T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

高橋治監督「死者との結婚」

無駄のないサスペンスは渡辺文雄で拍車がかかる。

 

 

死者との結婚 (ハヤカワ・ミステリ文庫 9-3)

死者との結婚 (ハヤカワ・ミステリ文庫 9-3)

 

 ポスターの写真撮りそびれて画像ないから小説でw

 

 

【映画についての備忘録その49】高橋治監督×小山明子主演「死者との結婚」(1960年)

 

都会のビルの屋上。子供を宿して死ぬという女と勝手にしろという男。女は死ぬのをやめ、男を恨みながら生きると決めた。

夜の瀬戸内海をゆく一隻の汽船。甲板に立つ女、石井光子(小山明子)は一度は生きてやろうと思ったがあてもないゆえに、体の中の小さい生命ごと死のうとする。しかし、そこで保科忠一と妻の妙子に声をかけられ、二人は光子を励ました。保科夫妻はアメリカで知り合って結婚し、近く生れる子供共々故郷に帰るところだという。

船室で光子と妙子二人で話していたとき、船が衝突事故を起す。保科は死に、妙子も死んだ。事故の直前、いたずらに光子の薬指に自分の指輪をはめさせたまま……指輪をつけたままだった光子は妙子と間違われ、病院で意識をとり戻す。そして子供は生れていた。男の子だった。見舞に訪れた義弟の則男(渡辺文雄)も兄の妻として光子と接する。やがて、退院した光子は子供のことを思って真実を話せぬまま、高松の保科家へ向かい、忠一の両親の忠則とすみのも喜んで光子と子供を迎え入れるのだが―。

 

 

こちらもシネマヴェーラ渋谷の「日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか」特集で鑑賞しました。「狂熱の果て」の一つ前の番組。高橋治監督は吉田輝雄さん主演の「男の歌」の監督さん。「男の歌」を観られる機会がいつ巡ってくるか分からないのでw「狂熱の果て」の鑑賞にあわせて、こちらでどんな作風の監督なのか、偵察(!?)であります|ω・`)チラ

 

「死者との結婚」はなんだか聞き覚えがあるタイトルなんだよなー、と思ったら、有名なミステリー小説のようで。きっと、何度かドラマにもなってますよね。ググっても出てこないけど二時間ドラマにできるストーリーだし、なんか観たことがあるのではという気がして仕方なかったりしますσ(^_^;

 

で、映画のほうはよくできたミステリー小説を上手くまとめた作品、という感じがしました。

冒頭、自分を妊娠させて別れようとする男を前にビルの屋上で自殺を仄めかすシーンは、後ろ姿や足元ばかりがうつり、人物の表情は全く分からないのですが、駆け引きと緊張感が伝わります。そして、船が事故を起こして光子と妙子が入れ替わってしまうまでの展開のスピーディーさ。冒頭で光子を捨てた男についての説明は妙子との会話のほんの少しだけ。展開に無駄がなくて、その上、この男がどんなヤツなのか、興味をひかせたまま、後半までストーリーが進みます。

 

完全にいい人らしい忠則とすみの、という立ち位置と光子のことを妙子と信じているのか疑っているのか分からない則男という人物構成もよくできてきていて(ただ、過去の忠一のことについて、それぞれが異なることを言ったりして、中盤でいったん忠則とすみのの人物像に疑念が出てきたりして、それも面白く)、これが“嘘をついている”という光子の罪悪感と、一方で子供に恵まれた生活をさせてやるためには嘘をついてでも保科家にいたほうがいいという思いを、観る側に一緒に後追いさせます。

そして、なんとか光子が幸せな安定した暮らしを保科家で手に入れたと思ったのも束の間、光子を捨てた男が妙子として暮らしている彼女の前に現れ、どうこの苦境を切り抜け、どんな終焉を迎えるのかという、新たな要素が加わり、サスペンスの緊張感が持続します。うむ、よくできてきています。

 

 

ストーリーがストーリーなので(観ようと思った人が検索してここにたどり着いたときにネタバレしてしまわないようにσ(^_^;)深く書くことはやめておきますが、最後にひとつだけ。則男役の渡辺文雄さん。この前に「秋日和」と「青春残酷物語」そして「徳川女刑罰史」と三作ご出演作をみていて、やっぱり「徳川女刑罰史」の印象が強すぎて、余計にいい人なのかどうなの分からない、というミステリーの要素を(私的に勝手にw)増幅させるという、監督が想定外の効果を後年見ている観客に与えているのでありましたwということで見出し。