T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

井上梅次監督「真赤な恋の物語」

音楽、麻薬、女を取り合う男達。華やかで艶やかな絵になるシーンが連続の99分(赤いけど)

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【映画についての備忘録その13】

井上梅次監督×岡田茉莉子主演「真赤な恋の物語」(1963年)

 

横浜屈指のキャバレー“ハバネラ”-そこは麻薬密売組織の根城であった。
ハバネラの人気歌手・摩紀(岡田茉莉子)は男をひきつけてやまない、恋多き美貌の女性。
麻薬組織のボス、片目(大木実)の情婦だが、彼が高飛び中の今、摩紀は片目の部下で支配人を務める鬼頭(根上淳)の情婦となっている。

 一方、赴任してきたばかりの立野三郎警部補(吉田輝雄)は山田警部(安部徹)にハバネラへピアニストとして潜入するよう命じられる。ターゲットは支配人の鬼頭と摩紀。摩紀に近づいて、組織の情報を手に入れろというのである。そして、三郎にバンドマンにふさわしいアパートを用意し、情報交換はそこで行うこと、またハバネラへ中華料理屋の出前として出入りしている吉本刑事と連絡をとりあうことを伝える。摩紀に惑わされ「ミイラ取りがミイラにならぬように」と付け加えて。

 ハバネラのピアニストとして潜入した三郎。摩紀は三郎のピアノと美貌にひかれ、恋におちる。そして、三郎もまた、彼にほのかな思いを寄せるハバネラの花売りで隣の部屋に住む恵子の純粋さにひかれながらも、摩紀の情熱的な魅力に抗えずひきこまれていくのだった。

ある日、鬼頭と摩紀がたくらんだ麻薬取引の情報を知った三郎は吉本刑事に連絡。警察は多量の麻薬を押収する。三郎の密告と知った鬼頭は、三郎を私刑にかけてドロをはかせようとするが、三郎は決して話そうとはしない。業を煮やした鬼頭に、摩紀は恵子を連れてこいという。そして恵子に危険が、というその時、三郎はついにすべてを話してしまう。そして、連絡役であった吉本は鬼頭たちによって殺害されてしまう。

裏切り者となった三郎は警察に真実を伝えることもできず苦悩する。そこへ手を差しのべる摩紀。三郎は惹かれるがままに摩紀との愛欲の生活におぼれていく。摩紀の秘密の別荘で二人きりで過ごす甘い時間。

しかし、そんな中、片目が高飛び先から戻ってくる。摩紀を手放したくない三郎は片目から摩紀を自由にするために大きな賭けに出るのだが―

 

 

シネマヴェーラ渋谷の「ニッポン・ノワール」特集で鑑賞。特集上映の期間に2日間スクリーンにかかって、2日間、合計二回観に行きました。もちろん、吉田輝雄さんを観たかったからで(∀)(何なら2日間のすべての上映会で観たかったくらいですがw)

上映前にフィルム状態の悪さについてアナウンスがありました。どんなもんかと思ったら、とにかく赤い!「真赤な恋の物語」を文字通り赤いスクリーンで鑑賞です(^◇^;) 空も赤くて夜か昼かわからないw 暗いだろうと分かるシーンはめっちゃ赤いので、すんごい赤い空の時は夜やね、みたいな推測をしながら鑑賞しました(^◇^;)

 

カルメン」を翻案したという本作。男を惑わすカルメン岡田茉莉子カルメンによって人生を狂わされるホセが吉田輝雄となります。(カルメン翻案、ということで結末は大体そのお話にそっています。ので、この記事はこの後最後まで読むと結末が分かるとこまで書き切っていますm(_ _)m)

 

映画は見出しに書いたとおり、色んな要素が盛り沢山に詰めこまれています。麻薬取引という裏世界の悪の要素、キャバレーでの華やかなショーと音楽(御本家「カルメン」の曲に日本語の歌詞をつけて、茉莉子さんや藤木孝さんが歌い、踊ります)、美男美女(吉田輝雄岡田茉莉子)の惹かれ合う様、煌びやかな生活、そして破滅していく様、女をとられて嫉妬に狂う男(根上淳)、残忍なボス(大木実)とか、映画としてこういうエピソードあると面白いでしょ!みたいなものを次々詰め込んで「ステキなショーをお見せしますよー!」みたいな映画でした。

 

んで、”ステキなショー”の要素のなかで一番重きを置かれていたのはやっぱり三郎と摩紀のお話。「真赤な恋の物語」ですからね。

「今年の恋」では喧嘩しながら惹かれ合う二人でしたが、こちらでは茉莉子さんが輝雄さんをグイグイとリードしていきます。実際の年齢も茉莉子さんが輝雄さんよりも年上で、見た目も茉莉子さんのほうがやはり年上らしく見えるので、この関係性が観ていてすんなりはまります。

 

二人の恋の始まりも、もう、「ショーならこういうの観たいでしょ!」みたいな期待通りの展開( ̄∇ ̄)ハバネラの元のピアニストがヤク中で捕まり(三郎を潜入捜査させるために山田警部たちが逮捕)そこへ後釜として三郎が入ります。元のピアニストでないと歌いたくないと言う摩紀。わがままを言うなとなだめる鬼頭。楽屋で口論しているその時、三郎のピアノが聞こえてきます。そのピアノの音色にひかれて、摩紀はショーの舞台へ。そして、そこでピアノを弾いている三郎にあっという間に恋に落ち、その手に持っていたバラの花を三郎へ投げ渡します。摩紀にとってはバラを渡すのが恋の始まりの合図です。ふぁー、もう、期待通りの展開\(^o^)/ その日の夜に早速、摩紀は自分の(赤いけど)白いオープンカーでドライブに誘います。これも期待通りの展開\(^o^)/ キスをする摩紀に戸惑う三郎。魔性の女に惹かれながらも、必死に気持ちを抑える純情な三郎です。これも期待通りの展開\(^o^)/ (しつこい)梅次監督、定番というか定型というか、こちらが期待する展開をてらいもなくバンバン見せてくれます。

 

自分に正直に生きたいという摩紀は三郎にストレートに気持ちをぶつけます。純粋で真面目な三郎は、そんなに簡単に人を好きになる事ができるのか?と摩紀に惹かれる気持ちに気付きながらも戸惑いを感じ、摩紀との恋に踏み出せないでいます。そして勿論、自分が潜入捜査中の警察官であるということも気持ちに歯止めをかけます。

刑事としての職務を全うしようとしている間は、恵子との恋の展開も!?みたいな雰囲気もあるのですが、やっぱり圧倒的に茉莉子さんがキレイなので、観ている側も「こりゃ、確実に摩紀のほうに傾くよね」みたいな安心感?があります。

 

恵子を救うために吉本が刑事であることを話して警察を裏切ることになってからは、三郎はどんどんと破滅の道を歩んでいきます。ただ、転がりおちていくその道は摩紀が一緒です(恵子はもう完全においてけぼり)。

吉本の死に苦悩する時―

警察官でありながら麻薬組織側の協力者となった身の上に自首をしようとした時―

 そして、ついには片目から摩紀を自由にするため、麻薬取引の仕事を引き受け、成功させます。もう、三郎は摩紀なしでは生きていけません。「僕の人生は君に捧げたようなもの。僕を裏切ったら殺すよ」

この時、二人が過ごすのはいつも浜辺の摩紀の別荘です。摩紀の白い(赤くなってるけど)オープンカーに乗って別荘へ向かい、浜辺を二人で駆け、ヨットに乗り、キスを交わします。もう、これも期待通り\(^o^)/ 輝雄さんと茉莉子さんという華やかなビジュアルの二人なので、この外国映画のような煌びやかなシーンも美しく(スクリーンが赤いことを除けば)。

 

仕事を成功させ、摩紀も手に入れた三郎を片目が消そうとしますが、逆に三郎が片目を殺し、二人はこれで片目から完全に自由になります。そしてここへ来てついに三郎は警官を辞し、ハバネラの経営者となります。

摩紀を完全に手に入れた三郎。しかし、ババネラで歌手・赤木健二(藤木孝)のショーが始まると、摩紀は健二に誘われて歌い、踊り、そしてバラの花を投げ渡します。かつて三郎にそうしたのと同じように。

自分の気持ちに正直でいたい摩紀と摩紀を自分のものにしておきたい三郎。摩紀の愛を一身に受けていた三郎がここでついに他の男に摩紀をとられてしまうという恐怖におびえます。ショーのあとに健二と白のオープンカーでハバネラを出て夜中中帰ってこない摩紀。酒をあおり、摩紀のドレスを腕に抱えて泣き、嫉妬に苦しむ夜を過ごす三郎。「カルメン」ですからね、こういう展開になる訳なのですけど、摩紀に愛されていることについては疑っていなかった三郎が自分の人生の道を外したあと、その目的であった摩紀を失うかもしれないとなったとき、それまで見せたことのない嫉妬にかられる姿。三郎にとって摩紀がすべてなのだということが真に伝わって、観ているこちらも苦しくなります。(輝雄さんも演技頑張ってるよ!)

 

警察を裏切り麻薬取引をさばいたこと、片目を殺害したこと、そのすべてが警察に分かる時がきました。三郎は摩紀に、二人でハバネラを去り別の土地でやり直そうと話します。警察の追っ手をかわし、二人は真夜中の埠頭で落ち合う約束をして別れます。しかし、いくら待っても摩紀は埠頭に姿を現しません。翌朝(です、多分。空が赤いから判別しにくいのですw)、三郎は二人で沢山の時間を過ごした浜辺の別荘へと向かいます。そこには健二と一緒にベッドに横たわる摩紀がいました。

嫉妬と怒りに狂う三郎。ナイフを手にしながらも、自分から離れないでほしいと摩紀に泣いてすがります。しかし、摩紀は女に跪くような男は嫌いだと吐き捨て、三郎の手を振りほどいて浜辺へと駆け出します。三郎はその後を追いかけ、せめて二三日、二人で過ごしてほしいと懇願します。

警官であった時は任務を重んじ正しくあろうと摩紀に抗い、そして破滅の道へと歩み出してからは摩紀のために強くあろうとし続けた三郎が、摩紀がその手から離れていこうとする時、その強さの仮面はあっという間にはがれ落ちて、なりふり構わずに摩紀にすがりつきます。摩紀にはもう届かなくなってしまった三郎の一途な愛が観ていてとても辛く切ない気持ちになります(カルメンだからこうなるのは分かってるんだけども)。

 

最後は自分から離れていくならば殺してしまうぞ、という三郎に、「強い男が好きだ」と摩紀は言い放ち、ついにナイフで摩紀の胸を刺します。それが摩紀の求めた強い男だったからです。動かなくなった摩紀を腕に抱え波に濡れ、抜け殻のようになってしまった三郎。その背後から片目の部下たちが三郎に銃口を向けています。それに気づきながらも摩紀を抱きしめたまま動かない三郎。そして、銃弾をその身にうけ、息絶えた二人の体は、その手を重ね合わせたまま、波に洗われ・・・。

 

これがラストシーン。もう、最後の展開、予想つくんだけど切なくて。「女体渦巻島」と同じくで、輝雄さんの演技はかたいのですがσ(^_^;どちらも最後はこの「愛していた女性を失って途方に暮れる」というシーンがあり、それについてはべらぼうに観ているこちらを切ない気持ちにさせます(ひいき目込みかもしれませんがw)。たぶん、まだまだ硬い演技のせいだと思うのですが、いわゆる熱演型ではないために、そのことがかえって、愛する女性を失った悲しみが大きすぎて感情のやり場を失い、ぽっかりと穴が開いてしまったようなそのリアリティーを感じさせるんですよね。愛する人が死んだとき、まずその事実を受け入れることができずに呆然としてしまい、号泣できないんじゃないか?っていう。

 

と、そんなことを感じながら観ていた方があの場でどのくらいいらしたのか分かりませんがσ(^_^;この最後の最後まで、「絵になる」シーンが盛り沢山でした。ハバネラでのショーのシーンは茉莉子さんが「カルメン」を藤木孝さんが「闘牛士の歌」を華やかに歌い、踊り、バンドマンが演奏を聞かせ、ダンサーが華麗に踊ります。摩紀の住むマンションにはベランダにプールがあり!バーカウンターもついていてすっごく贅沢な部屋😁鬼頭や片目のシーンは暴力的な展開ではあるのですが、それも絵としてキレイに撮られています(変な表現ですが😅)。 そして、摩紀と三郎が二人で別荘で過ごす時間はとくにその「絵になる」シーンの連続。職人監督が、美男美女のスターを起用して撮った美しいショー。もし今同じようなものを作ったらどう頑張っても日常感が出てきそうな気がするのですが、この時代、この監督、この俳優達、だからこそ作ることができた映画なのかなー、と思い、楽しめた映画でしたヾ(o´∀`o)ノ(あんまり触れてないけど、摩紀をとられて嫉妬し、またボスの片目に残忍に殺されてしまう鬼頭役の根上淳さんも、めっちゃ楽しそうに演じてて良かったです!)

 

この真っ赤なフィルムは現代の技術でキレイにすることはできないのかなー。絵になるシーンがほんとに沢山あるからこそ、キレイなちゃんとした色で観たいよー!!そしてソフト化してくれー!たのむ、松竹さん!

 

【余談】

松竹大谷図書館で読んだ当時の資料から色々と撮影中の話。

数々の絵になるシーンの中でとくにピックアップされて書かれたシーンがありました。それが、浜辺で横たわり、波にぬれながらのキスシーン。自首しようと摩紀のマンションに訪れたあとに別荘へと逃げる場面です。摩紀は白い(多分)ノースリーブのワンピースを着たままで横たわり、「目の前に私がいて広い世界が広がっているのに、わざわざ自分から塀の中に閉じこもるなんてバカらしいわ」、と三郎に言い、その姿を見た三郎はスーツのままで同じように横たわり、摩紀を抱きしめます。井上監督がかなり気合いを入れて撮ったのか、このシーンについての記事が結構あって、波が口に入っちゃったりとかもあり、撮影がかなり大変だった様です。でも、ほんと、絵になるシーンでした(赤いけど)。

あと、摩紀と三郎のラブシーンがが結構多かったわけなのですが、それが輝雄さんには結構照れくさかったようで、茉莉子さんに恥ずかしがってちゃダメ!と叱咤激励されていた、なんてのもありましたw確かに、摩紀の肩を抱くシーンとか、手がそっと添えてあったりして、恥ずかしさが抜けないのねwという感じw

そうそう、片目が鬼頭を殺すシーンとかやることは結構残忍なのですが(モーターボートで両足を引っ張る(^◇^;))、その前の撮影風景のポジフィルムはとっても皆さん和やかな雰囲気でしたw

 

はー、なんか過去最長の記事になってしまいました(^◇^;)これでもまだ書き切れないあれやこれやがあるのですけどね!