T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

木下恵介監督「永遠の人」

映画の結末よりも過程を描いてみたかったのかな、という昼ドラも真っ青な30年に及ぶ愛憎劇

 

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【映画についての備忘録その19】

木下恵介監督×高峰秀子主演「永遠の人」(1961年)

 

昭和7年上海事変たけなわの折。阿蘇の大地主小清水平左衛門の息子平兵衛(仲代達矢)と小作人の息子・隆(佐田啓二)、二人はともに戦争に行っていた。しかし、平兵衛は足に負傷、片足が不自由になって除隊となって帰ってくる。隆には同じく小作人の娘であるさだ子(高峰秀子)という恋人がいた。しかし、平兵衛もまたさだ子を好きで、二人が恋人同士であることを知りながらさだ子をなんとか自分の妻にしたいと考え、無理矢理にさだ子を犯す。そして結納の日取りも決められていくなか、隆が凱旋。隆は兄から事情を聞かされ、さだ子と村を出ようと決心したが、その当日、「幸せになってくれ」と置手紙を残し行方をくらました・・・。

 

と、今回のストーリー紹介はあえて映画の導入部分だけで。全部で30年に及ぶ物語のエピソード一つ一つがかなり濃い物語。音楽もとても印象的で、昭和7年の第一章から昭和36年の第五章までという構成なのですが、劇判としてフラメンコが使われていて、章の変わり目にはさらに歌詞がつきます。で、その歌詞の内容がその章のストーリーをまとめたもの。こんな映画は初めてみたのでこの仕掛けも面白かったです。

 

木下監督作品4作目。どれもカラーが全然違うんですが(◎-◎;)で、今作はそれらしい結末が用意はされているんですけど、それよりもその過程(ドロドロした愛憎劇)を映画でやってみたかったのかしらね、って感じでした。30年目の結末は、「こういう結論のほうが観客は納得するでしょ?」って興行的に考えた結論なんじゃないかと思ってしまうくらい(いや、もうただの印象なんですが)、30年目にいたる過程がすさまじい映画でした。「なんかすごい映画みたな~」が最初の感想でw

 

映画はこの昭和7年の出来事がきっかけで結婚することになったさだ子と平兵衛が子供を3人生み育てて家族という形をとりながら、決して平兵衛を許すことのないさだ子とそれ故にさだ子を憎む平兵衛の物語。憎しみあい続けることでいろいろな不幸が起きますが、決して離婚することはありません。さだ子は一緒に暮らしながら平兵衛を憎むことで手込めにされて無理矢理嫁にされたことの復讐をし続け、平兵衛を苦しめます。そして憎まれながらもやはりさだ子を愛し、子供達を愛している平兵衛は苦く腹立たしい気持ちをさだ子にぶつけながらも別れようとはしません。もう、これが壮絶。「そんなに嫌なら別れちゃえばいいのに!」って、普通のドラマなら思うところなんですけど、さだ子の情念みたいなものを感じさせる高峰秀子さんの演技がすごくて、一緒にいて復讐してやろうと思うわね、これ、っていう30年間なのです。んで仲代達矢さんの平兵衛の屈折ぶりも、この憎まれてるって分かってるのに別れない、というのが納得の30年なのであります。

 

30年の物語の中で、とくに印象的だったのが長男の栄一(田村正和)をめぐる話。栄一はさだ子が犯された晩に出来た子供でした。その後に弟と妹二人を設けて可愛がっていますが、さだ子は栄一にだけはどうしてもどこか冷たくあたります。平兵衛や実父に「子供に罪はない」と言われてもどうにも変わりません。そして、栄一は愛されていないことを感じ取っていて、さだ子に反抗的な子供に育ちます。そして高校生になった栄一は周囲から自分がどうして産まれたのかを聞かされ、自分などいないほうがいいのだと感じ、ノートに遺書を残して阿蘇山の火口に向かってひたすら歩いて自殺します。一瞬の身投げではなく、火口に向かって歩くのです。この長い間、火口に向かう恐怖とそれを押しのけてでも火口に向かわせるなにか。一人栄一は何を感じていたのだろうか、と。そして、その一方で、ここまで息子を追い詰めてしまうまで息子を愛せなかったさだ子の憎悪の深さが際立って恐怖みたいなものを感じました。

また、(自分はこんな目にあったことはありませんが(・・;))こんな事が我が身に起きたとき、「子供に罪はない」と全ての女性がそう思い切れるかと言えば決してそうではないだろうな、というのも直感的に感じられる部分であり、母性云々という単純なところにもっていかず、男性でありながらそこを映画にした木下監督の凄さも感じたシーンでありました。

 

さて、「映画の結末よりも過程を描いてみたかったにちがいない」と思ったのは、結末が30年の憎しみあいに対してなんだかあっさりしてる気がしたからです(高峰秀子さんと仲代達矢さんの演技合戦としての熱さはあるんですけど)。

隆が病気で死んでしまうというそのとき、さだ子がこれまでのことを許してくれと平兵衛に謝ります。それは隆に穏やかな気持ちで死んでいってほしからという気持ちから発しています(隆は「幸せになってくれ」と置き手紙を残して姿を消したのにさだ子の30年が憎しみだけだったからです)。そして、平兵衛にも隆に謝ってくれ、と。一旦は拒否する平兵衛もさだ子と二人で30年分の思いをぶつけ合って話した結果、隆に謝りに行くことにします。この二人の会話(言い合い?)はもちろん中身の濃いものなのですが、さだ子が謝っている動機が自身のこれまでの行いを反省して「悪かった」と謝りたいというよりも、隆のため、という感じで。30年のわだかまりには隆の存在が常にどこかにあったからなのに、隆がきっかけの動機で溶けちゃうの?ええ??となってしまったのでしたσ(^_^;この映画の30年間は、栄一の話だけではなく他のエピソードも「人って許せないものはいつまでたっても許せないし、理性で割り切れる聖人君子じゃないですよね」という部分の描き方が強烈であったため、結論のやや唐突な描き方との対比で“過程を描いてみたかったんだろう”なという印象になったのでありました。

 

さて、数ある木下作品の中で王道の「二十四の瞳」とかじゃなくて、「永遠の人」を観たのはなぜか、というと吉田輝雄の松竹移籍の最初の出演作品が「永遠の人」になる予定だったからです( ̄∇ ̄) 「映画秘宝」2017年4月号で下村健さんがインタビュアーをつとめて松竹~東映時代の話をされていて、そこでこの事を話されています(移籍の時の松竹が提示した条件のなかに移籍第一作は木下作品で、というのがあったのですが、実際には川頭義郎さんという木下監督のお弟子さんが監督をされた作品に出ています。インタビューによると体調を崩したか何か、事情があって出られなかった、と)。で、じゃあ、一体吉田輝雄がやる予定だった役はどんな役だったのかな!?という興味から発してこちらをチョイスした訳なのです。で観たけどどの役か分からねー!!でしたσ(^_^;登場人物の年齢的にあり得そうなのは平兵衛、隆、豊(隆の息子で、大人になってからはさだ子の娘と結婚して子供をもうけ、隆の死に際に子供を連れて帰郷します)の三人。松竹で演じておられた役柄からすると佐田啓二さんの演じた隆が一番それっぽいんですけど、木下監督の作品で沢山主演している佐田さんなので、その佐田さんの役が輝雄さんがやる予定だったけど佐田さんになったよ、なんてことがあるのかなー、とσ(^_^;仲代達矢さんの平兵衛は役柄的にあり得なさそうだし(演技力がかなり必要そうなのですσ(^_^;)、豊は石濱朗さんが演じていましたが台詞も出番も少なく、期待してる俳優を木下作品に出すのにわざわざこんな小さい役をふるかな?となり、結局、確信なしw今度、松竹大谷図書館に行った時にはぜひこの資料を借りてそのあたりを調べてみたいと思いますw

まー、どの役だったとしても、吉田輝雄にあいそうなのは「永遠の人」じゃなくて「今年の恋」だなー、と、これに出られなくて結果、「今年の恋」撮ってもらえて良かったなぁ、と思うのでありました( ̄∇ ̄)

 

【今年の恋についてはこちら】

kinakossu.hateblo.jp

 

【2018/7/26追記

先日松竹大谷図書館にまたもや行ってwこちらの資料を見てきました。で、輝雄さんはいったい誰の役をやる予定だったのかが判明。さだ子の次男・守人(戸塚雅哉)役でした(全然予想とちがった~!)。守人は東京の大学に出て“アカ”になって警察に追われます。逃亡資金が必要だけれど家まで戻るとつかまってしまう、ということで実家に電話をかけてさだ子にお金の工面を依頼し、家から離れた場所に持ってきて渡してくれるよう頼みます。そのときに兄が自殺した阿蘇山が見える場所をワザワザ指定してくるという、すごい人間…。「お母さんがお父さんを許さない限り僕もお母さんを許しません」(大意)とさだ子に面と向かって言っちゃいます。相手の心をえぐるような嫌な青年に育っていて(^-^;)話し方も今なら意識高い系か?みたいなイラつくしゃべり方w出番は少ないのですが印象深い役です 輝雄さんから川津祐介さんに変更になり、最終的に戸塚雅哉さんで落ち着いたようで。戸塚雅哉さんは1960年前後の映画出演しか検索にひっかからず、どんな活動をされた方なのか分からないのですが。。。すんごくこの嫌味な役にあっていました(゜∀゜) ますます、「永遠の人」に出なくて「今年の恋」撮ってもらえてよかったねぇ…と思うのでありましたw