T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

中村登監督「夜の片鱗」

大熱演の桑野みゆき。取り合う相手が平幹二郎では分が悪すぎた園井啓介

あの頃映画 松竹DVDコレクション 夜の片鱗

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 【映画についての備忘録その29】

中村登監督×桑野みゆき主演「夜の片鱗」(1964年)

 

街で客を取るために街灯の下に立つ芳江(桑野みゆき)に建築技師の藤井(園井啓介)が声をかける。客として芳江を買った藤井だったが、芳江と過ごすうちに、こんな仕事をすべき女性ではないはずだ、と感じ、また会いたい、と約束をする。

6年前―19歳の芳江は下請け工場で女工として働きながら、夜はバーのホステスのアルバイトをしていた。そこに小さな会社のサラリーマンだという英次(平幹二朗)という男が客としてやってくる。英次と親しくなり何度か会ううちに関係を持ち、そのままズルズルと英次のアパートで同棲を始める。

英次はサラリーマンだというのに働きに出る素振りもなく、芳江の給料で生活をするようになり、やがて芳江に金を無心するように。その金も続かなくなった頃、英次は自分がヤクザであること明かし、芳江に体を売ることを強要した。英次との関係を断ち切れない芳江は、いわれるがままに英次が連れてきた客を相手に売春を重ねた。やがて組に収める金を作るため、街に出て客を取ることを強要されるようになる…。

 

 

神保町シアターの“1964年の映画 東京オリンピックがやってきた「あの頃」”の特集企画で鑑賞しました。夫の仕事が休みだったので子供をお願いして(感謝!)、何か映画を観たいなーと調べていたら、こちらが面白そうだったので行ってきました。ストーリー以外にも輝雄さんご出演の「古都」を撮っている中村監督、「青春残酷物語」「犯罪のメロディー」で拝見した桑野みゆきさん、年齢を重ねてからの姿はたくさん見ている名優・平幹二朗さん、「ゴールドアイ」の悪役しか観たことないけど輝雄さんと同時期に松竹のメロドラマ路線を支えていたという園井啓介さん、ということで色々と気になる監督&キャストでもあり。また、1964年の企画というのも興味深く。オリンピックを目標に日本のインフラが整い、前へ前へと進んでいった時期かと思います。そういった時代の空気感というのは当時のニュース映像などを見ると分かるのですが、その時代に作られたものってどういう映画なんだろう、と。そして実際に観てきて、個人に視点をあわせた物語というのを(フィクションだけど)観られることで、歴史ではなくて今と続いている時代として感じられたような気がしました。

 

で、この映画を観おわって最も印象深かったのは桑野みゆきさんの熱演でした。工場で真面目に働いていた19歳のかわいい女の子が、ヤクザに惚れてしまったことで夜の世界へ身を落として擦れていく様、その泥沼から出て行きたいけれど出て行けない、そして、それをどこか心地よく感じているような、理性で割り切れない何かが伝わってきます。

 

そして男優二人の演技が桑野さんの熱演を引き立てているようで。

平幹二朗さんの英次は最初にバーに現れた時は台詞通りに本当に少し遊びなれたサラリーマンにしか見えません。19歳でバーでバイトするような女の子からすると、あまり警戒する必要のない身分(=サラリーマン)で大人の世界を見せてくれる優しい男性が魅力的に思えるのは然もありなん。それが徐々にだらしないヒモらしさがみえてヤクザであることをバラしますが、それでも芳江が英次から離れられずに、日陰の世界へ引きずり込まれていくに足る魅力を感じさせます。芳江が置かれている状況は冷静に見たらDVによる支配とかそういうことなんだと思うんですが、平さんの英次だと暴力的な支配というだけではなくて、こんな男なのになぜか芳江が惚れてしまっている、ということにリアリティが出てきます(自分だったら嫌だけどw)。だから、英次に街で客を取れと言われたことで英次の元を出て行ったのに、弟分が迎えに来て、優しくするからという英次からの伝言をあっさり信じて戻ってしまうあたりも観ている側は自然な流れのように思えるのです。さすが。

 

対する園井啓介さんの藤井は普通のサラリーマンっぽさ全開で、英次と比べて真面目であること以外に魅力がありません(役としては褒めてますw他の園井さんの映画を観たことがないので、これがこの映画故のことか、園井さんの役者さんとしてのカラーがこうなのかは分かりませんがσ(^_^;)。藤井は客として芳江を買いながら、普通にデートをしたりもしていて、彼女が普通の女の子の人生を歩んでいたら体験してきたはずのものを芳江に与えていきます。

そのとても象徴的なシーンがデパートの屋上を藤井と歩いていて工場で一緒に働いていた友人(岩本多代)と偶然に出会うシーン。友人にはすでに子供もいて優しい夫と3人の仲の良い家族。彼女は夫の稼ぎが少ないと言いながらもとても幸せそう。芳江は子供に笑顔で優しく飴を渡してあげつつ、自分は手に入れられないとあきらめているものを友人にみて複雑な表情を浮かべます。その表情を見た藤井は芳江と付き合っていて近々結婚する予定なんです、と思わず話します。藤井が芳江に与えられる最高のものがこの家族に囲まれた心安らぐ生活です。ただ、藤井はその一般化された形以上の何か、精神的なところでの英次との結びつきに変わる繋がりを芳江に与えられる存在には見えません。園井さんの生真面目そうな雰囲気と藤井が芳江に売春をやめさせようと話す言葉が道徳の教科書のようで、その二つが相まって言葉以上のものが伝わってこないからです。

なので、最初は園井さん、これミスキャストなんじゃσ(^_^;と思っていたのですが、改めて考えると、この道徳の教科書のような藤井のおかげで、芳江が英次から離れようとして離れられず、映画の結末へと向かっていく必然性が際立つのだと感じました。

北海道へ転勤してしまう藤井が一緒に行こうと芳江に手をさしのべ、英次に気付かれないように新宿駅で落ち合う約束をして別れます。しかし、芳江は新宿駅に着くというその直前に足をとめます。ここから最後にいたる芳江と英次の二人の関係の最後は「そうなるのだろう」という予測通りではあったのです。これ、もし、藤井の人物像がもっと魅力的であったとしたら、恐らく、この映画の結末は物語の予定調和以上のものを感じることはできなかったように思います。しかし、英次に変わるつながりを与えられないであろうという藤井の人物像故に、物語の必然的な展開以上に、そうせざるを得なかった芳江の心情をより際立たせていたように感じられました。というわけで、平幹二朗VS園井啓介の分の悪い対決は、結果的に芳江の行動と心情を観客に共感させる効果をもたらしていたのでありました。

 

3人それぞれの人物像以外にも映画として面白い部分はたくさんあって。中村監督は「古都」しか観たことがなかったのですが、全く違う色の作品を作り上げる監督さんなのだなぁ、と思いました。

映画は暴力的なヒモの英次とそこから逃げ出したいのに逃げ出せない芳江、という人間関係を前半はずっと見せてひたすら堕ちていく二人を描いています。これに中弛みしてきたなぁと思ったら、英次が対立するヤクザに股間を蹴られてその機能を失うという急展開の出来事が起こります。これにより暴力的で男性的な点で芳江を縛っていた英次が、洗濯や料理などを引き受けて献身的になることで芳江の同情を誘い、異なる形で自分から離れらないようにします。そして、女に身体を売らせながら、それでいて仲の良い夫婦のような時間を過ごす場面も出てきて、ストーリーに変化をもたらします。この物語の展開や、英次の変貌ぶりを食べ物で表したり(彼女に初めて客とらせたその日に天丼を頼んで平らげるような人間が、その後は鍋を持って豆腐買いに行ったりします。また、それらを買いに行くときにアパートの階段を降りるときの音も、無神経なドンドンという音だったのが少し柔らかくなったり)と、いろんな要素をちりばめて見せ、映画を最後まで飽きることなく(最近90分ものを観すぎて2時間の映画が長いんですよねσ(^_^;)見せてくれました。

 

と、個人的には2カ月前に「青春残酷物語」を観たばかりということもあって、安保闘争で東大の女性が亡くなったと言うニュースを芳江、英次、その友人のカップルと4人で飲みながら見ていて「よく分からない」というようなことを言うシーンが興味深く。この4人はニュースを自分達とは別世界のことととらえていて、「青春残酷物語」を観たときに私が感じたフワフワした現実と離れた感覚というのは、実際、当時生きていくことに懸命だった層の人達にとっては別世界の何かで、今の自分がそんな風に感じたのもまた自然だったのかな、という気がしました。

 

ストーリー以上に色々と感じることのできた、“1964年”の映画でありました。(書くことがとっちらかって全然まとまってない備忘録になってしまった(^◇^;))

 

 

 

石井輝男監督「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」

ノローグと奇形人間に苦笑しつつ、ちゃんと「映画」として楽しめた。

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 [DVD]

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【映画についての備忘録その28】

石井輝男監督×吉田輝雄主演「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(1969年)

 

 

精神病院に監禁された医大生・人見広介(吉田輝雄)。彼にはなぜ自分が監禁されているのかが分からない。そして、幻聴のように聞こえてくる子守唄と荒波に立つ断崖絶壁、子守唄を歌う女性の声が聞こえる土蔵の風景が脳裏にやきついていていたが、それがどこなのかも分からなかった。精神病院を脱走した広介は町でその子守唄を歌う曲馬団の美少女・初代(由美てる子)と出会う。しかし、初代は広介の目の前で何者かに殺され、犯人にされた広介は初代の話をヒントに子守唄の謎を解くべく北陸へと向かうことにする。

その列車の中、逃亡者となった彼は新聞で自身と瓜二つの菰田源三郎(吉田輝雄)の死亡記事を目にし、広介は埋葬された源三郎が生き返ったように見せかけて源三郎に成りすまして菰田家へ入り、そこで源三郎の父・丈五郎(土方巽)が無人島に自分の理想郷を作るべく、莫大な金を投じていることを知る。

その島に自分を取り巻くこれら全ての謎を解く鍵があると感じた広介は、執事の蛭川(小池朝雄)、遠縁にあたる静子(賀川雪絵)、菰田家の下男(大木実)を連れ、丈五郎がいる島に渡るが…。

 

まず最初に。この映画をアトラクション的に楽しんで観る方にはあわない感想かと思いますのでもしそれを期待してこのページを開かれた方はスルーしてください(^◇^;)

 

何で小津安二郎のあとにこれやねん!という感じですが、7月に東映チャンネルでの放送があってついに観ることができ(TSUTAYAディスカスに無料登録してた間に借りれなかったんだ!)、こんだけ輝雄さんのカテゴリに感想入れてるのにこれ書かないわけにはいかないんじゃないかと思いσ(^_^;感想をつけておこうかな、と。

この作品、「ゴールドアイ」を観て初めて“吉田輝雄”という俳優さんを知ってからあれこれ検索したときに一番情報が溢れている作品でした。おかげで、カルト作品として有名であること、その象徴としてラストシーンがとんでもなくて拍手と爆笑が起きるらしいってこと、土方巽という人がこれまた稀有な舞踏家であること、売れる前の近藤正臣が出てること、あとおっぱいがいっぱいとかw観る前から色々なシーンがあるらしい、という事を頭に入れての鑑賞となりました。

 

私にとってカルト映画というのは「フラッシュゴードン」が代表で(当ブログ名のTには「フラッシュゴードン」のバリン皇子:Timothy Daltonも含まれています(๑'ᴗ'๑)こちらも輝雄さん同様、アクション、文芸作品、カルト映画と何でもござれですw)、「ゆるい展開のつまらない出来を面白がる映画」というジャンル?なのですが、で、そういう意識でこの映画を見始めたら「ちゃんと面白いじゃん」という作品でした。

 

まず、なぜ広介が精神病院に閉じ込められてるのか?彼を悩ませる子守歌と断崖絶壁の風景は何なのか?自分とそっくりな源三郎の存在、と、それらを冒頭で一気に散りばめて、これを最後まで引っ張っていくので、そもそもミステリーとして観ていて楽しめます(これは私が原作を読んでないからかもですね)。そして、精神病院の建物や大正時代か昭和初期かを想像させるようなテント小屋が連なる曲馬団の会場、菰田家の旧家らしい日本家屋の佇まいや広い庭、見るからになんか知ってそうなw小池朝雄さんの蛭川とか、乱歩らしい(ってもテレビドラマでしかしらないんですが(^-^;))妖しくて美しい世界が広がり、それもまた楽しく。

 

とはいえ、島に渡ってからの奇形人間達の描写は正直困惑しまくりましたσ(^_^;見ていて気分のいいものではなくて(この映画のカルト映画としての人気はこういうところにあるのでしょうが)、個人的にはやや目を背けたくなるシーンの連続(^-^;)でも、そのシーンを除いては(ってこれが長いんだけど)、やっぱりストーリーとしては面白くできていて、なぜ丈五郎がこの島を作ったのかという背景、そして広介を悩ましていた土蔵から聞こえる子守唄の謎などが明かされていきます。

 

広介は島を探してあの子守歌の聞こえる土蔵にたどり着き、そこでシャム双生児を見つけます。同性でしかありえないはずなのに男女のシャム双生児(この男側が近藤正臣らしい)で、広介はこれで父親がこの島で何をしているのか(=奇形人間を外科手術で作り出している)を知ります。そして、彼はこのかわいそうなシャム双子を分離する手術をします。

 

で、こっから話の筋は面白いのに手段としては強引に結末に向かいますw 

手術が終わったと思ったら次の場面では広介とシャム双子の女性・秀子(由美てる子)は結ばれています(奇形人間を長々と写す時間があるなら、そこもうちょっときちんと描いてよっていうはしょりっぷりで苦笑)。で、結ばれたことを知った丈五郎は二人が異父兄妹であることを告げ母親を閉じ込めている洞窟へ連れて行きます。んで、ここで秀子の出生の謎と丈五郎がなぜこんな島をつくり、二人の母を監禁し、娘の秀子を奇形人間にしたのかを二人に語ります。

これが結構重くて、石井監督の作る絵と土方巽さんのあの異様な佇まいとで、この奇行に対して嫌悪感と同時に憐れみを感じさせます。丈五郎は手に水かきがある片輪者(映画で使われている言葉を引用します)で、美しい女性と結婚しますが、妻への愛は伝わらず、妻も夫を疎み、他の男性と通じます。そしてその復讐として健常者が異常で片輪者が正常な島を作ろうと考えて奇形人間を集め、作り、妻を監禁します。

・・・と、ここの重苦しい展開にどんよりした気分になっていたら、下男がやってきて、実は明智小五郎ですー!謎解きするよー!となる怒濤の展開に突入σ(^_^;この突然の明智小五郎の登場はもう、映画を結末に導くための強引な登場という感じは否めないし、尺が足りないの?って感じの大木実さん@明智小五郎の台詞の早口なことw(絶対奇形人間写すのに尺取り過ぎなんだってば)でも、やっぱりお話の筋は面白いので、心の中でこの急展開にツッコミつつも映画として楽しむことができました。 

 

というわけで観終わってみて、「どうしよう」を連発する広介のモノローグとか(なんで“どうしよう”をチョイスしたんだか。もっと他の言葉はなかったのかw)、奇形人間の色塗っただけ?みたいなチープな造形とかつっこみどころはありましたが、私的にはカルト映画として斜に構えて楽しむという映画とはちょっと違うなぁ、と感じました。ラストの花火のシーンは、事前に情報に触れていたことで「あ~、これか~」みたいな感じで苦笑しながら観てしまいましたが、事前にそういう情報に触れていなかったら、もっと素直な気持ちで(とはいえ、なんであの表現にしたのかっていうツッコミはしてたと思いますがw)このシーンを観れたんじゃないかなぁ、と感じました。

 

映画館だと拍手&爆笑で終わったなんてレポート(感想)がたくさん出てきて、そういう楽しみ方ができなかった私としては家で一人で鑑賞できて東映チャンネルさんに感謝でしたw

 

あと、最後にいつも書いてることを今回も(∀)こんな変わった映画なのに吉田輝雄はやっぱりめちゃめちゃカッコ良かったですヾ(o´∀`o)ノ 石井監督はどんな映画撮ってる時でも輝雄さんはいつもカッコよく撮られていて、ハンサムな輝雄さんを一番ハンサムに撮っているのが石井監督なのだよなぁ、と思うのでありました。

小津安二郎監督「淑女は何を忘れたか」

忘れたものは全部!?

  

【映画についての備忘録その27】

小津安二郎監督×粟島すみこ主演「淑女は何を忘れたか」(1937年)

 

大学教授の小宮(斎藤達雄)は妻の時子(栗島すみ子)に頭が上がらない。時子は小宮の助手の岡田(佐野周二)を友人の子供の家庭教師に決めたりと小宮を完全に尻に敷いている。そんな時、大阪から小宮の姪である節子(桑野通子)が上京してくる。

節子が上京してきてからのある日、時子はいつものように夫をゴルフに行かせようとする。小宮は体調が悪くてあまり乗り気ではなかったが、時子に責めたてられるようにゴルフバックを持って出かけることになってしまう。それでもやはり行きたくない小宮は西銀座のバーで一緒に行くはずだった友人にアリバイ工作のはがきを渡し、のんびり一杯。そこへ節子がやってきて…

 

U-nextの配信で観ました。1937年(昭和12年)の作品。盧溝橋事件とか起きちゃった年です!もう完全に歴史みたいな時代の映画ですが、そこはやっぱり小津作品。今でも日常によくありそうな会話と人間関係でできたシーンの連続で楽しく観ることができました。

 

まずは冒頭の長話が終わらない母親を待つ子供ってところから。時子の家の外でずいぶんと待ちぼうけを食らわされている小学生の男の子。お母さんは友達(=時子)のお家で話に夢中です。おばちゃん達の話に付き合ってても暇だしねー、というわけで野球のボールを壁当てしながら暇つぶしであります。子供の頃を思い出すと、思い当たることありすぎwで、おばちゃん達は家の中で何を話しているかというと、「オホホ」と笑い方の練習。なんの笑い方かというと、顔にシワを作らないように笑う方法wあれ、これもなんか今でも話題になるよねぇっていうw

 

そして小宮と時子の関係。小宮はどうやら医大の先生のようでして、住まいもとてもステキです。門構えから豪華で1階は純和風の畳と襖の部屋で七輪で暖をとり、書斎のある2階にあがると立派な洋館のようになり、大きな扉と暖炉のある部屋になります。そんなすんごいお家を建てているというのに、もう、完全に奥さんの尻に敷かれていて、その姿は多分、現代のそこら中の恐妻家のご家庭にみられそうな感じです(うちは尻に敷いていないので(と思う)“みられそう”としておきますw)。いろんな事が奧さんのやりたいように決められて、外出に乗り気じゃないのに奥さんに尻を叩かれてでかける羽目になり、奥さんはと言えばダンナさんを追い出した後は友達と歌舞伎鑑賞(^◇^;)ダンナさんが仕事してる間に豪華なランチを食べにでかける奧さんの図を想像させますwま、こちらはダンナさんもゴルフに行けと言われるわけなので、ずいぶんと優雅ではあるのですが、わざわざアリバイ工作するまで気を回してゴルフに行かず(その代わりに芸者遊びとかやはり優雅ではあるのですが)、泊まる宿は大学の助手のアパート。奧さんを怒らせないようにアリバイ工作が必要とか、一頃話題になったブラリーマンを想起させるのであります(小宮はすんごい優雅なんですけどね、現代からみたら)。

 

と、そんな今と変わらない人達の様子を楽しみつつ、この時代のステキさも感じたり。とくに桑野通子さんの演じる節子のモガっぷり。「嫁入り前の娘が外でお酒を飲んで帰ってくるなんて!」と時子にめちゃくちゃ怒られちゃうような時代なわけですが、小宮と一緒に芸者遊びを楽しんだり、時子にやりこめられる小宮に意見するように言ったり、大阪に帰る前には岡田に「会えなくなるね」と自分からさらりと言ってみたり、しっかりと自分の意思をあらわす女性です。服装もいわゆる「モガ」と言われてイメージするロングスカートにボブベアはもちろんなんですが、小宮とお揃いみたいに、トレンチコートに斜めに被ったパナマ帽で歩いていたり、その颯爽とした佇まいも含めて“モガ”な節子のかっこよさが印象的。桑野通子さんがまた背が高くてスラッとしたスタイルなのでこの役にピッタリでした(〃'▽'〃)

 

さてさて、で、タイトル。淑女=しとやかで上品な女性、品格のある女性、ということだそうです。この映画において対象となる淑女は時子だと思うのですが、はてさて、では何を忘れたのか、と。ってなると、時子は住んでるお家も服も趣味も立派だけれど、夫のことは完全に尻にしいているし、上品かと言われると、どっちかっていうとそこら辺のおばちゃんとあんまり変わらないよねー、なので、結局、淑女の要素なくない!?となりますσ(^_^;というわけで忘れたものは全部、という結論σ(^_^;

 

でも、最後は何だかんだあっても夫婦仲良く、夫を大事にする奥様になりますので、忘れ物を取りに戻れた、ということになるのかな。

 

土居通芳監督「爆弾を抱く女怪盗」

短い時間に色々つめこんで、勢いで観れちゃう一本

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【映画についての備忘録その26】

土居通芳監督×高倉みゆき主演「爆弾を抱く女怪盗」(1960年)

 

 

急行に乗った鉄道公安官・朝倉伸男(菅原文太)は網棚からボストンバッグを抜き取ろうとしている二人連れの置き引きを取り押えようとしたが、美貌の女・三ノ宮雅子(高倉みゆき)にさえぎられた。不思議なことにこの女の手にボストンバッグが握られていた。それを被害者の東洋貿易専務・吉沢文雄にかえした朝倉は女を取り調べるため乗務車掌室に入ったが、麻薬をかがされ逃げられてしまい、朝倉は責任をとって辞表を出した。

その夜、東洋貿易が襲われた。その一団を指揮していたのは雅子だった。かねてから東洋貿易を密輸のうたがいで張り込んでいた朝倉は雅子に不二ホテルへつれ込まれる。そこで雅子を首領にしたこの一団が東洋貿易社長・立花(沼田曜一)の仕事を妨げるため暗躍していることを知った。急行列車の中で奪ったバッグには5000万近いダイヤが入れられていたのだ。これに興味を持った朝倉はすすめられるまま協力することにする・・・。

 

 

吉田輝雄、「女体渦巻島」で初主演を飾る前の貴重な一本(〃'▽'〃)拝見させていただきました。三原葉子さんもタグに入れてますけど三原さんとのコンビではなくて(三原さんは沼田さんの彼女?奥さん?でセクシーボディーを披露しておられます😆)、三条魔子さんとのコンビ。(高倉みゆきさんと菅原文太さんメインなのにそこは置いとく人)

 

三条さん演じる久美は東洋貿易の専務の秘書なのですが、じつは高倉みゆきさんがボスの一団に父親がいて、高倉さんたちに協力して、ダイヤの輸送の情報を流したりします。そして輝雄さん演じる千葉は東洋貿易の社員なのですが、会社の悪事のために働くことに嫌気がさしていて、久美との将来のためにも辞めようとしています。

 

三条さんとも「セクシー地帯」などで恋人同士を演じていらっしゃいますが、この組み合わせもなかなか似合っています(〃'▽'〃)三条さんのほうが輝雄さんより7つ年下なんですが(公開当時、輝雄さん23歳、三条さん16歳!)、三条さんは16歳とは思えない感じで!キュートだけれどオジサン(専務)も誘惑しちゃう、という役も堂々と演じておられます(๑'ᴗ'๑)

輝雄さん演じる千葉は久美のことが大好きなようで、専務からネックレスを贈られてイチャついてる(雅子に情報を提供するために専務に気のあるそぶりをしているんだけど)ところを見て、専務が去ったあとにネックレスを引きちぎって「二度とこんな真似しやがったら殺してやるぞ!」とか言っちゃう∑(OωO; )かなり乱暴でヤキモチ焼きな男であります。この後「女体渦巻島」で信彦を演じてその後はヒーロー(!?)側の人間と相成りますので、こんな役が観られるのも、主演デビュー前ならでは、と言いましょうか(๑'ᴗ'๑) プリップリに若くて細くて眼光鋭い輝雄さんなので、こんなちょっと危なっかしいキャラクターも意外とはまっていたり。

 

本作の輝雄さんはアクションシーンの見せ場は2つくらいでそのシーンも短く、登場シーンの半分は久美とキスしてたり(スチル写真参照。これがまたキレイなのであります(〃'▽'〃))、社長から命令されるシーンでできていますwで、本作のアクションシーンのほとんどは、もちろん!高倉さんの相手となる文太さんのほうが担っております。「仁義なき戦い」もろくに見たことない人間なんですが、テレビなんかでチラッと見たりした印象ではかなり“濃い”演技のような気がするんですけど(違ってたらすみませんσ(^_^;)、こちらはナチュラルな演技。アクションシーンの殴り合いもスピーディーでセンスよく、トレンチコートも似合って都会的な雰囲気です。元モデルさんだったというのもなるほど、という感じ。

 

映画のほうはというと…

鉄道公安官を辞職したはずの朝倉が、雅子と美紀の危機に海上保安庁(多分)を引き連れて出てきたり、ついさっきまで腕を包帯で吊していたはずの千葉が次の登場シーンでは(時間的にはさほど経っていないはずなんだけどw)包帯もなく、美紀を東洋貿易の悪人達から守るために殴り合いをしたり、などなど、突っ込みたくなるシーンもありつつ(^-^;) 

でも、そんなことは気にするなって感じでwカーチェイス風のオープニングから、冒頭の鞄を巡る急行列車のシーン、朝倉の辞職、東洋貿易社内での悪事の企て、久美が雅子のために東洋貿易に潜入していること、朝倉が雅子の一団に協力しての活躍、雅子側にいた人間の裏切り、雅子と立花の因縁など、まぁ、これでもかってくらいエピソードを詰めこんであって(あと三原さんのセクシーシーンも(゜∀゜))、それが次々と場面が変わって繋がれるので、その勢いに任せてみることができました(゜∀゜)

 

と言うわけで、細かいところは置いといてwとりあえず飽きずに観られた本作。9月のシネマヴェーラ渋谷で土居監督がハンサムタワーズ主演で撮った「男の世界だ」の上映がありますが、ハンサムタワーズ(というか吉田輝雄)を観られる楽しみに加え、映画のほうも楽しめそうだなー、と期待の膨らんだ1作でありました。

 

【備考】

映画のなかで奪う対象となる宝石が“政府割り当てのそこうダイヤ”と呼ばれているんですけど、これがいったいどんなものなのか、調べてもサッパリ分かりませんσ(^_^;土居監督の造語なのか、この時代にそういうものがあったのか。そこうダイヤってどんなダイヤなんだよー!

 

井上梅次監督「犯罪のメロディー」

吉田輝雄と久保菜穂子の大人カップルがステキすぎ。

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【映画についての備忘録その25】

井上梅次監督×待田京介主演「犯罪のメロディー」(1964年)

 

ボクサーの青島(待田京介)はチャンピオンベルトをかけた試合でチャンピオンをダウン寸前まで追い込んだところで突然倒れ、医者から脳腫瘍で余命3ヶ月であると告げられる。マスコミは八百長だと騒ぎ立てるが、事実を公表して同情されるのが耐えられないと、青島は医者を口止めして事実を告げず、ジムからも解雇されてしまう。

青島のマンションの向かいの部屋には足に障害をもつ少年とその姉で看護婦の美紀(鰐淵晴子)が住んでいた。美紀の勤める病院には障害をもつ子供のためのリハビリ施設を作る計画があったが、資金不足で思うように計画が進んでいなかった。ちょうどその頃田舎に残していた母が急死。自身の保険金500万の受け取りを母にしていた青島だったが、これを施設に寄付することを決め、外交員の長崎のもとを訪れる。しかし、長崎は客から集めた保険金を着服、それを持って逃走中だという。同じく長崎の被害者だと言う望月(寺島達夫)という男と長崎を追い横浜へと向かう。

しかし、長崎は何者かに殺害され水死体として発見される。遺体確認のために警察署を訪れた青島と望月。そこで、青島の行きつけのクラブのトランペッター・手塚(吉田輝雄)と顔をあわせる。手塚は長崎とともに闇金融M組織の正体をさぐり、その非合法の金を手に入れようと画策し、秘密を知った長崎は組織に殺害されたのだった。

手塚もまた肺を病んでいて余命わずか。金よりもスリルが味わいたいのだという手塚と金が必要な青島。二人は組織の金を奪うべく手を組むことに…。

 

 

松竹大谷図書館でこの映画のスチル写真(トップ画像参照)を見てから、あまりにハンサムなので(もちろん吉田輝雄が)「超みたい!!」と思った本作。観る機会をいただきました。ありがとうございます!いやー、もうカッコよすぎました(//∇//)出番は多くないけどσ(^_^;

 

 

映画のビリングでは待田さん、寺島さん、輝雄さんの三人が並列でトップで出てきます。一応、主演三人って感じの扱い。が、出番は圧倒的に待田さんが多くて、(スチル写真は輝雄さんが主演にしか見えないんですけどw)待田さん主演です。ただ、待田さんは脇でいい味出してるというのがあっているような気がして(「網走番外地 望郷編」なんかはハマってますよね)、主役だとちょっと存在感が薄い感じがします。そして、個人的にはすんごい悪役顔に見えてしまうため(小沢仁志並みに。「~望郷編」もいつ本性出すんだろう、とか思ってみてましたw)、この良い人役がどうしてもなじめませんσ(^_^;(めちゃめちゃ失礼だな、私σ(^_^;)

お話のほうも登場初っ端から「きっとこの人がM組織のボスだろうなー」と思った人が案の定ボスだったりとか、青島と美紀、そして田舎にいた幼なじみ(桑野みゆき)が上京して…の恋の話と、いつの間にやら手塚との間に友情が芽生えてたりとか、詰めこみすぎてアレアレ!?みたいな中途半端な展開σ(^_^; 待田さんの演技も決して上手という感じではないし(まぁ、主演三人とも演技派ではないですがwただ、アクションシーンのキレはすごかった!さすが!)と、そんな訳で主役に映画をひっ張ってもらえないまま過ぎる96分、半端になっちゃったストーリーとそれを埋め合わせられる演技陣でないため(^-^;)映画全体の出来としては結構微妙な仕上がり。

 

でその映画についてなんで備忘録書いてるかというと、見出し。いやー、もうステキすぎて(๑'ᴗ'๑)この二人をメインにストーリー作ったほうが良かったんじゃないかと(笑)久保菜穂子さんは映画を観るのはこれが初めてだったのですが、まさにクールビューティーという感じ。この久保さん演じるあけみがクラブの歌手、そして、輝雄さんがトランペッター(ピアノも弾いちゃいます)。

まず、この二人のクラブでの演奏の姿がカッコいい(〃'▽'〃)輝雄さんは言うまでもなく(もう言い過ぎてますけど)、久保さんも長身でスタイル良く、黒タキシードの手塚と黒いドレスのあけみ二人が並んでステージに立ってる姿は絵になりすぎ!手塚のトランペットを伴奏にあけみが唄う歌は梅次監督が作詞してるんですが、これが手塚の生き方を詞にしたような歌でムードたっぷりで色っぽい。

 

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二人は恋人同士で、あけみは手塚が肺を病んで余命わずかなこと、そして長崎と組んで危険な仕事をしようとしていることを分かっています。手塚を心配して、長崎と仕事をすることもトランペットを吹くこともやめてほしいと思って止めたりするのですが、すがりついたり自分の思いのたけをぶつけるようなことはしないで、彼のやりたいようにさせています。そして手塚はあけみのその優しさに心地よく甘えているようで、わがままを通します。クラブで八百長だと罵られて喧嘩してヤクザに追われた青島を楽屋に匿った時の二人の会話がその関係を感じさせます。

 

「どうしたのかしら、この人」

「何か悪い病気が心の中に穴をあけたのさ。僕と同じらしい」

「ねぇ、入院してくれない?そんなやけにならないで」

「やけ?冗談じゃない。今までの僕には春ってものがなかった。だからちょっぴり好きなことをやって楽しみたいだけさ。考えてもごらん、億って金が転がってるんだ。ゲンナマでこの日本のどこかに。面白いじゃない」

「危ないわ、そんなこと!」

「僕はね、スリルがほしいんだよ。」

 

このあと、匿われていた青島が楽屋を去り際に「命を大事にしろ、死ぬと決まった時ありがたみが分かるもんだ」と手塚に言うと「そんな気持ちはとうの昔に卒業しましたよ」と答えます。ここのやりとり、あー、何度もこうやって彼の体を気遣って話してきたんだろうなー、って感じの大人の空気感漂いまくりです(公開時期から考えて久保さんが31歳、輝雄さんが27歳とか二人とも若いんですが、なんでこんなカッコいいんだ)。と、この映画、青島と手塚の二人に共通しているのが、「才能があるのに思うようにいかない」という自分自身に対するシニカルな態度(とはいえ、青島は最初はすごく苦悩するわけですが。。。そして手塚は“ペットを吹かせれば日本一”だと言うのに肺が悪く思うように吹けません)。ハッピーエンドには絶対に向かわないんだろうという、上手くいかない人生とそれを受け入れてそれでも何かをやろうとする二人の生き方を男の美学的に描いていて、手塚とあゆみの静かに寄り添っているという感じの関係がこの美意識にあうんですよね。

 

あゆみは手塚の体を心配し、一方でやりたいようにしている手塚という場面が他にもいくつかあって。あゆみが心の内に秘めて耐えている気持ちを想像するとねー(また久保さんの表情が良いのです)、なんて苦しいんだろうか、と。んで、久保さんがちょっと輝雄さんよりお姉さんなので、余計ステキなんですよねー(この感じを伝えられないボキャブラリーのなさorz)

 

はい、そして今作も!?主役は待田京介さんなのにwかっこいいとこは吉田輝雄が全部持っていきます(//∇//)仲間を助けるために自分の命を犠牲にし、井上監督があてがうキザな台詞もピタリとはまります(゜∀゜)このキザな台詞がかっこよくて、井上梅次らしさってこういうの?って感じ(まだ二作目なので分からないσ(^_^;)。しかも手塚の一人称が「僕」で、相手のことを「君」と呼び、敬語でしゃべっちゃうのが、これまた病弱なキャラクターとあいまって、危険な事してるのに品が良くてえらくステキ(〃'▽'〃)

 

というわけで、映画本編は置いといて(!?)輝雄さんのかっこよさを楽しむための映画という意味では価値ある作品で、観られて良かった!な一作でありました(๑'ᴗ'๑)(繰り返すけどもっと出番があったら言うことなしだったぞ!)

 

補足。

寺島達夫さんを「ゴールドアイ」の敵役以外で観るのはこれが初めてでした。望月は青島と手塚の計画に横やりを入れて金を奪おうとする男なのですが、実は警察官だった、という役。前半の嫌な男のパートもやっぱり善人な感じは漂っていましたが(笑)、警察官だと分かってからの正義漢ぶりがピッタリでした。

あと、安部徹さんも貫禄の!?悪役ぶり。横浜の中華街にあるお店を仕切っている店主。裏の顔は闇金融暴力組織のトップといういかにもな悪人。同じ井上監督の「真赤な恋の物語」での警察官とは全く違う役で、イキイキとしておりましたw

 

 

石井輝男監督「黄線地帯(イエローライン)」

二度目で世界に引き込まれた。カスバの街と主演3人の個性が魅力的。

黄線地帯 [DVD]

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 【映画についての備忘録その24】

石井輝男監督×天知茂三原葉子吉田輝雄主演「黄線地帯」(1960年)

 

殺し屋衆木(天知茂)は阿川という男から銀座のホテルに宿泊している神戸税関長の殺害を依頼される。時計をしたまま寝るという税関長の腕時計を殺しの成功の証拠とし、その時計と引き替えに阿川は西銀座の酒場・ドミノで報酬の残りを払うという。
しかし、殺害後すぐに警察がホテルへ。警察から逃れてドミノに向かうも阿川はあらわれなかった。騙されたと知った衆木は阿川を殺そうと、東京駅から神戸へ向かうことにする。
東京駅では踊子のルミ(三原葉子)が新日本芸能社の踊子募集に応じて神戸へ旅立つところだった。ルミの恋人で新聞記者の真山(吉田輝雄)は税関長殺しで新聞社が大騒ぎになってしまい、ルミの見送りに来ることができない。そんな真山をせめるように電話をかけているところを衆木に電話を切られてつかまり、ルミは二人で新婚夫婦を装って神戸のカスバ街まで道ずれにされることに。
また、電話が突然途切れたことを心配した真山も、新日本芸能社が国際売春組織である黄線地帯と関連があるとみて、ルミの後を追って神戸へ急行する・・・。

 

DMM.comでレンタル。今年の1月にTSUTAYAディスカスでレンタルして鑑賞しているんですが、それ以来、半年ぶり2度目の鑑賞でした。で、見出し。

 

初鑑賞は「女体渦巻島」「セクシー地帯」を観たあとの石井監督×吉田輝雄の新東宝作品としては三つ目。で、ありますからして、観終わったあとに残ったものは、「主演とかいいつつ輝雄さんあんまり活躍してないやん!」ってこと(笑)それから、渡辺宙明さんの音楽が今作ではなんだか目立ち過ぎているように感じてそっちに意識が持って行かれたこと、そしてそれ故、どこで真山とルミが会えるのかな!?ってストーリーの仕掛けとしての面白さとっていう、分かりやすい部分だけでした。

 

で、2度目の鑑賞。輝雄さんの出演作は言わずもがな、天知さんの他の作品も、三原さんの作品も色々観たあと、ストーリーもカスバの街も(初めて観たときは神戸にカスバってとこがほんとにあるんだ!?と思ってましたw中華街的に)頭に入った上での鑑賞です。

 

したら、もう、オープニングの宙明さんの音楽が全然違うように聞こえて、その後に出てくるカスバの街のイメージとあわせて「映画の世界観にめっちゃあってるー!!」と音楽と一緒に一気に映画に引き込まれてしまいました(゜∀゜)(知識の量で違ってくるのかどうかは不明)

 

宙明さんの音楽はフラメンコのような曲調で、ギターの弦を弾く音が聞こえてきそうな感じ(こういうのを乾いた音というのかしら)。そのどこか寂しげな音色をバックに衆木は阿川から依頼を受け、税関長を暗殺します。この音楽は衆木が自身の生い立ちをルミに語る時にも印象的に流されます。彼は孤児院育ちで、自身が刑務所にいる時には愛を誓った女性に裏切られ、と信じる者もいない孤独な人間です。人殺しを何とも思っていないといいながら、殺す相手は真っ当な人間をくいものにするような悪人だけで(阿川は税関長を悪人だと吹き込んで彼に殺させます)、逃亡の道連れにしたルミと同じ部屋に泊まりながら、ルミが真山のことを心から愛していると知ると彼女に手を出すことはしません。悪人でありながら純粋な何かを心にしまっています。ギターの乾いた音と寂しげで叙情的なメロディーが衆木の人物像を表しているかのようでした。

んで、天知さんはやっぱり素直でない斜に構えた人物像がはまっているようで(「スター毒殺事件」の爽やかさの後で確信しましたw)、悪のなかに善を隠し持っている、そういう人物をとても魅力的にみせています。こういう生い立ちなのにドライに描かれていて、自分の身の上を世の中を恨むというような形ではなく、自身に対する怒りと諦観みたいなものでとらえていてそこがまたカッコよく(「人生は最初から見込みのない人間がいるんだ」って台詞がそれを象徴している感じ)、そのニヒルな雰囲気がカスバの、狭い路地の、人であふれたほこりっぽい街並みに溶け込みます。

 

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溶け込んでる人

 

ルミはこれまた、三原さんにぴったりな天然なキュートさを全開にしたようなキャラクター。白いワンピースに赤い靴(真山からのプレゼント)、赤い帽子の出で立ちから始まって、衣装もとってもかわいらしい。殺し屋の復讐のために東京→神戸→カスバと連れ回されていて、何とか逃げたそうと細工はするけど全然焦ったり怖がったりしている感じがありません(笑)衆木の孤児院育ちの辛い身の上話を聞いても「下宿代がタダなんてステキじゃない!?」なんて斜め上のほうのなぐさめ方(笑)でも、そんなキャラクターも三原さんならわざとらしさもなくて、衆木の陰とルミの陽とが鮮明で、そして衆木がルミの明るさに取り込まれそうになり、そちらの世界へ行けるのではないかと感じさせるのも当然という感じ。

 

そして「あんまり活躍してないやん!」な吉田輝雄ですが、あらためて観ると天知さんとの対比で輝雄さんの個性もまたよく生かされてるなぁと感じました。素直で純粋(デビューしたばかりで一生懸命なだけか?でもやっぱりその一生懸命さが伝わってくるのがまた良さか)。ルミを探すための情報を集めてカスバの街を歩いていても、衆木が馴染んでいるのとは違ってよそ者が迷いこんできた風で、衆木と反対側の世界の人間だと分かります。貧乏な踊り子(ルミ)と新聞記者(真山)なんて育ちが真反対のような組み合わせなのに、輝雄さんの純粋で素直な雰囲気がそこの違和感をひょいっと飛び越えてしまいます。そして、ラストではその素直さで自分の命も顧みず、ルミを助けるため、衆木の銃の前に立ちます。最後がちゃんとかっこいいとこも“らしい”です。

 

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よそ者感漂う人



 そんなわけで2度目の鑑賞では音楽もカスバも俳優陣も違ってみえた「黄線地帯」。三人の個性が際立つラストシーン(TOPのDVDのジャケ写ですね)まで、映画の世界に入り込んで観ることができました。また次に観たときにはあらたな発見があるかな。

 

 

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鈴木清順監督「肉体の門」

鮮やかな色使いと力強い女性たちが強烈。

肉体の門 [DVD]

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【映画についての備忘録その23】

鈴木清順監督×野川由美子宍戸錠主演「肉体の門」(1964年)

 

敗戦間もない日本。皆が生きるのに必死だ。

17歳のマヤ(野川由美子)はたった一人の兄をボルネオで亡くす。必死に食べ物にありつこうとする日々の中、アメリカ兵に犯され、それを境に関東小政のおせん(河西都子)の”パン助”のグループに入り生きていくことを決意する。
焼ビルの地下には、ジープのお美乃(松尾嘉代)、ふうてんお六(石井富子)、町子(富永美沙子)と、皆暗い過去を背負った女たちがたむろしていた。仲間の掟を破った女が激しいリンチをうけていた。彼女らの中には、「よその女に縄張りを荒させない」「ただで男と寝ない」という掟があった。
一方、おせんは、進駐軍の兵隊を半殺しにした復員姿の新太郎(宍戸錠)を助けた。傷が癒えるまで焼きビルの中でともに生活を始める新太郎と女達。新太郎を巡り彼女らの中に愛に、似た感情が湧いて来た。そんな時、町子が小笠原(江角英明)というなじみの客と、結婚を約束して代償なしに身体を与えていることがバレてしまった。怒り狂った小政、マヤらは、地下室に町子を宙吊りにすると、リンチを加えた。途中、新太郎に止められたものの、すさまじいリンチは、マヤの身体に忘れていた女の生理をよみがえらせた。そして新太郎に強烈にひきつけられていった。

 

U-nextの配信で観ました。

小説のほうは1947年発刊。この映画自体は1964年の作品ということ、また清順監督の映画の視覚的な面白さ(4人の女性にそれぞれ割り当てられている印象的な色の使い方や違う場所にいる人物を同じ画面に入れ込んでみたり)故、「風の中の牝鶏」を観たときのような同時代的なリアル感や生存することへの切羽詰まった感じまでは正直感じられなかったのですが、それでも食べることに精一杯だけどそれ故に本能的に生きてる人達がイキイキと描かれていて、純粋に「生きる」ことへの執着や活力みたいなものがが画面を通して伝わってきました。

 

印象的な色の使い方をするというのは清順監督の特徴なのですかね。この作品の前に観た清順監督の映画は「東京流れ者」。で、こちらは主演の渡哲也の鮮やかな水色のジャケットや、キャバレーの真っ白な内装とかが印象的でしたが、今作ではグループの4人それぞれに緑(マヤ)、紫(お美乃)、黄色(お六)、赤(おせん)とももクロか?って感じで色が割り当てられていて、それぞれがその色の服を着て街に立ち、客の男を捕まえます。新太郎について4人それぞれが一人語りするシーンでもこの各人のイメージカラーが背景やスクリーン全体に割り当てられていて視覚的に楽しかったです。(色はなんでそれなのかなぁ、、、キャラクターにあわせているのかしら。おせんはすごく直情的なキャラクターなので赤、とかそういうことか?)

 

で、それぞれのカラーを割り当てられた女優陣4人、全員すごくパワフルな演技だったのですが、中でも緑のマヤ役の野川由美子さんの演技とかわいらしさが印象的でした(私の記憶では「アリエスの乙女たち」の南野陽子のママ役σ(^_^;あれもキレイでしたけどね!)。映画の公開時期からすると撮影当時19歳とかでしょうか。この年齢ならでは、という感じで、大人ぶってちょっととんがったとこを見せつつも、新太郎に見せる表情はなんだかとってもあどけなく。生きていくために現実を見つめて必死に生きている部分と、少女時代の夢見る様な雰囲気のその両方を魅力的に見せてくれていました。映画のビリングでは宍戸錠さんが一番最初ですし、ググって見つかる当時のポスターの画像も宍戸錠さんが一番目立ちますが、完全に主役は野川さんでしたw

(宍戸さん演じる新太郎は復員兵でアメリカ兵を刺して4人のところに転がり込んで仲をかき乱していくわけなのですが、あのぷっくりほっぺと(悪役のためにほっぺの手術したそうですけど)どことなく感じられる育ちの良さみたいなもののせいで私にはワルに見えなくて、なんか違和感がついてまわってしまいましたσ(^_^; 他の日活の出演作とか観てみるとまた違ってくるかなぁ)

 

清順監督はこれが2作目。なんだか色々調べているとあんまりに理解不能な映画を作るので日活をクビになった、という話が出てきますがwさて、そのあたりの作品にたどりつくのはいつになるか。今のところは、また何か機会があったら観てみたいなぁ、と思う監督さんでありました。