T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

藤原椎繕監督「地獄の曲り角」

冒頭に仕掛けれた謎と裏の世界でのしあがっていく男の話を無駄なく描いた、まさに日本版フィルム・ノワールの良作。

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【映画についての備忘録その12】

藤原椎繕監督×葉山良二主演「地獄の曲がり角」(1959年)

 

高級ホテルのボーイを勤める牧(葉山良二)は、ホテルにやってくる上客の強請のネタをヤクザの上月組に情報提供しては小銭を稼いで、いつかでかいことをする、と夢を描く毎日。そんな時、ホテルの一室で男が殺害され、その部屋で牧は「1/2の鍵」と書かれたメモと縦半分に切られた鍵を見つけ、思わず自分の制服のポケットに隠し入れる。

その翌朝、殺された男がある公団の収賄事件に関わっていた出所直後の某省課長補佐であり、共犯の課長松永は未だに服役していて、8千万円の金が行方不明になっているのを知る。自分が手にした「1/2の鍵」がこれに関わると読んだ牧は自分の幼なじみでお互いに思いをよせている章子(稲垣美穂子)にその鍵を預け、8千万を手に入れる方法を考えることに。そんなとき、事件のあった部屋の隣の部屋に貴子(南田洋子)という謎の女が宿をとる。貴子が残りの「1/2の鍵」を持っているとふんで、牧は二人で手を組むことを提案する。。。

 

 

シネマヴェーラ渋谷の「ニッポン・ノワール」の特集上映で観ました。2本立てのうちの1本で、この作品の次に上映された「真赤な恋の物語」(輝雄さん×岡田茉莉子さん&井上梅次監督)が本命で、せっかく1本分の料金で2本観られるんだから観ないと損よね!と思って、何の予備知識もなく観た1本目なんですが、これが正解!「ニッポン・ノワール」という特集名にぴったりな戦後の日本を舞台にした「虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画」(Wikiのフィルムノワールの項より)の良作でした。

 

全部で93分の映画。その中で映画の冒頭に手に入れた「1/2の鍵」が何の鍵でどんな意味をもっているのか、そしてそれでどうやってお金を手に入れるのか?というサスペンス的な要素と、つまらない小銭稼ぎの悪事をしていた牧が貴子と出会ったことをきっかけに「1/2の鍵」を利用して大金を手に入れるのにふさわしい男になろうと、ボーイをやめて本格的に裏の世界でのし上がっていこうとする様を間延びすることなく、無駄のない展開で描きます。

 

のし上がっていく過程もよくできていて、手始めは上月組への情報提供をやめて、強請りを自分達でやるところから。その方法はボーイ仲間と一緒にテープレコーダーをホテルの客室に仕掛けてその録音を電話越しに当人に聞かせる、というもの。やっていることはチンピラヤクザのよう。それがある日、上月組の組長の情婦と組の幹部がホテルに宿をとり、二人ができていて、いずれ組長を葬ってシマを手に入れようと算段しているところをテープレコーダーに録音することに。それまでは宿泊した当人に聞かせて脅し、金を取るという方法をとっていたのに、ここで組長本人に聞かせて、怒りから幹部を殺すように仕向け、思惑通り組を潰します。大きな賭けにでて、そして裏の世界での成功を手に入れるのです。

 

元・上月組で牧を手先に使っていたサブは今は落ちぶれていて、街で牧の車に惹かれそうになり、牧への復讐を考えます。一方、貴子は牧と一緒に「1/2の鍵」を利用して大金を手に入れる計画を立て実行にうつしますが、最後はやはり信用できないと思い、牧を裏切ることにします。

この二つが交錯して、クライマックスでは、サブが牧の車のタイヤのボルトを緩め、そうとは知らない貴子がその車とその中にある大金をもって逃げ、その後を牧が他の車で追いかけます。このカーチェイス、ボルトがどんどんと緩くなって今にもはずれそうなタイヤと、追いかける牧、逃げる貴子にひたすらドラムだけの音楽が被され、ドキドキ感をあおられます。音楽と映像がぴたりとはまった名シーンでした。

 

唯一残念だったのが、牧役の葉山良二さんがぽっちゃり顔のぽっちゃりお腹で、主人公の真っ当な仕事をしているのに悪の道に自分からどんどん落ちていく不良性みたいなものにあまりそぐわなかったことf^-^;

ノワールの名にふさわしく、大金を手に入れたかと思った牧も幸せにはなれず、救われない最期を迎えますが、そんな退廃的な映画の雰囲気に反して、葉山さんの見た目は歌舞伎役者の何代目か、というぼっちゃんな感じ😅のし上がったあとにスーツ姿になってからは違和感ないんだけど、前半のジャンパーで歩き回ってるとこはおじさんが若作りしてる感じがして微妙でありましたw

でも、牧が大金を手に入れる時の、政財界の大物たちとの駆け引きの場面は貫禄十分。手に入れた金が儚く消えていった後の狂った感じも凄み十分。クライマックスに向けての盛り上がりは葉山さんの演技に寄るところも大きい、そう思わせられた俳優さんでした。

 

他にも章子の純情なかわいさとか、貴子の悪女っぷりとか、スタイリッシュな演出とか、ここに書かなかった魅力がたくさんあった作品でした。

とくにソフト化もされていないようですし、こうして名画座とかにかかるくらいしか観る機会はなさそうです。でも、そんな作品の中にもこんなに面白いものがあるんだなー、と古い邦画を見始めたばかりの初心者の私はあらためて、「旧作邦画すげーなー」と思うのでありました。