T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「大悪党作戦」

競馬。雪山。ため息が出るいいオトコ。

 

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サインしていただいた「大悪党作戦」のスチル写真です。



 

【映画についての備忘録その72】

石井輝男監督×吉田輝雄宍戸錠主演「大悪党作戦」(1966年)

 

勝負は競馬の最終レースの2分間。売上金の1億を奪う―。

ボスの郡(嵐寛寿郎)が計画をたて、轟一郎(高英男)、その弟分の次郎(アントニオ古賀)南(吉田輝雄)、角(待田京介)、真弓(三原葉子)、郡の若い愛人・リカ(真理明美)らによって、実行される。が、その決行前日、下見にきた轟は見知らぬ男に突然顔を切りつけられ、大けがをする。筧(宍戸錠)というその男は、自分がその計画に加わるために、あえて轟を襲ったのだ。顔に怪我をおった男が仲間にいては目立ってすぐにつかまってしまう。代わりの人間が必要なはず・・・。郡は筧の魂胆とその裏にいるであろう仲間たちの存在に感づいてはいたが、計画を実行するため、筧を仲間に入れることにする。ただし、計画の詳細は教えないまま。筧もまた、その腹を探るために郡が仕向けたリカの誘惑にのるでもなく、逆に、リカには金を二人で山分けしないか、と持ちかける。そして、郡の読み通り、筧は仲間の槙(安部徹)や工藤(諸角啓二郎)たちにこの計画を伝えるのだった。

そして決行の日。大観衆で熱狂している競馬場の馬券売り場の中へ、警備員に化けた角と、事務員真弓の手引きで筧と南が押し入った。最終レースの2分の間に袋いっぱいに1万円札を詰め込む。角と真弓がその間に逃げる。2分きっかり、南は外で待っていた次郎に袋を渡す。次郎はその袋を運び屋に渡す。そして、別に用意していた千円札をバラまいて、これに殺倒する群衆の混乱を利用して、運び屋は無事に場外に袋を持ち出し、南と筧も場外へ。その袋は最後は角の恋人路子(清水まゆみ)に渡り、路子は貸別荘で郡とたちと落ち合い、金を渡す手はずだった。だが路子はホテルへ向かわず恋人の角と落ち合う。そして角と路子は奪った金を二人で山分けするつもりで、立山連峰へ逃げ込む。金を取り返そうと追う郡たちと、その金を横からかっさらうつもりの筧、そして筧の後を追う槙。大金は誰の手に・・・!?

 

 

石井監督作品の感想が続きます(゜∀゜) まぁ、石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲/ラピュタ阿佐ケ谷 に通いまくってるからそうなるんですけどね(笑)

 

石井監督が松竹で撮った2本目、「大悪党作戦」。前作「日本ゼロ地帯 夜を狙え」とは打って変わって、スタイリッシュなクライムムービー。たった2分間の大仕事、大金を巡っての雪山でのチェイス&アクション、そして、文句なしのいい男。最初から最後までハラハラドキドキが散りばめられ、最後に予想外の結末と胸が熱くなる展開が待っている、最高に楽しい映画でした。

 

 

ド迫力の競馬のレースからはじまるオープニングタイトル。八木正生さんの軽快なジャズっぽい音楽もはまって、お馬さんたちと一緒にストーリーもスピーディーに展開します。筧が轟を切りつけ、逃げ、追いかける南に捕まってチーム・アラカン(勝手に名付ける)の待つホテルへ。郡は筧が乗り込んできた裏に感づいて、大まかな計画を伝えるだけ。裏を探るために仕向けられたリカに誘いをかける筧。チーム・アラカンはどうやって競馬場から金を持ち出すのか?リカは郡を裏切るのか?そして筧とその仲間達はどうやって郡たちから大金を奪うつもりなのか?この映画の仕掛けの種が一気にばらまかれて、最初からワクワク!

 

 

作戦決行当日。レース開始のサイレンがなり、南の時計は4時ちょうど(筧の時計は3秒早いw)2分間の仕事の始まり。時計とレースと、やるべき仕事。時間との勝負のドキドキ。チーム・アラカンのメンバーは計画を立てるアラカンさんをリーダーに、それぞれ大事な役目を担っています。メンバー全員個性があって、役割があって、疎かにされてるキャラクターがいない。みんな手際よく仕事をすすめて、この2分間と、その後1億円を競馬場から持ち出すまで、瞬間瞬間で誰が写っていても楽しいです。

 

 

前半の競馬場を舞台にしたワクワクが終わると、次は金を巡っての立山でのチェイス。最初はゆっくりと。登山客の風情で列車に乗り、今にも崩れそうな吊り橋を渡る角と路子。同じ道をたどり追いかける郡、リカ、南、真弓、一郎、次郎、筧。ひたすらに山道を登る角たちと追いかける郡たち。この登って行く先、どこで二組がかち合うのか。こちらは郡たちの目線と歩くスピードに合わせて、一緒に追いかけていきます。途中立ち寄った山小屋で朝早く角と路子がたったことを知ると、険しい道行きに、郡だけを残して再びの行軍。そして、そこに槙たちが追いつくと、雪の残る美しい立山をとらえながら、三者で激しいチェイスと銃撃戦になります。雪山の斜面を走る角や筧、南たちを、地面スレスレと思えるような位置から見上げるように捉えていて、それが斜面を転げ落ちるようなスピードを感じさせます(あと、多分少し早回ししてるのもあるな)。そして、その映像がほんのりと白くなっていて、それが降り積もった雪がその激しさで舞いあげられてるように見え、追いかける側と逃げる側の高揚感みたいなものを体験させらているよう。体当たりのアクション。スタントなんかなしで役者がガチでやってるんだな、っていうのが分かるんですよね。壮大でスピーディーで、美しく、そしてカッコイイ。角以外の男達は雪山をスーツで駆け回ってるし、路子以外の女たちーリカと真弓はミニスカートで男達を追いかけてるし、リアルではあり得ないんだろうけど、これがめっちゃクールでめっちゃかわいいくて、いい!

 

この立山のシーンは、雪の部分と緑が目立っている部分があって、郡と離れてからは、両方が代わる代わる映し出されながらのチェイスが展開されます。この2つは画面のなかで役割分担しているように思え、緑の目立っている部分では三者が直接にぶつかり合うということがなくて、“次をどうするか”を考える、一時の安堵の場所・安全地帯のような役割。一方、銃撃戦や殴り合い、金と女の交換の駆け引きは雪の多く残る部分で展開されて、ここはいつ命を失うか分からない危険地帯、そんな感じに見えます。この役割分担が、最後に追いつめられた5人―南、轟、次郎、真弓、リカ―の結末として、南が残り、轟、次郎、真弓、リカは山を降りる、というシーンで、雪へ向かって再び歩き出す南の置かれた状況の絶望感とそこへあえて飛び込んでいくかっこよさと、緑のある麓へ向かっていく真弓たちへ抱く安堵感とがないまぜになった複雑な感情を観ている側が抱くという、すごい場面を作り上げています。

 

 

そして、競馬場でも雪山でも、ため息のでるようないい男、南。スラリとした長身に浅黒い精悍なマスクの超ハンサム(吉田輝雄ですからヾ(≧∇≦))。口数少なくクールだけど、情に厚く仲間思い。郡を信じ、轟を信じ、物静かに正確に仕事をこなす。いい男なのに女には興味がないと言って、心地いい言葉をかけたりはしないけれど、さりげなく優しくてそしてちょっと少年のような部分を残し、”母性愛をくすぐる”ような魅力を持っている。男の理想とする男と、女の理想とする男の両方を持ち合わせています。そして、最期は自分を犠牲にして仲間を助ける男気。白いスーツに白いコートで雪山を駆ける南の、雪に同化したような最期は、その心の美しさを表しているようで、ため息がでるようないい男(書きながら思い出して(。ノωノ)ってなるわw)。新東宝時代、若き吉田輝雄の真っ直ぐで、素直な雰囲気をとらえた石井監督は、そこに年齢を重ねて加わった渋さをのせて、さらにカッコよくカメラにとらえてくれているのであります(仲間を逃がすためにしんがりを務めて、雪山を銃を撃ちながら逃げるシーンがあるのですが、ライトがあてられるてるんだろうと思うけど、真っ白な雪山のなかに南さんが一人浮かび上がるように写し出されて、ここもすんごいカッコいいです(。ノωノ))。

 

 

と、輝雄さん@南のかっこよさを思う存分書いておいて(゜∀゜)この映画、日活の宍戸錠さんが他社出演作の第一作目として選んだ作品ということだそうです。が、ヒットメーカー・石井監督の作品、初の他社出演で主演、とかいう話題になる要素が多かったであろう作品ですが、宍戸錠さんの扱いはなかなかにひどいような気がします(笑)私は「肉体の門」しか見たことがないので、宍戸錠の個性とか良さが生きるのはどういう役、とかいうのは良く分からないのですが、まずもって、輝雄さんとW主演の位置なのに、ただひたすらにイヤな男でヒーロー的要素はなく(笑)そして何より、出番多い役で待田さんとのアクションの見せ場とか、色男っぽくリカを誘惑したり、なんてシーンも用意されているのに、その割に印象が・・・薄い!!(最後は「え?これでスクリーンから退場なの!?」っていう終わり方だし(笑))監督の愛情が感じられないっていうか。+゚(*ノ∀`)(ちょっと絡むだけの田中邦衛さんとか、無理やり役を作ってる感もあるw由利徹さんへの愛はすごい感じますw由利徹さんめちゃ笑わされるしw)

 

 

まぁ、でもこの扱いの酷さ(^_^;)が、石井監督お気に入りのキャストで揃えたと思われる、チーム・アラカンのメンバー―クールな切れものだけど弟分(次郎・アントニオ古賀さんも兄貴を慕ってついてくるピュアな感じが良かったです!)との絆を大切にする熱い男・轟(高さんがこの役に意外にもwハマっている!そしてアントニオ古賀さんのギターにあわせて歌うシーンがあるとかいうサービスも!)、待田さんの、頭の良い武闘派だけどどこか危険な感じのする角(最初の登場がシャワー浴びて上半身裸で出てくるんですが、素晴らしい肉体美w)、三原さん演じる真弓の天然の可愛らしさ、真理さんのリカの小悪魔的な美しさ、そしてもちろん!な輝雄さんと!―の魅力を引き立てていて、それはそれで良かったのかもwそうそう、南と真弓のシーンは、この二人、新東宝に戻ってきたのかな!?って思うような可愛らしさで、そこも石井監督の愛情を感じたりw相変わらず、輝雄さんは三原さんに振り回されるような役だしね(*´ω`*)

 

 

というわけで、ストーリーの面白さと映像の魅力と何よりいい男・南と、最初から最後まで楽しかった「大悪党作戦」。「日本ゼロ地帯 夜を狙え」と同じく、めちゃめちゃ観てみたかった松竹の輝男×輝雄作品は、期待以上に面白くて格好良くて。この特集でついに観られたことに感謝感謝、なのでした!(・・・松竹さん、DVDにしてよぉ!)

 

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