T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

山際永三監督「狂熱の果て」

狂熱の果て、女の子は現実をみる。

 

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【映画についての備忘録その48】山際永三監督×星輝美・藤木孝松原緑主演「狂熱の果て」(1961年)

 

 

高校生のミチ(星輝美)とアキ子は終夜営業のレストラン〈六本木〉で大学のレスリング部で大企業の御曹司である健次(松原緑郎)やトランペット吹きの陽二(藤木孝)達と知り合う。ミチの父は元戦犯で今は病床にあったが、同じ戦犯で絞首刑になった北の遺児茂を引取って健次と同じ大学に通わせていた。茂はミチの母と関係を結んでいたが、彼はミチにも欲情の眼を向ける。

こうした歪んだ環境への反抗からミチは健次をリーダーとする六本木族と呼ばれるグループに加わるようになる。ある日ミチの父はガス自殺を計って入院した。家をとび出したミチはアキ子と共に瞬間の刺戟を求めたが心の中は満たされなかった。やがて陽二に惹かれていったミチは、ある夜彼とホテルで関係をもった。

それから間もなく、入院していた父が飛降り自殺をする。父のことを邪険にしていた母に怒り、「みんな勝手にすればいい!」とミチはますます自堕落な生活へと落ちていくのだった―

 

 

シネマヴェーラ渋谷の「日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか」特集で鑑賞。この映画は長らくフィルムが失われていたと思われていた作品だったそうですが、国立映画アーカイブのページによると「倒産後の新東宝作品を配給した大宝の第1回配給作品となったが、同社も1年後には解散。本作がデビューとなった山際永三監督による入念な調査により、原版の受贈とプリント作製が可能になった。」ということで2018年に公開時以来!?の上映となった作品です。六本木族ってなに?とかいうこともありつつ、このドラマチック(!?)な発掘と、新東宝つながりだし、そして一番何よりかっこいいタイトルが気になって!見てみたいなぁ、と思っていたんですが、これがシネマヴェーラで星輝美さん、藤木孝さん、山際監督がそろうというすんごいトークショーつきで見られるということで行ってきました(パパ、ありがとう!)。

 

松竹ヌーヴェルヴァーグの代表、大島渚監督の「青春残酷物語」を見て、「こりゃだめだ、向いてない」と思ったわけですが(^-^;)今作も無軌道な若者とかそういうのはまったく共感がもてなかったのですがσ(^_^;ただ、こちらはもっとストレートで、当時の若者のパワーを記録しいる、そんな映画でした。

 

ミチも健次も陽二もみんなとにかく自分のやりたいようにやっています。その結果、それぞれに最悪な結末が待っていますが、この映画はそれに対して別に憐れみだとかも感じさせないような、淡々と破滅していく様子を描いています。ストーリーの展開とかは結構唐突な感じがして(^-^;)よく練られた作品という感じではなく、エピソードありきでそれをなんとか繋いでいく、そんな風に見えました。それぞれのエピソードは結構衝撃的で(例えばミチの父親は精神を病んでいて、さらには茂と妻が関係を持ったことでますます追い詰められ自殺。健次は父親の持つ葉山の別荘に仲間を引き連れて行く途中でひき逃げ、殺人を犯したりなどなど。)インパクトは強いけど、必然性は感じないような展開。逆に言えば、それが、ここに出てくる若者達の無軌道で、これと言った目的もなくて、ただその場が楽しければいい、そういう生き方を表しているようでもありました。

 

“狂熱”は“狂おしいほどの情熱”ってことだそうですが、その情熱のぶつける先を見いだせないミチたち。映画の殆どはそのパワーが飲んで、踊って、騒いで、ケンカして、そして誰かと誰かがくっついて、に向かっている様子が描かれています。で、その刹那的な有様は、ミチと陽二が二人、モーターボートでガソリンがきれるところまで海を飛ばし、二人きりになる、というところで突然終焉へと向かいます。

最初は広い海で太陽の下で二人きりになれたことに開放感を感じ、また二人の愛を確かめ合う、というなんとも若者らしい幸福感に満ちているのですが、やがて食べるものもなく、どこにいるかも分からない状況で不安が募っていき、ケンカが始まります(そりゃそうだ)。陽二は二人きりで死ぬことに幸福感を覚え、一方でミチは父親を追い詰め、自分を襲った茂を恨み、復讐もしてないのに死ぬなんて嫌だ、と思っています。夢の中にいて死にたい男の子と現実を見て生きることに執着する女の子。いつまでも若者らしく夢のまま死んでいくのかと思いきや、まさかの展開。

 

二人は結局漁船に助けられるのですが、陽二は健次と茂にひき逃げの罪を着せられて逮捕され、ミチは茂と一緒に葉山から東京へ戻ります。いつまでもミチと二人で生きたいと監視の警察官を殺害して逃亡した陽二はミチの元へやってきますが、ミチは逃亡犯として逮捕される健次をジッとたって見つめたまま。

 

この狂熱からさめない男の子とさめた女の子の対比はなかなかに残酷。1961年というと、前年が安保闘争とかやってた時代で、何となく、そういう空気感もこの二人に反映されてるのかも、と考えてみたり(これは同時に上映されていた山際監督の自主制作映画などの印象も含めてそう思うのかな)。

 

さてさて、主演のお二人について。ミチ役の星輝美さん、めちゃめちゃキュートでした!これ以外で観たことがある作品は「女体渦巻島」だけで、「女体渦巻島」の星さんは田舎っぽい女の子って感じしかしないんですけど(^-^;)これもう、石井監督の撮り方が悪い!って結論に(笑)今作の星さんはほんとに可愛かったです!その後のトークショーで「演技が上手くならなくてむいてないと思って引退した」とお話をされていましたが、全然そんなことなくて、体当たりの演技で印象的なミチでした。

藤木孝さんはこれが初主演&初演技だったそう。たしかに硬さはありましたが(それでも「女体渦巻島」の輝雄さんより全然こなれてたけどw)、すでにあの独特の存在感はしっかりとスクリーンにおさめられていました。映画の中では歌は聴けなくてトランペッター🎺という設定なのが勿体なかったぞ!

 

【2019/2/3トークショー

本編終了後に、主演のお二人&山際監督が揃うというすごいトークショー

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この写真でも分かりますが、藤木さんはさすが、という感じで、お声もしゃべり方も若々しく、背筋もピンと伸びていらして、かっこよいおじいさんでした(おじいさんって言うのは失礼かもって感じ)。まだまだ現役で活躍されているというのに、とても丁寧にお話をしてくださいました。

星さんも映画の面影をとどめていらして、チャーミング。山際監督はスタッフにはめっちゃ怖かったそうですがwそんな風にはまったく見えないやさしそうなおじいちゃんでした。

 

お話は新東宝が解散する時期のドタバタ感(この映画も予算がなくて700万で作ったってお話だったかな。公開したと思ったらもう東京でやってなかった!なんてお話もw)や、共演の松原緑郎さん、鳴門洋二さんの新東宝組の役者さんのお話、六本木族って何?とか、星さんがあっさり引退を決めた理由(ほんと、普通にお上手でしたが)、藤木さんがこの映画への出演が決まるまで(ジャズ喫茶で歌っているところへ山際監督が観にきたり、などなど)のエピソードなど、楽しく伺うことができました。

以前、松竹大谷図書館で「踊りたい夜」か何か。。。藤木さんと輝雄さんの松竹の共演作の資料を読んでいたときに、歌手をやめて役者になった経緯を、当時の若い藤木さんが「自分の唄いたい歌とちがったんだ」ってお話をされている記事がスクラップされていたんですが、今回のトークショーでご本人からそのお話を聞くことができたりして、それが私的にはとっても印象深いものでありました。