T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「リングの王者 栄光の世界」

 石井輝男ワールド、夜明け前。

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【映画についての備忘録その71】

石井輝男監督×宇津井健主演「リングの王者 栄光の世界」(1957年)

 

魚河岸の青年塚本新一郎(宇津井健)はかねて東洋新聞の記者・畑から拳闘界入りをすすめられていた。新一郎も拳闘の世界で勝負をしたいという思いはあったが、母志づや恋人の京子(池内淳子)の反対もあり、その一歩を踏み出せずにいた。しかし家の借金や足の悪い妹敏子の手術代を手に入れるため、新一郎は拳闘家になることを決心し、畑を訪れた。畑は銀座裏のバーに彼をつれて行き、元ボクサーの岩崎(中山昭二)にトレーナーを頼む。岩崎は一旦は断ったが、畑の情熱と新一郎の熱意に動かされてトレーナーを引き受けることにする。

クラブで岩崎を相手に猛練習を続ける新一郎。その才能の片鱗に、同じクラブでライト級の有力選手、三田村(細川俊夫)やその取り巻きからは疎まれるのであった。やがて新一郎は前座に出て派手なデビューをしたが岩崎や畑の祝をよそに京子と連れだって帰る姿に、畑は京子を訪ね拳闘に女は禁物だ、彼の将来のために暫らく遠去かってくれと頼む。京子の姿がみえなくなり新一郎は落胆するが、果されなかった自分の夢を彼に託す岩崎の指導は厳しく、新一郎もそれに答え、連戦連勝を重ねていく。

その頃、試合毎に観戦に現れる女がいた。キャバレーのマダム、ルリ子。彼女の誘惑に心ならずもひきづられて行く。岩崎はそんな新一郎にかつて女のために身を持ち崩した自分を見て忠告をするが、新一郎はだんだんとルリ子にのめり込んでいくのだった―。

 

 

 

 

石井輝男監督の監督デビュー作。そして「無頼平野」で岡田奈々さんが歌う「ジュテーム」がもともとはこの映画で歌われていた歌だと教えていただいて気になっていた作品。石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲/ラピュタ阿佐ケ谷 で観られる!と思って楽しみにしていたのですが、なんせ輝雄さんのトークイベントのあった日の、その前の上映回だったもので、映画への集中力はややかけ気味での鑑賞だったのは否めませんσ(^_^;

 

 

そんな状況で観た映画のほうは「やっぱり石井監督だね」よりも「やっぱり宇津井健だね」のイメージの作品でありましたw私にとっての宇津井健さんは”薄汚ねぇシンデレラ”(By 石立鉄男)をこっそりと助けに来る刑事(笑)品行方正、公明正大な真面目な大人。で、本作はそういう映画で、石井作品に抱くイメージよりも宇津井健さんに抱くイメージの映画。石井監督も元々は清水宏監督とかにつかれたりしてたわけですし、そういう系統の映画になっても不思議じゃないか。

 

メリーゴーランドに乗る宇津井健さん。デートで照れる宇津井健さん。池内淳子さんも「セクシー地帯」の時とは違って少しふっくらしていて純情な少女。最初から爽やかすぎて、石井輝男監督の映画を観ている気がしません。まだ若い宇津井健はふらっと道を外してしまったりもしますが、ちゃんと軌道修正して真っ当に生きて、最後は京子と元サヤにおさまり、そしてボクサーとして成功をおさめる。ファイトマネーで妹の足も手術ができて治り、素晴らしいハッピーエンド。よくまとまった、絵に描いたような青春映画。

 

 

石井監督のインタビューを読むと、プロデューサーの佐川さんがこの企画をもってきたんだけど、アクションなんてやったことないから監督をうけるかどうか渋った、なんて話があります。でも、三田村とのノンタイトルマッチはスピード感があって流石。この後にアクション映画でヒット作を作っていく才能がすでにこの時点で感じられるのでありました(細川さんのほうがボクサーの雰囲気があってかっこよかったなw)。

 

 

とかなんとか書きつつ、やっぱり印象度としては石井輝男監督より宇津井健さんなわけです(笑)というわけで見出し。このコンビでいくつか作品もあるのは知ってはいるのですが(「スーパージャイアンツ」はいつか観たいw)、やっぱり石井監督の作品のイメージからするとあまり結びつかない宇津井健さん。作品自体が石井監督の世界観ができあがる前という感じで、だから可能だった組み合わせなのかも、と思ったり。そりゃ、天知茂(天知さん、この映画にも出演しているんですけど台詞が殆どなくて見逃しそうになりますw)、吉田輝雄と主演俳優が変わっていくわけですわ。

 

 

そうそう、劇中で歌われた「ジュテーム」。キャバレーの男性歌手(旗照夫)が白い手袋をはめて(歌詞の通りですね)歌います。「無頼平野」のレビューシーンとは違ってしっとりと歌い上げる歌は、旗さんの歌声の魅力もあって、これもまたとっても素敵でありました。(旗照夫さんについてWikipediaを読んでいたら「おかあさんといっしょ」の初代レギュラー、と書いてあって、「どんな”おかあさんといっしょ”だったんだ!?」と思ったことも書いておきますw)