T’s Line blog-映画についての備忘録-

兼業主婦が仕事と子育ての合間に見た映画などについて、さらにその合間に綴るブログです。ブログタイトルのTは好きな俳優さんのお名前のイニシャルがことごとく「T」なため。LineはTのうちのお一人の主演作、新東宝「地帯シリーズ」から拝借しています。。

小津安二郎監督「秋刀魚の味」

共働き夫婦って、2018年も1962年も同じらしい

  

【映画についての備忘録その4】

小津安二郎監督 笠智衆主演「秋刀魚の味」(1962年)

平山(笠智衆)には幸一(佐田啓二)、路子(岩下志麻)、和夫(三上真一郎)と3人の子供がいます。幸一はサラリーマンで結婚して独立していますが、妻に先立たれており、平山と和夫の身の回りのことは長女の路子があれこれと世話をしてくれます。平山は路子はまだ子供で結婚なんて先の話、と思っていましたが、同窓会の後に高校の恩師を家まで送って、年老いた父娘2人を目の当たりにしたり、同級生の友人からは、路子ちゃんもそろそろ結婚しないと独身のまま歳をとってしまうぞ、と言われ、娘の結婚を考えはじます。。というお話。

もっと簡単に言うと、父親が娘を嫁に出す決意をして送り出すまでの話、です。 

 

Amzonプライムビデオで観ました。

石井輝男監督からいきなり小津安二郎監督作品。吉田輝雄フィルモグラフィーからチョイスしていくとこうなります。出演作がバラエティーに富みすぎています。

 

私、これが人生初の小津安二郎です。名前は知っているし、巨匠なのも知っているけど、自分が観るような映画ではないだろうと思ってずっと食指が動かなかったのですが、輝雄さんご出演、ということで観てみることに。したら、めっちゃおもろいやんけ!です。食わず嫌いって良くないですね。

 

ストーリーは前述の通り。お話の展開としてはそんなに劇的なことは起こりません。まだ戦争を兵士、将校として体験した世代が社会の中核を担っている時代で、それを背景とした濃いシーンもありますが、基本的には何でもない日常を淡々と写す、そういう映画になっています。

だから、まぁ、日常って、結構、普通に生きてたら愚痴いったりとか、小言言いたくなったりとか、しょうもない冗談で笑ったりとか、そんなもんっすよねっていう、そういう出来事の連なりで映画が進みます。だからこそ、すごく身近な感じがして面白いです。

ストーリーとしての大きな変化は、平山が友人から路子のお見合い相手を具体的に提案されますが、路子はどうやら他に好きな人がいて、それが幸一の会社の後輩・三浦(吉田輝雄)らしい。好きな人がいるならそいつと結婚させてやろう、と思うのですが、三浦には同じ会社に既に結婚を前提に付き合っている人がいました(そもそも、三浦も路子のことが好きだったようですが、それとなく幸一に聞いてみたらまだ結婚する気もないよ、という返事で、路子もそんな風な返事だったため、諦めてしまった、という)、というところ。しかし、これすら、豚カツ屋さんで幸一と三浦が豚カツ食べながら会話してるだけ。で、三浦は幸一のおごりで豚カツ食べに来てるんで、ビールは追加するわ、豚カツももう一枚頼むわで、何とも言えないおかしみがあって、ほんと、日常の一コマです。

 

お父さんは友達とよく飲みに行き、若いお嫁さんをもらった友人に「薬飲んでるのか?」みたいなことを聞いてみたり、行きつけのお店での待ち合わせに遅れてる友人を死んだことにして葬式の相談をしているんだ、とお店の人をからかったり、連絡なしで飲みに行っては路子に怒られたりします。50年前とか父親ってまだまだ威厳があったのかと思ってましたが、そうでもないのね、っていう。

 

で、特に印象深いのが、幸一と妻の秋子(岡田茉理子)の子なし共働き夫婦(DINKSっすね)のやりとり。まさに、「今と変わらねー!!」なのです。

幸一は三浦の友人が手放すことにしたゴルフクラブ(なんか有名なモノらしいです)を2万円で買わないか?という話を持ちかけられます。いったん、三浦から預かって家に持ち帰り、秋子に相談してみますが、即効で却下^^;「あんたみたいなサラリーマンがゴルフなんて分不相応なのよ」的な言われよう。夫婦で稼いでますからね、夫の一存では決めさせませんw渋々諦めますが、休日ははぶてて家でゴロゴロ。秋子に家事を頼まれてようやく動く、といった具合。

と、同時にこの夫婦、電気冷蔵庫も欲しいらしいのですが、先立つものがなく、幸一は仕事帰りに父親にお金を借りる話をしに行きます。この時、秋子に黙って多めに借りる話をして、休日に路子が届けに来たのは5万。ゴルフクラブを買うためのお金も上乗せです。そこへ三浦がゴルフクラブを抱えてやってきます。「友だちが2000円の10回払いでもいいと言ってます」と。それでもやっぱり秋子はダメだと言うのですが、最後には折れて、路子が持ってきたお金から2000円をだします。で、その代わり「私も革のハンドバッグ👜買うから!割に高いのよ!」です。折れるけどその代わり私もほしい物買うから!って、あれ、こういう事私、言った覚えがあるぞwwwです。

 

こういうシーンはあげていくとまだまだあるのですが、随分と昔のような気がする50年前の家族のありようが、わりと今と変わらなくて、その軽妙なやりとりが本当に面白いのです。ストーリーは淡々としているのに最後まで飽きません。これが小津監督の特徴なのでしょうかね。

 

さて、この「秋刀魚の味」が小津監督の遺作となるのですが、小津監督は次回作の準備も進める中で亡くなられています。その次回作が最終的に他の監督で撮られた「大根と人参」という作品。小津監督は俳優さんにアテ書きされる方だったようですが(この辺はまだまだ不勉強です)、その次回作、主役はもちろん笠智衆さんなのですが、息子役は吉田輝雄さんが予定されていました。そして、笠さんの親友の娘が岩下志麻さん、で、「秋刀魚の味」では結ばれなかった輝雄さんと志麻さんが結婚して終わる、というお話。

まだ「秋刀魚の味」1作しか小津映画を観ていませんが、それでも笠智衆さんが小津映画の常連さんだ、というくらいの知識はあります。で、これを観て察するに小津監督はあまり演技をさせたくない方(演技くさい演技はいらない、という感じ?)なのだなー、と。笠さんだけじゃなくて、佐田さんや岡田さんも、かなりナチュラルで、押し付け感がなく、出てくる俳優さん、みんなそんな演技です。これが小津監督の作風なのでしょう。輝雄さんはと言えば、「女体渦巻島」の衝撃(いろんな意味で)の主演デビューからまだ2年そこそこ。演技も勉強中、という感じで、固さが残っている感じ。それが逆に小津監督の求める演技にマッチしているというか、演技に色がついてなくて小津カラーに染まっているというか、作品のなかにすんなりと収まっています。(石井作品でキザな台詞を連発してたのに、ここではホントにどこにでもいるサラリーマンのよう。実際、3年前までサラリーマンだったわけですがw)

ご本人のインタビューでも小津監督に気に入っていただいた、という話をされていますが、次回作で今作よりずっと重要な役をあてられていた、というのですから、小津監督はまだ自然体な輝雄さんを自分のカラーに染めたかったのだろうなー、と思います。輝雄さんの役はあのビジュアル&石井監督の常連さんなため、「なんでもない日常のなかの普通のサラリーマン」みたいな役は調べられる限りでは殆どなく、たぶん、今作くらい(セクシー地帯だって、サラリーマンだけどとんでもない状況におかれますしね)。でも、小津監督がこんなに早くなくなられず、まだまだ映画を撮っておられたら、小津映画の常連さんとして、また違った役者人生となり、今観られる映画とは異なった吉田輝雄もいっぱい観れたのかなぁ、などと想像してしまいます。もっと小津映画の輝雄さん、観てみたかったなぁ。

 

「とんかつもう一ついいですか」

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