T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

佐藤武監督「ママの新婚旅行」

心が温かくなる優しい映画。

 

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【映画についての備忘録その65】佐藤武監督×山田五十鈴主演「ママの新婚旅行」(1954年)

 

朝倉隆三(山村聡)と絹子(山田五十鈴)の夫婦には洋子(長谷川裕見子)、俊次(和田孝)、圭子(小沢路子)、敏夫(小池保)の4人の子供がいる。洋子はすでに工場勤務の夫と結婚して独立している。隆三は研究に没頭して金のことは気にせず、家計はいつも苦しい。そんな家庭に船のコックをしていた兄の鉄之助(藤原釜足)が失業して転がりこみ、毎日のやりくりはさらに厳しくなるのだった。

長男の俊次は家計を助けるため裕福な酒屋金山家の娘・マリ子の家庭教師のアルバイトをし、次女の圭子も家にお金がないからと、修学旅行には行かないという。子供たちは絹子に負担をかけまいと贅沢を言わず、家族は慎ましやかに暮らしている。

そんな折、俊次はマリ子の姉の三枝子と恋に落ちる。三枝子を家に呼び、クラシックのコンサートに出かけ、彼女の日本舞踊の発表会を観に出かける。幸せに過ごす二人だが、発表会の日、三枝子の友達が兄(江見俊太郎)を連れて三枝子の踊りのお祝いに訪ねてきた。元華族学習院卒だという兄を三枝子の両親はいたく気に入り、二人の結婚に乗り気だ。その様子を見て、俊次は貧しい我が身との身分差を思い、家庭教師をやめ、三枝子に別れを告げるのだが―。

 

昨年のこの時期も行っておりましたシネマヴェーラ渋谷の新東宝特集。昨年は「男の世界だ」と「大虐殺」を観るために4日間くらい通いましたが、今回は夏休みやら仕事の都合やらで行けたのは1日だけ。作品よりも行ける日を基準に行ってきたのですが、そんな計画でも素敵な作品に出会えるもので。今回はこの作品と「暴力五人娘」(これもあとで感想書くつもり)という、両極端な新東宝作品を連続で観てきてどちらも楽しんできました。

 

「ママの新婚旅行」は家族愛を描いた良作。小津作品を観た後の温かい気持ちに似たものを感じる作品でした。

 

絹子さんは本当に素敵なお母さん。子供達のことを信頼し、尊重、優しく見守りながら大事なとこで手をさしのべます。

修学旅行に行かないと明るく言う圭子の本心を察し、自分の帯留めを質屋に入れ、お金を工面し、鞄とコートをプレゼントして修学旅行へ送り出します。その喜びで絹子にひっしと抱きつく圭子のシーンはとても印象的で心温まります。

また、あるとき、家庭教師をしているはずの俊次が、日本橋(かな?)の橋の上で他の学生たちと一緒にサンドイッチマンのようなことをしているところを見かけます。家に帰ってきて妹や弟の前で気丈にふるまい、自分の部屋に戻ったところをそっと追いかけ、俊次が三枝子と別れ家庭教師をやめたことを知ります。しかし、それでも俊次の決めたことを尊重し、彼を信頼し、問い詰めたり怒ったりすることもしません。

 

隆三は研究に没頭し、お金の苦労をかけてしまっていますが(家計が厳しいのに義兄の居候を許してしまうような人でw)、絹子を中心に朝倉家はまとまっている感じ。その隆三に洋子の夫の会社の月給7万円という工場長の話が持ち上がります。洋子は今頃会社の人達がお父さんに話しをしているはず、と絹子や弟妹、鉄之介に話をしにやってきます。みんなが隆三は工場長の話を引き受けるだろうと期待して帰宅を待ちます。

しかし、隆三は自分には工場長など向いていないからと断って帰ってきます。俊次はそれを隆三のエゴであると責め、三枝子とのこと、修学旅行をあきらめようとした圭子のこと、そして母が結婚以来、よそ行きの着物を買ったことがないこと、隆三の生き方で自分たちがどういう思いをしているのか、とぶちまけ喧嘩をして家を飛び出します。

 

その後、隆三は疲労もあって肺炎で倒れて入院します。俊次のことを気にかける隆三に、絹子は居場所が分かったと嘘をついて、隆三の看病を兄に託して探し出し、家につれて帰ります。そして、やはりこのときも俊次を責めずに彼の気持ちを聞き、一方で隆三の気持ちや結婚してから二人がどんな生き方をしてきたか、それを隆三とともに子供たちに話し、それをきっかけに家族はまた絹子を中心に一つにまとまります。

 

タイトルの新婚旅行というのは結婚して新婚旅行にも行っていなかった二人への子供たちからの贈り物。バイト代や貯金を少しずつ出し合って、隆三と絹子に旅行をプレゼントします。見送りには俊次と一緒に三枝子も。最後まで家族が互いを思いやる温かさを感じる優しい映画。

 

絹子さんじゃなかったら、こうはいかないよな、っていうまさに良妻賢母。良妻のほうはさておきwこんなママになれるといいなと思う、そんな素敵なママ。唯一行けた日にこの作品を観られたという幸運に感謝するのでありました。

 

忘れないように最後に付け足し。鉄之介のひよこの商売が失敗するというエピソードはこの映画のなかの変化球で笑いましたが、この鉄之介と一番下の敏夫のやりとりも微笑ましくて良かったですw