T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「ギャング対ギャング」

裏切りと希望のない世界ですすむ暗い物語

ギャング対ギャング

ギャング対ギャング

  • 発売日: 2016/04/30
  • メディア: Prime Video
 

 

 

【映画についての備忘録その83】

石井輝男監督×鶴田浩二主演「ギャング対ギャング」(1962年)

 

5年前、小森興業のボス・小森(沢彰謙)の身代わりとして出頭した水原(鶴田浩二)。出所すればふさわしいポジションを用意されているはずだった。しかし。刑期を終えた水原は、出所した途端に走りすぎる車から銃弾を受け、腕にけがを負う。

ホテルを乗っ取り実業家然としてふるまっている小森にとってはヤクザの水原が疎ましく、水原を消すための小森の工作だった。そうと気づいた水原は小森のもとへ出向く。そこには波川(丹波哲郎)、塚原(高英男)、男谷(成瀬昌彦)といった、5年前のことを知っている者たちもいた。しかし、だれしもそのことについては口をつぐむ。怒った水原は自分と同じように小森の腕に一発を撃ち込み、その場から逃げ、ビルの外で若い男女に声をかけられ、誘われるがままに車に乗り、ある屋敷へかくまわれることに。

翌朝ーその二人、百合(三田佳子)と金谷(梅宮辰夫)に案内されたリビングには柳沢(三井弘次)という老紳士がいた。柳沢に見せられた新聞には小森の死亡記事が。部下の波川が、水原を追わず小森にトドメを刺したのである。

柳沢は、小森興業が東京へ麻薬を流していることに目をつけ、その販売ルートを停止し組織を壊し麻薬を奪う計画をたてていた。百合と金谷に加え、小森興業への復讐のため、水原もその計画に協力することにする。麻薬の密売ルートをつぶし、工場を探しあて、男谷も味方に引き入れて、伊豆の別荘でガスボンベにカモフラージュされているという麻薬を奪う計画を実行にうつすが… 

 

 

 

はい、続いての石井輝男監督のギャング映画はこちら!「太平洋のGメン」が1962年4月の公開、「ギャング対ギャング」が1962年7月の公開だそう(前者がカラーで後者がモノクロとか、大御所のパワーを感じる(笑))。

 

さて、後に作られたほうの「ギャング対ギャング」。「太平洋のGメン」を作った反動かな!?と言いたくなるようなムードの作品。絶対ケガもしなさそうなカラッとした片岡千恵蔵Gメンに対し、こちらの鶴田浩二ギャングは出所そうそう銃弾を撃ち込まれ、ボスと仲間に裏切られ、最初からどん底に突き落とされ、物語がはじまります。

 

いきなり主人公が絶望の中におかれる、というのは「黄線地帯」の天知さんや、「続・決着」の輝雄さん(いや、主役は梅宮さんのはずなんだけどw)とか、石井監督脚本の作品には他にも思いつくモノがありますが、前者では三原葉子さん演じるルミの天然な可愛らしさが、後者では由利徹さん演じるまるさんやアラカンさんのウラナリ先生の優しさと明るさが、主人公の心を救う存在であり、それがまた観ている側のつらさを和らげるものでしたが、本作にはそれすらありません。百合との間に少しの恋が描かれますが、三田佳子さんはかわいいけれど、主人公を救うほどの圧倒的な明るさや優しさを感じとることはできません。

 

そんなわけで、終始暗いムードで展開して、救われる感のない物語。密売ルートもガン・コーナーだったり、キャバレーの楽屋だったり。麻薬工場が爆発する終盤にさしかかるまで、あまり起伏もなく、暗くて、地味な物語です。

 

ただ、それを面白く見せてくれるのが、丹波さんたち敵役のギャングの面々。出所した水原が最初に小森興業にあらわれたときに主要なメンバーは勢ぞろいしていて、水原とのやりとりの中で個々の個性を感じとることができます。

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「太平洋のGメン」の時は最後は改心というか、ボスに敵対する立場になった丹波さんですが、波川は最初から最後まで、裏切りとその恐怖で仲間をそっと押さえつけているような怖さ。塚原の高英男さんはいつもの通りw何を考えているのか分からない不気味な雰囲気。成瀬昌彦さん(私的には「火線地帯」以来の邂逅w)の男谷はちょっとナルシスト(服の汚れや髪の乱れを気にするしぐさがw)で、何とも言えないヌメッとした雰囲気で、プライドは高いけど絶妙に組織のトップにはなれない感を出しつつ、それがまた人間くさくて、波川たちとは違って完全に水原を切り捨てるような冷たさがない。

この敵対するギャング達の個性の強さが、地味な展開の映画に色付けをしていて映画をひっぱっていってくれた感じ。

 

 

地味だ地味だとは言いながら、最後の見せ場のアクションシーンはさすがの石井監督!という盛り上がり。ガスボンベをつんだトラックの荷台の上の水原たちと追いかけてくる波川たちとの銃撃戦は、荒れた山道を荷台から振り落とされてしまいそうなになりながら応戦する水原や男谷、柳沢と、爆発しそうなガスボンベがかわるがわるとらえれていて、終始ハラハラさせられる展開。ここはほんと面白かったです。

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最後、水原は救われることなく、絶望の淵へ突き落され、百合と二人、思いを通わせながらも悲しい結末を迎えます。それは美しくて悲しい最後。終始重たく悲しいまま。

 

これを含めてここまで全部で6作観た石井輝男監督のギャング映画。単純に自分の好みで言えば、「恋と太陽とギャング」とか「花と嵐とギャング」とか、そっちのほうが好きですが、”ギャング映画”のくくりのなかでこれだけバリエーションのある作品をつくってしまう石井監督のすごさを感じた作品でありました。

 

石井輝男監督「太平洋のGメン」

石井輝男片岡千恵蔵のせめぎあい。

太平洋のGメン

太平洋のGメン

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【映画についての備忘録その82】

石井輝男監督×片岡千恵蔵主演「太平洋のGメン」(1962年)

 

玄界灘で夜釣を楽しんでいた健次(江原真二郎)は、奇妙な箱を釣り上げた。釣りを終え、陸に戻ると、彼は二人の男に襲われ、ある屋敷につれ込まれた。そこへ現れた水原(丹波哲郎)と名乗る男は、健次に箱の中身を見ないこと、口外しないことを条件に箱を買い取ると申し出る。取引成立となって、水原に出された酒を口にした健次はそのまま意識を失ってしまった。気を失ったまま走るモーターボートへ乗せられていた健次は、広上(片岡千恵蔵)という男の船にぶつかり、海へと投げ出された。広上に救われた健次は翌朝、金を取り戻しに、広上を連れて例の屋敷へと戻る。しかし、そこは新歌舞伎の役者・板東梅之助の別荘で水原などという男は居ないことを知った。土地のボス藤村をあたれという広上の言葉に、藤村の経営するキャバレーを訪ねた健次は、ホステスの朱実(佐久間良子)から、新歌舞伎は福岡へ巡業に行っていること、そして水原が船の手配を藤村に頼んでいたことを知る。そこで健次は福岡へ向かうが、若い男が梅之助を刺し殺す場に居合わせ、犯人とまちがえられて危ういところを広上に救われる。金を出し、人を殺してまで守っている品物とは一体何なのか。神戸が臭いとにらんだ二人は、神戸へと向かうが。。。

 

 

 

石井輝男監督のギャング映画の感想が続きます('◇')ゞJUNK FILM by TOEIで観られるものは観まくろう、と(笑)選んだ今作。丹波さんや江原さんといった、ギャング映画での常連さん(あと、相変わらずあんまり筋に絡まないのに贅沢な出演の梅宮辰夫さん…出番はほかのに比べると多かったけど何者か分からないまま終わったしな)がいるいっぽう、健さん鶴田浩二さんもいなくて、その代わりに片岡千恵蔵さん。で、見出し。この大御所の存在感が相当なもので、さすが大御所、というべきか。石井輝男監督のギャング映画らしいアクションの切れと人物のキュートさ&クールさも見せながら、片岡千恵蔵さんが構築している別の世界観がせめぎ合っている映画でした。

 

 

江原さんと佐久間さん、あるいはこのお二人と丹波さんのシーンは、石井監督のギャング映画らしい、クールで軽やかで、しゃれた雰囲気。

健次と朱美のシーンは、ツンデレな感じで、会話も楽しく。

健次は朱美がいないところでは広上相手に「今はやりのトランジスターグラマーだ」(なんだろう、それw)と褒めているというのに、

福岡から神戸へ向かう列車の中、

 「レディーを退屈させるなんて紳士にあるまじき振る舞いよ!」

「ふん!退屈するような身分になりてーよ」

なんて言い合ったり。

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 積極的な朱美と、まんざらでもなさそうなのにうっとうしそうにしている健次という組み合わせはなんだかラブコメのようで、その可愛らしさは「恋と太陽とギャング」あたりを観たときにうけた印象に通じる感じ。

 

 

丹波さんはスーツをビシっと着こなし、今回は冷静沈着な敵役。長身でクールな面持ちの丹波さんが写ってるだけで石井監督のギャング映画、という雰囲気が出まくってます◎ 最後は組織のボスに裏切られたことで、自分の命と引き換えに復讐を果たすという見せ場も用意されていて、一番かっこよかったかも。

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さて、今作は、長崎、神戸、横浜と港町を舞台にしてストーリーが展開することもあって、異国情緒もあり、そして列車で移動しているシーンが多かったり、あるいは神戸の裏通りの入り組んだ街並みとその奥には怪しげなクラブがあるセットだったりと、「黄線地帯」を思わせるような画があります。これに加えて広上と健次が、敵を追いかけるという設定で物語が進むので、クライムアクションといった感じの他のギャング映画とは違って、謎解きのサスペンスに軸足を置いた展開。

 

で、この、サスペンスのほうに軸足をおいたところも「黄線地帯」のような風景の中であれば「やっぱり石井輝男だ!」となりそうなところなのですが、どっこい、そこは片岡千恵蔵。さすが大御所。もう、片岡千恵蔵さんが出てくると、そこだけなんだか違う監督の映画に思えます。

この映画のクライマックスは、実は刑事だった広上が組織を追い詰め、一人、船の上で大活躍、というところ。激しい銃撃戦なのですが、なんだろう、娯楽時代劇のヒーローよろしく、絶対に弾にあたらなそうな存在感と安心感。

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絶対、怪我しなさそう。

まぁ、要するに、ハラハラするような緊張感みたいなものがありません(^_^;)石井輝男をもってしてもいかんともしがたい、大御所の存在感であります。

 

 

銃撃戦で大御所に見せ場をたっぷり用意して、勧善懲悪、大団円の時代劇然として終わるのかと思っていたら・・・最後にもう一度、石井監督らしい世界がまっていました。

 

事件が解決して時計台の下で待ち合わせている二人。 

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最後のシーンは時計台の前の二人。

 

「君、ボート屋のおやじなんて興味ないだろうな」

「え?」

「俺、対馬行ってボート屋のおやじになるかもしれない」

 「ちょっと!興味あるわよ!」

 

これはなんだか和光の時計台の下の「セクシー地帯」の吉岡と真弓のラストシーンを思わせるキュートさ!石井輝男作品、こうでなくては(・∀・)

 

 

と、いうわけで、5本目の鑑賞となった石井輝男監督のギャング映画は、大御所の存在感が別物すぎて、殿様が市中に潜り込んで問題を解決するような痛快娯楽時代劇と石井監督らしさのあるギャング映画が混在している(融合じゃなくて)ような不思議な作品で、片岡千恵蔵さんのアクションシーンを思い出しながら、石井輝男以前のギャング映画の雰囲気ってこういうことかな?という想像をした鑑賞後。…さ、次いってみよう!

 

 

石井輝男監督「恋と太陽とギャング」

キュートでクールでほろ苦い。“映画を観る楽しさ”が残る映画。

恋と太陽とギャング [DVD]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • 発売日: 2009/06/21
  • メディア: DVD
 

 
【映画についての備忘録その82】

石井輝男監督×高倉健主演「恋と太陽とギャング」(1962年)

 

愚連隊あがりの石浜伸夫(高倉健)は網走帰り。出所して妻の典子(小宮光江)の消息を知り、ある賭場で”毛唐”と一緒のところへ一人銃を持って乗り込み典子を連れ出した。後を追うギャングたちをまいてうまく逃げ出した二人の前に、その様子をカジノで観ていたという常田(丹波哲郎)という男が現れる。典子を連れ出したその鮮やかな手際に、自分の仕事を手伝わないかと声をかけてきたのだ。ある高級ホテルに泊まっているという常田は、あらためてホテルで仕事の話をしようと言い置いて姿を消す。

典子の母親・お真佐(清川虹子)はかつて満州で暴れた女傑で、石浜の腕の良さを認めて典子との結婚を認めたという女。常田との話を聞いてお真佐も一枚かもうと、翌日一緒にホテルへと向かう。

そこで常田から持ちかけられた計画は、お真佐も狙っていた獲物だった。マカオの賭博組織の大幹部ロバートが、日本に国際賭博マーケットを造るテストとして、あるクラブで大規模な賭博を開く。この金を盗もうというのだ。彼はそのクラブに恋人で踊り子のローザ・ルミ(三原葉子)とその弟の光男を潜入させるという。そこで、常田、石浜、典子、お真佐の4人は手を握ることになった。常田が資金源を調達、実行は石浜たち。石浜は、ハジキの使い手、衆木(江原真二郎)と川岸(曽根晴美)を仲間に入れ、電気係りの亀田(由利徹)もひっぱりこんだ。常田はルミを利用して、中国人・黄から資金借出しに成功する。

いよいよ作戦決行当日。大金を盗んだあと、事件に気づいた賭博組織が手を回すところまでは想定内。ところが、金をめぐる仲間内の裏切り、そして黄一味の横やりで計画はどんどんと崩れていき…

 

 

 

と、言うわけで(!?)引き続き石井監督による東映ギャング映画。タイトルとメインビジュアルの格好良さにひかれ、こちらをチョイス。石井監督作品らしくストーリーのテンポのよさとアクションのキレは文句なし。そしてそこにキュートさとクールさが加わった、めちゃめちゃ楽しい映画でした♪

のっけからそれは全開で、賭場に単身乗り込んで銃を一発はなち、静寂と緊迫の中から石浜が典子を連れ出したかと思うと、一転、八木正生さんによる軽快なビッグバンドジャズのようなオープニング曲とともに、ビルの間を駆け回る二人。もう、このオープニングが素敵すぎて、一気に、キュートでクールなこの映画の世界に引き込まれます。

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キュートさを感じるのは、メインの役者さん達の魅力が存分に引き出されているように思うから。

キメるとこはびしっとキメちゃうカッコよさながら、怒ったりするとどもってしまい、そして、奥さんにべたぼれで”毛唐”と一緒だということでやきもち焼いてそれを隠さない石浜。健さんの硬派な雰囲気と、その間に垣間みせる子供のようなかわいらしさ。

たいそうな計画を立てるものの肝心のお金がなくて、ルミの客から金を出資させようと仕組むのに、ルミにはめちゃめちゃ惚れてて(肩もんでご機嫌伺いしたりw)、何かあったら、と心配で気が気でない常田。丹波さんの堂々したボスのような雰囲気と、二人きりの時はルミには主導権を握られちゃって、反論できないこのギャップ。

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このかわいらしさよ。

ギャンブル狂いで何度か道を外し、銃の使い手で裏道を歩んできたような雰囲気を醸し出しているのに、奥さんにはぞっこんで、”掘り出し物の女房をもらった”と言ってはばからない衆木。奥さんのために真面目な仕事(自動車の修理工)につき、そして奥さんのために(そもそもギャンブルのしすぎで工場を抵当に入れてしまったせいなんだけど(^-^;)大金を得ようと、石浜の持ちかけた仕事に加わります。これまで石井監督の過去2作の”ギャングもの”で観てきた江原さんの役はどれもかなりクレイジーでそして自分中心な男、という感じ。今作ではそのクレイジーさをのぞかせながらも、”女房のために”仕事をしていて、その奥さんへのベタ惚れっぷり。

ルミは豊満なボディでダンスを披露して、男を手玉に取りつつ、常田へはなんだかんだ言って信頼と愛情があってついていく。「黄線地帯」なんかでみせてくれた三原さんのコケティッシュな感じが存分に出ていて可愛らしい。

みんなそれぞれのキャラクターのなかで個性が生かされていて魅力的。

 

 

クールさを感じるのは服と車とスクリーンに切り取られた街並み故。

網走帰りだというのに、石浜はビシっといいスーツに身を固めて登場するし、常田は蝶ネクタイに襟元にファーのついたチェスターコートで決め、川岸はパナマ帽にトレンチコート、衆木も普段はつなぎの作業服で仕事しててギャンブル狂いで工場まで抵当にいれてるというのに、いざ仕事の場になるとハンチングに品のよさそうなウールのコートで現れる。みんなそれぞれ状況を考えると金回りなんてよさそうではないのに、実生活のリアルさとは離れて、夢を見せるのが映画なのさ、というようなかっこよさ。

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川岸&衆木。オシャレ。

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石浜&常田。こちらもかっこいい。

 

常田が運転する車もアメ車(たぶんね)のオープンカー。どこにそんな高そうなもの買う金があるんだ!?って感じなんだけど、そんなことはおいといてwこのギャングたちをかっこよく演出するための大事なパーツ。金を手にした後、これに乗り込んだ常田と石浜とルミと衆木の四人の、なんとカッコイイことか。賭博組織のほうも、(キャデラックかなぁ)ドデカいアメ車で追いかけ回してて、ドンパチしてて、んでもって、こちらも上等なスーツでキメています。

さらには、石浜が典子を賭場から連れ出して逃げる、レンガと鉄格子が印象的な路地裏や、大金を巡って車でかけまわる道から見える周囲の建物。場面によっては東京タワーがみえたり、あるいは日常のシーン―衆木の工場の外に見えるトラックや亀田の電気屋の窓ガラス―に垣間見えるまだ発展途上で貧しさの残っているような日本的な感じに対して、石浜や常田が“仕事”をしている時に写る街並みは1930年代のニューヨークかマンハッタンかといった雰囲気で切り取られていて、これもまた、なんだか、追いかけてくる側のギャングたちも含め、アメリカのギャング映画のごとく、彼らをカッコよく見せてくれるのです。

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そして、ほろ苦いのはこんなカッコよくてキュートなギャングたちの、バッドエンドを想像させる結末。

衆木の空軍時代の友人(千葉真一)は、今はヘリに乗って広告のビラを撒く、というような仕事をしています。妹は目が不自由で手術をしてやりたいけれど、今の給料ではそれも難しい。衆木は賭場に乗り込む前、この友人にヘリの手配を頼んでいました(金を独り占めして逃亡するため。こういうストーリーの仕込みも面白い!)。ところが予定通り一人とはいかず、石浜、常田、ルミ、衆木の四人で車から友人の操縦するヘリに乗りかえて逃走。行き先は、人の影もなく、岩と草っ原に囲まれた島にある、小さな友人の家。しばらくここに留まることになるだろうし、翌朝、落ち着いたら金の始末を考えよう、ということになります。ところが賭場組織のほうは翌朝には石浜たちの居場所をつかんでいて、ギャングたちが大勢島へ乗り込んできます。4人は友人とその妹を巻き込まないようにヘリで逃がし、運があったら後で分け合おうと金も預け、友人の粗末な家で賭場組織を迎え撃つことにします。常田はルミも一緒に逃がしてやってくれ、と頼みますが、ルミは常田と一緒に残るといい、そして男たちと一緒に銃を手に取り、銃撃戦の中へ。この銃撃戦の最中にもルミは「ダーリン、弾は大事に使ってね」なんて言ってみたり、こんな時に(笑)二人に当てつけられた衆木は「俺たちにも掘り出し物のかーちゃんが待ってるぜ」なんて軽口を叩いたり、石浜も二人ののろけぶりに怒ったりwいつ崩れるか分からないような粗末な家の中で迎え撃ち、取り囲まれ、追いつめられてるような状況なのに悲壮感はなく、からりとしている。ただ、戦況はかなり不利…。そして、画面はやがて激しい銃撃戦をしているギャングたちから、海の上をヘリで飛ぶ友人と妹へ切り替わります。目の見えない妹は兄が預かった金をいつものビラだと思い、空の上から撒いていいかと兄に問います。そして、兄は一瞬ためらったあと、妹にそれをまくように言い、大金は海の上へと散っていく―。

石浜、常田、ルミ、衆木の4人が最後にどうなったのか、は描かれません。4人は最後までクールでキュートなまま。しかし、映画のこの終わり方は彼らの結末が望むようなものではなかったらしい、という想像をするには十分。楽しいだけで終わらない結末が、この四人を愛おしく思わせ。

 

 

と、いうわけで見出し。映画に何を求めるかって、人それぞれ。でもやっぱり映画の基本は観客を楽しませてなんぼ(だと、私は思う)。この作品はクールでキュートで、楽しさを提供することに徹した映画。最後はほろ苦いけれど、それがまた余韻を残し、鑑賞後に映画を観ることの楽しさを噛み締めさせてくれる。そんな、最高の映画でした。

石井輝男監督「花と嵐とギャング」

ここは日本かアメリカか!?国籍不明のしゃれたギャング映画。

 

花と嵐とギャング [DVD]

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  • 発売日: 2012/11/01
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【映画についての備忘録その81】

石井輝男監督×高倉健主演「花と嵐とギャング」(1961年)

 

まさ(清川虹子)は今は大阪に安宿を経営しているが、かつて、大陸では凄腕の女傑で通っていた。その子供たちもいずれ劣らぬ悪党ぶりで、長男は香港ジョー(鶴田浩二)の異名をとる国際的大物。長女・佐和(小宮光江)は前科者で肝っ玉も十分。河北組の兄貴株で刑務所帰りのやくざ・スマイリー健(高倉健)を夫にしている。気が弱い次男正夫も一ぱしやくざを気取っている。

出所してきたスマイリーを邪魔に思う河北組のツンパ(沖竜次)は、スマイリーを蹴落そうと銀行ギャングを計画、その指揮にスマイリーを指名した。スマイリーと佐和は、正夫と、犬猿の仲の殺し屋二人・楽隊(江原真二郎)とウィスパー(曽根晴美)、それに権爺を加えて作戦を実行する。銀行ギャングは成功すると思われたが、ツンパが計画を失敗させるために客として潜り込ませていた男(八名信夫)が楽隊の拳銃を奪い、そのドサクサにまぎれてウイスパーが、楽隊を撃った。スマイリーは金庫の中にいて騒動に気づかなかった。

一方、楽隊は警察病院に収容され一命をとりとめるが、ウイスパーを狙って病院を脱走した。

5000万円を奪い、楽隊を残したままスマイリーと佐和、正夫、そしてウイスパーは銀行から逃走する。5000万の札束がつまった袋は助手席で正夫が大事そうに抱えている。しかし、車が踏切の前で停車したその瞬間、正夫は袋を抱えたまま車を降り、逃走する。正夫が5000万円を盗み、さらには以前に河北組組長から出された足抜けした組員の殺害命令に従わなかったことが分かり、河北は佐和を人質とし、正夫を河北組に連れ戻してくるようにスマイリーに命令する―。

 

 

ラピュタ阿佐ヶ谷で見た石井監督の東映ギャングもの二作品が面白かったもので、他のも観たいなぁ、と思っていたところ、JUNK FILM by TOEI ” で観られるじゃん!と「やくざ刑罰史 私刑」のためにお試し入会した流れでw鑑賞。数ある中でこのタイトルにひかれてチョイス(「恋と太陽とギャング」のタトルも好きw)。あとで調べたらこれが石井監督の東映移籍第一作ということだそうで。第一作からきっちり面白いモノを作るという、さすが石井監督。

 

 

高倉健さん主演ではありますが、登場人物それぞれにスポットがあたっていて、5000万円をめぐってのあれこれと、そんなことはそっちのけな楽隊のウィスパーへの執念と、どっちのストーリーも飽きることなく追いかけながら観ることができました。

 

 

そして、満州とか戦前から続く日本的なヤクザの流れをチラつかせながら、“香港ジョー”とか“スマイリー”とか“楽隊”とか“ウィスパー”とか、呼び合う世界観も楽しい。仕事がなくて埃っぽいアパートに女の子たちとすし詰めで寝ているウィスパーが、仕事で集められるとストローハットでビシッときめて出てきたり。正夫が彼女と住んでいるのは日本的な狭い木造アパートな一方、佐和とスマイリーが経営し二人の住まいにもなっているバーは、フランク・シナトラの絵がデカデカと飾ってあって、白くて綺麗で、アメリカ映画から抜け出てきたような感じだったり。豊かになっていく途中の日本的なリアルさを感じさせながら、少し現実離れしたしゃれた雰囲気が同居していて、憧れのものをみせられているような感があり、この映画に存在している独特な世界観に最初から最後までワクワクさせられます。

 佐和が人質として河北組に取られたり、スマイリーと香港ジョーを邪魔に思うツンパの策謀のあれやこれやとか、最後に一気にギャングが集まって牧場でドンパチが始まる展開は「ここでこれきたかー!!」って感じだし、ヒットメーカーが観客を純粋に楽しませるためにそつなく作った、という感じの、まさに娯楽映画です(最後のドンパチに香港ジョーの格好良さをさりげなく入れているのも石井輝男的で良かったり)。

 

 

江原真二郎さんは二枚目なのに少し頭が弱くて執念深い楽隊を快演し(優しそうなおじいちゃんのイメージしかなかったので、石井作品の役柄は意外すぎ)、小宮光江さん(今回初めて拝見しました)は綺麗で貫禄もあって姐御って感じだし、沖竜次さんを新東宝以外で初めて観られたし、そして何より健さんの茶目っ気と侠気の同居したスマイリーはかわいくてかっこいいし、で、俳優さんも魅力たっぷり(さすがの沖さんも健さんを相手にするとなんだかちょっと食われてるような感じでしたが)。…相変わらず、鶴田浩二さんにははまらなかったなぁ(^◇^;)美味しい役なのになぜなんだろw

 

 

色々と調べてると石井監督がそれまでのモッサリした“東映ギャング映画”に新風を吹き込んだ、みたいな感じの解説に出会いますが、見出しに書いたように感じた雰囲気がそういうことなのかな、と思い、逆に石井輝男以前のギャング映画が気になったりする鑑賞後なのでした。

 

 

石井輝男監督「やくざ刑罰史 私刑!」

暴力描写に目をそらしつつ、キザな殺し屋を凝視する。 

やくざ刑罰史 私刑!

やくざ刑罰史 私刑!

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【映画についての備忘録その80】

石井輝男監督×菅原文太大木実吉田輝雄主演「やくざ刑罰史 私刑」(1969年)

 

第一部江戸時代。「やくざ渡世に二つの法度“盗みをするな、間男するな”」

黒崎組の組長、剛造(菅井一郎)はあがりのいい賭場を奪うため対立する組に出入りをしかけ、その賭場を奪う。賭場の仕切りは出入りでもっとも働きのあった、代貸の友造(大友柳太朗)に任せる。剛造の女であるおれん(藤田佳子)の弟・新吉(宮内洋)は手柄がなく、子分の常(菅原文太)は新吉をかばって指をつめた。剛造は新吉がかつて自分の名を借りて縄張りを荒らしていたのを知って咎め、その償いにとおれんを自分の女にしていた。それを知っている常は二人に同情し、新吉のために指をつめたのだ。弟をかばった常に思いを寄せていたおれんは、常のもとへ詫びに行き、その夜二人は結ばれた。だがその場を蝮の六(石橋蓮司)に見られてしまう。見せしめに目玉をくりぬかれる常。常の兄貴分の友造は、剛造の非道ぶりに怒りに耐え兼ね、剛造に刃を向ける…。

第二部大正時代。「親分並び一家に迷惑を及ぼしたる者は所払い、それを受けし者がふたたび士地に戻りたる時は白刃をもって制裁を加える」。秋葉一家組員、尾形(大木実)は、代貸岩切の命令で桜井一家の親分を斬った。しかし、後ろに大きな組織がついているとしって仕返しを怖れる秋葉により関東所払いの回状が廻された。だがそれは桜井の縄張りを狙う岩初が仕組んだ罠だった。所払いになるならば恋人・さよ(橘ますみ)を連れて逃げようと思い立った尾形だが、桜井にだまされて連れ出され、会えないまま尾形は逮捕される。三年ぶりに刑務所を出た尾形は、さよを忘れがたく、土地に戻ってきた尾形は、掟に従って制裁を受ける。そして、さよが秋葉組の好敵手・雨宮(山本豊三)の女房となっていることを知るのだが…。

第三部現代。「組の組織を破壊、秘密を漏洩せる者は理由の如何にかかわらずこれを抹殺する」橋場組から、その資金源である金塊が盗まれた。組長の橋場(沢彰謙)の命令で代貸の島津(藤木孝)らによって捜索が続けられ、組員の一人の男がつかまった。男はヘリコプターからロープでつるされ、凄惨な私刑にあうが口を割らなかった。だが、男のもっていた金塊は奪われたうちの半分。島津は組を乗っ取り金塊を手に入れるため橋場の殺害を企むが、最初の計画は失敗。それを苦々しくみていた島津の前に、ある男(吉田輝雄)が現れる。その男の曲撃ちの見事な銃の腕前に、島津は”金の延べ板で一億を、殺しの新聞記事と引き替えに払う”という条件で、組長殺害を依頼するのだが…。

 

 

 

なんで「風の中の子供」のあとにこれ!?という備忘録の並び(笑)12月からこっち、石井監督作品観すぎです。Blu-rayレコーダーに保存している「ゴールドアイ」を観ていて、吉岡さん的な役の輝雄さんが他にも観たい!というスイッチが入りw、それならば、と、AmazonプライムビデオのJUNK FILM by TOEIで、約2年ぶりの鑑賞。

 

あらすじの通り全部で三話あるオムニバス作品。前回観たときは、私自身がまだ「網走番外地」の数作品と新東宝作品くらいしか石井監督作品を観たことがなかったころだったので、タイトルバックから始まり次々出てくる強烈な暴力描写に面くらってちょくちょく視線をそらしつつ(^◇^;)、輝雄さんの演じる殺し屋(多分。映画のデータベースの粗筋だと金庫破りとかなんとかなってますけど)の、かっこよさに惚れ惚れして終わった映画。そして、今回久しぶりに観たら、初見の後に「異常性愛路線」とかも経験した故か石井作品の免疫がついてきてw前回観たときに比べるときちんと映画を観ることができました(それでもあんまりどぎついところは目をそらしちゃうんですけど・・・)。

二話はちょっと地味目な話ですが、一話も三話もそれぞれ独立して90分の映画にして作れそうな迫力。なかでも、映像のスタイリッシュさとか作品のテンポ、音楽のはまり具合とか、石井監督らしいカッコよさは第三話でもっとも出ている感じがして、第三話の現代編が1番面白いです。

 

 

第一話は文太さんが主演ですが、大友柳太朗さんの友造の渋い存在感が作品を締め、石橋蓮司さんの底意地悪そうな蝮の六のいやらしさが光る作品。ストーリーの始まりの出入りのシーンの迫力はさすがで、そして、友造の颯爽とした殺陣と、隠れてうまく立ち回る六という、登場人物の人間性が出ています。大友柳太郎さんは時代劇の俳優さんなんだな、というのはこの最初の殺陣の風格が別格で、しっかりと感じることができました。

一話は指が落とされるのは当たり前ってな感じで、耳が切られたり、目玉がくりぬかれたり、かなりきつい描写が多くて、視線をそらすシーンが一番多いお話だったかも。。。

 

第二話はこの映画のDVDのジャケ写になっている大木実さん主演ですが、大木さんが頭から血を流すシーンは・・・ありません!残酷な描写もほとんどなくて(桜井組長が一人切り込んできた尾形に手首を切り落とされる、というのが一番の描写だったくらいで。これは網走番外地とかでも見てるし慣れてるw)、尾形とさよ、雨宮の純愛物語に、ヤクザが邪魔しに絡んでくる、という感じ。異常性愛路線では輝雄さんが担当してきたような、美しい物語が展開されます。一話と三話が強烈な分、”やくざ刑罰史”というには印象が薄くて、大正時代の雰囲気とか、建物とかモダンな感じがステキでした。

 

 

はい、で本題のw第三話。

石井監督らしいかっこよさ、というのはやはり輝雄さんの存在抜きには語れない。というわけで、ここからはイイ男のキャプチャ多めでお送りしますw

 

最初の登場は、盗まれた金塊の入ったアタッシュケースを持って歩道橋の上を逃げる橋場組の組員の行方を、白いスポーツカーの中からニヤリと眺める、というシーン。もう、最初からキザな雰囲気全開。これが文句なしに似合っているヾ(≧∇≦)

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金塊を盗んだその組員は島津の運転する車につかまります。途中、車からおりて逃げたかと思うと、組長の乗るヘリコプターが現れます。するとヘリからおろされたロープで組員はつり上げられ(そんなことが可能かどうかはさておき(^◇^;))、海にたたき落とされ、浜辺を引っ張られ、と、かなりむごい私刑にあいます。あまりの酷さに「楽にしてやるぜ」と遠くからライフルでロープを切り落とし、

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007かな。


死んだ男に向けて弔いの十字を切る、と。f:id:kinakokan0620:20200207160920p:plain


うっほーい!めっちゃキザ!!そして、はまっているぅヾ(o´∀`o)ノ

 

一話も二話も主役はヤクザでまさに"やくざ刑罰史”。菅原文太大木実も私刑に遭うのに(文太さんにいたっては目玉くりぬかれるし(°∇°;))、第三話の吉田輝雄はヤクザとは一線を引いていて、そんな目にはあわず、ハンサムなお顔に傷を負うこともないw突然あらわれては美味しいところをかっさらう。きつい暴力描写の部分は島津役の藤木孝さんとその弟分の高英男さんと林彰太郎さんが担当で、裏切った橋場組の組員たちに私刑を加えていく、という構成なので、輝雄さんはもう、ただひたすらキザでかっこいい部分のみを担当。なんというか、吉田輝雄のPVかな、これは?と錯覚しそうw

 

島津は殺し屋に殺害を依頼しながら、自ら橋場組長を手にかけます。そして、殺し屋を罠にかけて犯人に仕立て上げ、新聞には容疑者として殺し屋の写真が。組長を殺すことはできなかったが、島津の“予定通り”犯人に仕立てられたのだからと、男は報酬を受け取るべく、再び島津の前に姿を現します。

 

んで、この登場がまためっちゃキザでかっこいいんだわヾ(o´∀`o)ノ

 

島津と対立する大村組の組長。金塊が奪われたのはこの大村組の工作。で、どういう理由か分かりませんがw島津と大村の二人がクレー射撃で対決していて、勝ったほうがスタイル抜群の美女を景品として受け取れる、ということに。二人の勝負を背後の離れたバルコニーから眺めている殺し屋。大村が、的代わりにされたペンダントヘッドの端にかするように当てると、今度は島津の順番。その時、男は背後からライフルを撃ち、ど真ん中にあて(゚ω゚)島津が勝負に勝ったように見せかけます。

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どんな凄腕w

 

景品の美女を手に入れて得意げな島津と、それをニヤリと笑って背後から面白そうに眺める男。そして、島津はホテルの部屋で美女とベッドへ・・・というところでドアがノックされる音が。島津が女にドアを開けさせると、女はそこに立つ殺し屋の顔を見てうっとりして、この通り↓ 

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007だね

 

うん、これ、ジェームズ・ボンドだねヾ(o´∀`o)ノというか、漫画のごときこのキザさw洋画のスパイものならこんなシーンもありそうだし、様になるのも分かるんですけど、日本の映画でこれやって、そしてちゃんとかっこよくはまってるって、どういうこと!?長身でスマートで、飛び抜けてハンサムな俳優のビジュアルと、ギャング映画もこなすスタイリッシュな映像を撮る監督の組合せのなせる技(・∀・)(いやー、やっぱり「神火101 殺しの用心棒」は輝雄さんの主演で作るべきだったでしょ(笑))

 

この時、大村が別荘に情婦と二人でいる、という情報が入り、金塊を狙う島津は男のことを苦々しく思いながら、ホテルを後にして大村の別荘に弟分らと向かいます。男は女の報酬はきっちり受け取りつつ(笑)金は受け取れずじまい。

そこで、二人の関係は互いに利用しあいながら続いていきます。大村の別荘に向かった結果、大村組の面々に囲まれてピンチになった島津の前に男が颯爽と登場して救ったり。殺し屋が大村組のカジノで女ディーラーの八百長に気付いたことで殺されそうになったところへ、島津が現れてカジノから連れ出してくれたり。

 

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このカジノがまたアバンギャルドな雰囲気で絵になってる。この場面も島津と殺し屋のやりとりがかっこよくて楽しい。

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金塊を巡っての争いのクライマックスは現代ヤクザらしい裏切りでガタガタっと立場が入れ替わりながら、最後は島津と殺し屋の二人が生き残り、一騎討ち。殺し屋は右腕を背後から島津に撃たれ、銃も使えず絶体絶命。しかし、振り向きざまに左手で島津の額を撃ちぬき、金塊は男の手に。

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この片膝落としてる姿も絵になるよぉ(*´ω`*)

 

 

そして、口笛を吹きながらアタッシュケースをロープで引きずって(この時だけその姿が荒っぽくてそれがまたかっこいいのだが(゜∀゜))工場から出て、スポーツカーに乗り込み

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十字を切ってニヤリ。

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白いスポーツカー似合いすぎ(*´▽`*)



ラストは、高速を駆け抜けて行くスポーツカーの姿を捉えながら映画は終わり。第三話はカーアクション、銃撃戦、カジノの雰囲気、助演の藤木孝さんや高英男さん、そして、鏑木創さんの音楽のはまり具合(あと、もう、やり過ぎて苦笑してくるグロい私刑と)と、私のイメージする石井輝男の世界観が濃く出ていて、色々とスタイリッシュでかっこいい要素は沢山なのですが…でも、それも含めてやっぱりキザでかっこいい吉田輝雄のPVなのである(違っ)!

 

 

今回、久しぶりに観て気づきましたが、この作品、輝男×輝雄のコンビで、唯一のナンパな吉田輝雄が観られる映画。カジノから島津の車に送られて出てくるとき、車を運転している島津の彼女(片山由美子)を見ながら「かわい子ちゃんを見ると腹が空くクセがあってね。ごちそうになれませんか」とか言ってたり(゜∀゜)「ゴールドアイ」の吉岡さんの原型かな、という感じでキザで軟派なのにナルシストっぽさがなくてかっこいい!ショーン・コネリーのボンドを思わせる感じ(*´▽`*)日本人的な感覚だとカリカチュアされたような二枚目像で、ともすると邦画でこれをやったらムリがあって笑えてきそうな気がするんだけど、輝雄×輝男のコンビならきっちりカッコよく魅せてくれるというわけで。吉岡さん@「ゴールドアイ」のかっこよさに輝雄さんのファンになった私、硬派なだけじゃなくて、こっちのハンサムの引き出しをあけた作品も撮っておいてくれた石井監督に激しく感謝なのでした(笑)

 

 

・・・あれ、映画の感想じゃなくて殺し屋がいかにカッコよかったか、って感想になってないかい、これ(〃∇〃)

清水宏監督「風の中の子供」

いっちょ前”が愛おしい。

 

あの頃映画 風の中の子供 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2013/05/29
  • メディア: DVD
 

 

【映画についての備忘録その79】

清水宏監督「風の中の子供」(1937年)

 

小学五年の善太(葉山正雄)と小学一年の三平(爆弾小僧)の兄弟は、楽しい夏休みを過ごしていた。二人の父親(河村黎吉)は工場を経営しており、母親(吉川満子)に頼まれて父に弁当を届けたりする。三平は仲間内ではガキ大将で、勉強をそっちのけで、ターザンの真似をして「ア~ア~」と叫びながら、町中を走っては友達を呼び出し遊んでいる。しかしある日、警察が家にやってきて私文書偽造の疑いで父親を逮捕してしまう。それから、友達からは仲間はずれにされ、二人だけで遊ぶ日々。父親の疑いが晴れて帰ってくるのがいつになるのか、分からない。このままでは生活に困るため、母親は住み込みができる病院で善太とともに働くことにし、まだ小さな三平は遠くの親戚の家に預けられることになる。離ればなれになった二人。善太は一人で三平がいるふりをしてかくれんぼをして寂しさを紛らわせようとする。三平は大きな松の木に登って、家のあるほうを眺めたり、巡業中の曲馬団が家のほうへ回るとしってついていこうとしたり。あれこれと心配させ、ついに手を焼いた親戚のおばさんに、家に帰されてしまうのだが…。

 

 

 

お久しぶりの清水宏監督作品!約1年ぶりで、これが3作目。観たいなぁって思いつつなかなか見る機会が訪れず、で、今回、映画の中の子供 ─ちいさな主人公たちの、おおきな、おおきな物語/ラピュタ阿佐ケ谷 で上映されると知って、行って来ました(ラピュタ阿佐ヶ谷石井輝男特集から急旋回しすぎではwあ、でも、清水宏監督は石井監督の師匠みたいな感じですよね!)!他にも色々と観たい作品があるのですが、いかんせん、石井輝男特集の間に有休消化しすぎたのでσ(^_^;、厳選してこちらを観に行くことに。

 

そして、厳選しての今作も期待に違わず、私の思い描く清水宏監督の作品のイメージ通り。短い時間に、さらりと、だけれどもとても思いの溢れる、そういう素敵な映画でした。

 

 

映画は始まりからなんとも自然に子供達、というか男の子、か?の有り様をとらえています。オジサンが手綱をもって牛が引いている荷車の後ろのほうに三平とその友達、三人が次々と、何も悪びれる素振りもなく、ヒョイっと飛び乗っていきます。ちょっぴりの危険に面白さを感じる。そしてそこでは、大して良くない成績なのに、どっちが、上か、ってな張り合いで勝ち負けを競うwその後、オジサンに気づかれて怒られると、やっぱり悪びれる風もなく荷台からしれっと降りる。もう、間違いなく毎日のように同じことを繰り返しては怒られ、ってしているんだろうなぁ、っていう雰囲気。我が家の男の子もおおよそそんな風で微笑ましいやらおかしいやら。清水宏監督は子供をうまく使う監督、ということだそうですが、それがどういう意味なのか、このシーンで感じられたような気がしました。子役に“うまい”演技をさせるのではなくて、自然に普段の姿を出させるのが上手い、そういう監督なのだなぁ、と。

 

 

 

父親は、成績優秀な善平も、勉強ができず遊んでばかりいる三平も、そのままの姿を慈しむような人。成績の悪い三平を近所に恥ずかしい、といった母親をたしなめたり、家に居るときは兄弟二人まとめて相撲を取ったり、愛情深い父親で、ふたりともお父さんが大好き。

三平は、父親にお昼のお弁当を届けに行ったところ、部下に私文書偽造の罪を着せられ詰め寄られて社長の座を追われたところを目の前で見てしまいます。気落ちして呆然としている父親を見ながら、「今の会社を辞めるのは今よりもっと大きな工場を作るためなのだ」と理解して、信じています。それは、三平の父への信頼や愛情の表れ。

 

映画のほとんどは父親が逮捕されてしまってからの後の物語で父親と一緒のシーンは少ないのですが、こういうエピソードと、父親の姿がなくても愛情や繋がりの深さを感じさせる演出で、父、母、二人の子供たち、お互いを思いやる親子の愛情を感じとることができます。

 

なかでも、印象深かったのは、やはり自分が母親だからなのか(!?)、母と子供との二つのシーン。

一つは父親が警察に連れて行かれた日の晩の描写。寝付けないふたりは夜遅くに、門の外へ出て、星を見にいくと言って、父親が連れて行かれたほうへ歩きだそうとします。夜遅いからと二人を追いかけて出てきた母親。母親にとめられて断念しますが、しかし、とめた母も家の中へすぐに戻ることはできず、黙って三人そろって、父親の連れて行かれた方向をみつめます。それぞれが父のいないことへの不安、寂しさで胸がいっぱいで、ただ、それを口にすることでそれらがさらに大きくなってしまう。胸に秘め、じっと耐え、父は何も悪いことなどしていないと信じ、帰りを待とう。そういう思いが、そのシーンに凝縮されているように感じました。

そして、もう一つ。病院からの帰り道の三平と母親のやり取り。一度は親戚の家に預けられるも、やんちゃで心配をかけすぎたために家に返されてしまった三平。親戚はその代りに善平を預かろう、という提案をします。善平と住み込む予定だった病院へ三平をともなってあいさつに行きますが、病院の院長は三平がまだ小さいのを見て、彼では仕事は無理だから、と断ってしまいます。家族三人が生きていくには、やはり三平が親戚のうちへ戻って、母と善平とで住み込んで仕事をするしかない。母はぐっと耐えて三平にその思いを伝え、また三平も泣きわめくでもなく、その母の思いを感じとって、自分が親戚のうちへ戻ることを決意する。小さな橋の上で言葉を交わさず、三平の足元にしゃがんでうなだれている母。じっと立つ三平。そして、そこを通りぎる男性たちが二人に一瞥すると、母を守るように見返す三平。泣きじゃくりたいほどにつらいはずなのに、しっかりと立って現実を受け入れようとしている。

三平や善平のような境遇ではなくても、どの子も母親が大変そうなときはしっかりしよう、守ってあげよう、みたいな様子を見せてくれたりすると思います。小さな子供が、彼らなりに小さな体で精一杯に立って、大切なものを守ろうとする。その姿は本当に愛おしくて。そして親はまた一層強く我が子を守ろうと思うわけで、生きていくためにそうできないということに、三平の母親がどれだけ辛いのかもまた、静かに、しっかりと感じられます。直接的な言葉はないのにそれらが伝わり、描かれている。すごい(語彙力orz)。

 

 

なんだかしんみりしてしまいましたが、三平と善平の兄弟ゲンカも可愛らしいし(「前畑がんばれ!」なんてアナウンサーの真似をする善平と布団をプールにみたてて前畑さんのごとく泳ぐ三平とかいう、二人遊びもかわいかったなぁ(笑))、たらいに乗って川を流れて遊び、親戚のおじさんが馬で必死においかけてるというのに平気そうな三平とか、子供達の遊ぶシーンはほんとにイキイキとして、楽しげ。ガキ大将だった三平が父親が逮捕されたことで仲間外れにされてしまったりするあたりは大人の関係性が子供におよぼしてしまう嫌な部分もみせられたりしながら、でも、父親の罪が晴れた後の後腐れない元通りのお友達感も微笑ましく、辛い話の中で子供の明るさで何度も笑ったり。

(お父さんが帰ってきたときの、居間で大人同士で話しているところを兄弟二人で庭から「お父さん!」と何度も何度も顔出して呼んでる姿もたまらなくかわいかったな(*´ω`*))

 

 

と、いうわけで3作目の清水宏監督作品。感想書きながら過去に観た作品も思い返し、ストーリーの流れというより、一つ一つのエピソードが印象的で、それがつながれて一つの映画になっているのだなぁ、と思いました。だから、物語のありようが理屈っぽくなくて自然で、それ故に現実味があって、深く染み入ってくるんだな、なんて考えたり(たかだか三作観ただけでこんなこと書いたら、「全然ちゃうわ!」とかツッコミきそうだな(^-^;))。

 

映画とは逆になんだか理屈っぽいことを書いてしまいましたが(^-^;今回もとてもステキな映画で、「清水監督、好きだ!」をまたもや確認し、まだまだ他の作品も観よう!と思ったのでありました。

 

 

・・・しかし、「風の中の子供」というタイトルの”風の中”というのはどういうことを指してるんだろう?

 

石井輝男監督「ギャング対Gメン 集団金庫破り」

手堅く楽しめるクライムアクション・ムービー。  

ギャング対Gメン 集団金庫破り
 

 

 


【映画についての備忘録その78】

石井輝男監督×鶴田浩二主演「ギャング対Gメン 集団金庫破り」(1963年)

 

 

囚人護送車が襲われ、警官一名を射殺、金庫破りの名人・譲治(田中春男)が脱出した。殺された警官・増田には幼馴染で元スリの菊川志郎(鶴田浩二)がいた。今は堅気として生きているが、警察はこの交友関係から増田の背後を怪しんで、かつて菊川の世話をした刑事の尾形(加藤嘉)を差し向けるが、尾形は菊川が事件に関係のないこと、増田は偶然巻き込まれただけであることを確信する。菊川と増田の友情に感じ入り、尾形は警察のつかんでいる情報を菊川へ伝える。時を同じくして網走監獄から金庫破りの名人・松井(十朱久雄)が出所したこと、神戸に住んでいる同じく金庫破りの名人・矢島(江原真二郎)を警察がマークしていること―。

松井は網走にいる間、大きな金庫破りの計画を練っていて、菅沼(杉浦直樹)を片腕に金庫破りの名人たちを集めいていた。譲治を脱出させたのも菅沼だ。松井は計画成功のカギを握るのは矢島だと考えていたが、松井も菅沼も矢島の顔を知らず探しあぐねていた。増田の仇を討ちたい菊川は、尾形からの情報をもとに神戸に向かい、二人よりも先に矢島を探し出し、矢島に神戸から姿を消すように話をつける。そして、矢島に成りすました菊川は松井たちの計画に加わり、増田を射殺した男を探すことにする―。

 

 

輝雄さんの松竹作品という毛色の違った作品の感想をはさみwまた石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲/ラピュタ阿佐ケ谷の鑑賞記録です('◇')ゞ「ギャング対Gメン 集団金庫破り」。公開日を調べるとこの前に観た「暗黒街の顔役 十一人のギャング」が1963年の1月15日公開、こちらが同年の2月23日公開。その間、約1か月。いや、もう、すごいなこれ。

 

 

さて、たった1か月をおいてギャング映画を続けて撮っておられるわけですが、内容は「暗黒街の顔役 十一人のギャング」とは別物の面白さ。「暗黒街の~」が、登場人物の内面を感じさせる描写が挟まれ、ややウエットな物語だったのに対し、こちらはもっとエンタテインメント性を押し出したような作品。友人の復讐という部分もありはしますが、そこは菊川の動機付けとして機能しているけれど、あまりそこには比重はありません。

 

 

イントロ部分の譲治の脱出シーンからして、スピーディーで面白い。護送車が通る道路のすぐ横の高架を汽車が走り抜けるすさまじい騒音を見計らって、これをカモフラージュとして護送車を襲い、譲治を脱出させる。

 

なぜ、こんなことが起きたのか?それは尾形がそうそうに菊川のもとにやってきて情報提供することで観客側も理解して、あとはその具体的な方法ー菊川がどうやってこのギャングたち(=金庫破りの名人たちのチーム。もろもろ入れて計画に関わる者は全員で9人)に潜り込み、そしてどんな計画が実行されてギャングは最後につかまるのかーがどう展開されるのか、ストーリーをおって楽しむことになります。

 

 

矢島になりすまし、松井と菅沼が集めたギャングたちの仲間となる菊川。様々な特技をもつ金庫破りたちが集い、三億を盗み出す計画を実行します。その間、菊川と同じく金庫破りの仲間・玲子(佐久間良子)との駆け引き、尾形へのつなぎ役をしていた青年たちの犠牲とか色々ありつつ、ギャング達は無事に(!?)それぞれの特技をいかして金庫破りをして大金をゲット。しかし、そっから仲間割れやら計画を怪しんでいたヤクザ(計画のために金庫のある建物の横のキャバレーを脅して占拠していて、そのキャバレーのボス)の横槍が入ったりで、最後は菊川、玲子、菅沼の三人になり...。

 

 

と、86分の中に「この先どうなるの!?」っていう展開が次々用意されていて、飽きるところがありません。ラピュタ阿佐ヶ谷のホームページにある本作についての下村健さんの解説によると、公開当時、「外国映画からのパクリだらけだ」という批判があったそうですが、とりあえず、元になる外国映画が大して思いつかないような者からすると、パクリだろうが何だろうが、石井監督の作品として面白いからいいや(∀)って感じ。先に観た「暗黒街の十一のギャング」に比べるとアクションシーンの派手さが足りなかったり、最後の決めゼリフを言うキザな鶴田浩二が私にはハマってこなかったりで(笑)そちらに比べると作品のインパクトは薄くて物足りなさもありましたが、それでも手堅く楽しめるクライムアクションとして仕上がっている映画でした。

 

 

さてさて、私的にはハマらない主演の鶴田浩二さんですがwその主役よりも助演陣が印象的だった本作。

丹波さん(元刑事・手塚。女で身を持ち崩す)とか、江原真二郎さん(最初に思わせぶりな感じで退場して、最後まで出てこなくて「出番あれで終わりかい!」ってなる)、田中春男さん(スケベで粗野なのになぜか憎めない。そして、石井作品でまともな関西弁を喋ってる人を初めて観ましたw)とか、八名信夫さん(大きな体に丈の長いチェスターコート(かな?)がよく似合っていてギャングというよりマフィア)とか。で、一番印象深かったのが杉浦直樹さん。なんか、石井監督作品の杉浦さんは自分の中にあった、堅物のお父さんというイメージと全然違って、とがっていて危なっかしくて面白い。今回二本のギャング映画の杉浦直樹さんを観て、この後に改めて「網走番外地 望郷編」とか見なおしたら、また違った楽しみ方ができそうだなぁ、なんて思ったり。

 

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2番目に名前があるのに梅宮辰夫さんの出番はめっちゃ少なかったです(^_^;)