T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

本多猪四郎監督「ゴジラ」

これは戦争映画だ。

 

 

【映画についての備忘録その57】本多猪四郎監督×宝田明主演「ゴジラ」(1954年)

 

太平洋の沖合いで船舶が沈没する事件が相次ぐ。大戸島の漁船が生存者を救出したとの情報が入るが、その漁船も消息をたち、若い漁師・政治だけが大戸島へと生きて流れ着く。そして、島を取材に訪れた新聞記者に、漁船が沈没した原因が巨大生物だったと語った。にわかには信じがたかったが、ある夜、その巨大生物が島を襲い、木はなぎ倒され、家屋や家畜はつぶされ、そして、政治と母親はつぶれた家の下敷きとなり、政治の家族は弟の新吉だけが生き残ったのだった。

この大戸島の被害に調査団が結成され、古生物学者の山根博士(志村喬)や助手で娘の恵美子(河内桃子)、その恋人でサルベージ機関の所長・尾形(宝田明)らで結成された調査団が大戸島に派遣される。この生物の通ったあとには三葉虫の死骸が落ちていて、足跡からは放射能が検知される。そして、彼らの前にその巨大生物ーゴジラが姿を現す。ゴジラは、密かに生き残っていた太古の生物が、繰り返される水爆実験の影響で目を覚ましたものだったのだ。

ゴジラの強大な力に人間たちは成すすべもなく、東京に上陸したゴジラは街を火の海に変えていく。その頃、山根博士の愛弟子である科学者の芹沢(平田昭彦)は、ゴジラを消滅させうる強力な“武器”を完成させていた―

 

 

ハリウッド版のゴジラがやってきて話題になっているタイミングで、初代のゴジラAmazon Primeビデオで初鑑賞しました。あの有名な音楽、ゴジラの咆哮、もう、オープニングタイトルからワクワクです。STAR WARSとかジョーズなんかも曲聴いただけでドキドキしますけど、それよりもさらに20年以上昔の日本映画。ほんと、すごい(ボキャブラリー貧しすぎw)。

 

私、子供の頃にそもそも映画に親しむ環境になかったため、ゴジラとか怪獣映画の類を観て育った記憶は皆無です。1970年代後半~1980年代前半にゴジラシリーズの制作がされていないようで、怪獣映画を観る適齢期(?)にそれらが作られていなかった、というのも大きいかもしれません(キン消しとか集める子供だったので、ドンピシャでやってたら観てたんじゃないかな、っていう)。

と、いうわけで、私にとっての怪獣映画は大人になってから観た「シン・ゴジラ」と「ゴジラ対へドラ」(これは柴俊夫さんめあてw)の二つ。それ以外で怪獣映画として平成ガメラシリーズの「ガメラ2」(これは石橋保さん目当てw)を観ただけ、という非常に乏しい鑑賞暦しかなくて、”他のゴジラ映画と比べて”、とか”怪獣映画としてどうか”、とか言う知識に基づいた感想はほぼなし。で、そういう人間が観た「ゴジラ」第1作の感想は、「こりゃ、戦争映画だわ」なのでした。

 

なぜそう感じたのかと言えば、第二次世界大戦の傷跡の生々しさ、強敵に立ち向かう集団としての人達の描かれ方、そして、志村喬さんをはじめとするゴジラに立ち向かう人の演技、そういった要素によるものでした。

 

特に大戦の傷跡の生々しさは、この時代でなければ描けないものだと感じました。ゴジラが東京に上陸するのでは、という段階での「やっと長崎から逃れてきたのに、また疎開しなければならないのか」という通勤電車での会話、銀座の松坂屋の下で迫り来るゴジラを見上げ、怯えながら「お父ちゃまの側に行くのよ」という母親とそんな母にしがみつく子供たち。死や戦争というものがすぐそばにあることが伝わってきて、怪獣映画というファンタジーを見ているというよりも、リアリティーのある物語を見たという、そういう印象が強く残ったのでした。

 

そして、海上保安庁自衛隊の、ゴジラに立ち向かって戦う人間たちの装備の貧弱さと、それに比較してのゴジラの強敵感。アナログ(って表現でいいのか?)な兵器が、「シン・ゴジラ」やら所謂SF映画を見たときのそれと比べて格段に「絶対に敵わない」というような絶望感を感じさせます。これは今の時代から観ているから感じる感覚なのかもしれませんが、なんというか、太平洋戦争の戦況が悪化していくなかで、アメリカに玉砕覚悟で向かっていく、そんな危うさを思わせるのです。さらに、ゴジラの被害にあって続々と病院に運ばれてくる人たち。戦うことのできない人達のなすすべのない―意識を失った母親と病院で離ればなれになり泣きじゃくる女の子、被害を受けた人の多さに治療が追いつかない病院―疲弊感。子供のための作品であれば、大人目線では「でも、最後は勝てるよね」みたいな流れを感じるものですが、ゴジラを前にした時の人々の無力感がヒシヒシと伝わってきて、やはりこれも、現実の戦争で勝ち続ける事などあり得ないということ、そして戦闘には華やかなヒーローが生まれるだけではなくて犠牲者もいるのだという、そういうリアルな戦いの厳しい物語を見せられているような感覚になったのでした。

 

最後に、山根博士役の志村喬さんと芹沢博士役の平田昭彦さんの演技(宝田明さんが主役なんですがσ(^_^;)。あくまでメインはゴジラ(主役はゴジラ、というのが正しいのかw)なわけですが、生物学者としての山根博士のゴジラという”生物”に対する思慮、芹沢博士の科学者としての自分が生み出したものへの責任と、それを使用することへの覚悟。スクリーンから二人の演技の真摯さが伝わってきて、ゴジラという脅威に現実味が与えられ、この映画を怪獣映画ではなくて、人の物語―つまりは戦争映画のように―にしているように思えたのでした。

 

と、なんだか深い感じの感想になってしまいましたがwもちろん、なかなか全容を現さないゴジラにどきどきさせられたり(「ジョーズ」の煽られ方はこれだな、と思いました)とか、アトラクション的な楽しみ方もたっぷり。当時、大人も子供も巻き込んで大ヒットしたのも、さもありなん、なのでした。そして、この映画、結局主役の尾形は正論言って右往左往しているだけで、「吸血鬼ゴケミドロ」の杉坂さんを思い出し、ヒーローって案外そういうものなのか?と思ったりしたことも付け加えておきますw