T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

井上梅次監督「踊りたい夜」

That's entertainment! 楽しくて、切なくて、前向きになれる、ミュージカル映画

 

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【映画についての備忘録その93】

井上梅次監督×倍賞千恵子主演「踊りたい夜」(1963年)

 

東京のナイトクラブで人気のショーダンサー、”ピンクタイツ”。南真理子(水谷八重子)、南由利子(倍賞千恵子)、南美智子(鰐淵晴子)の三人姉妹、マリ、ユリ、ミッチーだ。彼女達の父親・亀三(有島一郎)は、昔は売れない手品師として地方を回る芸人であったが、今では娘達のマネージャー。そして、稼いだ金は若い情婦に貢いでいた。

亀三はギャラが良ければ娘達をどこへでも連れて行く。今日の舞台が終われば明日からは東北をまわるのだという。ただし、マリとの仲が険悪で言いづらいらしく、明日からは仙台である、ということことを彼女にだけは伝えていない。

作曲家の沖(吉田輝雄)は同じクラブでピンクタイツや島津(藤木孝)のミュージカルに曲を提供している。彼はマリを秘かに愛していたが、マリはホテルチェーンの息子で金持ちの山田(穂積隆信)にひかれていた。明日からの仙台行きを知っている沖は、3人を食事に誘い、今日、マリにプロポーズするつもりだった。「後で行く」と言ったマリは、しかし、山田と食事にでかけ、姿を現さなかった。家までユリとミッチーを送った沖は、ユリと二人だけで話がしたいと誘い、マリに渡すつもりで書いた曲の楽譜をユリに託す。しかし、楽譜を受け取るユリの表情は切ないー彼女は沖を愛していたのだった。

翌朝、仙台行きを知ったマリは怒って家を出て、山田の元へ行く。その後、ユリとミッチーだけになったピンクタイツは、人気を失っていく。やがて、ストリップ劇場でダンスをするようになり、亀三は劇場の支配人に今の倍のギャラを出すから、と言われ、二人に裸にならないか、というのである。

二人の様子を心配して訪ねてきた沖はその話を聞いてしまう。怒ったミッチーは父とはもう一緒にいられない、と飛び出す。ユリはそれでも残される父を思ってためらう。沖はそんなユリを見かね、彼女を引き取るという。「何の権利があるんだ!」と言う亀三に沖は思わず「ユリさんにプロポーズします!」と宣言してユリを連れて出ていく。勢いで出てきた沖だったが、ユリを愛していることに気付き、あらためてプロポーズする。ユリはショーダンサーから身を引き、沖との生活を大切にしていこうと決意する。

父の元を飛び出したミッチーは新日本バレー団の前にいた。いつか母の夢を継いでバレリーナになりたいという夢を抱くミッチーは住み込みのお手伝いをしながらバレー団に入団することに。そして、主宰者の団(根上淳)にその才能を認められ、厳しい練習に必死についていくのだった。

一方、マリは山田のホテルにいたが、妻に乗りこまれ、彼が養子であることを知る。虚しさに山田の元を出て東京に戻ってくるが、沖とユリのことを知り、しずかに姿を消し、福岡に流れ着く。酔いつぶれながら歌うマリは客を怒らせてしまい、支配人にクビを言い渡されるが、バンマスの津村(佐田啓二)はマリの歌の才能を認めてかばい、自分を大切にしろ、という。津村はかつて人気女優と結婚し東京でも名声を得て活躍していたが、離婚をしてから東京を離れて福岡にいたのだった。彼との出会いで、マリは再び歌い、踊りはじめる。

 

 

 

 

今作も輝雄様から送っていただいたDVDで鑑賞させていただきました(*´▽`*)井上梅次監督と組まれた作品は『犯罪のメロディ』と『真赤な恋の物語』、そしてこの『踊りたい夜』の3作で、どれもまったく違うタイプの作品。今作は中でもとくに素敵な役で、そして、見終わった後に、映画を観る幸せを感じられ、「楽しかったなぁ」っていうすごく素直な感情が残る素敵な映画でした。(倍賞千恵子さんとの共演作もあと『恋人よ』‐これも川崎の町工場で働いている、という輝雄さんにはレアと思われる役。いつか観られる機会がくるのが楽しみ(*'▽')‐を残すのみとなってしまったよぉ!)

 

 

そう思えたのは、まず何よりミュージカル映画としてきちんと楽しめたから!歌とダンスが華やかで、楽しくて、そしてそれが自然と挿入され(私、ウエストサイドストーリーでミュージカル映画アレルギーになっていた時期があり、ここが非常に大事なのですw)、感情を音楽に一緒にのせて観ることができたから。

 

井上監督は映画の始まりからワクワクするような楽しい気持ちにさせてくれます。オープニングがすでにショーの舞台。ここで歌い、踊る曲は劇中でも何度か登場する映画の象徴的な曲なのですが、これが明るく、力強く、歌やダンスへの愛とそれらがもつ力、さらに言えば日本の人たちの明るい未来への自信、みたいなものが伝わってきます。

海を渡ってショーが来たのは昔のこと

今はこの島からショーがうまれる

ショー!ショー!ショー!ショーは楽しい

涙かくして歌えるから

苦しみこらえて踊れるから

 

跳んではねてもメシが食えないのは昔のこと

今じゃ立派な稼業 ショーで金になる

ショー!ショー!ショー!ショーは楽しい

昨日を忘れて歌えるから

明日を夢見て踊れるから

 

そして、この歌の後に東京のネオンの風景にかぶせた「東京の夜は化粧する―」から始まるナレーション。

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ペコちゃんかわいい

 

東京―世界の東京となったこの街ではメロディもステップも外国の借り物ではなくなった

 

昔は色眼鏡をかけて観られたこの稼業も、今では立派にメシがくえるようになった。日本のショービジネスの中にも生活の川が流れはじめたのである。

これは、夜の花園に咲いた、あるショー一家の物語

 

この映画そのものが“ショー”だ、と感じられる演出。そして、この歌とイントロで、この”ショー”を観ているあなたの人生もまた、今が辛くても明日があるのだよ、自信をもって!と言われているように思えます。リアルタイムを知らない人間の憶測でしかないけど、オリンピックを前にした日本で、まだまだ豊かではない生活をしてる人もたくさんいて、それでも明るい未来が待っているよ、自信をもとう!自分たちは何でもできるようになるさ!と言うような前向きな力強さを感じます。

 

 

 

そして、もう一つは三姉妹が魅力的で、それぞれのストーリーがきちんと用意されていたこと。

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個性のある3人の、それぞれにぴったりな配役でした。3人が踊るナイトクラブの支配人(諸角啓二郎)の「マリちゃんはお色気たっぷりだし、ユリちゃんはなんとなく親しみが持てるし、ミッチーは可愛さでいっぱいだ」の評が言い得ている感じ

 

夢見る未来、生き方、そして好きになる男性。それぞれが全く違っていて、姉妹の個性にあわせた歌とダンスにあわせて応援したくなったり、切なくなったり、思い切った生き方に圧倒されたり。

 

ミッチーは自分に素直。自分の夢、憧れ、どうしたいのかそれらを素直に言葉にし、行動にうつします。バレリーナになりたいという夢に、全力でぶつかり、そしてまたそこで気づいたものを得て、次のステップへと踏み出します。

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母と同じくバレリーナになりたいという夢を抱き続けるミッチー。強い意志をもった女の子

 

 

長女のマリは自分をしっかり主張して、華やかで艶やか。”女らしさ”を武器にして自分の手に入れたいものは手に入れよう、という感じ。それゆえ、父と喧嘩して、東北周りに反対して男のもとへ走ります。

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♪”恋するなら女”と歌いきる、自我の強さ。

 


ユリは優しくて、自分のためより誰かのためを思って行動する、という女性。牧が姉のことを好きだと知っていて、自分の思いを伝えることもできず、彼がマリのために書いた曲を渡す役を引き受けてしまったり。

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姉のことが好きだという沖に、自分の思いを伝えられず。。。

 

 

そして、三人が愛する男性もまたそれぞれの個性にあった素敵な男性たちで、三者三様の恋の描き方と結末を迎えます。演じる男優陣もみんなはまっています(・∀・)

 

 

ミッチーはバレー団の主宰者、団に恋をします。年齢もずっと上(映画の中でユリに「あの先生、随分お年でしょ?」と言われて「38よ」とミッチーが答えたときの驚きたるやwあんなに渋い38歳は今お目に書かれないし、それで“随分お年”と言われるという!)。期待をかけるミッチーに余計に厳しくあたって指導するというツンデレ(つうかほぼツンなんだけど)ぶり。ミッチーにとっては尊敬する先生でもあり、その厳しい指導の中に愛情を感じ、師弟愛から恋へ。

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師弟愛から、恋が芽生える、と。

バレー団の新人公演も才能を認めるミッチーを端役に。その悔しさと反骨心で、倒れてしまうほどの猛練習をし、どんどんと上手くなっていきます。

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鰐淵さんほんとかわいい。お人形みたいです(*^_^*)

 

やがてミッチーは、定期公演の「白鳥の湖」で主役にキャスティングされることに。しかし、その発表をうけ、ミッチーは自分が客と離れた舞台で踊るのではなく、お客の中で踊るショーダンサーでありたいのだということに気づき、バレー団を去ることを決意します。

 

団はミッチーのその思いの強さに、バレー団をやめることを承知します。厳しさの中に相手を思う愛情を見せる団。

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「私はいつもこの人と見込んだ人には殊更厳しくあたる。そして嫌われる。そんな男だ」って、こんなセリフが似合ってしまう人はそういないぞ。

 


マリは山田と結婚するために、山田のホテルへ。金持ちと結婚すれば幸せになれるはず、と思っていたのにショービジネスから離れたことで、どこか虚しさを感じます。その上、山田の妻が現れて実は婿養子で甘い言葉もウソだとわかり、自分の求めていたものの虚しさに気付きます。東京へ戻り自分を好きだと言った沖の元へ…と思うのですが先に訪ねたミッチーから、沖とユリが一緒に暮らしていることを聞かされます。恋を歌いあげた女が恋に破れて行き着いた先で、かつて東京でも活躍していたサックス奏者・津村に出会います。

女優と結婚していたことのある津村は、ショービジネスの世界での成功と結婚生活とで悩み、苦しんだ過去があります。結局、両立はうまくいかず離婚。福岡でその傷をいやすようにくすぶりながら、演奏をしています。

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佐田さん、サックスを演奏するお姿も似合ってます(*'▽')

 

福岡に流れつくまですさんだ生活をしていたらしいマリに歌とダンスの情熱を呼び覚ましてくれた津村。ショービジネスの世界で希有な才能をもつ二人は心通わせていきます。(この時、元の芸人に戻って地方をドサ回りしている亀三が二人のいるナイトクラブにやってきます。これをきっかけに父娘は仲直り。)

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自身が一流のミュージシャンであり、マリの才能も認めています。彼女はショービジネスの世界にいることで輝く女性。それが分かっているから、二人の恋よりもショーの世界での成功を願い、愛していても一緒にいてはダメだ、と相手を思って身を引く、大人の恋。

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「君のような素敵な人に今まであったことがない」とか言いながら別れる切なさよ。

 


ユリは、ずっと好きでいながら気持ちを伝えられずにいた沖と結ばれます。

マリの派手さにあこがれていたけれど、愛とはもっと静かで、地味で、落ち着いたものだと分かった、という沖。その言葉が現すとおり、誠実で穏やかな沖は、そんな愛を交わし合うことのできるユリを愛するようになっていました。

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二人一緒に愛を歌い上げるシーンがかわいい。まさにミュージカル♪

 

沖は貿易会社を経営する父をもち、長男であることから両親からは会社を継ぐことを期待されています。だから、ショーダンサーだったユリとの結婚はなかなか認めてもらえません。ユリは沖の両親から、「音楽をやめて会社を継ぐように説得してくれたら結婚を認めてもいい」と言われますが、彼から音楽を取り上げることはできないから、と突っぱねます。沖は親に反対されながらも、ユリを幸せにしたいと結婚式をあげることに。

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ダンサー時代から仲間たちが集っていたお店で二人だけの結婚式。…と思ったら!

 

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一緒にショーをやってきた仲間からサプライズで祝福。ここは歌とダンスでとても楽しいシーン。藤木さん、島津役がぴったりで歌とダンスを堪能しました。

 

ユリはダンサーとして自分が舞台に立ってライトを浴びることよりも、沖の才能を信じ、彼が作曲家として存分に活躍できるように支えることに幸せを見出し、この幸せを大事にしたい、と願います。 

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テレビでダンサーとして復帰しないか、とユリに話すも、ユリはダンサーに戻ることよりも沖との静かな生活のほうが大事―「大事なのは私よりあなた。あなたの仕事よ」

 

そして、沖は島津たちとミュージカルのグループを作り、グループでテレビのショーを手がけるなど、どんどんと頭角を現していきます。

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♪”恋の盗人”と歌う、ショーが楽しい。

こんなプロのお仕事をテレビで観られるとかうらやましいなw

 

そっと静かに、しかししっかりと結びついている二人の愛。ところが、順風満帆にみえたユリと沖の間にも、マリやミッチーと同じように別れがやってきます。突然の、思いもかけない別離。

 

 

沖との別れに打ちひしがれながら、彼との思い出を胸に生き抜こうとユリは決意します。

そして、再び”ピンクタイツ”としてショーの舞台に立つことになったマリ、ユリ、ミッチー。心にはそれぞれの愛する男性への思いを秘め。。。

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 ♪

ショー!ショー!ショー!ショーは楽しい

昨日を忘れて歌えるから

明日を夢見て踊れるから

 

それは前を向き、新しい一歩を強く踏み出すためのショー!

 

 

というわけで、冒頭で抱いた印象は最後までぶれることがなくて、見出し通りの楽しくて、切なくて、前向きになれる、ミュージカル映画井上梅次監督がのちに香港でこの作品を自身でリメイクしたそうですが、それも納得の素敵な作品でした。

 

 

他にも、有島一郎さんのお父さんぶりがおもしろかったり、輝雄さんの歌唱シーン(松竹大谷図書館でこの映画の公開時の資料を読んだ時にここに触れた記事がなかったので吹き替えなんだろうと思うのですが、輝雄さんの声に似ているので、ミュージカルらしい動きと一緒に、本人が歌っているように思って観られるのもこの映画のいいところですw)が観られたり、本文中でも書いていますが藤木孝さんの歌声とダンスを存分に楽しめたりと、沢山の見所があった本作。

映画全盛期の、スターがスターらしく憧れの存在だった時代の香りってこういうのかな?みたいな雰囲気も感じて(実際の時間を経験してない人間が言うのもなんですがw)なんだか贅沢な1時間38分。

 

 

 

と、本編についてはまとめておきつつ…どうしても書きたい!輝雄さん@沖について。すっごいはまり役でした!!

 

沖は新進の作曲家だけど、大きな会社を経営する父を持つ長男で育ちが良いからか、ギラギラした野心とか、目立ちたいというようなガツガツしたものはありません。音楽を愛し、優しい恋の歌を作り、バンドマンやダンサーたち、多くの仲間から慕われています。誠実で、穏やか。実家が裕福なのに、ユリと二人で二間の小さなアパートに暮らしていることが本当に幸せそう。でも、両親が訪ねてくると、その振る舞いに育ちの良さが自然と出てくる。そんな沖の役が、とっても似合っています٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

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このありふれた風景のステキなこと(*'▽')

 

沖さんは「愛染かつら」の浩三様や「古都」の竜介さんや、石井作品で見せるようなキッときまった表情はみせません。旦那さんがお仕事して、奥さんが家庭を守ってっていう普通の夫婦の形の、奥さん思いの優しい旦那様の表情。

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石井作品や、他のこれまで見た松竹作品の、エリートでスマートな役でみる輝雄さんとは違うタイプ。穏やかで優しい表情が素敵な沖さんがぴったりで、こういう役こそが真骨頂だったのかな、なんて思ったり(「秋刀魚の味」の駅のホームのシーンとか、小津監督が引き出してみせてくれた部分ですよね)。沖さん、大好きな役の1つになりました٩(๑❛ᴗ❛๑)۶