T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

佐藤肇監督「散歩する霊柩車」

夫婦の愛憎劇で結末は予測不可能。

 

f:id:kinakokan0620:20190514195832p:plain

 

 

【映画についての備忘録その55】

佐藤肇監督×西村晃主演「散歩する霊柩車」(1964年)

 

小柄な中年のタクシー運転手・麻見弘(西村晃)には、年の離れた妻、すぎ江(春川ますみ)がいる。年下のすぎ江は大柄で豊満な女性で、弘に飽き足らず、夫の仕事中に医師の山越(金子信雄)、初老の会社社長北村(曽我廼家明蝶)、20歳そこそこの若い男・民夫(岡崎二朗)と、浮気を重ねていた。

浮気をめぐって喧嘩の耐えない二人。喧嘩のはてに弘はすぎ江の首をしめてしまう。そしてー弘は毛利(渥美清)という男を霊柩車の運転手として雇い、山越の出席する結婚式、北村の勤める病院とすぎ江を入れた棺桶を乗せて、霊柩車を走らせる。浮気の清算として自殺したのだと、社会的に地位のある二人を強請り、大金をせしめるためにー。

 

 

平成最後での予告通りw令和最初の更新は「散歩する霊柩車」(なんで改元のめでたいタイミングでこういうチョイスになってしまうのか(笑))。佐藤肇監督がホラー映画が得意な監督さんだという事以外は予備知識なし。で、このタイトルとオープニングのおどろおどろしい音楽で、「どんなホラー映画なんだろう」と思って観ていたら、「吸血鬼ゴケミドロ」と同じく予想を裏切られ、映画は夫婦の愛憎を中心にした、物語が二転三転する、サスペンス映画の秀作なのでした。

 

 

その夫婦、西村晃さんと春川ますみさんという組み合わせが絶妙。弘とすぎ江はあきらかにアンバランスで、これだけで”二人が上手くいってない”という印象を受けるには十分。そして、その印象を上書きするように、弘のことを疎んじて自分の若さと奔放さを受け止めてくれる他の男と遊ぶすぎ江と、そんなすぎ江を咎め、喧嘩しながらも惚れていて別れられない弘、という二人のパワーバランスを最初にしっかりと見せられます。だから、こちらは物語の始まりとなる最初の霊柩車の仕掛けからまんまと騙されてしまいます。

f:id:kinakokan0620:20190514200150p:plain

 

この映画、大金をどう手に入れるかって話なので、こちらが騙されたことに気付いた後は、いずれ二人は仲違いしていくんだろうと思いながら見ていたワケなのですが、喧嘩してはくっつき直すという二人の腐れ縁、夫婦の物語が手を変え品を変え描かれていくので、予想通りの展開に落ち着くのかどうか、どんどん分からなくなっていきます。

 

そして、強請られる側も金子信雄さんが演じていたりするので、見るからに一筋縄ではいかない感じ(お名前は昔から知っていましたが、実は俳優さんとしての姿は「吸血鬼ゴケミドロ」しか観たことありません。が、多分、そういう役者さんだろうなぁ、という雰囲気は感じます)。だから、強請りもほんとに上手くいくのかな?と勘繰りながら観ることになったのですが、こっちもやっぱり予想通りには展開していかなくて、どういう結果になっていくのかますます予測できなくなります。

 

コメディーリリーフなのかと思ってた運転手役の渥美清さんや、単なる遊び相手だと思っていた民夫(岡崎二朗さんはVシネでお見かけしていて…好きな俳優さんがよく出ているのでσ(^_^; 大体昔気質のヤクザ役なのですが(笑)若いときはこんなイケメンさんだったのか!という驚きw)まで、出てくる人物がそれぞれ重要な役割を果たしていて、映画は無駄なく、テンポよく進み、ジェットコースターにでも乗っているような感じで、監督の敷いたレールにしっかりそって、その思惑通りに楽しませてもらったのでありました。

 

そうそう、旧作邦画初心者、「水戸黄門だ!」「め組の頭の奥さんじゃん!」とか、主演のお二人の自分の中でのイメージとの差に新鮮な楽しみも感じられました(善人の代表のような黄門様しか見たことなかった西村晃さんの、まったく違った独特な雰囲気に、母が黄門様が西村晃さんになったときに違和感を口にしたのを思い出したり)。

 

自分基準だとなかなか鑑賞の候補としてたどり着かない作品にもたくさん面白いものがあることをあらためて感じ、旧作邦画の深みにますますハマっていくなぁ、と思った鑑賞後でありました。