T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男・武部弘道脚本/武部弘道監督「火線地帯」

少年と大人の間を行き来する、吉田輝雄×天知茂のバディムービー。

 

火線地帯 [DVD]

 

 【映画についての備忘録その17】

武部弘道監督×吉田輝雄主演「火線地帯」(1961年)

 

 幼馴染みの伸一(吉田輝雄)と健次(鳴門洋二)。健次は口がうまく、伸一は銃の腕と度胸は満点。二人で組んで地元の競馬場で土地のヤクザ・梶川組を騙って嘘の八百長レースをでっちあげ、競馬場の客から金を巻き上げていた。その様子を見た梶川組から追われて逃げる途中、騙し取った金で遊ぶ算段をしていたところを、競馬場でだました客の一人・黒い背広の男(天知茂)に見つけられて「弱い者イジメなんかしないでもっとでっけーとこで勝負するんだな!」と金を取り返されてしまう。それでも何とか梶川組からは逃げ切れたと思った二人は、健次の妹・幸子の勤める映画館で一息つくと再び街へ出る。しかし、またしても梶川組に追われ、駐めてあった無人の車に逃げ込んで後部座席に身を潜めた。それは梶川組と対立する重森商事のボス・重森(田崎潤)の情婦・ゆみ(三原葉子)の車だった。ゆみは車に戻ってきて二人が乗っていることに驚くが、ゆみに慌てて言い訳をする健次とそんなことはお構いなしで「ご機嫌な車だな。俺もこんな車もって思いっきりぶっ飛ばしてみたいや!」と上機嫌な伸一の様子を面白がり、二人をそのまま乗せて自分がダンサーを勤める重森のキャバレーへ連れて行った。

その日は、土地のヤクザたちが集まって大量の銃の取引が行われることになっていた。キャバレーで揉め事を起こしてしまう伸一と健次だったが、その時に見せた伸一の銃の腕を見込んで、重森は二人を重森商事に引き込む。二人の仕事は銃を競り落とした梶川組の車を人気のない通りで襲い、銃を横取りするというもの。そして、その銃の取引を仕切っていたのは、競馬場にいた黒い背広の男・黒岩だった。競り落とされた銃の値に不満だった黒岩も銃を取り返そうと梶川組の車を襲う気でいたが、先に重森商事が銃を奪い、それを見ていた黒岩は重森商事に強請りをかけるのだった。梶川は銃を横取りしたのが重森商事だと疑い重森商事に乗り込んでくるが、重森は伸一の仕業だと言い、伸一を捕まえて梶川に差しだそうと約束する。それを知ったゆみは罪を着せられた伸一を助けようと、ホテルを用意してそこに隠れるようにと伝える。一方、黒岩は伸一を気に入り二人で組んで銃を取り返し、金にしようと話をもちかけるのだった―。

 

1月にTSUTAYAディスカスでレンタルして観たあと、つい先日(もう中古しかないんですが)Amazonで購入しました(゜∀゜)久しぶりに観た記念に!?備忘録をつけてみたり。

 

東宝「地帯(ライン)シリーズ」最終作。ずっと「地帯シリーズ」の脚本と監督を務めていた石井輝男監督は今作は脚本のみで、石井監督のもとで助監督を務めていた(「女体渦巻島」などでも助監督してクレジットされています)武部弘道さんという方が監督。新東宝末期で監督作はこれが最初で最後の一本のようですが、きちんと楽しめる作品に仕上がっています。輝雄さんと三原葉子さんのシーンだけ突如としてメロドラマのようになっちゃう違和感とかはあるんですがσ(^_^;、街(たぶん川崎)や海辺の道路を駆け抜ける疾走感や、輝雄さんや天知さんをはじめ、田崎さんや重森の部下の中本を演じた成瀬昌彦さんなど俳優さん達の雰囲気の今っぽさとか、ストーリーのテンポの良さとか、いろんな要素が絡んで今観ても古さを感じない映画でした。

 

映画のなかで伸一をとりまく相手は、前半では幼馴染の健次と健次の妹・幸子。後半では裏の世界でも大きな仕事をこなす黒岩とヤクザの情婦・ゆみ。この人間関係の違いが映画のムードに変化をもたらします。前半は伸一と健次の組み合わせで少年っぽく、後半は伸一と黒岩の組み合わせで少年と大人が混ざり合うような、という前半と後半でムードが異なるバディムービーです(少年から大人になっていく、という意味では青春映画の様な感じもあり、DVDに収録されている当時の予告編では青春映画という感じの宣伝のされ方です)。

 

健次と連んでいる前半は伸一の少年っぽさが随所に見られ、少年が頑張って大人になろうとしている、そんな雰囲気で進みます。

健次と二人で競馬場から梶川組に追われる時は身を隠すような場所もない小道で平気で銃を撃ち、幸子の勤める映画館では小銭をジャラジャラしながらサイダーを飲み、幸子には子供の時のまま「伸ちゃん」と呼ばれています。乗り込んだゆみの車では目をキラキラさせて、「こんな車でぶっ飛ばしてみたい!」。無鉄砲さと無邪気さに溢れたシーンが続きます。それでも、藤森商事に入れといわれると簡単に返事はせず、「どうせたいした専属料なんてくれやしないさ」と突っぱねて、大人の顔を覗かせてみたりします。でも、それも頑張って大人びて見せているよう。

なかでも、梶川組から逃れて潜り込んだゆみの車でキャバレーへ向かう描写は印象的。海辺の道をゆみの運転で飛ばし、助手席に伸一、後部座席に健次が乗っています。伸一は健次にサイダーの瓶の蓋を歯でくいっと開けて渡してやり、健次は外を歩く女の子たちに車から声をかけます。伸一はといえば丸ごとのリンゴをゆみに渡して自分はサイダーを開けます。リンゴを一口かじるゆみとサイダーを一口飲む伸一。そしてそれを二人で交換しあいこ。三人ともたくさん笑ってとても楽しそう。伸一の少年っぽさがこのシーンに凝縮されています。その時流れてる音楽が軽快なジャズなのですが、なんだか日本版の「アメリカン・グラフィティ」の世界を観ているような気分で、スクリーンのこちら側も一緒に楽しくなります。(この少年っぽい吉田輝雄ってのがかわいらしく(๑'ᴗ'๑)、現在観られる映画の中ではとっても貴重で!そこも良かったりヾ(o´∀`o)ノ )

 

ですが、重森商事の仕事を手伝い、ゆみに匿われたあたりから大人の世界へとぐんと足を踏み入れていきます。

ゆみは無邪気で無鉄砲な伸一に惹かれ、伸一ならヤクザの情婦でキャバレーのダンサーという夜の世界で生きる自分を明るい場所へ連れ出してくれると感じ、伸一をかくまいながらも自分を今いる場所から救い出してくれることを期待します。黒岩は銃を売った金を元手に南米に渡って牧場主になって真っ当に生きることを考えていて、伸一にもケチな仕事は辞めて自分と組んで大金を手に入れて南米へ渡ろうと誘います。伸一は自分の居心地のよさそうな現在地から外に飛び出すことを躊躇わず、外の世界へ出たい女を助け、そしてまた、自分も広い世界へと出て行こうとします。

ゆみと二人の時は、彼女の身の上にあわせるように完全に大人の男の表情になります(でも、服だけずっとロカビリースタイルのジャンパー着てるんでなんかそこだけ子供っぽいんだけどw)。重森の情婦である自分を蔑むようなゆみに、「いずれ女は誰かのものになるさ」と気にしないそぶりで優しい言葉をかけ、なじるようなことは言いません。ヤクザの女だということなど関係ない、という風です。

黒岩と一緒の時は大人と少年の間を行き来します。黒岩は、銃を100丁売りさばきながらも、その金で「南米へ渡って牧場主になる」という素直な夢を抱く少年っぽさを残した男。それ故か、黒岩にあわせるように伸一の見せる表情も変化します。健次の時は「自分が引っ張ってやらないと」って関係が、黒岩相手だとできる大人の男との対等な関係という風になり、変に肩肘張ることもなく自然体。

ゆみが伸一を匿うために用意したホテルで、黒岩が話します。「俺だって趣味や道楽でこんな危ない仕事をしているわけじゃない。まとまった金を手にして真っ当に生きるんだ」。銃を重森から取り返す計画、そしてそれを売り捌いた金で南米へ行くこと。そして、伸一には俺と共同経営者になろう、お袋も安心するぞ、と。しかし、伸一は母親の居所を知りません。母親は若い男を作っていなくなり、父親はそれがきっかけで酒に溺れて死んだのだ、と。黒岩の思わぬ夢の話に楽しそうに耳を傾ける一方、自身の過去を憎しみと少しさめた表情で話す。少年っぽさと大人になっていく部分との両方が顔を出します(このホテルの部屋には幸子が来たと思ったらゆみが訪れたりで、女性二人との関係性の違いでも少年と大人を行ったり来たりします)。

このくだりは狭いホテルの部屋で酒を飲みながら話しているだけなのですが、伸一の思いもよらない過去、黒岩の大きな夢、それによりくるくると変わる二人の表情で、輝雄さんと天知さんという世代の違う新東宝のスター二人を組ませた魅力がギュッとつまっていて好きなシーンです(๑'ᴗ'๑)

 

天知さんの黒岩がまた良い味を出していて。黒岩は黒い背広に黒いパナマ帽という出で立ち。「銃と見せかけて実はライター」なんてものを持ち歩いていてお茶目です( ̄∇ ̄)100丁の銃を取り返して金にするためにあれやこれやと二人で動きますが、その過程で伸一が中本とした取引に「気が乗らね~な」と、あっさり手を引こうとしたり、そうかと思うとやっぱり伸一と一緒に行動したり。そんな飄々としたキャラクターがよく似合っています。天地さんは今のように古い邦画を見る前から名前は知っていた俳優さんですが(リアルタイムでは見た記憶がありません)、まだ映画は輝雄さん出演作でしか拝見したことはありません。で、「黄線地帯」も「女体渦巻島」も天知さんはニヒルな役なのですが、本作のような正反対のキャラクターもさすがの上手さ。

んで、この天知さんにあわせるように輝雄さんの表情にも硬さがなくて、自然と変化していきます。この作品よりもあとに撮った「真赤な恋の物語」のほうが演技は硬くみえます(ノ∇`)今作では天知茂という先輩俳優に引っ張られて、デビューしてまだ1年少々(「女体渦巻島」での初主演が1960年2月の公開、「火線地帯」が1961年5月の公開)の吉田輝雄が安心して演技をしているように見えて、映画を観ながらちょっとニコニコしてしまいます(๑'ᴗ'๑)(いや、だからって別に演技がすごくうまくなってる訳ではないんですけどw) この後すぐに新東宝がつぶれてしまって、天知さんと輝雄さんの共演作はこれが最後になってしまうのですが、もっといろんな作品で観てみたかったコンビでした。

 

さて、トップの画像はAmazonの商品ページから引用しているのですが、この写真の通り、本作の吉田輝雄はハンサム通り越してキレイの域です(はい、もう個人的な好みの問題ですw)。初主演作「女体渦巻島」の時より確実に【全女性あこがれのハンサム】になっていますヾ(*´∀`*)ノ 「女体渦巻島」では「されるがままに撮られている」感じでしたがwそこから何本も映画を撮って主演俳優としての自信がついて、それ故にハンサムさに磨きがかかってるのかしら、なんて考えたり(o´ω`o)惜しむらくは今作の服装がずっとロカビリースタイルのジャンパーでいまいちダサいということか(´・ω・`)

 

石井輝男監督じゃないため、恐らく他の「地帯シリーズ」よりも語られることの少なそうな「火線地帯」。「地帯シリーズ」の各作品で主演を勤めた俳優二人の共演がとても魅力的な、そんでもって最高にハンサムな吉田輝雄を楽しめる、秀作でした(๑'ᴗ'๑)

 

【この頬杖ついたシーンがめっちゃかわいくていい】

f:id:kinakokan0620:20180516220744p:plain