T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

吉田喜重監督「秋津温泉」

美しい岡田茉莉子を堪能する

 

あの頃映画 「秋津温泉」 [DVD]

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【映画についての備忘録その40】

吉田喜重監督×岡田茉莉子主演「秋津温泉」(1962年)

 

太平洋戦争末期。岡山から叔母の疎開先の鳥取を訪ねる途中だった河本周作(長門裕之)。しかし、鳥取まで行く力が自身の身体に残っていないと感じた周作は、死に場所を求めて、かつて過ごしたことのある秋津温泉を訪れる。結核に冒されている河本は自殺しようとするが、温泉宿の女将の娘、新子(岡田茉莉子)に助けられる。そして、終戦玉音放送を聞いて涙する純粋な新子に心打たれた河本は、やがて生きる力をとりもどしていく。

互いに心惹かれる二人だったが、女将が河本を追い出してしまったために、河本は岡山に戻る。

酒におぼれ、女にだらしない、すさんだ生活を送るようになった河本。文学仲間達と飲み歩き、身体を悪くして、死に場所を求めてまた秋津温泉に赴くのだった・・・。

 

 

U-nextの配信で観ました。カメオ出演的な吉田輝雄を観るのが一番の目的(//∇//)(1962年は「今年の恋」「愛染かつら」「霧子の運命」と茉莉子さんとの共演が続いていた年。茉莉子さんに「たいした役じゃないけど出てもらえない?」と誘われて出演されたとのこと)4人いる新聞記者のうちの一人(新聞記者D)、というチョイ役。台詞もわずか、も、ハンサムさは期待通り٩(๑❛ᴗ❛๑)۶穂積隆信さんも同じ新聞記者の一人として出てくるんですが、穂積さんと比べるとあきらかに顔がきちんと写るように撮られていますw(そもそもこの映画、出番少ないのに小池朝雄さんとか神山繁さんとか、山村聰さんとかすごいメンバーが出てきます)

【こんな感じ。左側は穂積さん】

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はい、で、本編。簡単にまとめると「茉莉子さんキレイ!秋津温泉の自然キレイ!長門裕之クズだな!」(最後のは風評被害)となります。

 

茉莉子さんは17歳からはじまって34歳までの新子の17年間を、周作が秋津温泉をおとずれる3~4年おきに演じていきます。可愛らしい女の子(とはいえ、やはり17歳はムリがある艶っぽさでしたが(^_^;)から少しずつ大人の女性へと成長していく姿。“かわいい”から“美しい”へ見事に変貌していきます。溌剌としたかわいい女の子が、秋津に来るたびにダメ男っぷりが増す周作に振り回されてドンドン幸薄くなり、抜け殻のようになる最後まで本当に美しいです。

 

そして、この美しい新子さんを振り回す周作のなんとズルいことか。秋津にきた最初は弱っていく身体と敗戦濃厚な状況に生きる気力も失った書生のようで、そりゃ、新子さんも必死に看病しちゃうよねって雰囲気(元々、この役は芥川比呂志さんがキャスティングされていたとのことですが、この最初の周作の姿は芥川さんだとめちゃめちゃハマりそうな感じです)。しかし、岡山に戻ってからの堕落した周作はもう、たいした努力もしないで周りを妬み、飲んだくれて奧さんにも甘えまくり。そして自分が弱って上手くいかなくなると秋津温泉に逃げてくるとかいう、絵に描いたようなダメ男。自殺しようと試み、心中しようと新子を誘い、そのくせ結局は生きていたい。一瞬でも心中しようと思った新子にたいして、今度は自分が「一緒に死んでくれ」といわれると、そんなことは微塵も思わない。もうね、ただただ自分がかわいい男なのであります。そして、そのダメ男ぶりが、新子の最後の憐れさを増して、幸薄い新子のキレイさに拍車をかけるのでありました。私には長門裕之さんは、後年のドラマの印象が強くて、悪役というかクセのある人物というか、そんなイメージなのですが、そこに繋がるのも納得の役。ヒモみたいなズルい男がめちゃめちゃ似合っています(ここも芥川さんだったら、を想像すると、多分、ズルいというより、母性に訴えるような違った周作になりそうです)。

 

そして、秋津温泉の四季。実際には奥津温泉という場所が舞台のようですが、桜の散る河辺、雪積もる道、川の流れと、どこを切りとっても美しいです。撮影監督が成島東一郎さん。どこかで見たお名前だなーと思ったら、岩下志麻さんの「古都」の撮影監督さん(他にもすごい映画にたくさん関わっておられるようですね!)だったようで納得。「古都」のなかの京都も冬の冷たい空気や山奥の澄んだ空気まで伝わってきそうな映像でしたが、今作では自然とその中の新子が互いに作用するかのように、画面の中に美しく映し出されていました(川辺の大きな岩に仰向けになってタバコを吸う姿なんて、もうめちゃめちゃ綺麗だった)。

 

待ち続ける新子のもとに周作が戻ってくるという、周作にとっては避難所の女神のような新子が、プラトニックな関係から結ばれた途端に、追いかける新子と逃げていく周作という立場に変わってしまうドキッとする展開の変わり方も含め、良作のメロドラマで、綺麗な岡田茉莉子と秋津温泉の風景(とそれを際立たせるクズな長門裕之)を堪能していたら終わっていた、という映画でありました。