T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

佐藤肇監督「吸血鬼ゴケミドロ」

 (細かいところはさておき・・・)予想外に面白かった和製SF映画

あの頃映画 「吸血鬼ゴケミドロ」 [DVD]

あの頃映画 「吸血鬼ゴケミドロ」 [DVD]

 

 

 

【映画についての備忘録その54】

佐藤肇監督×吉田輝雄主演「吸血鬼ゴケミドロ」(1968年)

 

羽田を飛び立ち伊丹空港へと向かうジェット機に爆弾が仕掛けられているという情報が入った。機長は副操縦士の杉坂(吉田輝雄)とスチュワーデスの朝倉(佐藤友美)に乗客に悟られないように手荷物検査をするように指示する。訝しがりながらも手荷物検査に協力する乗客たちのなかに一人、荷物を持ち込んでいないという男がいた。その男の荷物と思われるものが機内の別の場所から見つかり、中からライフルが発見される。男は寺岡(高英男)といい、彼はかねてよりニュースとなっていた外国大使を暗殺した犯人だった。

ライフルを機長につきつけ、行き先を変更するように要求する寺岡。通信機も破壊し、飛行機は孤立する。そのとき、突然光体と接触し、見知らぬ山中に不時着する。生き残ったのは、杉坂、朝倉、大物政治家の真野(北村英三)、精神科医百武(加藤和夫)、夫をベトナム戦争で亡くし、岩国基地まで遺体を引き取りに行くのだというアメリカ人女性ニール(キャシー・ホーラン)、軍需企業会社の重役徳安(金子信雄)と法子(楠侑子)夫婦、生物学者佐賀(高橋昌也)、自殺志願の青年松宮(山本紀彦)そして、寺岡だった。

他の生存者たちを銃で脅し、朝倉を人質として逃走した寺岡は、山中でオレンジ色に輝くUFOを発見し、取りつかれた様に中に入っていく。すると、寺岡の額が裂け、そこからアメーバ状の宇宙生物ゴケミドロが侵入する。その恐怖に意識を失って倒れてしまった朝倉を見つけ、飛行機へと連れ帰った杉坂。彼女は百武の催眠術により、自分の目撃した光景を語る。機体の外には暗殺者がいて、救援がくるのかどうかも分からず、得体の知れない生物に襲われるかもしれないとう追いつめられた状況に、生き残るために剥き出しのエゴと正義がぶつかる―。

 

平成最後の記事になりそうですが、そんなことは関係ないとばかりに今回の備忘録は「吸血鬼ゴケミドロ」を選んでしまいました(笑)本作と同じ佐藤肇監督の「散歩する霊柩車」を拝見する機会をいただいたのと(これは令和最初の記事になるかも(笑))、ちょうどGoogleさんのクレジットがたまったので、輝雄さんご出演作を何か購入しよう♪と思って、「今年の恋」も「秋刀魚の味」も既に手に入れているしで、「じゃあ、今回はこれ!」ということで購入して久しぶりに観たので書こうかな!ということで。

吸血鬼ゴケミドロ」は輝雄さんファンになりたて(∀)の頃にちょうどAmazon primeビデオで配信されていて、ほぼ知識のないまま観たのですが、高さんのメインビジュアル=DVDジャケ写とタイトルにちょっとなめてかかったら(いや、だって、何も知らなかったらこの要素は子供だましのホラー映画かなって思うよねぇ)、今からだと如何ともしがたい特撮のチープ感とか、設定の細かいつっこみどころはありつつも、なかなか面白い作品で、見終わった後は満足感のあった作品(そしてちょっとヘビー)。カルト映画枠なんだろうけど、ネット上にも沢山のコメントや評価がされてるのも納得、という感じでした。

 

で、この映画の面白さがどこにあったかというと、生き残った者たちによる密室(でもないけど)劇と、予想外にダークな結末(SF要素関係ないじゃんw)。

 

とにかく、乗客がみんな濃すぎ。

ゴケミドロに最初に入られちゃう高英男さんについては、もう、申し分なしw逆にこの人じゃなかったら誰ができるのかと思うくらいゴケミドロに入れらそう感(何それw)満載。

そして”いかにも”な悪徳政治家・真野と、こちらもいかにも出世しか考えてなさそうな悪徳商人・徳安、そして出世のために真野に愛人として差し出された法子、という3人は、もう、サスペンス映画の愛憎劇かっていう、濃い設定。そこらへんの背景は機内の台詞と演技で処理されるんで、自分を出世の道具に使った夫にあてつけのように真野といちゃつく法子とか、もう演技めっちゃ濃い!暑苦しいくらい(^-^;)んでまた、楠侑子さんのエロいこと。真野と徳安の二人はとくに、もともと欲の強い二人、という感じなので、極限の状態に置かれてさらにエゴむき出し。北村英三さんと金子信雄さん(お二人ともこれ以外できちんと拝見したことはないのですが)二人の、すごい演技合戦です。

f:id:kinakokan0620:20190425224118p:plain

濃いw

生物学者佐賀役の高橋昌也さんも、妙に説得力があって、「宇宙生物実在論というのがある。。。」と、取って付けたような学説も、高橋さんがいうと本当にありそうに聞こえてきます。んで、高橋さんは正義の側の人間でありつつ、学者としての探究心で人としての道をはずしてしまったり…という危うさもあって、これがまた高橋さんの書生のようなたたずまいによくあっているのです。

ニール役のキャシー・ホーランさんも英語の台詞回しのよしあしはよく分からないけれどσ(^_^;脆い人物像を最初から感じさせます。

精神科医としての好奇心が前面に出てきてマッドサイエンティストのような趣の百武と、自分のことしか考えてなさそうな青年・松宮はちょっと、この四人が強烈すぎて(笑)割食ってますが、加藤和夫さんも山本紀彦さんもやっぱり濃いです(笑)

f:id:kinakokan0620:20190425231505p:plain

このハンサムがこの距離とか役得だぞ(・◇・)

で、我欲丸出しの真野、安武に対して、ニールは夫をベトナム戦争で亡くしたことで、反戦を叫び、暗殺犯である寺岡を助けてやろうという博愛主義的な人物です。ところが、いざ自分がゴケミドロの犠牲になるようにと真野たちに強要されると、生き残るために杉坂に銃口を向けます。博愛主義とかヒューマニズムとか、大抵の人にとっては“自分は安全圏にいる”という状況でのみ発揮される綺麗事、安っぽいヒューマニズムを掲げているのは、そういう本能を見ないようにしているだけだぞ、みたいな強烈な皮肉を感じさせます。

 

こういう人達に対峙する正義漢が杉坂。…なんですが、彼は正論を言って正しい行動をとりますが、事態を打開する術を持ちません。できることはひたすら救援を信じて待つこと。そのためにも生き残った者たちが協力するべきであると、この個性の強い乗客たちを何とか飛行機にとどめ、まとめようとします。それ以外は、ほんとに何にもできない。スーパーヒーローでも何でもなくて、異常な状態におかれた普通の人です(ただしすごいイケメン)。そして、主人公が普通の人であることも、この映画を見終わった後に見ごたえがあったなぁ、と感じた要因にもなっていて、この映画の結末の、全くもってすっきりしない、終末とか末法とかいうような、どうしようもない事態の絶望感がハッキリと立ち現れるのです(万が一、この備忘録がきっかけで見る人がいた場合のため、詳しくは書かないでおきますw)。

 

細かいところでは、つっこみしながら見たのですが。。。つっこみどころが多かったので書き出しちゃいます!(おい!)

反戦とか原爆とか、示唆的なんだけど、ちょっと取って付けたような無理矢理感。

・UFOがいかにもUFOだよ!!みたいなデザインだったりの、全体的にチープな特撮(時代的にこれが限界なのかしら?)

・飛行機の操縦席に閉じ込められた松宮が叫んでいるのに、構わず朝倉を介抱する杉坂さん。そしてちょっといい雰囲気な二人w

・なんで飛行機のそばにガソリンがポリバケツにむき出しでいれてあるんだ?

・そもそも不時着した飛行機で待機してたほうが危なくない?爆発するかもよ?

・・・とか、きりないんですけどw

まぁ、そういうところには目を瞑れば(あ、こういうの探しながらでも(゜∀゜))、映画としては十分に楽しい。理論的に破綻してる映画は認めない!みたいな人には向いてないですが。

 

そして、エンディング。ゴケミドロから逃れて走る杉坂と朝倉。二人は高速道路に出てくるのですが、これが時代的なものか、まだ色々と建設途中な剥き出しの山とか、今とはずいぶん違った高速道路の外側の風景が見える作りになっています。料金所も時代なりのシンプルな作りで英語表記しか見えません。これがなんだか、私にはアメリカ映画に出てくる殺風景な田舎のようにも見えて、逃げた二人の迷い込んだ別世界に感じられて、更なる不安感を煽られたり。

 

グレーの地球の写る最後まで、色々こみで、全然子供向けじゃなかった「吸血鬼ゴケミドロ」。タランティーノが影響を受けた(キル・ビル作るときに「ゴケミドロに出てくる空の赤い色にしろ」とか言ったらしい)とPRされてますけど、まぁ、そんなことは全く関係なく(笑)今の技術でリメイクして作ったら、「フラッシュ・ゴードン」作りたくて「スターウォーズ」ができちゃったみたいに、十分今でも通用する作品なんじゃないかなぁ、と思いました。

 

で、輝雄さんご出演作品なので、今回も映画の本筋と関係ない備忘録(∀)

杉坂さんは終始パイロットの制服なので、正統派のハンサムさんぶりを発揮。

f:id:kinakokan0620:20190425230727p:plain

正しくハンサムです。

 

朝倉くん役の佐藤友美さんもキレイで、このツーショットは◎です。

f:id:kinakokan0620:20190425223806p:plain

朝倉くんの表情、杉坂さんのことが好きな様子。


1968年は石井輝男監督が異常性愛路線を撮りはじめた年。なので、この年からの輝雄さんのフィルモグラフィーは「続・決着(おとしまえ)」のめちゃめちゃかっこいい譲二さんを演じたあとは、変な状況に巻き込まれる常識人、みたいなポジションの役が多くなります(^◇^;) そんな中でもゴケミドロの杉坂さんは正統派なハンサムさんなのですが、どういうわけだか、石井作品における輝雄さんのかっこよさが別格で(笑)、杉坂さん見ながら輝男×輝雄コンビの化学反応というか、石井作品の世界における吉田輝雄の融和性の高さみたいなものを感じ、(たぶん、ハンサムタワーズで一番のf^-^;)デビューしたてで演技のできない新人を、敢えて選んだ石井監督の感度の良さに、あらためて感謝したりするのでありました。