本から、藤千代が何を借りていったのかを聞かれるだけ。まずこの、何と言うこともない役に土屋喜男さんががっつりハマっています。THE 普通。土屋喜男さんを今作で初めて認識した(「電送人間」にも出ておられたようでしたが、全然思い出せず、でしたw)知識の乏しい私は“怪しい”とも思わず、真面目な男性、という印象のみ。

航空自衛隊に入りたかったが体格ではねられてしまい、図書館の職員となった水野。図書館の職員であれば仕事をしながら勉強ができるかもしれない、という志をもっていましたが、そう思うようには行かず。無為に時が過ぎていくなか、佐野博士が現れます。

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このくだり、若い水野の、何も成し遂げられないまま歳を重ねてしまうのかという焦燥感とか、苛立ちが伝わります(土屋喜男さん、こういう役が得意な方だったのかな。旧作邦画、鋭意お勉強中のため知識不足なところはご了承ください(^_^;))。水野の生真面目さ、繊細さ、脆さ、を感じられ、それが、藤千代を世間に評価させるために犯罪を犯していくことも厭わない一途さや情熱と地続きなのだ、と理解できるのです。

 

で、この二人に目をつけて追いかける三橋達也さん演じる岡本警部補が、体育会系な感じの”陽”な人間だったりするので、その反対側にいるような藤千代と水野のもつ、人ではない何かを抱えた人間の悲しさが際だって見えてきて。

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これは十津川警部

 

だから、最初は金や、ガス人間への恐怖で、彼に繋がれているのかと思われた藤千代が、やがてそれぞれのもつ悲しさみたいなものが共鳴して、それだけではない彼女の意志がそこにあって、彼を受け入れているのだ、と感じられるようになります。

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そうしてついに発表会を開くことができた藤千代。しかし、その当日、二人は悲しい結末を迎えます。

 

この結末へと向かうシークエンスは”ガス人間”をテーマにするにふさわしい、特撮作品らしい展開で、その面白さや映像技術に対する驚きもたっぷり。でも、私にはそれよりも、水野の藤千代への一途な愛とそれを受け入れた藤千代の二人の思いの終わり方、その切なさが印象深くて余韻が残り、見出しの通り、良作の恋愛映画を観たようなそんな鑑賞後でありました。 

 

 

 

【おまけ】

ちなみに、佐野博士の研究室はこれ。これぞ特撮作品。

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