T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

吉田喜重監督「秋津温泉」

美しい岡田茉莉子を堪能する

 

あの頃映画 「秋津温泉」 [DVD]

あの頃映画 「秋津温泉」 [DVD]

 

 

 

【映画についての備忘録その40】

吉田喜重監督×岡田茉莉子主演「秋津温泉」(1962年)

 

太平洋戦争末期。岡山から叔母の疎開先の鳥取を訪ねる途中だった河本周作(長門裕之)。しかし、鳥取まで行く力が自身の身体に残っていないと感じた周作は、死に場所を求めて、かつて過ごしたことのある秋津温泉を訪れる。結核に冒されている河本は自殺しようとするが、温泉宿の女将の娘、新子(岡田茉莉子)に助けられる。そして、終戦玉音放送を聞いて涙する純粋な新子に心打たれた河本は、やがて生きる力をとりもどしていく。

互いに心惹かれる二人だったが、女将が河本を追い出してしまったために、河本は岡山に戻る。

酒におぼれ、女にだらしない、すさんだ生活を送るようになった河本。文学仲間達と飲み歩き、身体を悪くして、死に場所を求めてまた秋津温泉に赴くのだった・・・。

 

 

U-nextの配信で観ました。カメオ出演的な吉田輝雄を観るのが一番の目的(//∇//)(1962年は「今年の恋」「愛染かつら」「霧子の運命」と茉莉子さんとの共演が続いていた年。茉莉子さんに「たいした役じゃないけど出てもらえない?」と誘われて出演されたとのこと)4人いる新聞記者のうちの一人(新聞記者D)、というチョイ役。台詞もわずか、も、ハンサムさは期待通り٩(๑❛ᴗ❛๑)۶穂積隆信さんも同じ新聞記者の一人として出てくるんですが、穂積さんと比べるとあきらかに顔がきちんと写るように撮られていますw(そもそもこの映画、出番少ないのに小池朝雄さんとか神山繁さんとか、山村聰さんとかすごいメンバーが出てきます)

【こんな感じ。左側は穂積さん】

f:id:kinakokan0620:20181120135541p:plain

 

はい、で、本編。簡単にまとめると「茉莉子さんキレイ!秋津温泉の自然キレイ!長門裕之クズだな!」(最後のは風評被害)となります。

 

茉莉子さんは17歳からはじまって34歳までの新子の17年間を、周作が秋津温泉をおとずれる3~4年おきに演じていきます。可愛らしい女の子(とはいえ、やはり17歳はムリがある艶っぽさでしたが(^_^;)から少しずつ大人の女性へと成長していく姿。“かわいい”から“美しい”へ見事に変貌していきます。溌剌としたかわいい女の子が、秋津に来るたびにダメ男っぷりが増す周作に振り回されてドンドン幸薄くなり、抜け殻のようになる最後まで本当に美しいです。

 

そして、この美しい新子さんを振り回す周作のなんとズルいことか。秋津にきた最初は弱っていく身体と敗戦濃厚な状況に生きる気力も失った書生のようで、そりゃ、新子さんも必死に看病しちゃうよねって雰囲気(元々、この役は芥川比呂志さんがキャスティングされていたとのことですが、この最初の周作の姿は芥川さんだとめちゃめちゃハマりそうな感じです)。しかし、岡山に戻ってからの堕落した周作はもう、たいした努力もしないで周りを妬み、飲んだくれて奧さんにも甘えまくり。そして自分が弱って上手くいかなくなると秋津温泉に逃げてくるとかいう、絵に描いたようなダメ男。自殺しようと試み、心中しようと新子を誘い、そのくせ結局は生きていたい。一瞬でも心中しようと思った新子にたいして、今度は自分が「一緒に死んでくれ」といわれると、そんなことは微塵も思わない。もうね、ただただ自分がかわいい男なのであります。そして、そのダメ男ぶりが、新子の最後の憐れさを増して、幸薄い新子のキレイさに拍車をかけるのでありました。私には長門裕之さんは、後年のドラマの印象が強くて、悪役というかクセのある人物というか、そんなイメージなのですが、そこに繋がるのも納得の役。ヒモみたいなズルい男がめちゃめちゃ似合っています(ここも芥川さんだったら、を想像すると、多分、ズルいというより、母性に訴えるような違った周作になりそうです)。

 

そして、秋津温泉の四季。実際には奥津温泉という場所が舞台のようですが、桜の散る河辺、雪積もる道、川の流れと、どこを切りとっても美しいです。撮影監督が成島東一郎さん。どこかで見たお名前だなーと思ったら、岩下志麻さんの「古都」の撮影監督さん(他にもすごい映画にたくさん関わっておられるようですね!)だったようで納得。「古都」のなかの京都も冬の冷たい空気や山奥の澄んだ空気まで伝わってきそうな映像でしたが、今作では自然とその中の新子が互いに作用するかのように、画面の中に美しく映し出されていました(川辺の大きな岩に仰向けになってタバコを吸う姿なんて、もうめちゃめちゃ綺麗だった)。

 

待ち続ける新子のもとに周作が戻ってくるという、周作にとっては避難所の女神のような新子が、プラトニックな関係から結ばれた途端に、追いかける新子と逃げていく周作という立場に変わってしまうドキッとする展開の変わり方も含め、良作のメロドラマで、綺麗な岡田茉莉子と秋津温泉の風景(とそれを際立たせるクズな長門裕之)を堪能していたら終わっていた、という映画でありました。

小津安二郎監督「秋日和」

少しの寂しさと幸福感。時間がたつほど響く余韻

 

 

 

【映画についての備忘録その39】

小津安二郎監督×原節子主演「秋日和」(1960年)

 

亡友・三輪の七回忌に集まった間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北龍二)。未亡人の秋子(原節子)は未だに美しく、娘のアヤ子(司葉子)も24歳となり、美しく育っていた。三人はアヤ子にいいお婿さんを探そうとあれこれ世話を焼くことにする。しかし、母を心配するアヤ子には結婚はまだ先のことのように思え、父の友人達の持ってくる結婚話にも会わずに断るという具合。

ある日、間宮の会社に亡父の残したパイプを届けにきたアヤ子は、以前、間宮にお見合いの話しを持ちかけられて断った間宮の部下、後藤(佐田啓二)を紹介される。後藤はアヤ子の会社に勤める杉山(渡辺文雄)と大学の同窓だった。

また別の日、間宮は喫茶店で、杉山や後藤と一緒にいるアヤ子を見た。間宮は二人がお互いに好き合っていると感じる。ゴルフ場で田口と平山にその事を話すと、秋子を思いやってアヤ子は結婚しないのだろうという結論。そこで、まずは秋子を結婚させ、その後にアヤ子を、ということに。

秋子の結婚相手の候補は、同じくやもめの平山。一度はとまどった平山だったが、息子は案外乗り気なものだから、平山もまんざらではなくなり、再婚話を進めようと田口は秋子を訪ねる。しかし、田口は夫への思いをたちがたい秋子を前に再婚の話を切り出すことはできなかった。 

ところが、ちょっとした行き違いから、アヤ子は秋子が平山と再婚するものだと早合点して、怒り心頭。アヤ子から相談された親友の百合(岡田茉莉子)も間宮、田口、平山の3人に詰め寄るが、事情を知った百合は秋子と平山の再婚話に賛成して・・・。

 

 

U-NEXTの配信で観ました。小津作品5作目。これを観る直前に少し「秋刀魚の味」を見返していて、そのままの流れでおすすめされた本作を鑑賞。ということで、「あー、お友達の皆さんそのままだ!」とか「平山違いだけど平山の家が一緒だ!」とか「ここは息子夫婦の家だった団地だw」とか「男やもめの役名は平山なのか」とか「秋刀魚の味」との細かい共通点にクスクスしながら、小津監督の世界を楽しみました。

 

秋刀魚の味」は父親が娘を送り出す話でしたが、こちらは母が娘を送り出すお話。で、やっぱり、小津作品、おじさん達の思い出話やらしょうもない会話だったり、親子で食事行ったり喧嘩したり、夫婦で言い合いながらなんだかんだでお互い仲良かったり、なんていういつの時代にもありそうな、なんでもない風景の連なりでお話がすすみ、そして、見出しの通りで、少しの寂しさと幸福感でもって映画終了。

 

何か飛び抜けたエピソード、ということよりも、登場人物の何気ない会話から互いへの暖かい情を感じ、それがストーリーを繋いでいきます。

 

例えば間宮夫妻と田口夫妻。両夫婦とも、現代っ子(当時)で親にちょっと口答えしてみたりする娘や息子を心配したり、お互い諦めながら夫婦ってのはやってくものだ、なんてことを言い合ったり(笑)そんなやりとりに夫婦の重ねてきた時間が垣間見えます。

間宮と田口は学生時代に薬局の娘だった秋子の美しさに惹かれて、元気なのに風邪薬を買いに行ったりしていたらしい。で、結局秋子は三輪と結婚して、二人はそれぞれ今の奧さんをもらうわけですが、どちらの奧さんも夫が昔秋子さんに惚れていた、ということは重々承知の様子。間宮の家で奧さん同士、そんなことを話ながら、顔を出した夫をからかいつつも、秋子とアヤ子のことは気にかけていたり。こういうのって、旦那さんへの信頼の積み重ねがあるからだよなぁ、って思えたり。

 

そして、秋子とアヤ子の母娘は、はっきりと言葉にしなくてもお互いへの思いやりがその行動に感じ取れます。「結婚なんてまだする気がない」「好きな人ができたときには言うわ」なんて言いながら、それは母を1人にしてしまうことを1番心配しているから。そしてそれを感じて、娘にそれとなく結婚を意識させようとするかのように、2人で買い物や食事に出かけながら「アヤ子が結婚したらこんなこともできないわね」なんて話をする秋子。平山との再婚話の誤解から本気で喧嘩してしまうのも、優しく互いを気遣ってきたからこそ。

一緒に食事したり買い物したりする二人は、今なら友達親子なんて言い方になるのかもしれませんが、もっと互いを尊重していて、それでいて娘は母の母としての側面に甘え、母も娘が離れていくことを寂しいと思いながらも、そうでなければならないと分かっていて、そのバランスがとても素敵です(大学から親元を遠く離れ、母とこんな時間をもったことがないまま別れることになった私としてはとてもうらやましいです) 。そしてこの関係の終わりに用意された、アヤ子の結婚前に最後に二人で出かけた温泉旅行でゆで小豆を食べながら向かい合う二人のシーンは、台詞以上に、二人の心情を伝える空気が、強く印象に残ります。

 

結婚式の終わったその日、娘の旅立ちをうれしく思う気持ちとやはりどうしてもそこに同居している寂しさを、アヤ子のいなくなった部屋で一人眠りにつこうとする秋子の姿にこめたラストシーン。この後、いつもの変わらない毎日にアヤ子だけがいなくなっている日々が始まるのだということを感じさせて、ふっと映画は終わります。この何でもないシーンの中にみえる秋子の幸福感と寂しさが、映画を観終わったそのあと、もうこれを書いている時点では観てから三日ほどたっているのですが、それでもなお思い返して余韻を残す、そんな素敵な映画でした。

 

(佐田さんの好青年ぶりとか、茉莉子さんの現代っ子らしいさばさばした感じも素敵でありました♪)

 

【映画本編とは別のところの備忘録】

きっと小津作品に遅れて出会った人たちがみんな通る道なのかな、と思うところに5作目にして行き着きました。

本人達の意志そっちのけでおじさん達が結婚話をすすめちゃう本筋は、自分の世代からみると完全に別の時代。そして、間宮たち3人は50代になったくらいかなー、という年齢だと思いますが、東京近郊でゆったり暮らせる大きな家に住んでいたり、突然会社にやってくる友人達と応接室で話したり、と今とは違う緩やかな時間の流れを感じます。一方で、母娘二人になってしまった秋子とアヤ子は団地の一室に慎ましやかに暮らしています。高度経済成長期の変わりつつある時代の中で小津安二郎監督の切り取った当時の日常や空気感。このあとの時代、進む核家族化、都心へ集中する人口、恋愛結婚、満員電車の殺伐とした風景…もっと長く生きて映画を撮っていたらどんな風に小津監督は切り取っていたのだろう?もし今の時代に映画を撮ったらどんな作品になっていたのだろう?どんな風に普通の人たちへ視線を向けてくれたのだろう、そんなことをふと思った、「秋日和」の鑑賞後でした。

 

木下恵介監督「不死鳥」

主演二人の組み合わせの違和感が拭えぬまま、映画終了。

 

木下惠介生誕100年 「不死鳥」 [DVD]

木下惠介生誕100年 「不死鳥」 [DVD]

 

 

 

【映画についての備忘録その38】

木下恵介監督×田中絹代主演「不死鳥」(1947年)

 

戦時中、学生時代に知り合い、交際中の真一(佐田啓二)と小夜子(田中絹代)。戦況が悪化して、真一の出征の可能性を感じた二人は結婚を決意する。しかし真一の父は学生時代から付き合うような女と真一を結婚させるわけには行かないと二人を認めようとせず、小夜子を紹介しようとしても、自分は会わないと激怒。それでも深く結ばれていた二人は、真一の出征の前日、再会を果たす。しかし、いよいよ出征という当日には、駅で万歳をしながら送る真一の家族たちとは離れ、小夜子はひっそりと見送ることしかできなかった。

その後、長野へ疎開した小夜子の元へ真一の父が訪れる。父は息子と縁を切ってほしいと伝えるが、小夜子はどんなに反対されても真一と一緒になると主張する。小夜子の情熱に真一の父も理解を示し、一時帰国した真一と小夜子は夫婦生活を送り始める…。

 

 

U-NEXTの配信で観ました。「永遠の人」以来の久しぶりの木下監督作品です。

 

戦争未亡人となった小夜子が、子育てや夫の家族(義父、義母、義理の弟、妹もいっぱい!)の世話を忙しく焼きながら、義弟の結婚を前に、夫と知り合ったときから結婚するまでを思い出して、、、という始まり。「不死鳥」のタイトルロゴが炎の中から浮かび上がるという演出も印象的で、波乱万丈が二人を待ち受けるのね!みたいな期待を抱いて見始めました。

その回想の物語は戦争に翻弄され、愛し合っているのに離れ離れにならなければならない二人の切なさ、お嬢様だった小夜子が真一との楽しいデートのあとに家に戻ってくると父親が急死。病弱な弟と二人残され、叔父や叔母にいじめられ…さらには絶対に結婚を認めてくれない真一の父。二人の前に立ちはだかる数々の障害とそれでもその障害を乗り越えて結婚する二人・・・泣ける要素はいっぱいの王道のメロドラマ!・・・のはずなのに、映画に入り込めないまま、泣くこともなく映画終了。

 

その理由の一つは、なんだか冗長というか、最初から「人間ができている二人が愛し合っている」状態で、最後までそのまま、という、イマイチ起伏のない展開のせい。愛し合っている二人の間に、「裏切られた」という誤解があったり、あるいは身分や境遇に差があったりとか、すれ違いというか、そういうタイプの困難が横たわってなくて(小夜子の父親が亡くなる、ということはあるのですが、家もそのまま、ばあやもいて貧しくなったような雰囲気はなしだし、お父さんはその点で結婚を反対している風でもなく、あまり大きな問題にみえません)、ヤキモキしないのでありますσ(^_^;メロドラマ観る上で私の中で大事なポイント(私だけか?)、「引っ付いたり離れたりで上手くいかない二人の恋愛にヤキモキする」がありません。最初から絶対に離れないと分かる二人なので、盛り上がりポイントがないのです。

 

入り込めなかった理由の二つ目が見出し。1947年の作品なので、撮影当時の年齢は1909年生まれの田中絹代さんが38歳か37歳、1926年生まれの佐田さんは20歳か21歳か。

田中さんは回想前の割烹着姿は違和感ないのですが、回想が始まると女学生(セーラー服に三つ編み)。佐田さんは学ランに下駄、角帽の男子学生。その後も、田中さんの衣装は可愛らしいのですが、いずれも若い女性が着るのだろうなー、という服装。

佐田さんは実年齢そのままの役なのに、田中さんは元々お綺麗な方なのは知ってはいてもやはりアラフォー、目尻のシワやアゴのたるみは隠せず(しかも、感覚的には現代より老けてみえます)。どうにも若作りのように見えてしまい、この二人の組み合わせの違和感が最初から最後までずーっと横たわります。例えば、相手役が佐田さんではなくて田中さんと同年代の方だったり、実年齢に近い設定であれば気にならなかったのかもしれませんが(「風の中の牝鶏」の時は20代後半という設定で、これもまぁ「?」ってなったのですが、相手が佐野周二さんだったのでそこまでひっかからなかったんですが)、どんなにキレイな方でも、やはりこれにはちょっとムリが(^◇^;)しかも、木下監督なので佐田さんがめちゃめちゃハンサムに撮られていて(ジャケ写でも分かる!)、その対比で余計なのですσ(^_^;

 

と、そんなワケで、久しぶりに観た木下作品。これまで観た作品はどれも観終わった後に作品として印象深いものでしたが、今回は残念ながら、印象深かったのはタイトルロゴと佐田啓二さんの美しさ、ということになりました(キレイな田中絹代さんを観るためには何を観たらいいのだろうσ(^_^;愛染かつらあたりか?)。しかし、観る作品ごとにうけるものが違っていて、すごい監督さんだなー、とあらためて思うのでした。

 

 

 

 

吉村廉/古賀聖人監督「虹の谷」(激怒する牡牛)

教育映画とあなどるなかれ。

f:id:kinakokan0620:20181017233016j:plain


 

【映画についての備忘録その37】吉村廉/古賀聖人監督×月田昌也主演「虹の谷」(激怒する牡牛)(1955年/1957年)

 

阿蘇山の麓の村。牛山師だった円吉(菅井一郎)の飼う牛に牡の仔牛が生まれた。孫の繁と仔牛は仲良く育ち、繁はたくましい青年に、仔牛は見事な巨牛となる。

繁(月田昌也)は円吉と同じ牛山師となり牛山師たちの頭領・岩吉(河津清三郎)の引立てで、みるみるうちに仕事を習得し、信頼を得ていく。しかし、この様子を同じ牛山師で乱暴者の鉄三(石黒達也)は快く思っていなかった。そんなある日、巨木を六頭の牛で引いて急坂にさしかかった時、元牛をやっていた鉄三の牛がどうしてもいうことを聞かないので、岩吉は元牛を繁の牛に代らせて無事に難所を切り抜けた。その帰途、鉄三は繁を待伏せして、自分の牛を繁の牛にけしかけ、先刻の仕返しをしようとした。だが、鉄三の牛は闘おうとしない。激怒した鉄三は自分の牛を殺し、祭の夜、酔払って繁の家に暴れ込んだ。しかし、繁も円吉もいないので繁の牛に八ツ当り。繁の牛は反撃して、鉄三を暗い崖下に突落した。

山の掟で人を傷つけた牛は殺さねばならない。だが、鉄三を快く思わぬ岩吉らの計いで、繁は牛と共に故郷を離れた。山を越え川を渡り、仕事場を求めて繁と牛の流浪の旅を続ける。そして、川のほとりの村で少女ツル(左幸子)と知り合った繁は、材木商をしている彼女の家で働くことに。

一方、鉄三は牛を連れて逃げた繁への怒りが収まらず、復讐のために執拗に繁を探すのだった―。

 

 

シネマヴェーラ渋谷の「玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のまだまだディープな世界」特集、最後を飾るのは!?こちら。もう観てから一ヶ月くらい経っちゃって、備忘録書くかどうしようか、とも思ったのですが、こちらも「玉」のほうの映画で、記憶がもう大分朧気になってますがσ(^_^;忘れてしまわないうちに、書き残しておきたいな、と。

 

まずはタイトルの説明から。元々の制作時のタイトルは「虹の谷」で、新東宝の配給時のタイトルが「激怒する牡牛」だそうです。「虹の谷」ではどんなお話か想像つかないし、たくさんの映画を面白そうなタイトルに変えて上映している大蔵新東宝、「虹の谷」じゃ客が来ないだろ!みたいなことで変更したのかな。激怒してたかっていうと「?」だし、だったのですが、まんまとタイトルに興味をひかれてしまい、鑑賞。

 

この映画、シネマヴェーラ掲示してあったプレスシートなどに“文部省推薦”(と他にも色々と教育機関の名前が)と書かれていて、いわゆる教育映画だったようなのですが、もうね、むしろその看板のせいで観る人を限定してしまうのが勿体ないよね、という作品でした。

 

繁の仕事の牛山師というのは牛を使って材木を運ばせるのが仕事。材木を牛に引っ張らせて山の麓まで運んで行きます。阿蘇山で切り倒した大きな材木を引っ張って物凄いスピードで急斜面を下る牛さんと牛山師。何頭もの牛とそれぞれについている牛山師との連携です。引きの絵でスクリーンいっぱいにその仕事の様子を撮っているのですが、これが結構な迫力。見るからに危険な仕事でみていてハラハラ。大自然を相手に牛と人の信頼関係がないと無事に麓まで行けないのだろうなー、という命がけの仕事の力強さが伝わってきて釘付けに。

 

牛さんと繁の信頼関係も素敵。牛さんが生まれたときから二人は一緒。そこそこ大きく育ってきたところでおじいさんが売りに出そうとしたところを泣いて嫌がり、おじいさんは売るのをやめます(変わりに母牛が売られちゃうんだけど(^◇^;))。一緒に育ち、牛山師となった繁と牛さん。牛山師は一応、言うことを聞かせるためのムチみたいなものも持っているようなんですが、繁は牛さんにムチ打つことはしないで話しかけるようにして一緒に仕事をしていきます。牛さんの目が優しそうなのもあって、牛さんと繁がお互いを思いやっている感じがして、ほっこりします。

繁はツルとお祭りに行ったり(この時、町に出るのに材木を運ぶトロッコに相乗りして行くんだけどこれがすごくかわいい)、お互いを意識しあうのですが、ツルからもらったお守りをしれっと牛さんにかけてやろうとするシーンがあったり、ツルが間に割って入るのはなかなか大変そうな繁と牛さんの仲の良さwそして「なんで牛にかけちゃうの!?」とツルがヤキモチ焼いちゃうのも微笑ましい(๑'ᴗ'๑)(なお、解決策は繁と牛が交互につける、でしたw)

 

で、この繁と牛さんとツルのほっこりした場面と対比するように描かれる繁を執拗に追いかける鉄三のねじ曲がりっぷりが、教育映画だというのにいい人だけじゃない、面白さで。円吉やツルの祖父の元へ繁の居場所を探りに子分を連れて現れたり、「虹の谷」というタイトルで牧歌的な作品を想像してたのに鉄三のおかげで?全然そんなことなくて。祭りに出かけた後、町からトロッコで帰ってくる繁と船(だったかな?)で繁を探しにやってきた鉄三達がすれ違いそうになるシーンなんかはもう、サスペンス映画観てるかのようなドキドキ感でした。

 

クライマックスでは鉄三が繁と牛を追いつめるために鉄砲堰をきり、激流に飲み込まれそうになります。その激流の勢いに自然の脅威と、必死に牛を救おうとする繁に牛さんとの絆の強さを感じ、そして、その姿に改心する鉄三に心打たれ、という怒濤の展開。最後まで飽きることのないストーリーです。

 

阿蘇山周辺の自然、牛山師の仕事、そしてこの当時の生活様式-囲炉裏のある家や竹筒の水筒、牛の仕事が徐々に車に取って代わられる様子(そのため、流浪の旅はなかなか仕事が見つからず長引きます)-なども見ていて興味深く(風俗史として勉強になるという意味では今の時代からしたら文部省推薦かもw)、とても見応えのある映画でした。今回の特集上映がなければ一生見る機会がなかったであろう映画のように思いますが、観ることができて良かったなぁ、と思う一作でありました。

 

【おまけ】

気がついたら玉石混淆とか言いながら「玉」だけじゃん!みたいなシネマヴェーラ渋谷の新東宝特集の備忘録になっていますが(「男の世界だ」は映画のでき云々の前にハンサム・タワーズが見られるというだけで「玉」認定ですw)、実は「石」も観ていますw

スター勢揃いの「波止場の王者」です。"ガス・タービンAZの設計図を狙う国際ギャング団と対決する、正義の青年技師をめぐっての活劇篇”。宇津井健さん主演、久保菜穂子さん、三ツ矢歌子さん、丹波哲郎さん、などなど、豪華俳優陣。なのにゆるい!青年技師=ぽっちゃり好青年の宇津井さん主演で若者の更正みたいなことも盛り込んで。。。ということでアクション映画のはずが、宇津井先生の熱血教師の物語を見ているような感もありw苦笑しながらの鑑賞で、違う方向で記憶に残った映画でありましたw

 

「玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のまだまだディープな世界」の「玉」映画の備忘録
kinakossu.hateblo.jp

kinakossu.hateblo.jp

kinakossu.hateblo.jp

 

 (玉って言っていいかどうか分からないけど面白かったやつ)

kinakossu.hateblo.jp

 

小森白監督「大虐殺」

あれ?思ってたんと違う。


f:id:kinakokan0620:20180927203657j:image

 

【映画についての備忘録その36】

小森白監督× 天知茂主演「大虐殺」(1960年)

 

大正12年9月1日、関東大地震発生。社会主義者や一部の朝鮮人が井戸へ毒を投げ入れているなどの流言がささやかれる。社会主義者や不逞鮮人の一掃を企てていた軍部は、この機を活用して目的を達成しようと図る。何の罪もない社会主義者朝鮮人らを多数逮捕。次々と処刑して行く。社会主義者大杉栄の弟子である古川(天知茂)も逮捕されたが、混乱のなか何とか逃げだすが、軍部の非道に大いなる怒りを感じる。

やがて、その大杉栄細川俊夫)が甘粕大尉(沼田曜一)によって拘束され殺害される。これに怒った古川は同じく大杉の弟子である和久田、青地、村上らとともに、軍部打倒のために立ち上がった・・・。

 

こちらもシネマヴェーラ渋谷の「玉石混淆!? 秘宝発掘! 新東宝のまだまだディープな世界」特集で鑑賞。この特集上映が始まる前に映画秘宝から出ている「異端の映画史 新東宝の世界」を図書館で借りた際に(以前書店でかいつまんで立ち読みして(すみません))いざ買おうと思ったら売り切れていたという。。。)、記載されていた映画のレビューと、シネマヴェーラのチラシに載ってた“捕まる天知茂”のカットを見たらめっちゃ気になってw観てみたくなって行ってきました。

 

ストーリー、そしてタイトル、どちらからも重たい映画なんだろうと想像して、心して鑑賞。

 

古川が牛メシを食べようかと注文して待っている時に大震災が発生します。それまで、周囲は酒を飲んで不況に愚痴を言ったり、苦しい生活ではあるけれども、普通の人達の普通の時間が流れている。。。そこへ突然の震災で大混乱が起きます。崩れていく家屋、その下敷きになる人、割れた地面に挟まれる人、逃げ惑う人々。普通の日々が突然に奪われるのだという、震災の恐怖が伝わってくる迫力ある始まりで一気に引き込まれます。

 

そして、この映画のタイトル、「大虐殺」へ。軍部は社会不安に乗じて社会主義者朝鮮人を一斉に逮捕して刑務所に収容し、次々と射殺。その騒ぎが大きくなって周辺の住民に気付かれそうになると処刑を中止して、全員をトラックの荷台に乗せます(複数台に別れた、とても多い人数です)。そして広々とした河川敷までやってくると、全員を解放、トラックから下ろします。処刑を免れたとホッとし、家へ帰ろうと喜び合う人達。軍部はそこで機関銃を向け、一斉に射殺。古川は倒れた人達の影に隠れたりしながらなんとかその場から逃げ切り、大杉栄の家へたどり着きます。

この阿鼻叫喚の様子はどこまでが実話なのか分かりませんが、映画と分かって観ていてもかなりの恐怖です。罪のない沢山の人達を見境なく射殺していく軍部の非道に古川が怒りを感じるのも然もありなん。やはり社会派な感じで重たい映画だわ・・・と思いました。

 

この虐殺の現場を生き延び、そして師である大杉栄が甘粕大尉に殺害されるにいたり、古川は、同じく大杉を師とする社会主義者の仲間達と、この惨事を引き起こした軍閥の打倒のための手段としてテロを計画します。

 

こっからの計画と展開は以下の通り。

 

①資金調達のために大阪に行き、銀行員を襲う

 →銀行員はなんとしてもお金を渡す訳にはいかないと古川や青地に襲われても決してお金の入ったカバンから手を離しません。古川は脅しのためにもっていたナイフで銀行員を刺してしまい、結局金を奪うことなく逃走。銀行員は死亡。次の作戦へ。

 

②陸軍の会議の前に戒厳司令官の福田大将を殺害する

 →朝鮮系の組織に手を借り、缶詰爆弾を作成。陸軍省に入る福田大将に青地がその爆弾を投げるという算段。しかし、会議の開始が1時間遅れ、周辺をうろついていた青地は警官に怪しまれて計画失敗。次の作戦へ。

 

・・・あれ?

 

③大震災一周年の行事での福田大将の記念講演会で殺害する。

 →福田大将が車から降りたところを和久田が銃で狙う、という計画。見事命中するも、実弾ではなかったため(暴発したときの安全対策のために入れられていた空砲みたいなやつだった)、福田大将ノーダメージ。計画失敗orz次の作戦へ。

 

・・・あれれ?

 

陸軍省で行われる陸軍の主要ポストの人物が集まる会議で全員まとめて爆殺

 →電話の修理員を装って陸軍省に潜入成功。会議が行われる部屋に爆弾を仕掛け、導火線をカーペットの下に敷いて、暖炉横の排気口の中に隠れ準備万端。・・・も、不審人物が陸軍省に潜入したとの情報が入り(古川の恋人・京子が古川の計画を知り、彼を死なせないために警察に密告したため)、警戒する陸軍。会議室に入ってきた人が導火線につまずき、隠れいていた古川たちが気づかれ、逮捕。計画失敗orz

 

・・・思ってたんと違う!!

 

「デザイン あ」の笑い飯と同じ気分です!!社会派映画を観に来たと思っていたのに気がついたらテロを計画しては失敗する古川たち、というのをひたすら見せられ、「次はどんな計画をするのかな?成功するかな?」というそのドキドキを楽しんでくださいね、みたいなエンタメ映画になっていたのです!

 

一応、「テロは階級闘争的に正しいんだ!」みたいな台詞があったり、最後捕まった古川が「虐殺事件はなぜ処罰を受けないのだ!俺たちが死刑になっても後に続く者は出てくる!軍閥が亡びる日が来る!」みたいなことを叫んで終わるという、社会派っぽい要素はあるんですけど・・・とってつけたようなw

 

というわけで、映画としてはそこそこ楽しみつつ、想像とは全く違った作品でした。やっぱ大蔵新東宝ってことか!

 

そうそう、この映画、「女王蜂と大学の竜」では達に騙されて土橋組に乗り込んであっという間に死んでしまっていた久雄=杉山弘太郎さんが古川と一緒に最後まで活躍(活躍?)。「男の世界だ」=北島組長 でも「火線地帯」=重森商事の幹部 でも敵側だった和久田=若宮隆二さんが主人公の仲間、と顔なじみ(勝手に)wになった俳優さん達の違う面を観れたのも楽しかったです。

 

“捕まる天知茂”、気になるよねぇ・・・

f:id:kinakokan0620:20181004230829j:plain

 

小野田嘉幹監督「女巌窟王」

ザッツ 大蔵新東宝 エンターテイメント! 

 

 

 

【映画についての備忘録その35】

小野田幹嘉監督× 三原葉子・万里昌代主演「女巌窟王」(1960年)

 

 九州の南にある港町のキャバレーで麻薬組織・岩原組の根城ー“ブルー・ムーン”。ここで踊るルミ(三原葉子)とエミ(万里昌代)は姉妹だった。ボスの岩原(江見俊太郎)はエミを、支配人の矢島はルミを、それぞれ力尽くで手込めにし、情婦にしていた。姉妹の兄である慎一は船員だったが、麻薬とは知らず岩原の仕事を手伝った。船は他の麻薬組織に襲われて麻薬を奪われ、激怒した岩原は慎一を地下牢に閉じこめる。ルミに好意を抱く組員・武志(高宮敬二)により慎一は地下牢を脱したが殺し屋の健(沖竜次)に見つかり殺害される。岩原はすべてを知って逃げ出そうとしたルミとエミも消そうと決める。

麻薬を奪った金竜組と孤島で対決し、金竜組を壊滅させる岩原。そしてその場に連れてきていたルミとエミにも銃口を向ける。二人をかばう武志とともに洞窟に逃げ込むが、岩が崩れ、武志は下敷きとなり、二人は閉じ込められてしまう。

幾日か洞窟の中をさまよい歩き、奥深く逃げこんだ二人は、数百年前の宝石箱を発見する。そして岩で岩を砕き、脱出に成功した二人は、偶然ヨットで沖を通りかかった青年・英次(吉田輝雄)に助けられる。二人は財宝と英次の助けを得て二階堂と改名し、岩原組への復讐を開始する。。。

 

 

小野田監督、新東宝という映画会社の存在を知る前から「鬼平犯科帳」とか小林桂樹版「仕掛人・藤枝梅安」でお名前を拝見していたのを覚えていて(小杉役の柴さんが観たくてDVDを買ったり)、その小野田監督の映画、まさか全然違う方向で面白い映画だったとは!という作品w

 

予約してたけどなかなか来なくてあきらめて忘れてたらDMM.comからやってきましたDVD。「大デュマの傑作に比肩する」(予告編でそう出てるのよ!YouTubeでも観られます)と謳われる本作。

f:id:kinakokan0620:20180922234703p:plain

モンテ・クリスト伯」に比肩するかどうかについて論争が起こる余地もありませんでしたが。+゚(*ノ∀`)理想的な?大蔵貢時代の新東宝の1作に出会えたことに感動した(!?)映画でありました(゜∀゜)

 

出だしからセクシーな衣装で踊る三原葉子&万里昌代。キャバレーのダンサーだからね!いやー、でも妖しい音楽と、そして、下手ではないにしても上手いとも言いがたいダンス。+゚(*ノ∀`)ユルい!とってもユルい!二人はセクシーなんだけど洗練されたセクシーって感じでもなくてそこも良いw

f:id:kinakokan0620:20180922234745p:plain

 

もう、映画全体としてはストーリーは適当感満載であってないようなものというか。+゚(*ノ∀`)アクションとエロをどう入れ込むか、みたいな映画でwそうだよね!こういうのだよね!大蔵新東宝

 

逃げ込んだ洞窟が崩れて閉じ込められる二人。

f:id:kinakokan0620:20180922234950p:plain

何日も歩き、やっとの思いで洞窟の外に出る(この時、すんごい偶然に!!海賊が残したらしい宝箱を発見!も、どんな財宝が入ってるかは明かされぬまま。+゚(*ノ∀`))。が、そこは殆ど船も通らない孤島。なかなか助けがこない。。。そして、ノースリーブで膝丈のかわいいワンピースだったのに、洞窟の中を彷徨ううちにどんどん破け、最後は水着のようになり、結果、ややバカンス風味に。セクシーな二人。

f:id:kinakokan0620:20180923001903p:plain

 

そして、やっと通った青年に助けられます。予告編の「名も知れぬ美青年」は正しい。82分の映画で70分がすぎようかというところでようやく彼の名が「英次」であることを我々(だれ?)は知らされます。

f:id:kinakokan0620:20180923001950p:plain

 

「美青年」。ほんとハンサムヾ(o´∀`o)ノ

f:id:kinakokan0620:20180923002256p:plain

 

九州の南から話が始まって、そこにいたはずの岩原組。ところが、復讐の舞台は横浜で、岩原もなぜか横浜に。健も一緒。支配人・矢島も一緒。もう、わけが分かりません。+゚(*ノ∀`)たぶん、そんなことはどうでもいいのだ、この映画は!セクシーに踊る三原葉子と万里昌代がすべてなのだ。

 

とはいえ、一応ね、こんな大きなスクリーンで見たら迫力ありそうなアクションシーンもあるよ!あと江見さんと沖さんの悪役も良かったよ!沖さんは「消されたライセンス」のデル・トロのようだったよ!

f:id:kinakokan0620:20180923002605p:plain

 

 

吉田輝雄さんファンになってから、色々見たり調べたりしていて、新東宝末期のエログロ路線の大蔵時代、というのは知識としてはあった訳です。が、自分が観ていた作品は「セクシー地帯」とか「黄線地帯」「女王蜂と大学の竜」とか石井作品が殆ど。それらはどれもクオリティーが高くて普通に面白いし、他に観た「スター毒殺事件」とか「契約結婚」、「爆弾を抱く女怪盗」「男の世界だ」なんかもエロは控えめで、ちゃんと(!?)ストーリーで見せる映画になっていました。なので、「女巌窟王」を観て、ついにその意味を理解!それが分かって、輝雄さんが観れて、まぁ、いっかwという映画でありました。

 

 

鈴木則文監督「任侠 魚河岸の石松」

抑えた声からにじむ感情。吉田輝雄任侠映画もっと観てみたかった。

 

f:id:kinakokan0620:20180922175547j:plain

 

【映画についての備忘録その34】

鈴木則文監督× 北島三郎主演「任侠 魚河岸の石松」(1967年)

 

築地の魚河岸の仲卸業者・遠海漁業に勤める運搬人“魚河岸の石松”こと木村松吉(北島三郎)。暴れ者だが義理人情に厚く、大東水産で働くキノキン(山城新伍)ら同じ運搬人の仲間達にも慕われ、「いわしの会」という組合を作って勉強会をしたり慰安旅行に出かけたり。

石松ら運搬人達に混じって汗を流す遠海漁業社長国枝(内田朝雄)の娘・美智子(長内美那子)とは、今は服役中の植村直樹(吉田輝雄)と3人幼馴染みである。直樹は先の親分の代に、魚河岸を我が物にしようとした代行の貸元を切って服役中だ。その直樹が服役している間に代貸だった砂川は二代目におさまり、金竜会は金竜興行と名を変える。先代の家の半分をキャバレーにし、魚河岸に乗り出そうとする砂川は、独航船の漁撈長花輪(村田英雄)に、自分が作る新会社に漁獲を廻して手を組まないかと脅すが、国枝に恩義を感じる花輪はその話を突っぱねる。何としても魚河岸へ手を出そうとする砂川は弟・英人と美智子を結婚させて遠海漁業を乗っ取ろうと考え、遠海漁業が大東水産から借りた6000万の返済と引き替えに二人の結婚をすすめようとするのだった…。

 

 

輝雄さんにとってはある意味分岐点となってしまった作品、俊藤浩滋さんがプロデューサーを務めた「任侠 魚河岸の石松」。東映チャンネルの放送で観ました。

この作品で俊藤さんに評価された輝雄さんは、俊藤さん直々に「人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊」へ出演のオファーをされたそう。当時のご自宅へ俊藤さんご自身が何度も通われて出演を依頼されたそうですが、恩師である石井監督の作品へ出演されることを決めます。そのことで俊藤さんの不興を買ってしまい、また、石井監督が異常性愛路線の作品を撮っていくことになり、以降の出演作を観ると、東映のメインストリームから外れ(怒った俊藤さんは輝雄さんの代わりに文太さんの売出しに力を入れるようになったとか)、異常性愛路線後の「殺し屋人別帳」(1970年)での石井監督との決別(という言い方はあってないかもですが)もあり、1970年をもって、デビューから多くの映画で主演、助演をつとめてきた輝雄さんのフィルモグラフィから映画がパタッと途絶えてしまいます。・・・その結果、「ゴールドアイ」の吉岡さんに出会えたのかもしれませんが。

そんなわけで、もし、これをきっかけに俊藤さんのほうへついて行っていれば、その後もたくさんの映画で吉田輝雄を観られていたのではないかな?とどうしても考えてしまうのですが、そんなことを思いながら見始めた本作。輝雄さんが演じた直さんは、俊藤さんが惚れ込んでしまうのも納得の、静けさの中に強さと熱い心をにじませる硬派ないい男なのでした。

 

輝雄さんの登場は90分の映画の後半もいいところ(^_^;42分くらいに写真だけ登場し、50分過ぎてやっと姿を現します。めっちゃ待たされた!

 

輝雄さんが登場するまでの前半はまさに魚河岸のサブちゃんの映画(そりゃ、サブちゃん主演だしな)。仲間思いで運搬人達のリーダー。世話になっている社長や幼なじみの美智子、その妹の陽子など、皆から慕われています。血気盛んでそのせいで問題を起こしたりしますが、運搬人の仕事に誇りをもって懸命に生きる、気の良い兄ちゃん。江戸っ子らしい感じ。

映画の初っ端からハチャメチャでwキノキンには金竜興行の経営するキャバレーにお気に入りのホステス・由美(って、これが石井富子さんなのがまたおかしいw)がいて、キノキンのためにキャバレーの飲み代にマグロ🐟一本背負って電車で移動して飲みに行くとか、もう騒々しいw

 【見て、この誇らしげな表情w】

f:id:kinakokan0620:20180920121642j:image

慰安旅行の先で女剣劇に混じって森の石松をやろうとしてみたり、由美に惚れられて逃げ回ったり、「任侠魚河岸の石松」の任侠ってどのあたりなんだよwってな人情喜劇風な展開w

 

で、そんな「魚河岸の石松」に「任侠」を連れてくるのが輝雄さん。登場してからは映画をさらっていきます。先代は「魚河岸の守り神」と慕われた人物で、ヤクザが魚河岸に手出しをすることを許さなかった人。直樹はその先代の命を受けて、魚河岸を荒らそうとした代行の貸元のところへ1人乗り込んで斬り、服役します。そして出所してくると砂川が二代目となり、先代が守ってきた魚河岸に手を出そうとしています。

 

直樹は服役前、代行を斬りに行く前夜、自分の死を覚悟して美智子にもう会わないと告げていました。しかし、まだお互いに愛し合っていると感じた石松は、出所した直樹と美智子を再会させます。美智子への愛と先代への義心を心の内に抱えている直樹。

堅気になってほしいという美智子に「体に染みついたヤクザの垢はとれない」と答えます。前科者となってしまった自分と会社の跡取りである美智子。2人の立場はあまりにも違っている。美智子を愛していても、先代への義理とヤクザの世界でしか生きられない自分では彼女を幸せにしてやることができない。周囲も認めないだろう。その気持ちを察した美智子は、直樹と2人なら家を出てもいいのだと伝えるのですが…


f:id:kinakokan0620:20180920174926j:image

「できねぇ。俺には出来ねぇ」

「どうして…どうしてなの?」

「俺は先代親分の心を受け継いでいかにゃあならねぇんだ」

「あんた、どうしてもっと自分のことを考えないの?私達のことを考えてくれないの?今はそんな時代じゃないわ」

「世の中がどう変わろうと俺の命は先代にもらったもんなんだ。俺は終戦の頃、浮浪児で死にかけてるところを先代に助けられた。今のままでは金竜会は暴力団に成り下がっちまう。だから俺は金竜会から目を離せねぇんだ・・・みっちゃん、分かってくれ」

「直さん、一つだけ教えてもらいたいことがあるの・・・あんたの心の中、昔のままと信じていいのね?」

直樹は静かにうなずきます。

 

兼業主婦、ここで(「続・決着」に続き)、任侠映画を見ながら恋の話に涙。つか、輝雄さんの演技に泣かされました。

直樹が美智子に今も変わらぬ愛をストレートに伝えるのは、映画の中でこの頷くところだけです。ただ、再会した時に美智子に向けた表情や、「先代の心を受け継いでいかなければならい…」という言葉を感情を抑えながら、それでも僅かに震えてしまう声で話す姿に、美智子への愛がにじみ出ていて。美智子を前にして、先代へ忠義を尽くしてヤクザとして生きるしかないのだという決意が揺れ動いている。でも、その動揺を美智子に見せてはならない、見せてしまえば美智子は全てを捨ててでも自分と一緒になろうとするだろう。しかし、先代のために生きると決めた自分の生き方。その覚悟を自身に言い聞かせ、美智子には堅気になって一緒に生きるということなどは叶わぬ夢なのだと思ってもらわなければならない…。

輝雄さんの抑制された演技が、かえって直樹の揺れ動く心情を鮮明にし、直樹の気持ちが伝わってきて切なく…。50年前の任侠映画を観て恋の話に泣くとかいう状況にσ(^_^;ほんと、めっちゃ切ないの。

 

 

と、また鈴木監督も直樹と美智子のシーンは見せ方とか音楽があざとい(゜∀゜)最初に直樹が登場したシーンは、石松と美智子が喫茶店でお茶をしながら、三人で鎌倉に泳ぎに行ったときの写真の中に写る姿。その喫茶店はステンドグラスで飾られ、クラシックが流れるお店。鎌倉に行った次の日に直樹は1人で代行を斬りに行きます。美智子は前夜に直樹と会わない約束をしているので、もう直樹とは会えない、と写真から目を背けて石松に話します。で、この時に目を背けた先に写るのはステンドグラスの中のおとぎ話のような王子様とお姫様。音楽は「白鳥の湖」だし、なんというあざとい演出(白鳥の湖は2人がその後再会した時にも流れます)w でも、これにまんまとやられてσ(^_^;美智子の気持ちも伝わって切なさが増したり。

 

 

そして、直さんのいい男っぷりが最高潮に達する、映画のクライマックス。

砂川は遠海漁業を追い詰め、国枝社長を死に追いやります。怒った石松は金竜興行に乗り込み、その後を追って直樹も金竜興行へ。先代の意志をないがしろにした砂川への怒りでドスを抜きます。

直樹は何度も切りつけられ、銃弾を受けながら砂川を追い詰めます。すでに深傷をおっていましたが、石松が砂川を刺そうとするところを制するように自分が前へ出て砂川を仕留めます。そして砂川の日本刀でさらに深い傷を負います。立っていることもままならず、石松に支えられながら机にもたれかかる直樹。

f:id:kinakokan0620:20180922180919j:plain

「兄貴!お前、俺にわざと殺しをさせなかったんだな」

「石、すまねぇが車を呼んでくれ、自首するんだ」

「そいつは行けねぇよ。お前にはみっちゃんって言う大切な人があるんじゃねぇか!俺にお前の身代わりをさせてくれ!」

「バカ野郎…俺を見損なうな」

直樹は石松に肩を支えられながら外へ出ようと歩きだします。そこへ駆けつける美智子。

「・・・直さん!」

「みっちゃん、俺は今日までお前を悲しませてばかりきたっけな。だが、それも終わりだ。何もかも忘れてくんな」

美智子のことを思って別れを告げる直樹。それでも石松を間に、また美智子の元へ戻ってくると約束をし、再び石松に肩をかりて歩き出します。しかし、足取りは遅く、すぐに膝から崩れ落ちてしまう。目の前も暗くなっていき、自分の死を感じながら、それでも歩くことをやめません。そして、駆け寄って肩をかそうとする美智子を、いらないことだ、と言うように制して歩みを進め… 

 先代への義心、石松との絆、愛する女性の前では強くありたいという意地。それら全てを自分の命をかけて守る。この時も輝雄さんの演技はやはり感情を露わにするようなものではなく、静かで、しかし、そこから直樹の熱い思いがにじみ出ます。侠気を感じさせ、それが真っ直ぐに観ている側に伝わってきます。ホント、直さんいい男。

 

今回、輝雄さんの任侠映画石井輝男監督以外の作品を観るのは初めてでした。(っても東映で石井作品以外の任侠映画ってこれだけですが(つд`))

で、最後の金竜興行への出入りのシーンが石井監督のそれとは全く違っていて、まだ観たことのなかった吉田輝雄を見ることができました。石井監督の任侠映画は、最後の立ち回りは長ドスを振り回し、派手に真っ正面から敵にぶつかって行きます(私のここまで見た作品のイメージなのでそうでないものもあるかもですが)。絵になる華やかさを求めているような感じ。一方、今作(というか鈴木監督の特徴なのかな?)では大勢のヤクザを相手にするのに短ドスを手にキャバレーの暗がりの中を這うように進み、静かにヤクザを刺していきます。砂川の弟・英人と対峙したときも、体ごとぶつかるようにして刺し、2人で倒れ込む。現実的で泥臭い立ち回り。石井作品のダンディズムを体現しているような輝雄さんをたくさん観て、それがぴたりとはまっているなぁと思っていた訳なのですが、その対極にあるような泥臭い直さんの立ち回りは、石井作品では観ることのできない種類のカッコよさで魅せてくれていました。

 

「決着(おとしまえ)」シリーズ2作と「任侠 魚河岸の石松」で見た任侠映画吉田輝雄は、静けさの中に熱い気持ちを抱え、義侠心あふれる、硬派な”男が惚れる男”(かく言う私は女ですがwでも俊藤さんの眼鏡にかなったのだから、間違いではないな)でした。もし、このままこの路線の作品を選んでいたとしたら、橘真一、とまではいかなかったかもしれませんが(私的には今作の直さんも、「決着」シリーズの鉄次や譲二もそれ以上ですが(//∇//))、印象深い侠気あふれるヤクザが1人スクリーンにいたのではないかなぁ、と考えたり。

 

え~っと、割いている量が全然違うけど、主役はサブちゃんですwサブちゃんも立ち回りとかイキイキしていて似合ってました!歌も聴けるし!!あと村田英雄さんの花長さんもカッコよかったなぁ!