T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

清水宏監督「按摩と女」

 言葉はなくても気持ちは伝わる 

 
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【映画についての備忘録その50】

清水宏監督×高峰三枝子主演「按摩と女」(1938年)

 

按摩の徳市(徳大寺伸)と福市(日守新一)が山の温泉場へと向かい歩いている。二人は盲目ながら優れたカンの持ち主で、向かいから来る人が何人連れか、そばを通る人たちの素性は?そんなことを言い当てて楽しみながら山道を歩く。
着いた温泉場で徳市は東京から来た女(高峰三枝子)に呼ばれる。徳市は、彼女が来る途中に自分を追い抜いていった女だと気づく。だが少し影のあるこの女に徳市は惚れてしまうのだった。一方、女のほうは温泉場に来る途中の馬車で一緒になった少年とその叔父だという男(佐分利信)と親しくなる。
その頃この温泉場では次々と盗難事件が発生し、徳市は彼女が犯人ではないかと疑い始める…。

 

U-nextの配信で観ました。「有りがたうさん」の1作を観ただけで好きな監督さんになってしまった清水宏監督。今作は66分で「有りがたうさん」よりさらに短いのですけど、やはり、多くは語らないのに深く思いを馳せる、という、素敵な映画でした。

 

 

徳市と福市が山道を歩く最初から会話は楽しく、明るく、按摩の二人が哀れみの対象―要するに感動ポルノ的な”大変な境遇を頑張っている人”という扱い―などではない、ということを明示してくれます。彼らの道中の楽しみはめあきを追い越してどんどん先に進んで歩くこと。そして、向かいから来るひとたちの足音から「8人くる」「いや、8人半」だ(半はおんぶされた赤ちゃんでしたw)なんて言い合っています。温泉場で一緒になる学生や子供が二人をからかうシーン(目の前で団扇だとかをひらひらさせてみたりw)なんかもあるのですけど、それも不愉快な感じは全然なくて、めくらもめあきも(映画のなかで使われているのでそのまま書きます)特別扱いではなくて、一緒に、分け隔てなく、生きているんだぞ、という感じ。徳市なんて、温泉場までの山道で自分を追い越していったハイキングの男子学生に按摩を頼まれたのをこれ幸いと、きつ~く揉んで、翌朝学生はかえって足を痛めてしまい、同じ旅館にもう一泊、なんて状況になりますw直接的な言葉や台詞はなくても、そういった描写の一つ一つから清水監督の思い描く、垣根のない優しい世界が伝わってきて、こちらも優しい気持ちになります。

 

そして、少年を媒介として、徳市と東京から来た女、少年の叔父と東京から来た女の関係もやはり、直接的に言葉にはしなくても、それぞれへの思いがにじみ出ています。

女は東京へはいつ帰るのか?東京で会ってももう知らない人になってしまうのでは?となかなか温泉場から帰れず宿泊を伸ばす叔父。

女と叔父が小さな橋でふたり話しているのを感づいて、”勘の良い”徳市が気づかない振りをしてとおりすぎる。

盗難事件の犯人ではないかと疑って、警察が来たと分かると必死の思いで見えない目で女をひっぱって匿う徳市。

そして、楽しい話相手だった女が叔父さんとの話しに夢中になって遊んでくれなくなってつまらないので、さっさと東京に帰りたい少年(笑)

直接的な言葉は口にしていないのに、それぞれの気持ちが伝わってきます。

 

・・・映画の良さがぜんぜん伝わらない、この文才のなさorz

 

喜劇かと思って見ていたら、最後は女の思わぬ境遇と温泉場を発つ女を見送る徳市の姿になんとも言えぬ感情を引き起こされます。そのラストシーンまで、言葉にしない故に伝わる思い。そして、やはり「有りがたうさん」と同じく、優しい思いが溢れているのに人情モノのような押しつけ感がなくてさらりとしている。見終わったあとの気分がとてもよくて、次の清水作品は何を見ようかと、今からまた考えているのでありました。

 

【おまけ】

東宝では(というか石井輝男作品では、なのか?)エロオヤジな悪役でお馴染みの(!?)近衛敏明さんが、徳市にマッサージされて逆に足を痛めちゃうという男子学生の中の一人で登場しておりました。いやー、もう、ビジュアルよりも声で気付いたんですけど、ビジュアルもさほど変わってなくてw「女体渦巻島」とかより20年くらい前だというのにw