T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

木下恵介監督「風前の灯」

スラップスティック、じゃなくてブラック。

 


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【映画についての備忘録その41】

木下恵介監督×高峰秀子主演「風前の灯」(1957年)

 

都内の駅前。上京してきたばかりで行くあてのなさそうな青年に声をかけ、無理やり仲間に引き込む不良二人組み。かねてからある一軒家に狙いを定めていて、強盗に入るつもりでいるのだ。

その家には強欲な老婆・てつ(田村秋子)と息子の金重(佐田啓二)・百合子(高峰秀子)の夫婦とその子供、そして下宿人の女性が一人住んでいる。金重も百合子もてつにしょっちゅういびられてイライラ。そのうち、溜め込んでいるはずの財産もこの家も自分たちのものになるのだからとひたすら我慢の日々である。

不良たちは家の住人が女一人だけになったところを見計らって強盗に入るつもりで見張っている。しかし、金重が新聞懸賞で“売れば5万円にはなりそう”なカメラを当てたものだから、それを目当てに人が出たり入ったり。なかなか女だけにはならない。さらには柔道も剣道も有段者だという甥の赤間(南原伸二)まで現れて…。

 

 

U-NEXTの配信で観ました。U-NEXTのこの映画の紹介が「スラップスティックコメディ」となっていて、「喜びも悲しみも幾年月」コンビでスラップスティックコメディ!?と興味津々。木下作品のコメディは「今年の恋」を鑑賞済み。「今年の恋」は輝雄さんと茉莉子さんの美しさを楽しむのはもちろんのこと、助演陣も含めて軽快な台詞の掛け合いが楽しく笑いどころが多かったので、スラップスティックコメディっていうならかなり笑えるのではないかと、期待値あげて鑑賞開始。

 

が、これが良くなかった(^_^;前半は笑いポイントはいっぱい撒かれているものの、残念ながら今から観るとテンポも場面の展開もやや冗長に感じてしまい、期待値高かった反動か、監督の思惑通りにはいかず、こちらはいまいち乗り切れないまま映画がすすみます。

 

たくさん用意されていた笑いのポイントは大小様々で、例えば…

・てつが孫に蒲鉾を切り分けてやるのに、自分のは分厚く、孫には薄っぺらく切り分ける!

・いびりまくるてつと負けない百合子!

・不良たちが押し入ろうとするたびに誰かがやってきてなかなか押入れない!

・映画が好きなてつ(部屋の中に誰か俳優さんの写真がめっちゃはってあったw)がどの映画を観にいこうかと新聞の記事を眺めているなかに「楢山節考」が(この映画の翌年に実際に木下監督が作っているんですね)w

・カメラを売った後に手に入るであろう金を目当てに出入りする妹や金重の勤め先からの使い

・下宿している女性が出て行ったその日に次の下宿人になる男性(百合子の妹の彼氏。小田原の大きな蒲鉾屋の息子)がやってきて、と思ったら女性も戻ってくるわで喧嘩に。

・新旧下宿人の互いの彼氏、彼女も加わって大喧嘩が、いつのまにやら仲良くなり、「喜びも悲しみも幾年月」の主題歌を4人で仲良く合唱。それを口論してた金重と百合子が聞いて苦笑

…などなど。

不良のシーンやお金目当てに出入りする人達、下宿人の喧嘩のくだりなんかは文章にしてるとまさにコメディの鉄板といった風な展開なのですが、俳優さんたちの台詞が聞き取りづらかったり、上述の通り掛け合いのテンポも歯切れ良く感じず、思ったほど笑えず(^_^;(この辺は多分、現代の笑いとの違いなのでしょうね)

 

しかし、そんな前半にひとり気をはくw佐田啓二。木下監督作品ではめちゃめちゃ美しいはずの佐田さんが、今作については上だけ黒縁になっているメガネ(ブローとかいう種類)でオールバックの靴屋の店員。あの美しさはなりを潜めw安月給で母のいびりに耐えながら同居せざるを得ない、いかにもうだつの上がらないオジサン、といった風情。台詞の間とか表情も絶妙(「秋刀魚の味」のときの「私も白い革のハンドバッグ買うから!」って言われたときの表情なんか最高ですよね(∀))。後半でも、自分はチョビチョビ飲みながら大事にしまってたウイスキー赤間に分けてやろうと思って出してきたら、赤間がたっぷりグラスについで飲んじゃって慌てる様子なんかも面白く、佐田さんのコメディーセンスが光ります(「サラメシ」観ながらこの辺の文章書いてますが、息子にきちんと受けつがれてるなぁ、と思いますw )。

 

でも、後半になると赤間が登場してストーリーが謎めいてきて面白くなっていき、クライマックスではついに!スラップステッィク(というかドタバタ喜劇)な展開に。

赤間の訪問にイヤそうな表情のてつ。赤間はてつに小遣いまでたっぷり渡したりするのに、てつは、百合子に「赤間を追い返せ」という。どうやら赤間はてつとの間に因縁ありそうで、それを南原伸二(というか南原宏治さん!)が演じているので怪しさいっぱいwてつがそんなに嫌がる理由は何なのか!?なかなか明かされず、ソワソワ。

赤間はてつへの復讐が目的(ネタばれしないように詳細は書きませんが、ある因縁の結果、赤間は前科7犯という犯罪者に)でこの家を訪れ、背広の胸ポケットに拳銃を隠し持っておりました。で、金重と百合子の息子(5歳くらいか)がその銃を「バーンッ」とやってしまいます。すると、それをきっかけにどこにいたのか、警察官がワラワラとてつの家の周りから押し寄せます。家の中、外、逃げるてつと追いかける赤間とさらにそれを追いかける警官と、さらにはてつの部屋の炬燵からボヤまで起きてそっちに慌てる金重たち。そして、それを見て押し入らなくてよかったと思い直す不良たち…とドタバタ喜劇に。このくだりは一気に事が動く展開に笑えて、楽しく観ることができました。

 

これで6作目となった木下作品。またもや他のどれとも違った雰囲気で、今回は佐田さんのコメディセンスに感服。

 

で、見出しについて。懸賞のお金目当てにやってくる人達、てつと百合子の嫁姑の喧嘩、赤間とてつの因縁とか、スラップスティックコメディじゃなくてブラックコメディって言うなら納得なんだよなー、ということで。U-NEXTへのツッコミでありました。