T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

石井輝男監督「日本ゼロ地帯 夜を狙え」

 「地帯シリーズ」の世界には吉田輝雄がよく似合う。

 

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【映画についての備忘録その70】

石井輝男監督×竹脇無我主演「日本ゼロ地帯 夜を狙え」(1966年)

 

とあるクラブー衆木直也(竹脇無我)の目線の先には、美少女・弓子(真理明美)がいた。その様子をみていた令嬢風の女・ルミ(三原葉子)は、彼女を紹介しましょう、と声をかけてきた。警戒心を露わにした衆木に、代償はいらない、名刺さえもらえればいい、という。衆木の名刺の肩書きは東洋精機社長秘書。弓子に誘われ、二人は豪華なマシションで一夜を共にした。

翌日、ルミに呼びだされていった喫茶店で、衆木は弓子との情事が写された写真を見てがく然とする。ルミは、衆木の地位を利用して部課長以上のクラスの客を紹介してくれれば写真を他に発表しない、と脅迫した。弓子との一夜は、阿川(山茶花究)がボスを務める売春組織の罠であった。ルミは雑誌のモデルやダンサーを紹介してやるという。にわかには信じがたい衆木に、ルミは、今日の夜あるホテルで待つようにと指示をする。ホテルには人気のダンサー・朱美がやってきて、一夜を共にするのであった。

情事のあと、次の商談に訪れたのは橘(吉田輝雄)という男。その顔を見て、それがかつて姉・千代(香山美子)の恋人であった男だと気づく。戦争の激しくなるさなか、千代は貧しさのため、阿川の遊郭に売られていた。彼はその姉を愛し、遊郭から一度は連れ出してくれた男だった。しかし、それも半月も経たず連れ戻され、橘は学徒出陣で招集される。千代を思い続け、復員した橘は、千代の消息を知るため、アメリカ兵相手の売春組織を作り上げていた阿川の元を訪れる。新橋のガード下でアメリカ兵を客にとっていると言われた橘は、まさにその場所で娼婦姿でたっている千代を見つける。橘にその姿を見られた千代は「愛していたのは貴方だけだった」と言い残して、トラックの前へ駆けだし、その命を自ら絶つのだった―

 

 

 

 

ついに観れたー!「日本ゼロ地帯 夜を狙え」(石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲/ラピュタ阿佐ケ谷))。観たこともないのにスチル写真をこのブログのアイコンにしちゃってるくらいwすごく観たかった本作。石井輝男の世界を全開にし、その中で吉田輝雄が最高にカッコいいという、この上ない映画でした(・∀・)

 

 

肌を露わにしたダンサーとダンスフロアのめくるめくライトが交互にうつるタイトルバック。「地帯」とついているだけあって(!?)新東宝「地帯シリーズ」のごとく売春がテーマで、「女体渦巻島」とか「黄線地帯」のような、新東宝作品で観た石井監督らしさが全開の演出で始まります(こんなふうに思えるほどには石井作品を観てきたのだな、とか思ったり(笑))。真理明美さんのミステリアスなかわいさ、三原葉子さんのゴージャスな雰囲気。この映画の雰囲気を最初にしっかりと見せられ、観ている側はそこに入り込んでいきます。そしてその出だしで抱いた印象は間違っていなくて、田中邦衛さんや由利徹さん、待田京介さんなど東映で起用している俳優陣も使いながら、そこにあるのは同時期の「網走番外地」などとは違う世界でした。

 

話は1966年と戦中・戦後を行き来して進みます。

衆木は、実は関西の売春グループの一員(で、さらに実は…)で、あえて罠にかかり、阿川に近づくきっかけを探ります。そして、ルミの代わりに現れた橘をみて戦時中のことを回想します。

 

まだ子供だった直也は、母親と上手くいかず、“入船楼”という旅館で働いていると聞いていた姉のもとを訪ねてきます。姉と一緒のところで働きたい。しかし、そこは旅館ではなく遊郭。千代は借金のカタに売られ、5年は働かねばならない。橘はちょうどその時に千代を訪ねていて、直也が突然やってきたことに困った様子の千代をみて、直也のことを自分に任せてほしい、と言います。橘の下宿へ向かおうとする直也を、遊郭のほんの少し先まで送っているところを阿川にみつかり、無理矢理に連れ戻される千代。橘は、酷い扱いをうける千代を「救い出してやる」とつぶやきます。

その日以来会うことのなかった直也と橘。直也はその後におきたことを橘から聞きます。一度は遊郭から連れ出したがすぐに連れ戻されてしまったこと。学徒出陣で招集され、出兵したこと。千代に会いたいと思い、生き抜いてきたこと。千代が自らトラックの前に命を投げ出して死んだこと。

そんな過去を持ちながら、現代の二人はかたや関西の売春グループの幹部、かたや関東の売春グループで、愛する女性を奪ったも同然の男・阿川の組織の幹部として再会します。橘は千代が死んだ新橋の街並みのなかで自分がしていることへの葛藤を抱え、直也は他の女たちに姉と同じ思いをさせることが姉への弔いのような気でいる。直也は葛藤を抱える橘の純粋さに対し、もうあのときとは街も人も違うのだ、とつぶやきます。

 

戦中~敗戦直後の場面と、現代の橘と直也が二人だけで語り合うシーンはとても真摯なつくり(突然現れるアラカンさんのとこだけちょっと番外地風味なんだけどw)。戦時中の橘と千代のシーンは由利徹さんや田中邦衛さん、砂塚秀夫さんらが柔らかい空気を入れてくれますが、学徒出陣から敗戦にかけての場面は撮影シーンと実際の映像とを組み合わせて構成されていて―学徒出陣式のシーンは実際のモノクロの映像にあわせて橘と千代の部分もモノクロで、敗戦後は飛行機から降り立つマッカーサーのセピア色の映像にあわせ、入船楼の焼け跡にたつ橘はセピア色に―二人の物語にも、この時代の作り物でない緊迫した空気が流れます。だから、帰還した橘が、自分が命をかけて戦ってきた米兵を相手にガード下に立つ千代をみて、怒りを感じ裏切られたという思いを抱いてしまうこと、そして、千代にとってはそれが生きる術でありながらその姿を橘に見られたショックでトラックに飛び込んでしまうこと、二人それぞれのつらさや、やりきれない思いが胸に迫ります。映画のなかで回想シーンに割かれている時間は決して多くはないのですが、時代の流れの中で懸命に生き、真っ直ぐに愛してきた恋人同士の物語が、強い印象を残します(この場面の輝雄さんのかっこよさによる加点もあるかw)。

 

回想と二人の邂逅が終わると、また、現代の石井輝男的世界に戻ります。麻薬、売春組織の裏、激しく踊るダンサー。ただ、この戦中~戦後の橘と千代の場面、そして現代の橘と直也の場面が真摯に描かれていることで、阿川の元で働く橘の心のうち、直也の真意、そういった部分がストーリーの根底に流れ続けていて、橘も直也も別の人間になってしまったわけではない、戦中からの物語との続きを感じます。

この映画のジャンルとしては”アクション映画”で、それに相応しく現代(1966年)の阿川対直也という構図に時間がさかれているのに、映画を見終わった印象は、戦争に翻弄された若者たちの物語、という感じなのでした。(私もその本筋のはずのパートの感想書いてないしなσ(^_^;)

 

 

と、本編についてはこの辺でwやっぱり輝雄さん出演作なので、そこに触れないわけにはいかないのであります(≧∇≦*)

この作品は石井監督が松竹に招かれて作った、新東宝作品を思わせるような映画です。主演の竹脇無我さんは当時、松竹売りだし中の若手俳優。脇で支える輝雄さんは、石井監督から直接オファーを受けての出演。そして、映画を観ると、この作品における、役以上の吉田輝雄の存在の大きさを感じます。

無我さんは撮影当時、22歳。直也の設定は30歳はこえていそうな人物ですが、まだどこか幼さが残っていて素直な感じがします。だから、戦時中の千代を頼ってきた姿や秘書という肩書きにははまるのですが、関西の売春グループの一員という割には、どことなくお日様の下を堂々と歩けそうな雰囲気。

一方、橘の設定は40歳はこえていそうなのですが、撮影当時の輝雄さんはまだ29歳。が、この年からの輝雄さん、若さに渋みが加わっていて、だから、学生時代の爽やかさ、学徒出陣のシーンの覚悟の表情、戦後の、闇をのぞいてきた男の凄み、そのいずれもがはまっていて、物語の時間を無理なく繋いでくれます。

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学徒出陣のシーン。このとき千代が渡した千人針が最後にまた意味を持ちます。


 

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復員兵として戻ってきた橘。

 

そして、無我さんに幼さが残っている分、この映画の大人の格好良さを全部請け負っていて、作品の世界観を表していて、まぁ、要するにめっちゃカッコいいわけです(〃ω〃)(画像ないですが、学生服の爽やかな姿もいいんですよぉ!なお、キャプチャ画像は下村健さんからのいただきものですw)

 

と、この映画の世界観にはまって、ハンサムさについては吉田輝雄史上最高と思われる1966年の吉田輝雄(この年ほんと甘さとハードな雰囲気が混在してて色っぽいくていいんです(〃ω〃)何回言うw)。さすがは石井監督って感じで無我さんよりアクションの見せ場も多くて(笑)かっこいいわ、千代との恋のお話はさすがメロドラマ作品に主演してきただけあるわなって感じでいい男だし、で言うことなしだ(゜∀゜)と思ってたら・・・。最後、「網走番外地」のごとくアラカンさんに看取られるシーンがあるのですが、二人の悲恋の結末としてとても切なくて涙を誘う展開なのに、看取られなれてないせいか(石井作品では新東宝時代死んでないんですよね。って看取られ慣れるってなにw )、・・・泣けない!勿体ない!直前まで完璧だったのにw(これが、あと2年すると演技がビジュアルに追いついて、「続・決着」の譲二さんに泣かされるわけなのです!)

 

ま、でも、そんなことは小さいことでw松竹で撮ることになった石井監督が「助けてほしい」と直接声をかけたというのもよく分かる、本作における吉田輝雄の存在感。どこか新東宝での石井監督作品を思わせる映画で、新東宝「地帯」シリーズの主演俳優は松竹でもその世界を展開するのに重要なパーツで、そしてそれがよく似合う!輝男の世界の輝雄はやはり、特別な輝きを放つのでありました。

 

 

【おまけ】

上に入れられてないけど思ったことをツラツラと、まさに備忘録的に。

三原葉子さんは豊満ボディが少しふっくらとしてきていますが、それがゴージャスさを増していてファーを纏った姿の似合いっぷり。しかし、なぜあんなにクスリ漬けにされる演技がハマるのだ!

待田京介さんの役は売春組織で輝雄さんと同格くらいのポジションで、後から組織に加わった橘を快く思っていない、と言った感じ。お二人の共演はこの前の「犯罪のメロディ」(井上梅次監督)がありますが、二人とも石井監督のほうが個性がいきてる感じがします。あと、二人ともその時より演技上手くなってる!

・クスリがきれて悶えるルミとオーバーラップする、クラブで踊る黒人ダンサー。「無頼平野」のクライマックスのナミとサブを思い出す。

・アイコンにしてるくらい好きなスチル写真(これはネットの拾い物)。黒いスーツでそろえて映る杉浦直樹田中邦衛藤木孝竹脇無我、そして吉田輝雄アメリカのギャング映画かと思うようなかっこよさ。だがしかし、このメンバーが全員同じ画面に出てくることは一度もなかったし、杉浦直樹さんは、その役いる?みたいな役だし、とりあえずスチル写真と実際は全然ちがったw