T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

高瀬将嗣監督「カスリコ」

渋い俳優陣で、最後まで見せる。

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【映画についての備忘録その59】高瀬将嗣監督×石橋保主演「カスリコ」(2018年)

 

昭和40年代、高知。賭博「手本引き」にのめり込み破滅した岡田吾一(石橋保)は、高知一と言われた自身の料理屋を手放し、妻子を妻の故郷に帰し、途方に暮れていた。家も金もなく、空腹に耐えかねて神社で倒れていたところを、昔気質のヤクザ 荒木(宅麻伸)に助けられ、”カスリコ”の仕事を紹介される。カスリコとは、賭場で客の世話や使い走りをして、僅かな金をめぐんでもらう仕事だ。

そこは、かつて自分が客として、大金をかけて入り浸っていた場所。仕事も住む場所もない、しかし、いつかはまた妻子とともに暮らしたいと願う吾一は、自身のプライドも捨て、カスリコとして働きはじめる―。

 

 

1960年代の映画の感想でほぼ埋め尽くされている当ブログですが、ついに、2018年製作の映画の感想を書くときがやってきましたw2018年にこの映画の舞台・高知県で初めて上映され、2019年6月22日に渋谷(ユーロスペース)にやってきました。しかし、昭和40年代を舞台にした、モノクロで撮られた映画です。

で、なんでこの感想を書くかっていうと、このブログのタイトル“T”。ブログの紹介文「好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとくT」と書いていますが、そのT、石橋保さんも含まれておりまして(輝雄さんの感想に圧倒的に偏ってますけど!)(・∀・) 中学生の時から長らくファンをやっていて、浮き沈みを熱かったりぬるかったりしながらwその姿を追っております。その保っちゃん(すみません、勝手にそう呼んでますw)の、久しぶりに、仁俠ものじゃない(賭博の話だけどかたぎさんです)、そして、味のある役者さんたちを揃えた、主演映画。殺陣師として有名で沢山の作品に関わってこられた高瀬監督というのも興味深く、そして、モノクロで撮られる、しかも高知が舞台とか、なんやかんやと興味をひかれ、行ってきた次第。

 

映画はあらすじの通り、賭場のシーンが多く、賭博を巡っての人の生き様が描かれます。なんて、大層な書き方してますが、ようは賭け事で身を持ち崩した男の話。一度は立ち直りまっとうに生きようとし、しかし、その最後はやはりなけなしの金を一か八かにかける。妻目線でみれば、最悪な夫です(^◇^;)たぶん、これを見て「こんな風に生きてみたい」とか「こんな夫がいい」なんて思う女性は皆無でしょう(いや、いるかもな、人の趣味は色々だ)。

 

で、まぁ、そんなストーリーなので、正直、物語や登場人物に何かしら感情移入したり、というようなことはなし。ただ、腕と個性のある俳優陣の演技と、高瀬監督の演出にひっぱられ、最後までしっかり見ることのできる作品でした。最近の実写邦画のイメージはラブストーリーか、もしくはやたらメッセージ性をもったりだとかそういう作品が持てはやされているような気がしますが、そういうところとは反対側にあって、一人の男の生き様をみてくれ、という、ただそれだけ(褒め言葉として)の映画。変に意味を持たせたりしていない。こんな映画も時にはよいもので。

 

保っちゃんは、カスリコとして働きだす吾一を、プライドの行き場を失って途方に暮れているだけの男ではなくて、繁盛店を切り盛りしていたその素質―気遣いの細やかさや客を引き付ける人間的な魅力―をその演技から垣間見せてくれます。それが、この映画のクライマックスとなる、伝説の賭博師・源三(高橋長英)との1対1で勝負する場面での、吾一の凄みに納得感をもたせ、その展開に無理なく見ている側を誘っていきます。

 

荒木役の宅麻伸さんは、私的にはどっちかっていうとエリート官僚みたいなイメージが強いのですが、昔気質のヤクザがはまっていました。物静かで、身内でも何でもない吾一に仕事を世話してやる優しさと、それでいて他者を易々とは寄せ付けない迫力や威圧感を感じさせます。

 

そして高橋長英さん。河原で吾一と昔話をする穏やかなおじいさん、といった風とクライマックスの賭場のシーンでの賭博師としての鋭さ。特に賭場のシーンは吾一と源三は一切目を合わせない、言葉も交わさないのですが、その空間は特別な空気が漂います。

 

カスリコ仲間の山根和馬さんとか、賭場の客の西山浩司さん、小市慢太郎さん、賭場のぼんぼり(運営してる人)の中村育二さん、みなさん、それぞれの持ち場で、それぞれの人生を感じさせてくれる唸りたくなるような演技でした。

 

そして、高瀬監督は、アクションのシーンはないのですが、その代わり(!?)賭博のシーンをテンポ良く演出されていました。映画で取り上げられた“手本引き”という博打、サイコロの“丁か半か”ってやってるのより、かなり地味なのですが、映画のあとのトークショーで、場面展開とかアクションシーンと同じ手法で撮った(場面の切り替え方とか)とお話しさされていて、とても納得なのでした。よく分からない博打のシーンを面白く見せるのってなかなか難しいと思うんです(007シリーズが大好きなので、実感としてね)。でもね、そこもきちんと、飽きずに観ることのできる作品でした。

 

と、いうわけで、初の新作邦画の備忘録は、職人のような俳優陣と監督による渋い映画。女性視点での共感だとかそういうのは一切排した、だらしない男の話。ただ、最後にそんな人生を自分らしいと振り返る吾一に、男の人の究極の理想ってこういう感じなのかな、とか想像をしてみたり。盗んだバイクで走り出す歌が、実際にそんなことをする人は少ないはずなのに、いつまでもその世代の人達に支持されているって、そういうところにあるのかな、なんて。・・・嫁さんの立場からしたらとんでもないけどねw

 

【おまけ】

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トークイベントもありました

 

映画のあとは高瀬監督、保っちゃん、宅麻さん、西山さんのトークイベントも。高瀬監督はとってもジェントルマンの雰囲気。また、ワルオのイメージがやっぱり強烈な西山さんなのですが、演技に対する真摯な向き合い方など、とても印象的なお話。

そして、保っちゃんファンとしては、ご自身の境遇(大手事務所でデビューからしばらくの恵まれた時期と事務所をやめて役者の仕事が途絶えてしまった時期、そして今またこうして主演映画をとるにいたる変化)と吾一の境遇に自身を重ねたという個人的な部分のお話を聞けたこともまた貴重でした。

 

上映後、「カスリコ」ラベル(トップ画像のポスターと同じラベル)のホッピーと銀座にある高知のアンテナショップのサービス券(ここの二階の高知の美味しいものが食べられるレストラン“おきゃく”はめちゃオススメです!)をお土産でもらって、ホッピーの試飲まであって(試飲っていっても、大きいカップになみなみと注がれてましたw)一度の鑑賞でいっぱい美味しい思いをした「カスリコ」の鑑賞でした。