T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

小津安二郎監督「お早よう」

おじいちゃんも息子も孫も、少年時代はみな同じ。 

 

【映画についての備忘録その11】

 小津安二郎監督「お早よう」(1959年)

 

東京の郊外にある新興住宅地。そこに住む子供たちが今もっとも興味を持っているのは、出始めたばかりのテレビ。

敬太郎笠智衆、民子(三宅邦子)の両親と叔母・節子(久我美子)との5人家族で暮らしている林家の兄弟・実と勇も、近所で唯一テレビを持っている丸山家に入り浸っている。丸山家に入り浸るのをよく思わない母・民子は2人を叱るが、実と勇は「テレビが見たいから行くんだ!」と口答え。口数が多い、余計なことを言い過ぎと父・敬太郎にも叱られ、実と勇はそれならば!と絶対に口をきかないとストライキに入るのだった・・・。

 

U-nextの配信で観ました。「秋刀魚の味」につづく、小津映画二本目。

こちらも「秋刀魚の味」同様、時代は違えど今もどこかでありそうな日常の風景を淡々と描いていて、小さな出来事の連なりでお話がすすんでいって、それがやっぱり面白く。

 

1959年の公開。時代的にはいわゆる家電が三種の神器(テレビ、洗濯機、冷蔵庫)とか言われていたころ。で、テレビと洗濯機を巡ってお話が展開します。そして舞台は似たようなお家が並ぶ新興住宅地とそのすぐ近くにある団地。今では当たり前、でも、おそらく、当時は少し頑張れば手が届くかもというような憧れの先端の生活風景なんだと思います。

 

そんな時代背景、舞台。でも男の子はいつでも同じやねー!とのっけからクスクス笑わせられます。

例えば、実はいつも弟の勇と隣近所の友達二人、の4人で小学校に登校するのですが、その4人の間で流行っている遊びがおでこを指でつーん!と小突くとおならがでる、というものw上手くおならができる子は「どうだい!」と自慢げですwいつの時代も男の子にとってオナラネタは鉄板のようです( ̄∇ ̄)

そのほかにもお父さんに叱られて「口をきかない」というルールを作ったけど、どうしても話したいときのために「"たんま”はありか!?」というルール確認をして指で合図してたんまをとっていいという特別ルールを作ったりw自分の子供の頃や、我が子を見ていると「あ~、昔も今も男の子ってやっぱりこんな感じなんだw」と思えるシーンがいっぱい。

 

実と勇が口をきかない、というストに入ったのはテレビがほしいと散々訴えた結果、お父さんに「子供のくせに余計なことを言い過ぎる!少し黙ってみろ!」と叱られたことがきっかけですが、実はただでは引き下がらず、「大人だって余計なことを言ってるじゃないか!こんにちは、おはよう、こんばんは、良いお天気ですね・・・ああ、なるほどなるほど」と大人の会話も余計なことがいっぱいだ!とお父さんに口答え。で、これで大目玉をくらいます。

二人は「自分たちの母親の同級生の弟」で、団地に姉と二人暮らしをしている福井平一郎(佐田啓二)のところへ英語を習いに行っていました。で、平一郎のところへ行っても当然、だんまりを決め込んで一言もしゃべりません。平一郎は面白がってだんまりの理由を聞きますがこたえません(ここで、「何でしゃべらないんだ!?」とばかりに額を小突かれて実がオナラしちゃうシーンは絶妙w勇も負けじと黙ったまま「額を小突け」と平一郎にアピって自慢げにオナラします(∀))。

 

その日、小さな事件?があって夜遅くなっても二人は家にかえって来ません。節子は平一郎に会社の資料の翻訳を頼んでいるのですが、その書類の受け取りに平一郎の団地を訪れた際に、二人がまだ家に帰ってきていないこと、そして、「大人だって余計な話ばかりしている」と口答えして叱られた結果、だんまりを決め込んでいたことを平一郎に話します。そして翻訳を終えた書類の受け渡しを終えると節子は帰っていきます。

その様子を見ていた平一郎の姉・加代子は実の話にも一理あるよねという感じで「ほんとにとうでもいいことはよくしゃべるのに肝心なことはしゃべらないわね」と平一郎の節子への好意を見抜いて一言。そして、平一郎に二人を探すのを手伝ったら?と言います。

平一郎が無事に実と勇を探しあてて家につれて帰るとそこにはなんとテレビ!二人のストライキもそこで終了!翌朝は元気に挨拶しながら登校します。

 

翌朝ー駅のホームで節子と平一郎は一緒になります。二人は電車を待ちながら、天気の話と雲の形の話をエンドレスで繰り返します。お互い余計な話ばかりしていて肝心なことは話せない様で。実の観察眼は正しいようですw

 

洗濯機のほうは、新興住宅地の母親たちの尾ひれはひれの邪推の元になって、こちらはこちらで「あ~、たぶん、今もどこかでこういうおばさんたちが存在していそう」というお話をあれこれ展開していきます(身の回りにいなくて良かったって思う感じw)。

 

佐田啓二笠智衆杉村春子沢村貞子・・・とまぁ、名前だけでもすごいって分かる名優さんたちがたくさんでている本作ですが、主役は実と勇の小さな兄弟二人、お話の中心はテレビと洗濯機、最初から最後までひっぱられるオナラネタ、という時代をこえてなんとも親しみを感じる映画でした。

 

【余談】

この前のエントリーで松竹大谷図書館に行ったことを書きましたが、この時読んだ「秋刀魚の味」の記事で小津監督はロケが嫌い、というお話をされていました。舞台となっている新興住宅地ですが、実たち兄弟の家の周辺以外は一切写らず外に作られたセットかな?という感じ。ロケだと分かるのは平一郎と節子が駅のホームで一緒だったシーンだけ。

秋刀魚の味」では輝雄さんと志麻さんが好意がありつつ電車を待って当たり障りのない会話をするってシーンがあって、こちらも佐田さんと久我さんが電車待ちながら天気と雲の形の話という当たり障りのない会話の繰り返し。なんだかちょっとこの二つが重なってみえてそれもまた楽しかったです。