T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「恋と太陽とギャング」

キュートでクールでほろ苦い。“映画を観る楽しさ”が残る映画。

恋と太陽とギャング [DVD]

恋と太陽とギャング [DVD]

  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • 発売日: 2009/06/21
  • メディア: DVD
 

 
【映画についての備忘録その82】

石井輝男監督×高倉健主演「恋と太陽とギャング」(1962年)

 

愚連隊あがりの石浜伸夫(高倉健)は網走帰り。出所して妻の典子(小宮光江)の消息を知り、ある賭場で”毛唐”と一緒のところへ一人銃を持って乗り込み典子を連れ出した。後を追うギャングたちをまいてうまく逃げ出した二人の前に、その様子をカジノで観ていたという常田(丹波哲郎)という男が現れる。典子を連れ出したその鮮やかな手際に、自分の仕事を手伝わないかと声をかけてきたのだ。ある高級ホテルに泊まっているという常田は、あらためてホテルで仕事の話をしようと言い置いて姿を消す。

典子の母親・お真佐(清川虹子)はかつて満州で暴れた女傑で、石浜の腕の良さを認めて典子との結婚を認めたという女。常田との話を聞いてお真佐も一枚かもうと、翌日一緒にホテルへと向かう。

そこで常田から持ちかけられた計画は、お真佐も狙っていた獲物だった。マカオの賭博組織の大幹部ロバートが、日本に国際賭博マーケットを造るテストとして、あるクラブで大規模な賭博を開く。この金を盗もうというのだ。彼はそのクラブに恋人で踊り子のローザ・ルミ(三原葉子)とその弟の光男を潜入させるという。そこで、常田、石浜、典子、お真佐の4人は手を握ることになった。常田が資金源を調達、実行は石浜たち。石浜は、ハジキの使い手、衆木(江原真二郎)と川岸(曽根晴美)を仲間に入れ、電気係りの亀田(由利徹)もひっぱりこんだ。常田はルミを利用して、中国人・黄から資金借出しに成功する。

いよいよ作戦決行当日。大金を盗んだあと、事件に気づいた賭博組織が手を回すところまでは想定内。ところが、金をめぐる仲間内の裏切り、そして黄一味の横やりで計画はどんどんと崩れていき…

 

 

 

と、言うわけで(!?)引き続き石井監督による東映ギャング映画。タイトルとメインビジュアルの格好良さにひかれ、こちらをチョイス。石井監督作品らしくストーリーのテンポのよさとアクションのキレは文句なし。そしてそこにキュートさとクールさが加わった、めちゃめちゃ楽しい映画でした♪

のっけからそれは全開で、賭場に単身乗り込んで銃を一発はなち、静寂と緊迫の中から石浜が典子を連れ出したかと思うと、一転、八木正生さんによる軽快なビッグバンドジャズのようなオープニング曲とともに、ビルの間を駆け回る二人。もう、このオープニングが素敵すぎて、一気に、キュートでクールなこの映画の世界に引き込まれます。

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キュートさを感じるのは、メインの役者さん達の魅力が存分に引き出されているように思うから。

キメるとこはびしっとキメちゃうカッコよさながら、怒ったりするとどもってしまい、そして、奥さんにべたぼれで”毛唐”と一緒だということでやきもち焼いてそれを隠さない石浜。健さんの硬派な雰囲気と、その間に垣間みせる子供のようなかわいらしさ。

たいそうな計画を立てるものの肝心のお金がなくて、ルミの客から金を出資させようと仕組むのに、ルミにはめちゃめちゃ惚れてて(肩もんでご機嫌伺いしたりw)、何かあったら、と心配で気が気でない常田。丹波さんの堂々したボスのような雰囲気と、二人きりの時はルミには主導権を握られちゃって、反論できないこのギャップ。

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このかわいらしさよ。

ギャンブル狂いで何度か道を外し、銃の使い手で裏道を歩んできたような雰囲気を醸し出しているのに、奥さんにはぞっこんで、”掘り出し物の女房をもらった”と言ってはばからない衆木。奥さんのために真面目な仕事(自動車の修理工)につき、そして奥さんのために(そもそもギャンブルのしすぎで工場を抵当に入れてしまったせいなんだけど(^-^;)大金を得ようと、石浜の持ちかけた仕事に加わります。これまで石井監督の過去2作の”ギャングもの”で観てきた江原さんの役はどれもかなりクレイジーでそして自分中心な男、という感じ。今作ではそのクレイジーさをのぞかせながらも、”女房のために”仕事をしていて、その奥さんへのベタ惚れっぷり。

ルミは豊満なボディでダンスを披露して、男を手玉に取りつつ、常田へはなんだかんだ言って信頼と愛情があってついていく。「黄線地帯」なんかでみせてくれた三原さんのコケティッシュな感じが存分に出ていて可愛らしい。

みんなそれぞれのキャラクターのなかで個性が生かされていて魅力的。

 

 

クールさを感じるのは服と車とスクリーンに切り取られた街並み故。

網走帰りだというのに、石浜はビシっといいスーツに身を固めて登場するし、常田は蝶ネクタイに襟元にファーのついたチェスターコートで決め、川岸はパナマ帽にトレンチコート、衆木も普段はつなぎの作業服で仕事しててギャンブル狂いで工場まで抵当にいれてるというのに、いざ仕事の場になるとハンチングに品のよさそうなウールのコートで現れる。みんなそれぞれ状況を考えると金回りなんてよさそうではないのに、実生活のリアルさとは離れて、夢を見せるのが映画なのさ、というようなかっこよさ。

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川岸&衆木。オシャレ。

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石浜&常田。こちらもかっこいい。

 

常田が運転する車もアメ車(たぶんね)のオープンカー。どこにそんな高そうなもの買う金があるんだ!?って感じなんだけど、そんなことはおいといてwこのギャングたちをかっこよく演出するための大事なパーツ。金を手にした後、これに乗り込んだ常田と石浜とルミと衆木の四人の、なんとカッコイイことか。賭博組織のほうも、(キャデラックかなぁ)ドデカいアメ車で追いかけ回してて、ドンパチしてて、んでもって、こちらも上等なスーツでキメています。

さらには、石浜が典子を賭場から連れ出して逃げる、レンガと鉄格子が印象的な路地裏や、大金を巡って車でかけまわる道から見える周囲の建物。場面によっては東京タワーがみえたり、あるいは日常のシーン―衆木の工場の外に見えるトラックや亀田の電気屋の窓ガラス―に垣間見えるまだ発展途上で貧しさの残っているような日本的な感じに対して、石浜や常田が“仕事”をしている時に写る街並みは1930年代のニューヨークかマンハッタンかといった雰囲気で切り取られていて、これもまた、なんだか、追いかけてくる側のギャングたちも含め、アメリカのギャング映画のごとく、彼らをカッコよく見せてくれるのです。

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そして、ほろ苦いのはこんなカッコよくてキュートなギャングたちの、バッドエンドを想像させる結末。

衆木の空軍時代の友人(千葉真一)は、今はヘリに乗って広告のビラを撒く、というような仕事をしています。妹は目が不自由で手術をしてやりたいけれど、今の給料ではそれも難しい。衆木は賭場に乗り込む前、この友人にヘリの手配を頼んでいました(金を独り占めして逃亡するため。こういうストーリーの仕込みも面白い!)。ところが予定通り一人とはいかず、石浜、常田、ルミ、衆木の四人で車から友人の操縦するヘリに乗りかえて逃走。行き先は、人の影もなく、岩と草っ原に囲まれた島にある、小さな友人の家。しばらくここに留まることになるだろうし、翌朝、落ち着いたら金の始末を考えよう、ということになります。ところが賭場組織のほうは翌朝には石浜たちの居場所をつかんでいて、ギャングたちが大勢島へ乗り込んできます。4人は友人とその妹を巻き込まないようにヘリで逃がし、運があったら後で分け合おうと金も預け、友人の粗末な家で賭場組織を迎え撃つことにします。常田はルミも一緒に逃がしてやってくれ、と頼みますが、ルミは常田と一緒に残るといい、そして男たちと一緒に銃を手に取り、銃撃戦の中へ。この銃撃戦の最中にもルミは「ダーリン、弾は大事に使ってね」なんて言ってみたり、こんな時に(笑)二人に当てつけられた衆木は「俺たちにも掘り出し物のかーちゃんが待ってるぜ」なんて軽口を叩いたり、石浜も二人ののろけぶりに怒ったりwいつ崩れるか分からないような粗末な家の中で迎え撃ち、取り囲まれ、追いつめられてるような状況なのに悲壮感はなく、からりとしている。ただ、戦況はかなり不利…。そして、画面はやがて激しい銃撃戦をしているギャングたちから、海の上をヘリで飛ぶ友人と妹へ切り替わります。目の見えない妹は兄が預かった金をいつものビラだと思い、空の上から撒いていいかと兄に問います。そして、兄は一瞬ためらったあと、妹にそれをまくように言い、大金は海の上へと散っていく―。

石浜、常田、ルミ、衆木の4人が最後にどうなったのか、は描かれません。4人は最後までクールでキュートなまま。しかし、映画のこの終わり方は彼らの結末が望むようなものではなかったらしい、という想像をするには十分。楽しいだけで終わらない結末が、この四人を愛おしく思わせ。

 

 

と、いうわけで見出し。映画に何を求めるかって、人それぞれ。でもやっぱり映画の基本は観客を楽しませてなんぼ(だと、私は思う)。この作品はクールでキュートで、楽しさを提供することに徹した映画。最後はほろ苦いけれど、それがまた余韻を残し、鑑賞後に映画を観ることの楽しさを噛み締めさせてくれる。そんな、最高の映画でした。