T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

五所平之助監督「100万人の娘たち」

安定のラブストーリーと、不安定な女性の自立の話。 

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【映画についての備忘録その45】

五所平之助監督×岩下志麻主演「100万人の娘たち」(1963年)

 

 一ノ瀬幸子(小畑絹子)・悠子(岩下志麻)の姉妹は宮崎交通のバスガイドだ。姉の幸子は東京で行われた全国バスガイドコンクールに出場し、優勝して帰って来る。その夜は悠子たち宮崎交通の同僚やバスガイド嘱託教師でホテルのフロント係の主任である小宮信吉(吉田輝雄)たちがそろって祝賀パーティーとなったが、有村日奈子(牧紀子)は一人暗い表情だった。元々は彼女が代表として出場する予定だったががノドを痛めてしまい、代役として出場した幸子が優勝したからだ。日奈子にとっては幸子は仕事上のライバルであり、また二人とも信吉に思いを寄せていた。悠子は、幸子に発破をかけ、また、信吉に会って、その気持ちを確かめるのだった。

やがて結婚した幸子と信吉。二人の結婚を祝福しながらも何かやるせない思いを抱える悠子彼女はその憂鬱な気持ちを晴らすため、同僚達とダンスホールに出かけ、そこで信吉のホテルの部下の柏木(津川雅彦)に声をかけられる。やがて二人で会うようになり、その噂に心配する幸子。幸子の心配もあって、悠子と会っていた柏木に声をかけた信吉は、柏木から、悠子が自分を愛している事を知らされ、自分の気持ちに気づく。そんな時、幸子に乳がんが見つかり、入院することになるのだった・・・。

 

 

古都のところで「観たい!」と書いていた輝雄さんと岩下志麻さんとの共演作「100万人の娘たち」。観る機会をいただきました。ありがとうございます!!もう、期待に違わぬ素敵な組み合わせのお二人。めちゃかっこいい!めちゃかわいい!でした(//∇//)(入口が吉田輝雄さんだったものだから、旧作邦画初心者なのに、五所監督とかもお名前を知ることになって、ほんとに良かったなぁと思います(๑'ᴗ'๑))

 

この映画のタイトル、“100万人の娘”というのは当時、東京で働くBG(ジネスガール)のこと。全国で200万人のビジネスガールがいて、そのうち100万人が東京で働いていた、ということだそうです。昨年、松竹大谷図書館でこの映画の資料を拝見させていただいたこともあって、“ビジネスガール” “バスガイド” “宮崎” と、当時の女性達のあこがれをつめて、女性の自立とか言ったことをテーマにした映画なのかな?というイメージでもって鑑賞しました。

(調べてみると、昭和天皇の第五皇女である清宮様の新婚旅行先(1960年)だったり、皇太子夫妻が訪問されたり(1962年)といったことで宮崎がこの頃から新婚旅行の行き先として注目されはじめた様子。また、バスガイドはやはりこの頃は女性の花形職業の一つだったようですし、大体イメージ通りかな、という。WikipediaによるとBGという言い方をやめてOLとなるのがこの年だそうです)

 

そして、そういった時代的な背景をひっくるめて映画を見終っての感想が見出し。メロドラマ、ラブストーリーとして観ると面白くまとめられた安定感のある映画だと思いました。ただ、もう一つのテーマであろうと思われる女性の自立の物語、という部分では、どこか的を射てない、実際とのズレがあるような、"想像する女性の自立の物語の型”を見ているような、何かしっくりこない気持ちで終わりました。

もちろん、私自身がこの映画の時代と違う時代を生きているので、私のほうがそもそもこの時代の感覚とズレているってことかもですが(笑)、過去に見たいくつかの、同時期に作られた映画(ここで備忘録を書いている「夜の片鱗」や「秋津温泉」、「秋日和」「女弥次喜多タッチ旅行」「肉体の門」「秋刀魚の味」「今年の恋」等々)にも、様々な職業で、仕事との関わり方も多様な働く女性が出てきていますが、それらに違和感のようなものを感じることはなかったので、やはりこの映画に対して感じる何かなのだと思いました。

で、その違和感のようなものの原因が何だったのかなぁ、と思い返してみて、その答えがわかりやすく凝縮されていたのが、バスガイドのゼミナールで東京に出てきた悠子が、東京でタイピストなどの働く女性達を見学している時にモノローグとして語られた台詞でした。

若い女性達がめざましく働いているのをみて胸を打たれた」

「この人達も私と同じような生活を送っているのかしら」

「全く同じ世代のこの女性達がいつの間にか私を追い越してずっと先を歩いているような気がしてならなかった」

悠子は宮崎で優秀なバスガイドとして働いています。バスガイドも立派な仕事。もっと言えば当時花形職業な訳ですから、憧れをもってみられる立場でしよう。宮崎であろうが東京であろうが、また、どんな職業であろうと、仕事を持って懸命に働いている女性に優劣などないと思うのですが、彼女は自立をするということを今の自分を否定することから始めているようで(ここには信吉への思いに悩む自分、という部分の否定でもあることは分かるのですが)。他の作品では自分のいる場所で懸命に生きている女性達でしたが、今作の悠子は自分の現在地を認めた上でステップアップして次へ行くのではなくて、否定して別の場所へ行くわけです。既に自分の居る場所で懸命に仕事をしている女性が、東京の他の女性達の姿と比較して自分を否定して、それを起点として、前向きな決断のように描かれている。何だか私にはそこに心情の移り変わり方という意味でのリアリティがないように思え、どこかしっくりこなくて、上述したような想像上の“型”を見せられているような印象をうけたのでした(例えるなら、メディアでもてはやされる若手論客の人が必ずしも若くなかったり、フェミニストの人の意見が女性の代表的意見ではないという、そういう”期待される型”を見せられているような感じ)。

 

 

と、自立の話としてはなんだかしっくりこなかった訳ですが、ラブストーリーの部分は王道のストーリーで、それがめちゃカッコいい輝雄さんとめちゃかわいい志麻さんの組み合わせで展開されるので٩(๑❛ᴗ❛๑)۶キュンキュンしながら楽しむことができました。

と、その前に。姉の幸子の結婚前と結婚後の変化がぞっとするほど上手く描かれています。結婚前は信吉に自分の思いを伝えることすらできなかった幸子。ライバルだった日奈子のほうは積極的に自分の思いを伝え、一方の幸子は「静かな女の人が好きだ」と言う信吉に選ばれるほどで。そんな幸子が結婚した途端に今でいうところの“マウントをとる”ような発言を連発(^-^;) 

結婚後に初めて二人の新居を訪ねた悠子に、幸子は色々と饒舌に話します。日奈子が会社を辞めたことについて「有村さんって自信家だったからショックだったのね、私達の結婚」とか、「女は結婚しないうちは一人前じゃないって言うけど、それ本当よ」「悠子にはまだ分らないのよ、家庭の味ってものが」等々。結婚前の幸子に発破をかけた悠子ですが、幸子が信吉にプロポーズされたことを話した時の悠子の態度に幸子は“何か”を感じ取ってはいて、でも“信吉に選ばれたのは自分”という自信がどこか無意識的に他の女性よりも上であるかのような態度や発言になります。うん、怖い(^-^;)そして、何とも言えない現実にいそうな感じ(結婚前と後では心境が変わってしまうというのは殆どの女性に共通する感覚かな、と)。

 

で、この幸子のナチュラルに上から目線な発言の変化に、女子的には悠子を応援したくなる展開に。

2人の結婚前は、自分から告白できない幸子に変わって信吉の気持ちを確かめに行ったりして(休暇を取って青島“鬼の洗濯板”で1人写真を撮っている信吉のところへやってきます<TOP画像の場面>。この映画は宮崎の観光地や景色も楽しめます)、幸子の恋の“ディレクター”を買ってでていた悠子。で、信吉から日奈子は眼中になくて幸子が好きだと聞いて安心しながらも、どことなく寂しげな表情に。信吉のことが好きなのにお姉さんの恋の応援しちゃうのね、っていうのが分かります(>_<)信吉のほうは悠子の気持ちには気付いているのかいないのか、気付かないようにしているのか、妹としてしかみていなくて、「悠ちゃん(の結婚相手)にはおとなしい人のほうが合うのかな」なんて発言で無意識に悠子を傷つけてしまうし(・д・)なんだこの王道の展開!なんとも切ない!(信吉のこの鈍いのが輝雄さんの素直そうな感じとあってるし、悠子の妹らしく振る舞おうとする姿は志麻さんの可愛らしい表情なのに凜とした雰囲気にはまっているしで良いです(๑'ᴗ'๑))

そして、信吉のことを忘れようと悠子は柏木とつきあうようになる訳ですが、逆に信吉に自分の気持ちを知られることになり、信吉もまた自分の気持ちに気づき。。。しかもこのタイミングで幸子が乳がんで入院。悠子が信吉の身の回りの世話をしたり、幸子の病院の支度をしたりすることになり二人で過ごす時間もできる訳なのですが、それでも義兄と義妹であろうとする二人。で、これまた王道の展開で切ないんだ!

 

【悠子のことで柏木と喧嘩して怪我をしてしまった信吉に謝る悠ちゃんに「たった一人の妹だもの」という信吉。「妹だったのね、私」と言う悠ちゃん。この二人、ほんと似合ってるわ】

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ある日、接待で飲みに連れられて夜遅く家に帰ってきた信吉。そこには仕事と姉の看病で疲れて、信吉の机(上の写真参照)で寝てしまっていた悠子が。そんな悠子を優しい目で見つめます【ここ、すんげーカッコいいです(//∇//) ↓】。

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信吉が帰ってきて目を覚ました悠子に、酔い覚ましのお水をお願いして、もってきて貰う間に、机の引き出しから青島で撮った写真を取り出して渡す信吉(とっくに現像してたのに、幸子のことを思って渡せずにいたのかなぁ、とか想像してしまってこれまた)。見つめあって気持ちがあふれてしまい、「好きなんだ」と悠子にキスをしてしまいます【ここもすんげーカッコいいです(//∇//) ↓】。

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悠子は幸子のことを思って、必死にその手を振りほどきます。この悠ちゃんがまた純粋な感じでかわいい(≧∀≦)

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とか、悠子と信吉にキャーキャーしつつも、最後は幸子のことを思ってこれ以上踏み込むことはなく、元の義兄妹の関係であることを選びます(そもそも姉妹両方好きになるってどうなんだよ、信吉!とかいうのはありつつw)。

そして、幸子の死をきっかけに、悠ちゃんは東京へ、信吉は宮崎へ残って…という最後はドロドロした愛憎劇にならない(何というか、「あ、釣りバカ日誌とか寅さんとか、そういうの作る会社だもんね!」みたいな。寅さんみたことないけど(^-^;))この安心感!ということで、ラブストーリーのほうは輝雄さんと志麻さんの組み合わせで、難しいこと考えずに楽しむことができました(*´ー`*)

 

 

さて、以前ここでも書いた、松竹大谷図書館で見たこの映画の資料。制作が決まったばかりの頃はこの信吉の役は佐田啓二吉田輝雄ってことで発表されていて、幸子役がなかなか決まらず、幸子を演じる女優さんによって、どちらかがキャスティングされるということでした。

kinakossu.hateblo.jp

 

 

結果的に当初名前があがっていなかった小畑さんになり、輝雄さんが信吉を演じる事になったようですが、小畑さんとは新東宝時代に姉弟役として共演されていたようで、確かに二人の並びはちょっと夫婦っぽくはなくてw でもまぁ、とにかく、結果として輝雄さんと志麻さんの組み合わせとなり、2人のシーンをたくさん観ることができて良かったなぁ、と思うのでありました。しかし、「秋刀魚の味」も「古都」も今作も結局ハッピーエンドな感じじゃない(古都は結婚するけど、あんまりそういう描写ないですしw)のが勿体ない。+゚(*ノ∀`) もっと二人の組み合わせの作品を観てみたかったなぁ、と思うのでありました(あー、もう「大根と人参」!)

 

しかし、ほんとカッコいいなぁ、輝雄さんヾ(o´∀`o)ノ (結局、これが言いたかったんかいw)

 

ちょっとこの映画の興味深い論文を発見したのでこちら